スキマに愛された大尉という人間について   作:回忌

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Man KIA

あれから何日経っただろう

柱に片腕だけ括り付けられ早数週間、と言ったところか

 

定期的に紫が来ては口移しで食料を与える

 

最初はあんな恥晒しな方法で俺に栄養を…

この話は止めておくべきだろう、少なくとも赤さん扱いは止めてくれた

 

食事が終わって少しすれば、蹂躙が始まる

完膚なきまでに俺を虐めて辱める

 

何回、彼女が俺の上に跨ったのだろうか

 

何回、彼女は俺に接吻したのだろうか

 

何回、何回俺は辱められたのだろうか

 

外の世界では戦争捕虜には国際法とか言うのが作動するらしい

作動しなくとも世界の批判を浴びるというのがあるだろう

 

 

ここにはそんなものは無い

 

天狗の捕虜になったやつの気持ちが痛いほど分かる

実体験してみると、こうもやる気が無くなると言うものだ

 

 

「そろそろ、完全に成るかしらね」

 

 

毎回、毎回同じことを言う

今日もまた同じことをコトが終わったあとに言った

 

俺は彼女をじろりと見た

殆ど諦めたような目に見えるだろう

 

しかし、彼女は甘く無い

 

「ふふ、その目…その目が好きなの」

 

俺の頬を撫でながらそんなことを彼女は言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そう、俺は諦めていないのだ

ここから逃げ出し、八雲を殺すという事を

 

親を奪われた怒りを忘れたことは無い

 

親を妖怪の餌にされたことを忘れたことは無い

 

こいつを殺す、それの為だけに生きている

 

 

「お前、いつか殺してやる

「ふふ、熱烈な告白ね」

 

口が三日月かと錯覚する程に裂ける

笑っているのだ、この熱烈な告白に対して、嬉しすぎて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――明日もきっとその先も

地獄は続くのだろう、どこまでも

 

たが、どこかにボロがある筈

 

完璧な賢者サマでもそれは変わりない

 

それを、的確に突き、――脱出する

 

 

 

「…」

「いつもそっちを見てますよね、椛…何かあるんですか?」

 

妖怪の山、中腹にて2人の人物が話をしていた

いや、どちらかと言うと片方がウザ絡みしていると言った方がいいか

 

射命丸は最近、ようやく始末書の山から抜け出せた

その時の腹いせとして椛にウザ絡みしているのだ

 

「いえ…河童が怪しい動きをしてそうなので」

「ああ、あの河童の!…そんなに変な動きを?」

 

彼女達が言っているのは河童達がソワソワしていることである

普通に文が始末書を書いていると、突然怒号が響いたのだ

 

見に行ってみれば、河童は何故か怒られていた

白狼に囲まれて凄い可哀想だった…

怒られた原因は煙突から溢れる黒煙らしい

 

視認性が悪くなるから止めろコラとキレられていた

 

「…まぁいいでしょう」

 

椛はそんなことを呟いてため息をついた

能力を行使していたのだろう

 

「では私も気が晴れたので」

 

文も何かに満足したのか、翼をはためかせる

 

 

 

――そこで、彼女は空中に留まった

 

「そういえば、"潜入者"でしたっけ

 彼、割と上物らしいですよ、聞いた話ではね

 

 ――抵抗もしない、顔は良い、上物

 貴女は襲いに行かないんですか?」

 

「行く訳が無いでしょう?

