山でドタバタが起こってから二週間が経過した頃だろうか
これ程時間が経てば必然的に傷は全快していった
最早邪魔になった包帯を千切る様に剥いでいく
長く貼っていたせいか毛と張り付いていてとても痛い
毛が強制的に抜かれる感覚に苛立ちを覚えながら剥いでいく
そこには傷を負う前と同じくらいに治った腕があった
他の箇所も同様に、ほぼ全てが回復していた
要らなくなった包帯を囲炉裏にほおりこむ
これでも炎を絶やさない大切な燃料となる
世の中も同じだ、どこも同じだ、使えないゴミなんてない
ゴミにはゴミらしい使い方がありそれを使えるやつが使うのだ
そう思いながら装備を確認していく
大剣は鴉天狗を切り裂こうとも折れはしなかった
しかし、このまま使えばいつしか折れてしまう
そう思いながら横に置き、拳銃を持ち上げる
ずっしりとしている
母が言うにはコレを人に向けて引き金を引けばその人は死ぬんだとか
…大体の原理を見るに、火薬の爆発で弾を押し出し、発射する機構らしい
今まで見たこともない機構だ、いや、見る筈が無い機構だ
平和な暮らしにこんなもの必要が無いからな
あの頃の暮らしにこれがあれば大分楽になったんだが
「…さて」
俺は立ち上がり、大剣を背負う
この服はかなり便利で大剣を仕舞うベルトのようなものがあったのだ
どうも大体の武器種
そう思った時、背中の重みとは違う違和感を感じる
「…何かあるな」
背中をまさぐると、指先が無い手袋があった
両方ある、どうも幸運らしい
手を保護するもののようだが…何故指先がないんだ?
保護するなら指先があると思うが
「まぁ気にする程でも無いか」
些細なことだった
あっても無くても変わらないようなものなのだ
あればほつれて破れる、無ければ指先が汚れる
そんな事を考える程暇ではない
服や顔がどんなに汚れようとも気にする程の余裕は無い
そんなもの水洗いで十分だ、それ以上は無い
今までも同じような思考でやってきた、問題は無い
そう思いながら外に出る
あれから何回か狩りには出ていたがここらに何があるなど分かっていない
というか今までどうでもよかった、ほんとうに
運が良ければ妖怪と鉢合わせる事は無い
…が、この妖怪まみれの幻想郷でそれは無理だろう
祈れるのは「どうか雑魚共でお願いします」くらいだ
むしろそれ以外に何を祈れと、マジで
俺が他に祈るとすればいい飯にありつけますように、だろうか
〇
「…思い通りになっているのですか?」
〇時某所にて、1人の女がそういった
大陸の大きな服に九つの大きな金の尻尾
それは伝説に語られる"九尾"という妖怪と同じ尻尾の数だった
見た目から分かる通りその女は九尾だった
その九尾は目の前の女にひざまづき、そういった
言われた女は首を傾げた
「どうしたのかしら?何かあったのかしら」
その女はそう聞き返した
思い通りになっていない、なんて返さない
絶対に思い通りにならないことは無いのだから
九尾は少し顔を逸らしたが、話に戻る
「あの男、天狗を襲撃しましたが」
「えぇ、思い通り…天狗達は人間が殺ったと思ってないでしょうけど
ましてやそこにあるのは錆びて折れた刀、嗚呼哀れね」
彼女は哀れんだ
あの場で最初に犠牲になったあの天狗を
そして、逆に羨ましいとも思った
「…そうですか」
「他に何かあるかしら?」
目的の回答と違う言葉を送られたのか九尾は顔を俯けていた
そんな九尾に女はそのような質問を飛ばす
なんら気にしてない様子で質問を飛ばしたのだ
「一つだけ」
「言ってみなさい」
…九尾、藍には一つだけ理解できないことがあった
この方に主として使えている中理解できないことがあるなんて恥だ、死んだ方がいい
式として生きている彼女の仕事のノウハウはとても優れている
この女をして良い部下を持っていると思う程だ
頭脳としては女には届かないがそれでも十分過ぎる程だ
「あの男は一体?現博麗巫女の…」
「えぇ、貴方が思っている通りの"人間"よ」
