【悲報】私氏、小学生妹ちゃんのヒモになりそう   作:おねロリのおね

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猫のライブハウス

「ここがあの猫のハウスか……」

 

 とは言うものの、わたしは一歩も動いてはいない。

 なんのことはない。恵子がやってるブイのトップページに検索を通してきただけだ。

 恵子からもらった巨大な猫ぐるみをクッション代わりに、わたしは身体をローテーブルにつっぷすようにして、ノートパソコンを操作している。

 

 過保護なお兄ちゃん達は、恵子からもらった猫のぬいぐるみに盗聴器がしかけられているんじゃないかって心配してたけど、ギュムって潰してみても、機械っぽい感触はなかったよ。まあ盗聴器は電磁波発してるから、ハムノイズを拾う機械を使えば正確にわかるだろうけど、そこまでする必要はない。

 

 わたしは恵子のことを脅威には思っているが、べつに怨んでいたり嫌ってたりするわけじゃないからな。

 この猫ぐるみは人をダメにするくらい柔らかくて、抱っこするとなんか安心する。その程度には恵子のことも信頼している。だいたい妹をガチストーキングしてたら物的証拠ありありで一発アウトだからな。そんなアホな子じゃないことは最初からわかっているんだよ。これはライバルと試合をしていて、ライバルが難易度の高いプレイを必ず通してくるという確信めいた信頼に近い。

 

 リビングルームでFPS視点の盗撮してるやんって意見はあるかもしれんが、それはお姉ちゃんもそうだし、今のわたしがやってることも考えれば似たようなものだからな。家族としての越えてはいけない一線というのは、恵子も含めてみんな持ってるように思う。

 

 この心理戦を制するためには、そんな些末なことではなく、恵子の本心に近づいていかなければならない。そのためには恵子が演じている淫猫というキャラクターを見るのが手っ取り早い。

 

 お姉ちゃんとの一戦を通じて学んだことだが――。

 ブイが仮面をかぶるのは本心を隠したいからじゃない。

 むしろさらけ出したいと思っているからだ。

 

 ライブ配信へのリンクをクリックし、わたしは恵子に逢いに行く。

 

 ほどなく画面は遷移し。

 

――宝珠淫猫。

 

 そのデフォルメバージョンが出迎えてくれた。

 黒髪黒目のお嬢様。特徴的なのは角のように突き出したネコミミ。

 もちろん、アニメ顔でリアルな恵子とは異なるが、落ち着いた雰囲気の奥からかもしだされる絶対的強者感が現実での様子に似ている。

 

 アーカイブを予習した感じ、変声しているのか妙に甲高く、アニメ声になっているが、機械を通してなのかはよくわからない。ギリギリ、自前の肉体を使ってもできなくはない程度の変え具合だ。恵子の財力を使えば、AIを使って、ほぼ同時間でアニメ声に変換するなんて簡単なことだと思うが、この点については判別がつかない。

 

 ライブハウスは奇妙な連帯感に包まれていた。

 恵子はまだ登場しておらず、リスナーたちは、『ブヒブヒ』と鳴いている。

 このあたり、お兄ちゃんたちが最近『わおーん』とよく鳴くようになったのといっしょだな。

 思わずクスっと笑いがこぼれてしまう。

 

 ちなみに、カフェ・オレお兄ちゃんから伝えられた情報どおり、一般リスナーが視聴できるのは、普通のブイ会場で、要するにわたしがやってるのと同じだ。VR空間ではなく、視聴者はコメントを打ちこみ、2Dタイプのブイがしゃべるという形式。

 

 だから、そこまで緊張感はない。

 

 わたしはここでは一般モブ。

 サブ垢である『メスガキちゃん』を使ってアクセスをしている。

 コメントを打ちこまなければ空気以下の存在だ。

 

 とりあえず『わおーん』とでも打ちこんでおくか。

 恵子の豚になるのはなんかヤだしな。

 儚い狼の自己主張ですよ。

 

 すぐにわたしのコメントは他のコメントに流され埋没していく。

 でも、いくつか呼応するように『わおーん』という声があがった。

 頼もしいお兄ちゃんたち♡

 

 実は今、()()()()()()()プレミアム配信中だ。

 さすがに二窓をしながらだと、会話の流れについていけないからしょっちゅうは見れないけど、カフェ・オレお兄ちゃんと連携しながら進められるし、お兄ちゃんたちと協力しながらPPすれば、わたしが恵子のメンバーになりやすくなるかもしれない。そんなふうにお兄ちゃんたちから申し出があった。