 そんな下劣で低俗なことを」

 

椛は汚いものでも見たかのような目付きを文にぶつけた

彼女は少し怒っているようだった、尻尾が逆立っている

 

「ふふ、でしょうね

 いつからでしょうか、捕虜の辱めが許可されたのは」

 

 

そんな下劣なコトが正式に許可されるわけが無い

そもそも捕虜の扱いは、さっさと人里に送り飛ばして終わりなのだ

 

何日も、何年も拘束するものでは無い

 

 

 

 

――"死体を除いて"

死体を送り返してもなんの意味は無い

それどころか疫病が広がる可能性があるので止めた方がいい

 

…死体を送る訳が無いだろう

全員死亡していれば、送り返す必要は無い

 

 

それを利用して、大天狗は――

 

 

そう椛が考える前に、文は飛び去った

 

ため息をついて、また先程の方向を能力を使って見る

 

数週間前、ある人物が山に侵入したことを椛は知っている

ソイツが同僚を殺したのも知っている、全部"能力"で見ていたのだ

 

知っていて、通達しなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

だって、面倒ごとは嫌いだから

 

 

 

 

 

 

その人物とは違う人物がマヨヒガとかいう建物に向かっていく

あそこだけ、何故か"見えないのだ"

 

まるで見るなと言わんばかりにだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…抵抗しない?ハッ、とんだ嘘吐きですね

 ああも山を東奔西走されると隠すのが困難になりそうです」

 

山を駆ける黒い影を見ながら、椛は呟いた

 

 

「…大尉」

 

ぽつりとそんなことを呟いた

彼からの通信が一切無くなったのは数週間前だった

マヨヒガの爆破完了という無線の後、音沙汰無しとなった

 

組織の中では八雲の怒りを買って殺されたと噂されている

 

だが、俺は違うと思っている

彼の姿を見た時、絶対に死ぬ男ではないと確信した

 

あれは"好かれている"、間違いない

 

あんな噎せ返るほどの妖怪の臭気、何故誰も気にしないのだろう

 

もしかして、俺の鼻が良すぎるだけなのだろうか

 

それとも、この能力のおかげなのだろうか

 

 

『意識を操る程度の能力』

 

相手の意識を操り、思いのままに動かせる…

とまでは行ってないが恐らくそこまで行ける能力

意識を操り、俺の存在を意識させないことで俺は"潜入者"に成りえている

 

奴らは俺を収監し、辱めている気なのだろう

ただ何も無い場所に興奮していると思うと何か笑えてきた

 

ただ、能力の範囲は割と狭いのでこういう広い場所は苦手なのだ

 

「たしか、ここら辺だったか…?」

 

前回マヨヒガにたどり着いた場所にたどり着く

あの時はここに来た瞬間マヨヒガが見えたが…

 

 

「…確かに、任務は完了したらしい」

 

倒壊したマヨヒガが俺の目の前にあった

数週間前の筈だが、少し煙が上がっている

C4の威力ってこんなに高かったか…?

大尉は多めに持っていたのだろうな、恐らく

 

「天狗の情報もかなり得れた」

 

俺は残骸の中に座り込み、本部にデータを送信する

カセットテープに吹き込んだ音声を送り込むのだ

リアルタイムで会話をしてもいいが、もしかしたら聞き耳を立てている連中がいるかもしれない

 

データ送信が完了するまで少し探索でもしようか

 

 

「あん?」

 

俺はふと、気付いたことがあった

任務に持っていく物は厳重に管理されている

余分に持っていかれたら困るし、なんなら裏切り者も考えられるからだ

 

最近…とりわけ大尉の持ち込み物を思い出す

 

彼は、それほどのC4を持っていた記録は無い

たしか二三個ほどの量だった筈だ

 

だとしたら、この現状はおかしいのだ

 

明らかにそれ以上の爆薬を使い、破壊されている

根元から致命的な部分を爆破したとしてもこんなに倒壊しない

 

だとしたら、他になんの可能性があるか

 

 

…幻術

何者かが、幻術を俺に見せている

しかも俺の能力を貫通するほどの術式

 

そんなの、圧倒的な力量を持つやつに違いない

そして、ここはマヨヒガの跡地

 

つまり―――

 

俺はハッと顔を上げ、ホルスターから拳銃を抜こうとした

 

「まさか――」

「おやおや、気付かれるなんてね

 割とEEFには有能が多いようだ、嬉しいよ」

 

穏やかな声がした

 