「人間が天狗を、到底信じられたものでは無い」
「でも、貴方は見たでしょう?」
確かに、藍は見た
油断している白狼の喉に錆びた刀を突き刺し、倒れたところに間髪入れずに奪った大剣を振り下ろす
その早業はまるで暗殺者のそれだった…彼は妖怪退治屋でもないのに
その次に射命丸文との戦闘
光速とも呼べるスピードで迫り来る文を大剣で真っ二つに切り裂いた
これが天狗達に見つかって割と大騒ぎしているらしい
見たところ彼もかなり甚大な被害を被ったようだが…
それでも死なない程度の様だった
甚大と言っても腕やらが落ちていない程度だからか
それに…
「どうも彼は私の視線に気付いていた様なのです」
「どうして?」
「辺りを何度も見回して…最終的に私の方を見ました」
「成程成程…ふふふ」
女の肩が揺れる、笑っているのだ
最近主はずっと笑っている気がする、藍はそう思った
なにかいいことがあったのかと思えば…どうもその男のことらしい
確かにあの男が気になるのは分かる、初めて見たが引き込まれる様な戦い方だった
…どちらかと言えば関心を寄せる、というのが正しいだろう
「思ってた以上よ、うふふ、やっぱり彼は計り知れない」
「…楽しそうですね」
藍はそういった
主が自分を見ていない訳が無い
ただ、最近のこのお方はあの男にご執心の様だ
目付きが違いすぎる、獲物を狙う目だ
確かに博麗の子ならあの魅力は理解出来る
名家に生まれた子はとても美味と言われている
そう言われているだけで実際問題は分からない
そんな噂を信じ切って、その名家の子を食えば確かに美味だろう
しかし、博麗の子は紛れも無い美味である
幻想郷の調律者兼要として生きている人物の子供
ただでさえ霊力が高いのが次世代の子は更に凝縮されている
そんな旨味の塊を喉元に通せば…
どんな味がするというのか
考えるだけでも身が震える
「あの子は私のよ」
そう思っていると前からそんな声がした
どうやら顔に出ていたらしい、慌てて顔を下げる、
「狙ってなどございませんよ」
「うふふ、分かるわよ、その気持ち、でも、彼は私のものだから」
主の笑い声が響く
最近良く聞く、楽しそうな笑い声
こんな笑い声を聞くのはいつぶりだったろうか
幻想郷を作る、その時以来だったか
「…主のためにも、お前には生きていてもらうぞ…双星」
かの男の名前を
誰も知りはしない名前を呟いたのだった
〇
現在時刻、大体12時半
天候、晴
目標、特に無し
目的、立地調査
季節柄かとても暑そうだ、陽炎が見える
梅雨の季節に時折元の夏が混じってきている
しかしこの服はなんと暑さを冷たさに変換してくれるらしい
調節も可能という天国で作られたような服だ
なにかを載せている訳では無いらしい、とても軽い
コレを作ったのは妖怪だと思っているが着ていたのは人間だった
「適当にブラブラするか」
自宅の方向は叩きつけてある
というより妖怪の山に行き、そこから人里が見えるという条件の合う場所に行けば自宅がある
そしてかの山は幻想郷で1番高いので何処からでも帰れる、便利だ
今回の目的としては周辺の立地調査だが…もしかしたら幻想郷の立地調査になるかもしれない
その資料を人里に出したら少しは金になるのか
なったところでその金は使わないのだが
適当に彷徨うのもアレなので目標を決めることにした
「…なにか持ち帰る、だな」
なにかそれっぽいものを持ち帰ろう
手ぶらで帰ると立地調査完了しても虚しいだけだ
…俺も一端の人間だよそんな目をするな
そう思いながら俺は足を運ぶ
今回の旅はこの時、楽なものだろうと思っていた
天狗があんな簡単に切れてしまったから勘違いをしていたのかもしれない
思い上がりは程々にしておいた方がいい…
今回の旅は楽だ
それが間違いだと思うのに時間はかからなかったが
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