「んぅ〜……」
布団がこすれる音と、隣で眠る茜の呻き声で目が覚める。
今は何時だろう。霞む視界では明るい時間であることしかわからないが……とにかく眠い。
体の右側に不自然な厚みを感じる。大方、寝苦しくなった茜が布団をこちら側にどけたのだろう。剥いで寝るにはまだ寒いだろうに。
放置して体調を崩されても寝覚めが悪い。眠気で重い体を動かし、茜に布団をかける。
「風邪ひくぞー」
「うぅん……」
一仕事終え、幸福感に身を委ねていく。夢現で心地が良い、このまま目を閉じれば最高の気持ちで──
「ゔぅ〜ん……」
……またどけやがった。
どうせもう一度かけ直してもいたちごっこが始まるだけだろう。二度寝もしたいし、多少強引にやるか。
布団を掴んだ左腕を茜の方へ投げ、そのまま外れないよう重みをかける。どうだ、これで逃げられまい。
「……? ゆづ、る……?」
まったく、世話のかかる奴だ……。
*
いつの間にか眠っていた。さっき一度起きたような気がするが、意識も記憶もおぼろげでよく覚えていない。
未だ残る睡魔と戦いながらまぶたを開くと、額に汗をかき、顔を赤くさせた茜と目が合った。
「どうしたぁ、汗びっしょりだぞぉ」
「誰のせいや思ってんねん……」
寝起きでスローに喋る俺を睨みつけ、鋭く言い伏す。
ああ、なんだか段々思い出してきた。何度も布団を蹴飛ばすから、腕を乗せて上から固定したんだったか。
そう思って視線を下に向けると、記憶とは大分違う形になっていることに気づく。
俺の左腕は、布団ごと茜を抱き寄せていた。
目が覚めて真っ先に茜と目が合ったのもうなずける、俺の腕に掬われて横向きになってしまったんだろう。我ながらなんて寝相だ。
状況も把握できたし、そろそろ怒られそうなので解放する。すると彼女は「はぁ」と、小さくため息をついて起き上がった。
「弓鶴のせいで朝から汗だくや、シャワー浴びてくる」
言いながら、ベッドから降りて着替えを用意している。本当に俺のせいなのか、と一瞬浮かんでしまったが、働き始めた理性と寝起き特有の面倒くささに助けられた。
早々に支度を終え、寝室から出ていく。と思いきや、ひょっこりと顔だけ出して付け加えてきた。
「ぜーんぶ弓鶴のせいやからな。もちろん朝食くらい……なぁ?」
いやにニヤついた表情でそう言い残し、文句をつける暇もなく行ってしまった。
うーむ、随分と面倒な。全ては善意であったはずなのに、争いとはこうして生まれるのか。
くぁ、とあくびが出る。無視して三度寝としゃれこんでもいいが、そんなことをしたら半日は口を利いてもらえなくなりそうだ。
睡魔に押し倒される前にベッドから出るとしよう。まったく、本当に世話のかかる奴だ。