 

 本当にお兄ちゃんたちは心配性だ♡

 

「ふふ……♡」

 

 さて、恵子のライブを視聴してやりますか。

 わたし達はてごわいぞ。

 

 

 

 ※

 

 

 

「ごきげんようお豚さんたち。今日もいらしてたのですわね」

 

『ぶひいいいい』

『ブヒっ』

『淫猫さまぁ』

『今日もお麗しい……』

『ああ罵倒してくだされ』

 

「みっともなく鳴くのはおやめくださいませ。ご近所迷惑ですわ」

 

『ぶひひ』

『淫猫様からでしか摂取できない養分キター』

『やっぱり鳴いちゃう。だってお豚さんだもん』

『女王様からの罵倒を受けてみな。飛ぶぞ』

『飛んでブヒーン』

 

 あっという間に場を掌握してしまった。

 恵子の――いや、ここでは淫猫と呼ぶか――淫猫のカリスマはかなりのものだ。

 ブイという限られた稼働、動きの中で優雅さと侵しがたい神聖な雰囲気をかもしだしている。

 

 さて、わたしはどうコメントするべきだろうか。

 

 そもそも、淫猫はどうしてメンバーを少数精鋭にしたかということだが、カフェ・オレお兄ちゃんによると、どうも庶民サンプルを求めたかららしい。自分は女王様だから、どうにも庶民の心がわからない。わからないから最愛の妹のこころもいまいちつかめないところがある。だから、一般人の考えを知るために、エリートな豚さんたちを集めたとか。なぜ一般リスナーじゃなくてエリートな豚さんに絞ったかというと、ある程度頭がよくて行動力があるお豚さんを集めたかったとか、信頼できるお豚さんとして、自分の強固なファンで固めたかったとか、そういう説明をされたようだ。

 

 優越感(スペリオリティコンプレックス)を利用した人心掌握術のひとつ。

 自分がエリートだと言われたカフェ・オレお兄ちゃんは、わりと心が傾くのを感じたらしい。

 踏んであげようかと言ったら、バブってたけどね。

 

 ともあれ――。

 

 なんとも生粋の女王様らしい発言だが、わたしが行うべきコメントはただひとつ。

 珍しい庶民サンプルとして価値のある発言を行うこと!

 

『淫猫ちゃん。すごく威厳があるね。同じ女の子として興味深い♡ ¥10000』

 

 つまり、()()()()()()

 想定するのはJCないしJKくらいの頭ゆるふわの女の子。

 なぜかわからないけど、お姉ちゃんを想像すると演技しやすいぞ。

 

 相手はショーガク星からやってきた女王様という設定である。

 当然、淫猫のリスナーは圧倒的に男性が多い。

 その中で、女子リスナーという属性は得難いサンプルのはずだ。

 

 もちろん、そこには一定の危険が伴う。

 わたしが女子小学生だから、属性が似すぎていて身バレする危険はある。

 だが――、虎穴に入らずんばというのは、前の配信で言われたとおり。

 猫のしっぽを踏む覚悟がなくては、この戦いを勝利に導けない。

 

 コメント流れ――流れ。

 

『赤スパ乙!』

『淫猫様だぞ。様づけしろメスガキが』

『メスガキちゃんってすげえ名前w』

『この配信にもついに女子がきたんだね』

『どうせおっさんだぞ』

『魔法少女服着るようなおっさんかもしれん』

『淫猫様をちゃんづけするとは不敬なやからめ』

『ぶひひ……』

 

 いくつかの反応。

 配信の中では、わたしという存在は不協和音なのだろう。

 不協和音は不穏へといたり、配信を乱す要素となりうる。

 それを淫猫が放っておくはずがない。

 淫猫がスキルのあるプレイヤーなのは、普段の恵子を見ていればわかる。

 これも――信頼。

 

「お豚さんたち。初見者さんにはお優しくしなさい。わたくしは様づけされなくてもべつにかまいませんのよ。勝手に様づけしだしたのはお豚さんたちのほうでしょう」

 

『ぶひ。すみませんでした』

『メスガキちゃんごめんな』

『淫猫様の前で不敬だと思いまして……』

『お許しください。淫猫様』

『どうか。わたくしめの頭をお踏みくだされ』

 

