「…なんか外煩いわね」
机に頭を置き、完全に寝る気の体勢
しかしその背中には鴉天狗あることを示す漆黒の翼がある
現在戦争中の妖怪の山のとある家
かなり変わり者と言われている者…姫海棠はたて
基本家から出ず、友人以外と会話した事なし
ただ、時折EEFの写真を撮って新聞に上げるのが話題になる
EEF関連の情報は少なすぎるのでかなり貴重なのだ
写真とか以ての外である、あるかよそんなもん
「…まぁいいや」
はたては二度寝することにした
今妖怪の山がどうなっていても関係無い
そもそも今までそれほど関わったことは無いのだ
どうなろうと変わらない
そう思いながら彼女は瞳を閉じた
〇
「司令官!?」
「…」
動かない
いくら声をかけても動かない
「前線が突破されたぞ」
「相手が多すぎる!」
「これ以上攻められない!」
司令官が動かない
先程天狗からの一太刀を受けてから何も言わない
「司令官の分もくらいやがれ!」
誰かがそう言って天狗を撃った
奴はもんどおりうって倒れる
…いや、そんなことはどうでもいい
それよりも撃つ前に言った兵士の言葉
そんな台詞、まるで司令官が死んだみたいじゃないか
そんな、そんなはずが…
「怯む───」
怯むな、と誰かが言おうとして吹き飛ばされる
爆弾か、ロケットランチャーの類だ
奴らは勢いを取り戻している
このままじゃ…
「戦車は!?」
「もうない!」
「弾は!」
「これで最後だ!」
絶望的な会話が聞こえる
そこで、改めて辺りを見渡してみると一般兵は俺以外、誰もいなかった
「あれ」
さっきまで横で会話していたよな
そう思って横を見てみると
天狗が居た
会話していた友を串刺しにして
「チクショオぉおおおぉおお!!!」
「甘い」
叫び、天狗を刺し殺そうとするが上手くいかない
いつの間にか倒され目の前に刀が突きつけられていた
「司令官とともに死ね、人間」
そう言って、奴は刀を振り下ろす
ここまでか…俺は覚悟を決め瞳を閉じる
神に祈ったことは無い、誓ってもいい
この時は神に祈った
もしかすれば救ってくれるかもしれないと
神は居た
神は人外では無く、人だった
天狗の前線が吹っ飛ぶ
「なんだ────」
「くたばれ!」
「洒落臭──」
注意が逸れた瞬間に殺そうとするが、恐ろしい速度で刀が降られようとする
しかし、その時には奴の頭は無かった
「お前ら!退却戦だ!動けるものは逃げろよ!」
大剣を天に指し、仲間たちにそう呼びかける者
前線を吹き飛ばした中心にその人物はいた
…大尉だ
「…聞こえたな、退却だ!」
「逃げるぞ!機会を無駄にするな!」
「うわぁぁぁああああ!ー!!!」
多種多様な声が響き渡る
大尉は立ちすくんでいた
彼らが逃げるのを見届ける為では無い
「…ごぶっ…無理したぜ…」
「覚悟は出来てるんだろうなぁ!?」
彼は血を吐きながら振り返る
そこには数多の天狗が一斉に押しかけていた
刀の切っ先や矢が刺さった状態で彼は大剣を構える
構えている間にも矢が突き刺さる
しかし、重要な部分は"妖力"で防ぐ
やはり"人間態"じゃ無理がある
だからこそこんなボロボロになっているんだ
「ぺっ……覚悟するのはそっちだろうが」
「月光狼!?そんな!本当だったなんて!」
折れた歯を吐き出す、邪魔だ
俺は獣ような荒々しい息を吐きながら、獣のように飛びかかった
構えなど無い、頭と腰に生えた獣性の化身を体現して…
青緑の光が軌跡を作る
血肉が吹き飛び、混じり合う地獄を
〇
「月光狼…力は彼に渡ったのね」
射命丸は安全地域から戦闘を見下ろしていた
月光狼である彼にはバレているだろうが、他の奴らには分からない
白狼程度じゃ気にしもしない、同族でもそうだ
「そろそろ終わりよねぇ、というか大尉で最後よね」
大尉は相手したくない
やれば死ぬのはこっちであるのだ、相手できない
する必要も無い
彼と戦っても意味は無いし、怪我をするだけだ
時間が来るまでここで高みの見物と行こう
「…そういえば椛はどこ行ったのかしら」
そろそろこっちに来てもおかしくないが…
山の目を勤めていて、相手は退却している
もう前線に駆り出されてもおかしくないが…
そう思いながら眼下で繰り広げられる死闘を見物した
〇
「叩きのめしてくれるわ!」
「さっきからうるせぇんだよ!」
騒ぎながら殺しにくるアホ共を殺す
桜は苛立ちながら退却戦をしていた
天狗共は大体大尉の方に行っているが、こっちにも来ている
「止まるなよ!止まったら死ぬからな!」
「車両がある、引き止めてくれよ!」
後ろから兵士の声がした
ここで天狗を押し止めなければならない
怪我人や動ける者を逃がさなくては
奴らに大天狗の姿は見えない
大物は大尉の方に行ったようだ…
そこで俺は後ろを確認した
EEFの隊員の姿と兵士たちが見える
ヴァルキリー部隊が五六人、RSIが3人程
一般兵に至っては一人しかいない
あることに気付いた
「…八重は?」
「余所見する暇があるか!」
「うっ…邪魔だ!」
後ろを向いている間に斬られる
丁度鎧がある場所を斬られたからそれ程痛くは無い
…しかし本当に八重はどこに行った?
…まさか
「…ああ畜生全員殺してやる」
死体の中に姿は見なかった
けが人を放っておくことは性格上無い
…まさかまだ前線に…?
そう思っていると、凄まじい轟音が響いた
まるで隕石でも降ってきたような…
「お前達!早く逃げ────」
俺が振り向くと、既に車両の姿はなかった
どうやら既に準備が終わり、轟音のおかげで出発したようだ
「ああ…クソッタレ!大尉!今行く!」
俺は駆け出した
木々の間をすり抜けるようなことはせずに、足を使って
…月は、主が死のうと未だに天に登っていた
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