らじおぞんで二次創作です。
蒼穹視点で彼女がまだ失踪する前の話です。

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それを初めて飲んだ日

 

 

――遺産観測庁の敷地にて

 

 

透き通るような青い空も、私にはどんよりと濁った色にしか見えない。

まるで空から幾重にも呪いが降り注いでいるかのようだ。

 

裏切り者、と(てき)を墜とす度に非難する声が聞こえてくる。

私は同胞より生まれたのに、人間に組みしている。

 

どれだけ人のために尽くしても、私は剣であり素体であった。

 

人の声を発し、人の言葉を使ってもなお、私を人間として見てくれるものはどこにもいない。

この世界で私は独りぼっちだった。

 

 

蒼穹(あおぞら)、何か欲しいものはあるかい?」

 

出撃の少し前、顔なじみの学者が私に問いかける。

欲しいものなんて何もない。けど……

 

「あなたがいつも飲んでるアレが欲しいわ」

 

少しだけワガママを言いたくなった。

赤いラベルの貼られた瓶。

彼はいつも、その黒っぽい液体を飲んでは美味しそうな表情を見せていたから。

 

「それはさすがにお偉いさん方の許可がないと……」

 

やっぱりそうよね。

私にイレギュラーなものを与えたら、どういう反応を起こすかわかったものじゃない。

そういった類のものは認められないだろう。

なら、なんで『欲しいもの』なんて漠然とした質問をしたのかしら。

 

私が考えを巡らせてる様子を不満の表情と取ったのか、若い学者は

「オーケーオーケー。今度持って来よう。みんなには内緒だぞ」

そう約束してくれた。

 

 

 

 

この陰鬱な旅がせめて気が紛れるようにと、鼻歌を歌う。

何体かのグレートワンを倒しては、観測庁に戻る。それの繰り返し。

何度も何度も繰り返した旅は、初めのような刺激はなく、それは退屈なものだった。

 

的の弾をかわす。

数多の同胞を墜とす。

グレートワンの出現。激しい弾幕戦。

またこのパターン。もう何度目だと思っているんだか。

学ぼうともしない彼らに苛立ちが沸く。

集中を欠いてしまったのか、続いて放たれた巨大な弾の熱量で、避け損ねた右足が焼き飛ばされた。

 

「っ!!」

 

痛みが神経を伝達する前に、新しい足が構築される。

これも退屈の原因。例え頭を吹き飛ばされたとて、私が堕ちることはない。

 

「やればできるじゃない」

 

接近してその脳天にシードを大量に注ぎ込む。

 

 

――He was vanished to air

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、お望みのものだよ、お嬢さん」

 

人の目を盗んで、彼がそれを持って私を訪ねてきた。

瓶はとても冷やされていたようで、大気中の水分を付着させていた。

 

「どうして私に良くしてくれるの?」

 

彼から栓抜きを受け取って、蓋を開ける。

その瞬間、瓶がポンっと小気味よい音を立てた。

 

「あぁ、そうか。気づいてないのか。

今日は君の誕生日じゃないか」

 

誕生……日……。言われて気づく。

確かに稼働開始から365日が経つ。

 

でも誕生だなんて、まるで人間みたいね。

 

そう口にすると男が悲しそうに笑った。

 

「僕から見たら、君は可愛い女の子だよ」

 

思わず笑ってしまう。

私は破滅から人々を守る兵器だ。私は夜の闇を切り裂く剣だ。

人は自らの保身のために、巨大な個体(Great One)から私を造り出して、戦わせている。

 

「本当は誰も戦いたくなんてないのにさ」

 

永遠に死なない私と、何度でも復活する彼ら。

この戦いに終わりが来るとしたら、それは人類が滅びる時だというのに。

なんて危機感のない。

 

だからか。

 

だから、人間は未来を求める。

何度も何度も何度も何度も、懲りずに観測しては絶望するのだ。

 

「飲んでごらんよ」

 

さぁ、と彼が私を促す。

 

どうして彼は規律を破ったのだろう。

この男は私を好いている? 女として?

それなら今度誘ってみようかしら……。

 

胚はやがて芽吹き、命となる。

例えばこの男と結ばれれば、私は子を為せるのかしら。

この世界を守ることができるのかしら。

 

瓶に口を付けて、少し傾ける。

濃茶色の液体が口内を刺激して、ごくりと喉を鳴らすと痛みと共に清涼感が胸に落ちていく。

最後に残った甘味に、思わず微笑んでしまう。

 

「おもしろい味ね、これ」

 

そうだろう、と答えようとした彼のネクタイを引っ張り、彼の唇に唇を重ねる。

 

「素敵な味よ。ありがとう」

 

あの日、初めて的を墜とした日。

人々が私を英雄と呼んで、花束を贈ってくれた日のことを思い出していた。

 

 

 

 


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