スキマに愛された大尉という人間について   作:回忌

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黒い翼

「取り敢えず経緯を聞きたいのですが」

「……起きたら山だった、それだけだ」

「それ以外は?」

「何も……記憶もあやふやだ……」

 

頭を抱えるように彼は言った

どうやらなにも覚えていないようである

 

自分が何をしたか、何者であるかさえも

 

 

……鴉天狗に成っていることさえ分からないのだろう

 

「……インタビュアー、もとい拷問官って奴だったんだ」

「俺はそんな仕事をしていたのか」

 

彼は信じられないような顔をしてこちらを見た

普通信じられないものだろう、自分が拷問官してたなんて言われても

 

そして、普通なら怒ることも当たり前だ

 

「初めてあったやつを拘束したかと思えば人のことを拷問官呼ばわりしやがって」

「はが─────」

 

ホルスターからリボルバーをクイックドロウ

そこから敵意を向けていた天狗の脳天に一発ぶち込んだ

 

「ちょっと!?」

「じゃあな!」

 

バサリと翼を広げると彼は飛翔した

その行動に迷いは無く、まるで生まれた時から天狗であるかのようだ

……まぁ大体あっているっちゃあっているんだが

 

「追え!逃がすな!」

「い、生け捕りにしてくださいよ!?」

「生死は構わん!」

「ちょっと!?」

 

天狗達が続々と現れる

同族が撃ち殺された……もとい少し動けなくなっただけだ

頭を撃たれたくらいで天狗は死ぬもんじゃない、弾丸一発じゃ尚更だ

 

ただまぁ、それでも敵討ちはやるだろう

 

「来いよ!捕まえられるもんならな!」

 

彼はそう叫んだ

その瞳には拷問官扱いされた怒りが宿っている

強い意志を感じられる顔だ

 

簡単には捕えられない

 

 

天狗たちは犠牲を覚悟しながら飛びかかる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後普通に犠牲も無く捕まった

 

 

「出せ!アホ!唐揚げ!肉じゃが!ド畜生!犬畜生!」

「うるせぇ!」

 

"成りたて"であるためそれほど苦労することなく捕らえることが出来た

危惧していた生死を問わないことについても心配なかった

やはり数、数は力、力は暴力、数は正義

 

抑留所にて椛はため息をついた

 

「さて、どうしたものでしょうか…」

 

元EEF隊員、その上インタビュアーという天狗からの恨みが1番高い役職

そのようなやつを捕虜にしたとすれば……やることは私刑だけだろうな

 

そういう犠牲も組織には必要なのである

 

「大天狗達は死刑にしたがるでしょうね」

 

いつの間にか現れた射命丸は椛にそう言った

そちらに顔を向けていないのでどういった顔をしているか分からない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼らに選択肢はありませんよ」

 

「─────」

 

椛は声が出なかった、否……"出すことは許されなかった"

その優しい声に込められた確実な圧は辺りに響く

 

椛は反射的にその人物に頭を垂れていた

それは横にいた射命丸もまた、同じだった

 

その人物は他の鴉天狗と違い、美しい長髪をしており、美しい翼をしている

服装は黒と赤と白を基調とする和服である

 

射命丸はできるだけ声を落ち着けながら

 

「……天魔様、いつの間に」

 

射命丸は膝立ちの状態で彼女に質問した

ふふふと笑う声が響く

 

「さっきから居たわ……そんなに固くしなくてもいいわ

 ︎︎こちらが気まずくなってしまうもの」

「ですが……」

「言うこと聞く、いい?」

「「はっ!」」

 

2人は立ち上がる

看守は天魔に向けて敬礼をしていた

 

「さて、彼に関しては決めておきました」

「早いですね、さすがです」

 

話も早い、スピード感が違う

 

彼女が"質問者"に向き直った

彼は彼女からの圧を濁ったような瞳でみていた

牢獄の中、檻を挟んだでいても手は届く……が、男は手を伸ばさなかった

 

 

 

天魔は口を開く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼をうちの部下にしようかと」

 

「「……え」」

 

2人は無意識のうちにそう言い漏らしていた

彼女は顔だけを2人に向け、笑顔で言う

 

「EEFの有能な隊員、記憶はないようですが役には立ちます」

「そ、そうなんですか……!」

 

彼女はええ、と言って"質問者"の方に顔を戻す

そこで、彼女は彼の顔を見ながら言った

 

「では看守も含め、皆さんでてって下さい

 ︎︎少しお話が彼としたいので」

 

「「「は、はいぃ!」」」

 

圧も何もないのに、その場にいたものは逃げるように牢獄から出ていく

がらんと静かになったのを天魔が確認すると、ため息をついた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お主、ちょいと身勝手が過ぎるのではないか?

 ︎︎あんな行動ワシには伝えられてなかったのじゃが」

「その場でのハプニングをアドリブで返す……こうでもしないと生きられないのさ」

 

 

「……」

「……」

「……」

 

奇怪なものを見る視線を受け流しながら自室に向かった

奇怪……というよりゴキブリを見るような汚ねぇ目だったが

余程俺はこいつらにひどいことをしたのだろう

 

拷問官、と呼ばれる仕事をしていたからだろうか

そんな記憶は全くないのだが……

 

「はー」

 

もしそれが本当なら殺したいものである、自分を

後の自分がこんなに苦しい目にあっているのは過去の俺のせいであるというわけである

仕事だとかその状況のせいでとかなら何も言えないが……

 

過去の俺のせいで今の俺が苦しめられている

 

「……でもなぁ」

 

なぜだか、これが当たり前だと思う自分がいてしまう

ロングコートの左肩にあるエンブレムをなぞる

 

俺が苦しめられている原因でもある物

 

例えるならば、ユダヤ人に付けられるダビデ星

 

 

レッテルとも言い取れる

 

「仕事したくねー」

 

同僚との連携は取れぬ、後ろから蹴られる

なんかもう働きたくない、ニートしたい

 

俺は溜息をつきながらベッドに潜り込んだ

鴉天狗という階級にあるらしいが、やることは白狼天狗と同じである

 

天魔曰く鴉天狗のような仕事はさせたかったらしい

が、その場合大天狗や普通の天狗からの文句が伊達ではないらしいので我慢しろとの事だった

まぁ所詮敗北者なのでどうということは無い

 

見回るなんて、役得な職業だからな

 

 

 

「さて」

 

 

 

 

俺はそう思いながら目を閉じたのだった

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