俺は声が出なかった、抜けなかった

だそうしても、嘔吐くような断片的な言葉しか出ない

 

その原因は、少し視線を下にすれば見ることが出来た

 

 

 

 

 

 

 

左胸から、腕が突き出ていた

 

ゴフッ

「天狗共の情報はどうでもいいが、マヨヒガは少し問題がある」

 

腕が引き抜かれ、俺は地面に落とされた

地面にうつ伏せに這い蹲る

四肢に力が入らず、俺は呻くことしか出来なかった

 

視界の端に、金色が映る

それは、生物の物と言われれば違和感しかない金色だった

 

…だって、そんな黄金は生物が纏うはずがない毛色だ

 

「ふむ、丁度天狗のデータを送り終えたところか」

「…ッ、…ぅゥ」

 

顔を上げ、取り落とした拳銃にたどり着こうと這いずる

銃は丁度手前側に落ちていた

 

ここで、やつの姿を見ることが出来た

と言っても、見ることの出来たのはその金色の尻尾だけだった

 

あまりに、その尻尾が巨大なのだ

 

数は、数えるまでもなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――九本だ

 

「…きゅ、う…ビ…」

 

俺は、こんなやつと戦っていたのか

そんな絶望が一気に襲ってきた気がした

腕ひとつで簡単に俺たちを殺すことの出来る存在と

 

だが、ここで止まる訳には行かない

 

手を伸ばす

 

届かず、空を切る

 

体を捩り、何とか銃の近くに身体を持っていく

九尾が無線機をいじっているようだが巨大な尻尾のせいで見えない

ただ、妨害が入るのは時間の問題だ

 

「…これでいいだろう」

『0-5、データが途切れた、応答しろ

 繰り返す、データが途切れた、何があった』

 

無線機から声がした

それに応えるのも重要だが、今はそれどころじゃない

そんなことをしていられない…出来ない

 

手を伸ばす

 

届かず、空を切る

 

あともう少し、体を寄せれば届くだろう

やつは通信機に夢中だ、今なら1発叩き込める

 

身をよじる、体が銃に近づく

 

 

 

手を伸ばす、手が銃に━━━

 

「…ッア、ゥ」

「危ないな」

 

いつの間にか、こちらを向いていた九尾に銃を奪われた

かちりとマガジンを確認し、眺めているようだった

 

不味い、殺される

俺は直感的に感じた

直感は裏切ることはなかった

 

奴は、眺めるのを止めた

 

九尾がスライドを引いた

黄金の薬莢が宙を舞う

 

その瞬間が何故か遅く見えた

 

 

『0-5、こちらビッグピン

 何があった、応答しろ』

 

コマンダーだ、受話器は外れている

声を上げれば聞こえるはずだ

 

上半身を少しでも起こし、声を荒らげる

 

「コマンダンテ!マヨヒガは━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレンジと黄色の混ざった閃光が、先走った

 

 

『0-5?どうした応答しろ!?

 0-5?0-5━━━━』

「五月蝿いな」

 

引き金を3回ほど引き、無線機を黙らせる

火花を立てて無線機は音を立てなくなった

何も言わなくなった無線機を妖力の炎で灰も残らない程焼き尽くす

 

「死体は…ささっと処理しようか」

 

頭に1発受けた死体を適当な場所にスキマで送り込み、処理を済ませる

多分…行先は無縁塚だろう、誰とも縁は無い

 

にしても早めに戻ってきてよかったかもしれない

こうして縄張りに入る不届き者を消すことが出来た

 

確認だか知らないが、妖怪と出逢えばこうなることくらい知ってたはずだ

彼だって戦う人間だったはず、後悔はないだろう?

 

「さて、私も帰ろうかな

 夕餉はお揚げを沢山入れよう」

 

完璧な式神は、夕餉を何するか考えながら帰宅するのだった

 

その頃には、彼女の頭の中に彼のことなど一切存在していなかった

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