スキマに愛された大尉という人間について   作:回忌

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それぞれの

「シャッ!」

「来るか…!」

 

獣を優に超えるスピードで奴に斬撃を加える

槍で受け流されるが、何回かは当たった

とはいえ当たったのは切っ先程度、それ程でも無い

 

「洒落臭い!」

「うおっ」

 

槍によるなぎ払い

少し近付きすぎたのもあって当たりそうになる

それを大剣の刃で受け流す

 

「中々」

「言ってる場合か?」

 

ヴラドは己の手のひらを斬った

俺が不思議そうにそれを見つめていると、バッと腕を払う

 

血が飛び散る

 

俺は反射的に右腕を構えた

ぴちゃっと袖や右腕の根元に血が張り付く

 

俺は突然のことに困惑した

 

「なんだこれ───」

「"爆ぜろ"」

「え」

 

その言葉を理解する前に、服に着いた血が"爆ぜた"

 

鮮血が更に紅くなり、光ったかと思えば爆発していた

俺は体中にボコボコと弾丸を食らったような痛みを感じた

爆発の衝撃で後ろに少し下がる

 

いてぇ…割と痛い…

 

それによ…

 

「あーあ…割とお気にだったんだが…」

 

服がボロボロだ

血がついた箇所が穴ぼこになっている

かなりショックだ…気に入っていたのに

 

「どうかしたかね?」

 

わざとらしく、ヴラドは言ってきた

やれやれ…猿でもマシな挑発をするぞ?

尻軽女のように軽い挑発に乗ってやるか…

 

「あぁお前のせいで色々台無しだ

 さっさと終わらせるぞ︎︎」

「そうか…じゃあやれるか試してみるんだな!」

 

大剣を振るう

接戦を強いられているのが辛い

こいつに鍔迫り合いは敵わない

かと言って逃げると蝙蝠の追跡がウザイ

それにカラクリは見抜いたから別の手を使ってくる筈だ

 

(引き撃ち基本…か)

 

駆けながら月光を放つ

刃と化した青緑の閃光が夜を駆ける

 

「どうした?日本男児は大和魂を持ち、常に引くことは無いと聞いたぞ?」

「…多分それ違う、それは誤知識だ…」

 

んだその外国人が作った日本みたいな…

ていうかそっちの日本人の印象万歳突撃マンなんだ

…期待に応えられなくて悪かったなおい

 

「悪いがこれが真実だ」

「そうか…実に残念だ」

 

奴は翼をはためかせ、迫る

 

 

 

 

「…な」

 

 

 

 

俺はそれしか言葉が出なかった

 

 

片腕が…"無くなっていたのだ"

 

 

「ぐっ…あああああ…!」

「遅いぞ」

 

左腕がいつの間にか地に落ちている

射命丸には劣るが視認できない程の速度

 

…紫の瞳はちゃんと捉えていた

体が反応しなかった、見られたまま槍で切り飛ばされた

 

「貴様…両目が見えているのか…?」

「…見えん、勘と経験でどうにかしている」

 

その答えに嘲笑を混ぜてヴラドは笑った

男爵らしい笑い声だ、畜生腹立つ

 

「まぁどちらでもいい、まだ終わらんよ?」

「…チィッ!」

 

接近戦か、クソッタレ

槍を構えながら突っ込んでくるヴラドに悪態をつく

受け流し一方になってしまうから奴とは近接戦をしたくない

 

槍の乱れ突き

 

紫の瞳による動体視力により全てを受け流す

どの突きも確実に先頭に支障が出る部分を狙っている

 

一発でも食らったら次の瞬間には…串刺しだ

 

「…戦い慣れしているな」

「我を誰だと思っている?貴様よりは長く生きている」

「そりゃ悪かったな!」

 

月光を収束し、叩きつける

ヴラドは槍を構え…それを防ごうとする

 

「…悪いなヴラド」

「何──────」

 

本当に、悪いなヴラド・ツェッペリン

 

これ以上長く続けられない

仲間達が待っているし、これ以上死なせられない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あばよ、クソッタレ」

「馬鹿な…それは…!」

 

 

俺はそう言うと、奴の腹に"スキマ"を開く

そうして、そこから50口径の銀の弾丸を腹部に叩き込んでやったのだった

 

 

 

「結界や、小賢しい術なんぞ…意味無いんだよォ!」

「えぇ、まぁ貴女の前ではそうでしょうね…」

 