『わたし、ずっと前から見てたんだけどコメント初めてで勝手がわからなくて。ごめんなさい』

 

「そうなのですわね。いいんですのよ、気楽にかまえてくださって。それとスパチャありがとう存じます」

 

『ガチ初見者か』

『初見者ならしかたないな』

『わおーん。女子が仲間になってくれてうれしい……うれしい……』

『わおーん』

『なんか豚じゃなくて狼の遠吠えっぽいのが聞こえる』

『なんか今日、変じゃね?』

『女子が来たとたんにこれだよ』

『男は狼なのよ。気をつけなさい』

 

 場のコントロール。

 淫猫の力もあるが、お兄ちゃんたちもがんばってくれてるな。

 

「皆さま。女の子にかまいすぎるのは品がないですわ。もちろん、わたくしならかまいません。お豚さんごときによいように扱われるわたくしではございませんから。もしもわたくしと遊びたいお豚さんがいたら、じっくりといたぶってさしあげますわ」

 

『ぶひいいいい』

『淫猫様に遊んでもらいてぇえええ』

『でもメスガキ名乗ってるからって女子ではないのでは?¥100』

『まあそりゃそうね……』

『なんかコメント具合では本当に女の子って感じがした』

『オレのセンサーでは、女子だったよ!』

 

『いちおう本当にメスガキです』

 

 わたしはすかさずコメントを打ちこむ。

 単なるコメントにそこまでの力はないが、お兄ちゃんたちの絶妙なコメント誘導と、女子リスナーの物珍しさもあってか、わたしの存在感が増していく。

 

『だからってメスガキはねーだろw』

『メスガキ(30)とかだったら逆に興奮する』

『株を学びに来るメスガキとかいるんかなぁ』

『まあどうでもええわ』

『淫猫様の教育的指導を早く受けたいです!』

 

――パンパン。

 

 淫猫が手を打ち鳴らす。コメントの流れが一瞬止まった。

 

「はいはい。わたくしの貴重な女子リスナーさんをイジメないでくださる」

 

『サーセンした』

『すみません。淫猫様』

『ごめんなさい。赦して……赦して……』

『なんやこの統制されたムーブはw ¥5000』

『知らんのか雷電』

『アッカ』

『赤スパ投げたやつ、メスガキスキーてw』

 

「メスガキスキーさん。ありがとう存じますわ。わたくしには妹がおりまして、小さな女の子がイジメられてるのを見ると、どうにも許せませんの。ごめんあそばせ」

 

 淫猫が扇子で口元を覆う。

 普段よりもちょっとだけお嬢様度があがってるな。

 恵子も演じているんだろう。

 

『淫猫さんには妹がいるのかー。知らなかったなー。¥2000』

『淫猫様の妹様はここでは有名だぞ』

『ここは初めてか。力抜けよ』

『淫猫様ぁ。早く今日の教えを……』

 

「さて、お豚さんたちも待ちきれないようですし、今日の授業を始めましょうか」

 

『ぶひいい』

『淫猫様のエサだぁぁぁぁ』

『淫猫様盲信でOKよ』

『淫猫様信じて投資したら、オレ氏、資産三倍になったわ』

『つい最近メンバーに昇格したオレ氏じゃないか』

 

 話題をすぐに切り替えて淫猫は注目すべき銘柄について語り始めた。

 

 それにしてもナイス誘導だよ、メスガキスキーお兄ちゃん♡

 これで、淫猫の中にメスガキ=妹と同一視する視線が生まれた。

 もちろん、中身が本当にわたしだとは思っていないだろうが、庇護対象がダブって見えるというのは、今後に大きな影響を与えるだろう。

 

 そして、カフェ・オレのお兄ちゃんはあとで正座な。

 ん――。わたしのほうの配信を見てみると、カフェ・オレお兄ちゃんが釈明していた。

 

『これは策略なんよ。メスガキがうまく侵入するための布石なんだ』

 

「そういうことにしておいてあげる♡ でもうまくいかなかったら説教ね♡」

 

『ば……バブぅ……¥200』

 

『またイチャイチャする』

『カフェ・オレ氏が一目置かれてるのが草』

『こっちではバブってる赤ちゃんなのになw』

『それにしても淫猫の授業だが普通に勉強になるな』

『株式インデックス……なんぞそれ?』

『そりゃ十万何千冊の魔術書を記憶してる少女だろ?』

『だめだこいつら……ただのメスガキ好きに投信は難しすぎたんだ』

 

