スキマに愛された大尉という人間について   作:回忌

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危険信号

「――…」

 

目を開けるとまず太陽の光が瞼に入ってくる

遠慮なく一点に集まった光が瞳を貫通する

それはまるで何も配慮無しに入ってくる友人のようであった

 

ただ、今の彼に友人と言える人物は居ないのだが

 

「シャンハーイ」

 

「…?」

 

ふと、声がした

寝ぼけていたのもあり、彼はそちらに顔を向けた

そこには空中浮遊する小さな人形のような奴がいた

 

彼にとってそこまでの脅威にならなさそうだったので銃は抜かなかった

その人形は口の前でわしゃわしゃすると、扉を指さす

 

「…あぁ」

 

一瞬意味がわからなかったが数秒したら理解することが出来た

簡単な事だった、今からご飯を食べるからリビングに来いということだろう

何ともまぁ、病人を労る心は無いのか…彼はそう思った

 

「えいえい…」

 

適当に返しながらベッドから下りる

いつの間にか体調が全快し、不自由な所はどこもなかった

痺れたところはどこもなかったし、傷も無かった

壁にかけられた大剣を背中に背負ってリビングに向かう

 

人形が先に扉を開けてくれた

 

その瞬間目に写り込むのは大量の人形、人形、人形

あるのはもはや不気味とも思える数の人形

ここまで来ると、ある種の執念すら感じる

それと同時に美味しそうな焼けた匂いがした

 

見てみれば机の上に平べったい白の板に乗せられた"ナニカ"があった

 

「あら、起きたの」

 

数体の先程話しかけてきた奴と同型の人形を操りながらアリスが声をかける

彼女が指を動かす度にどれかの人形が動く、どんな技なのか

興味はあるが聞く程でも無い

 

「今起きたところだ」

 

彼はそう言って大剣を横に立てかけて椅子に座る

彼なりに配慮して、できるだけ礼儀正しい…っぽい感じで座った

形だけでもそれにしてみると、割と効果はあるらしい

 

「割と礼儀はあるのね、どこから習ったのかしら」

 

「さぁ?体が勝手にね」

 

この場で即興でやったとは言い難いので適当に言い逃れる

面倒なことだ、変に追求されても困る

彼はこれ以上言うつもりは無かったので食事に移ろうとした

 

「…して、これは?」

 

「パンよ、パン」

 

「ぱ、ぱん?」

 

初めて聞いた食べ物の名前に首を傾げる

目の前の白い板に乗った四角いモノ、これがパン?

そのパンとやらの上には卵が乗っている

 

焼けた香ばしい匂いが漂っている、不味くは無さそうだ

 

「…?…、……」

 

注意深くそれを持ち上げ、左右上下から見る

卵が乗っていない、横の面は焼けたように茶色だ

卵には黒の粉のようなものが掛けられている

恐らく胡椒だろう、ウチはあまり使ってなかったが

 

「見てないで食べなさい、冷めるわよ」

 

アリスはそう言うとパンを食べ始めた

黄身が割れて、黄色の液体が広がっている

 

見ているだけでは失礼か、彼はそう思いながら恐る恐る食べることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んんっ!」

 

久しぶりに感情的な声が出た

特にこういうものに関して、久しぶりに

 

そんな声が出るほど、このパンは美味しかった

まずパリッとした茶色の部分で既に美味しい

白い部分はふわっとしていて、これも良い

 

そしてそれらをさらに美味しくするのが胡椒付きの卵

よく見えなかっただけでも塩もついていたらしいとても美味い

 

「…美味しい」

 

その言葉は思わず零れた言葉だった

最近はやれ猪だのやれ鶏肉をただ焼いたものだの野性的なものが多かった

野性的な美味しさもそれだったが同じようなものが多かった

 

そんな時に食べた真新しい食感、味

 

気に入らない筈がなかった

あっという間に彼は卵乗せパンを食べ終わった

久しぶりに美味しいものを食べへた気がする、そんな気がした

 

「もう1つあるけど要るか――「いる」…分かったわ」

 

もう1つあるという単語に反応し、彼女が言い切る前に食い気味に言う

このような美味な食べ物がもうひとつある?なら寄越せ

この味がとても美味しいのだ、本当に

 

アリスは食い気味に答えた彼に対して少し驚きながらパンを焼き始める

思いの外彼とは上手くやって行けるだろうと思った

 

多分、食べ物で釣れる

 

何となく、アリスは彼の扱い方を知った

来た時は美味しいもので歓迎してあげようかな、と思うくらい

ついでに彼女は彼がパンを知らないことにも驚いていた

幻想郷でパンがまだ普及してないはずがない

人里の一部では食べるところもあると聞く

人里住なら知らないはずが無いのだ

 

