「ねぇねぇ!」
「なぁに?」
子供が親に問う
幼い子供が放つ質問は大抵大人なら分かりきったものか、分からないものかである
純粋故に簡単に答えられないことをポンポンと言い放つのだ
ただ、今回の質問は特殊だった
「この前巫女様をみたの!」
「巫女様を…それは良かったわねぇ」
特に仕事もなくぶらぶらしていたならいいことである
妖怪を退治する仕事をしてない証だ、平和ということである
そう納得した母親の心を揺るがすことを、子供は言う
「なんか、フラフラしてたの」
「ふらふら?体調が良くないのかしら」
その言葉を聞いて母親は旦那のことを思い出した
始めてきた里に時はふらふらと里をさまよっているのを見た
見かねたこの母親が仕事のツテを教えてあげたりしたのである
…その時は独身だったか
子供はポツリと呟いた
「"青色の"巫女服を着てたし…疲れてるのかなぁ?」
「さぁ…聞かないと分からないわね」
〇
「…」
私は、何をするべきだろう
ふらふらと道をただ揺れながら進む
私に課された"任務"は妖怪の殲滅だった
しかし、あの山で敗走した…それでも私は戦った
戦っている時に気絶させられ、目が覚めればどこかの病室だった
誰にやられたという感情は無く、ただその現状を受け入れていた
『貴方達は負けた』
あの赤青の女医に真実を伝えられても私は"そう"という言葉しか出なかった
怪我や破れた服はそこで治してもらった
そのまま居着いても良かったようだが、私は嫌だった
生かされるくらいなら、死ぬ方が良かった
そもそも私は今を生きる資格は無い
私の生きる理由は妖怪の殲滅なのだから…
兵器に人権は無いし、決定権もない
だからこそ、誰も命令してくれないこの状況に困惑している
今までは上からの命令があり、それを遂行しているだけだった
作られた"物"である私には命令が必須だ
"マッドネス"から成人程の知能は与えられたものの、自分から考えるのは苦手だ
何をするにも金がいるし、お腹も減る
死んだ兵達と永遠亭から奪った食料も無限では無い
「…」
最初は人里で食えた
妖怪退治や色々な何でも屋をしていたのだ
最近は、客足は乏しい
私があまり派手に宣伝を行わないのが原因でもある
元共存反対派の"人造兵器'と知られれば、手のひらがくるりと回ることは火を見るより明らかだ
別に生活に困るほどの報酬を貰っている訳では無い
このくらいが、私に許されたことなのだろう
そうして、また依頼が来た
「…寺子屋の先生が態々尋ねてくるとは思いませんでした」
「君の噂を聞いてね、大っぴらに頼めることじゃぁないからな…」
寺子屋の先生…確か上白沢慧音だったはず
子供達に教学を教えている…が、大体の授業で生徒が寝るとか
そのような生徒には愛の頭突きが待っている、大体"決 ︎︎着"された
彼女が口を開こうとする
その前に私は、先手を打つことにした
「一体なんでしょう」
「…!、…人里の人間の過去を調べて欲しい」
「断ります」
彼女は依頼の内容をそう言ってきた
私はそれに対して即拒否の対応をした
心からの拒絶が初めて、現れた
恐らく、彼女は元反対派のことを探っているのだろう
私が知る限りの反対派勢力のその後は深くない
曰く数人しか脱出出来なかったとか、EEFは全滅したとか…
「…この報酬を用意すると言ってもか?」
彼女は完全な拒否に面食らったようだが、手は緩めないようだった
どうも何かしらの理由があって、引きたくないようだ
…それはそれとしてだ
「これは…」
机に出されたものに私はため息をついた
それは私が知る限り、かなり有用なものと言えるだろう
何も特別なものでは無い、多額の金である
それもこの人里なら経済を簡単にひっくり返せる程の金だ
そこまでしたいか、上白沢慧音…!
「…何が目的かだけ聞いていい?」
「私は…いや、これは言えない」
彼女は何かを言おうとして、首を振った
どうも言えない秘密があるようだ
私は彼女を見た
慧音の少し揺らいだ瞳と私の視線が交差する
「出ていけ、私とあなたは相容れない」
「…すまない」
彼女はそう言うと、扉を開けて店から出ていった
その背中がやけに哀愁漂っていたが、どうでもいい
私は"彼ら"の生活を脅かしたくない
かつて戦場で共に戦った仲間を…
そう思うと、私はふと…感情というのはこういうものなのかと感じた
今まではそれほど感情に動くことはなく、任務をこなしていた
それが、私に課せられた任務であったからだ
…今は、普通の人と同じように生きている
だからこそ、"普通に生きる"彼らの邪魔をしたくは無い
それでも、強要するのなら
…私は、貴女を消さなければならない
〇
私が彼女に会った時の第一印象は、"抜け殻"だった
何も入っていない、空っぽの抜け殻
彼女は知らないだろうが、私は彼女と会ったことがある
会うと言っても、ただすれ違う程度のことではあった
「…」
その時の彼女の瞳には"何も無かった"
人としてあるべきの"活力"だとか、"希望"だとかが無かった
抜け殻としか言いようがない、本当にそれだけだった
そして、その顔に見覚えもあった
全くもって…霊夢にそっくりだった
いや、そっくりなんて生易しいものでは無い…"本人"だ
顔つきも体つきも…声すらも、霊夢そのものだ
極めつけはあの"青い"巫女服だ
"仕事"をしている時にこっそり見させて貰った
戦い方はかなり無情で、霊夢のようだった
服装が赤ければ…本当に霊夢にしか思えない
「…寺子屋の先生が態々尋ねてくるとは思いませんでした」
「君の噂を聞いてね、大っぴらに頼めることじゃぁないからな…」
彼女と会話している時も、そんなことしか考えていなかった
何せ霊夢本人と話しているような気持ちなのだ
不気味だ、恐怖でもある
彼女は話を切り出そうとした私を遮り、口を開いた
「なんでしょうか」
「…!」
相手を人として見ていないような、冷たい声
あまりの冷たさに私は一瞬時が止まってしまったような感覚に陥る
しかし、直ぐに会話に答える
「…人里の人間の過去を調べて欲しい」
人里の守護者としてダメなことをしている
その自覚はある…しかし、知らなければならないのだ
私は…知らなければならない
しかし、そんな心の懇願を彼女は目の前から一蹴した
当たり前だろうか…人の過去を探るなんてことは並大抵のことでは無い
普通ならこうして断られるのが当たり前だ
しかし、私にも引けない理由はある
「…この報酬を出すと言ってもか?」
私はこの人里の経済をぶっ壊すことの出来る程の金額を提示…というか机に出した
ばらまけば人里の経済が回らなくなるレベルの金額である
彼女一人なら…豪遊なんて言葉が生優しく思える程の金額
借金なら夜逃げ確定の凄まじい財産
それを、彼女は…
「…出ていけ、私とあなたは相容れない」
完璧な、拒絶の言葉だった
私はお前の正体を…大まかに知っている
その歴史を、私は知ってしまっている
…共存など程遠い場所にいたお前のことを…
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