 淫猫の授業はオーソドックスな投資信託を扱うものだった。

 どちらかと言えば、長期向けの戦略に思えるけど、今日がたまたまそうだったんだろう。

 

「ですから――、わたくしは、これからの時代は新興国を重視すべきだと思いますわ」

 

 論理だてた説明は非常にわかりやすい。

 自前で作ったのか、それとも誰かに作らせたのを流用しているのかわからないが、国別のGDP伸び率を示し、今後二十年の推移を占う。そこからポートフォリオを形成するという流れ。

 

 言ってることは一見難しいけど、中身はパイがでかくなるところを狙ったほうが資産運用上、有利ですよというごく単純なことを言っている。初心者向けといってもいいレベルだ。

 わたしもパイは大きいところが好き♡ どことは言わないけれど♡

 

 では、ここらでちょっとつついてみるか。

 

『淫猫ちゃんは国内市場には目を向けてないの? ¥5000』

 

「あらメスガキちゃん。またスパチャありがとう。そうですわね。日本のGDPは現在のところ世界5位。まだまだポテンシャルはありますけれど、問題になりますのは、今後二十年間のGDP成長率ですのよ」

 

『メスガキは何も知らないトーシロだなw』

『所詮はメスガキよ。わからせられるのが定め』

『淫猫様の声色がいつもより優しい……優しい……』

『女の子だとしたら優しくしなくちゃな』

『メスガキがワトソンポジで、オレらを高めてくれてる可能性がワンチャン』

 

 淫猫が海外市場に目を向けろと言っているから、豚さん達もどうやらわたしの意見に否定的。

 実を言えば、わたしも主戦場は海外市場だったりするので、淫猫と同意見だ。

 だが、わたしが揺さぶりたいのはそこじゃない。

 

『個別の銘柄に着目すれば、日本でも成長がみこめる企業はありそうじゃない? 例えば――』

 

 わたしが述べたのは鳳寿院傘下の子会社。

 

 いま売れ時のAIちゃんを作っている企業で、今後はロボットテクノロジーと結びついて、最終的には小学生くらいのメスガキAI搭載型ロボットを生み出すだろうと予想されている。

 

 しかし、成長が期待されているということが言いたいんじゃない。

 

 わたしは仮面の奥に潜む、淫猫の素顔を探る。

 反応が早い淫猫がわずかに――遅延した。

 

 その理由はおそらく……。

 

 自分の所有している企業にまつわる話をしようとすると、インサイダー取引にあたる可能性が出てくるからだ。もっとも、こういう場での発言がどこまで適用されるかはわからない。会社にとっての重要な秘密をバラさない限りはたぶん大丈夫だろうと思う。

 

 けれどコンプライアンス上のリスクを感じて、淫猫は困惑したんだ。

 

『メスガキは株と投信の違いもよくわかってないらしい』

『メスガキって何歳くらいかな? 小学生だったりしたらビビるがw』

『小学生がぽんぽん赤スパ投げれるわけねーだろ ¥100』

『そりゃそうか……』

 

「失礼、少し考えてしまいましたわ。そうですわね。日本にも目を見張る成長をする企業はございますわ。メスガキちゃんがあげた企業もそうなる可能性が高いと言えますわね。今回の授業は長期投信がメインですので、対象となるのはファンド――要するにお金の集まりでしてよ。メスガキちゃんのお話とは少しズレが生じますから、次回の宿題とさせてくださいませ」

 

『そうなんだ。すごく勉強になったよ。ありがとう淫猫お姉ちゃん♡ ¥5000』

 

「お、おね……」

 

 淫猫は扇子で顔全体を隠してしまった。

 

『おいおいおねロリかよ』

『まさかまさかでございますな』

『ショーガク星の淫猫様を姉呼びするとは……』

『このメスガキ、ただもんじゃねえぞ。淫猫様のクリティカルポイントを的確に……』

『淫猫様も言うて小学生なわけねーだろうから、マジで姉妹みたいな年齢差もありうるのか?』

『でも、メスガキがメスブタになるとちょっと意味変わるなw ¥3000』

『なんてこと言うんだよ。おまえw』

 