(…もしかして、別の村かしら)

 

そう思いながら焼けたパンを取り出す

そしてその上に予め焼いておいた目玉焼きを乗せる

その後にいつもの分量で塩と胡椒を振りかける

 

それを持ち上げ、彼の皿の前に置く

 

彼は直ぐに手に取り、美味しそうに頬張る

その様子にアリスは思わず声を掛けていた

 

「とても美味しそうに食べるのね」

 

「あぁ、美味しいからな」

 

久しぶりにできた気がしたまともな会話

あれだけ殺気立っていた彼もいつの間にか大人しくなっていた

もしかしたら食べ物を上げたら殺気は少なくなるのかもしれない

 

そんな考察をしていたらいつの間にか彼は完食していた

ちゃんとご馳走様は言っていた、礼儀はある家の生まれらしい

椅子から立ち上がり、大剣を背負いアリスに背を向ける

 

「世話になった」

 

「えぇ…面白い暇潰しになったわ」

 

彼女は相変わらず人形を弄っていた

彼はあまり気にしないで扉を開く

 

そのまま、彼はアリスの家から出て行ったのだ

 

 

 

「やれやれ、道草を食ってしまった」

 

アリスの家から出て、男はまず最初にそう呟いた

彼女に対しての感謝の言葉を述べた後にである

この言葉は聞こえなかったのか、何かが飛んでくることは無かった

 

アリスに何も感謝していない訳では無い

しかし、己の心は裏でずっと思っていた

 

彼にとってはこの出来事は"生きてて良かった"では無い

 

 

 

 

 

"有益な情報はあまり無かった"の方が正しい

 

 

毒性を確かめるために俺は舐めた

しかしまぁ、保護されるとは思わなかった

そこで死ぬとばかり思っていたものだから…

生きるとは思っていなかった、この森に人がいるとも思わなかった

 

運が良かったか、はたまた運命か

 

「くだらない」

 

運命という言葉に思わず彼はそんな言葉を呟いた

この男はそういう単語が大っ嫌いである

既に決められた物語を歩むのも癪に障る

 

そういうのは自分で選ぶからこそ、生きる価値がある

 

選び突き進めるからこそ人間だ

 

 

 

そう思いながら森から出るべく歩き出す

 

一刻も早くこんな薄暗く湿った空間から出たかった

彼はそれほど根黒では無いし、こういう空間は好きじゃない

キノコの件もあって一息つけないあまり良くないところだ

 

まぁいい、早いところ移動しよう

 

 

「原因はよく分からないのか?」

 

慧音は博麗巫女にそう言った

人里を心配してゆえの言葉だったが、どこか棘があった

何かピリピリしている、そう博麗巫女は思った

 

「よく分からない、ただ、妖怪とは別の方向で不味い奴がいる気がする」

 

「不味い奴?」

 

博麗巫女が言ったことに慧音は眉をひそめた

原因らしき物が特定出来ているのでは?と彼女は思った

それに対して博麗巫女はため息をつく

 

「妖怪のやられた場所かどんどん移動してる」

 

「移動してる?」

 

移動しているという奇妙な事実に慧音は首を傾げた

どういうことだろうか、死体が移動しているのか?

 

そう疑問に思っている慧音を察してか、彼女は言い方を変える

 

 

「いや、加害者が移動しながら殺してるんだ」

 

「…!!なるほどな、そういう事か」

 

 

慧音はすぐに理解した

妖怪というのはめっぽう強いのも居れば弱いのもいる

ただ、何が何であろうと人間が勝てるのは少ない

 

そんな妖怪を皆殺しにしようとする

 

「幻想郷の調律者として見逃せないだろう?」

 

「ああ、そらそうだ」

 

慧音の質問に博麗巫女は当たり前と答える

それもそうだろう、今までそうしてきたんだから

こういうのは"博麗の巫女"の仕事である

 

いつも通りだ、いつも通り

 

「じゃあ、君はソイツを殺すのか?」

 

「…あぁ、多分な」

 

幻想郷の人間が妖怪を殺して回っている

それは妖怪と人間の関係の縮図である為何も言う必要は無い

人間と妖怪は殺し殺される、そんな関係なのだから

 

しかし、外の人間がやっているならばまた話は別だ

この世界の生まれではない人間が幻想郷に関わることは出来ない

 

特例を除き、そんなのは誰にもできない

 

「頑張れよ、ちゃんと生きて帰るんだ」

 

「安心しろ、私はこの程度の妖怪殺しには死なん」

 

軽く笑いながら博麗巫女は歩き始める

ゆったりと、解決に向かっているとは思えない足取り

 

しかし、それはちゃんと事件現場の方へ向いていた

 

ちゃんと、解決への道をたどっていた

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