紫の生み出す結界を叩き壊しながら巫女は近づいて行く

この巫女の能力の前では最上級の結界を生み出す紫は手も足も出ない

実際ここまで彼女は巫女に何も出来ていなかった

 

 

弾幕も、術も、結界も…全て叩き壊される

 

 

紫自身、何をどうしたらこんな化け物が生まれるのかと困惑していた

人間の中には強大な妖怪を打ち倒すものが現れることがある

 

かつて大江山にて鬼を討ち取った武将しかり

紫の右腕であるかの九尾を封印した者しかり

 

ただ、この巫女はそのどちらにも当てはまらない

 

なぜなら、彼女は"単独"だから

 

上記のもの達は団体だった

僧に成りすましたり、追い詰めたり…

絶対に1人ではなし得ないことだ

 

それを、巫女は単独でやってのける

僧に成り済ます必要も、陰陽師の手助けも要らない

 

完璧に、ただ1人で「陣」なのである

 

「あぁっ、無駄無駄無駄!…何故こんな無駄な術を!」

「あら…?今の天魔でも解くのに一日はかかったのに…」

 

巫女は割ととんでもない術を拳1つで叩き壊した

尚、天魔の名誉の為に言うが彼女は人間ならば手も足も出ないどころか動きもできない

鬼との相性は悪いが…それでも一般的な妖怪とは一線を画する者である

 

断じて彼女が弱い訳じゃない、断じて

この巫女さんが本当にやばいだけなのだ

 

「息子の分の拳…一発喰らえッ!!!」

「えっ今貴女棒立ちゴブァアアア!?」

 

瞬間移動の様に紫の目の前に立つ

そのまま何かをする前に巫女はぶん殴った

天狗なら消し飛ぶレベルのパンチである

それを顔面にぶち当てた、酷い顔になってそうだ

 

「…痛いじゃないのよ…シクシク」

 

嘘泣しながら紫は立ち上がった

その顔にひとつの腫れは無い、赤くなってもない

 

「潰れたらどうするのよ、デリケートなのよ目玉って」

「ブチ殺すぞ」

 

殴られたことよりも、右目を気にしていた

殺意のあまりに博麗神社が倒壊しそうになる

そもそもまだ立っているのが奇跡な部類だ

最初の拳の時点で壊れてもおかしくなかった

 

さて、殺るか

 

巫女は決意を固め、拳を振りかぶった

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ねェェ!こんの性悪根腐れド畜生アメ公ブリカスビッチ─────」

 

 

 

 

 

巫女はその最後で、拳を振るうのを止めた

紫がスキマを作り出したからである

 

だからどうした

 

それがなんだと言うのだ、巫女はそう言い聞かせようとした

 

しかし、そこに写った光景が拳を止めさせた

 

 

 

 

 

「貴女が見たいのは、これかしら」

 

扇子で口元を隠しながら紫が卑しく笑う

 

「…あぁ…あ」

 

口から震えた声が漏れる

いつの間にか巫女はその場に膝を崩していた

 

見たいと望んでいた者

 

いつしか二度と見れないと思っていた顔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そう…せい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼の口にリボルバーを突っ込んだまま引き金を引いた愛しい息子の姿

鮮血が彼を更に目立たせている気がした

 

その顔は深い傷がある

 

ホクロがえぐれ、右目に眼帯をした───

 

 

「あぁ…あぁ…」

「これで満足?」

 

卑しく笑いながら"奴"はそう言ってきた

私は何も言わずにその場で頷いた

 

「…そう」

 

奴はそう言うと、姿を消した

どうやら、なにかの用事があるようだった

先程までの殺意は消え失せ、ただなにか妙な感覚が駆け巡った

 

 

 

 

 

安堵と、恐怖

 

彼が生きているという安堵

そして、彼が妖怪を殺している恐怖

 

同じ妖怪を相手にしていたはずなのに…

 

そもそも、その役目は私のはずなのに…

 

 

 

 

 

「…紫め…」

 

 

私はただ、彼女を妬んだ

 

 

 

「甘い、甘いぜヴラド…事前情報は必要なんだよ

 俺が"スキマ"︎︎︎︎を開けることくらいな」

「…な、…ぜ…お前が…あの妖怪と…同…じ」

 

俺はM500のシリンダーをアウトする

弾丸は一発撃っていないのがあるようだ

撃っていない弾丸を除いて空薬莢を落とす

 

 