「わからせマンさん。ありがとう存じます。メスガキちゃんをメスブタとはあまり呼びたくありませんわね。それに、わたくし、姉妹関係に年齢なんてものはあまり重要じゃないと思いますの」

 

 再起動した淫猫が突然、わけのわからないことを言いだした。

 しかし、これはわりと普段からおこなわれる発言らしく、お豚さんたちは落ち着いたものだ。

 

『淫猫様は姉妹という概念そのものを愛してらっしゃる』

『お姉ちゃんのほうが依存してる系の姉妹関係好き』

『オレ氏も好き。¥200』

『生活全般を妹にお世話されてる系お姉ちゃんのことが大好き』

『生活能力は年齢とは関係ないからなぁ。¥100』

 

「そうですのよ。わたくしにもお姉様がいますが、成人してるのに家事はまったくできませんの」

 

『出た。レアキャラのお姉様』

『お姉様は小学生の妹君たちのお世話になっているんだよな。知ってる』

『淫猫様がガチで小学生だったりしたら、その姉、だらし姉ぇ……』

『何言ってるんだ。淫猫様はショーガク星からやってきた年齢不詳の女王様だぞ』

『そういやそうだった』

『じゃあ、淫猫様の家の家事は誰がやってるんですか。¥5000』

 

『さすがにメスガキ関連の名前が出すぎだからオレはやめとく』

 

 とMSGK泣かし隊兄貴の代打で出てくれたのが、

 

「盤面整理兄貴さん、ありがとう存じます。家事はわたくしの妹と分担してやってるんですのよ」

 

 そう語る淫猫は本当に嬉しそうだった。

 わたしも嬉しくは――あった。家族が増えて。姉と呼べる人が増えて。

 

 淫猫がまだ家族愛を求めている線は消えていない。

 カフェ・オレお兄ちゃんの言葉はあくまで伝聞で、証拠と言えるようなものはない。

 お兄ちゃんのことは信頼しているから、たぶん正しいだろうなとは思うけど。

 ふと、恵子を騙していることに罪悪感が頭をもたげた。

 

『どうしたメスガキ。コメントが止まっているぞ』

『配信が終わる前にあと3万円ぶちこまないと』

『いまならかなりの好感度で面接を迎えられるんじゃないかしら?』

『メスガキ。止まるんじゃねえぞ』

『お姉ちゃんをゲットするんだろ! メスガキ! ¥2000』

 

 そうだった。

 わたしはこんなところで立ち止まっていられないんだ。

 

「行くよ。お兄ちゃんたち♡」

 

 コメントを打ちこむ。エンターキーを押せ!

 

『わたしにもお姉ちゃんがいるの。淫猫ちゃんもわたしのお姉ちゃんになってほしい♡ それでお金のこととかいろいろ教えてほしいな♡ ¥30000』

 

『でっか』

『ナイスパチャ』

『メスガキと淫猫様との間に奇妙な縁がある気がする』

『淫猫様は支配者であらせられる。妹気質を持つものを自然と集めてしまわれるのだろうか』

『しかし、30のおっさんがお姉ちゃんとか言ってる姿想像したら……』

『メスガキはメンバーになりたいんかな?』

『初コメで、5万円投げつけてメンバーになりたいとか、狙いすぎじゃねえの?』

『ファンでもなけりゃ5万円は投げられんだろ』

『うーん……?』

 

「お姉ちゃんですか。それは困りましたわね。わたくしには既に妹がいますし……ですが、メスガキちゃんの想いは受け取りましたわよ。わたくしのメンバーになるには、誰かしらの推薦が必要ですが、今回は特例で推薦なしで仮メンバーにいたしましょう」

 

『やった♡』

 

『あれ、オレ氏いらんくね?』

 

 カフェ・オレお兄ちゃんがわたしの配信で黄昏ている。

 

『悲報。カフェオレの存在意義なくなるw』

『乙彼。おまえの役目はここまでだ』

『カフェ・オレなんて最初から要らんかったんやw』

『かわいそかわいそなのですぅ』

『ば……バブぅ。¥100』

 

 表では、淫猫が話を続けていた。

 

「ですが――、あくまで仮のメンバー。わたくしの面接を突破できなければ、元のお豚さんに戻っていただきます。よろしいですわね?」

 

『もちろん♡ わたしは勝つよ♡』

 

 かくして、わたしは一次試験を突破したのだった。




カフェ・オレ氏……いいやつだったよ。
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