それと同時進行で右腕のあった場所に月光が収束し、形作る

より一層収束すると、そこには元通りの腕があった

服は戻らないようだった…残念だ

 

 

簡単な理論だ

 

 

とても簡単な、赤ちゃんでも分かるようなこと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫と何回も体重ねりゃそりゃ力は移るだろ

 何回、何回嬲られ、辱められたと思っている?︎︎」

 

彼女の力の一部が俺に移っている

流石に能力全てとは言わないが、スキマを開くくらいの力はある

 

「…そうか…あの…妖怪に好かれ…た…か…」

「そうだ、好かれた、厄介な奴にな」

 

俺はそう言うと、ヴラド膝立ちにさせた

どうも動く力すら無くなったようだ

銀の弾丸様々である、なかったらここまで出来てない

 

それと、スキマを開けるようになったのも

 

本当に不本意ではあるが、紫に感謝しておく

あのドクザレサイコパスに喜んで感謝なんて…

 

ああ吐き気がしてきた

 

「永い夜にはならなかったな」

「…ああ、そう、だな」

 

M500の銃口を口に押し当てた

奴の口内に銃身が入る

 

本来ならばろくに喋れないハズである

しかし、彼は当たり前のように喋り始める

 

「そう…か、娘が言っていたのはそういう事か」

「…娘?」

 

彼は感慨にふけっていた

これから死ぬというのが免れない、そう思っているようだ

 

ここで死ななくとも、紫が後始末をつける

 

人里を攻めようとした罪は重い

恐怖するものが居なくなれば、妖怪は本当の意味で死ぬ

だからこそ誰もしかし人里を攻められないし、壊せない

 

脳みそのない低級妖怪は知らないだろうけどな

 

「娘は…レミリアは…"そういう未来"、と言っていた」

「先をよく見る子なんだな、ソイツは」

 

彼はうむ、と肯定した

娘と言えど、かなりの年月を生きているだろう

100年?それとも…495年?

 

「よく見えるとも、"見えすぎる程に"

 あぁ…疲れたよ…もう︎︎」

 

彼は瞳を閉じた

どうやら、終わりにしたいようだ

ヴラド公の為にも…終わりにしてやろう

 

 

 

 

 

俺は無言で引き金を引いた

何か"それっぽい"台詞を言おうと思ったが趣が無いと思った

"じゃあな"だとか、"安らかに"とか…在り来りな表現じゃない…

 

ただ、今の俺には在り来りな表現しか思いつかなかった

だからこそ、何も言わずに引き金を引いた

 

「…」

 

ぴちゃり、と俺の顔に鮮血が散る

 

弾丸は奴の口内を貫通し、通り抜けた

力を無くした体が倒れた瞬間灰と化していく

 

宙に舞う灰が汗と血で濡れた肌に張り付く

袖や、髪にまでひりつく

 

そこで今一度服を見てみると、右腕のジャケットは消し飛んでいた

下着にも飛び火して右腕は素肌が出てしまっている

 

「お気に入りがボロボロね」

「お蔭さまでな」

 

そもそもこいつがこんな依頼をしなきゃ壊れてない

俺はため息をついた、こんな要求をしたくないが…

 

「替えの服、ないか?」

「勿論」

 

彼女は知っていたかのように新しい服を取り出した

少し緩い感じの服だ、パーカー…と言うよりフード付きのジャケットだ

青いフード付きのジャケット…ただ素材は柔らかい

確か前のやつはレザーだったか?

 

それを受け取り、着替え直す

ボロボロなジャケットは使わないから地面に捨てた

袖に腕を通し、ジッパーを閉じる

 

すると、四肢の関節に包帯が巻き付いた

 

これはどれにしても変わらないようだ

 

「お似合いね」

「そうか」

 

大剣を背に戻し、軽く背伸びをした

吸血鬼という有名な妖怪なだけあって…強い

人間を簡単に統べられる、偉大な妖怪

 

まぁ、来た場所が悪かったな

 

「よろしく」

「はいはい、どうぞ」

 

紫がそう言うとスキマが開く

そこからは怒号と悲鳴と銃声が響き渡っていた

 

戦争だ、天狗と人間同士による

 

「もう吸血鬼の部下は居ないわ」

「…そうか」

 

駆逐されたか

まぁ、いいだろう…もとより勝ち目は無いのだ

俺は溜息をつきながらスキマに入る

 

「また後でね、双星」

 

後ろからそんな声を聴きながら歩みを進めたのだった

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