【悲報】私氏、小学生妹ちゃんのヒモになりそう   作:おねロリのおね

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決戦前夜

 リアルでわたしがブイチューバーをやってることがバレたわけだが、驚くほどに私生活は静かだった。恵子はお姉ちゃんにわたしがブイチューバーをやってることを告げることもなく、それどころか、コラボ配信が決まったことすらも言わないままでいたからだ。

 

 王者の余裕ってやつか?

 

 この不安定さにはモヤモヤした気持ちが残るものの、もしもお姉ちゃんがコラボに参加とかいうことになれば、わたしは必死に防御するだろうから、お互いに何も得ることはない薄っぺらなコミュニケーションになるだろう。

 

 それはお互いに本意ではないってわけだな。

 

――とか思っていたら、部屋のベルが鳴った。

 

 部屋の前のモニターには恵子の姿が映っている。

 わたしの理論だと、恵子がわたしを物理的に襲うことはないから怖くはない。

 さていったいどんな話なのか。

 

「異空ちゃん。開けてくださいませ」

 

「どうしたの? 恵子お姉ちゃん」

 

「いくつか打ち合わせがしたくて。お姉様の前では不都合でしょう?」

 

「まあ、そうだね」

 

 そのまま恵子を迎え入れる。

 恵子はあちらこちらに視線をまわし、そわそわと嬉しそうだった。

 部屋の中央付近にあるソファに座るように促し、わたしもねこぐるみを抱っこしながら座る。

 ふう。柔らかくて落ち着く。

 

「あら、わたくしのあげた猫さんを大事にしてくださっているのですね。うれしいです」

 

「柔らかくて気に入ってるから」

 

 じーっとわたしを観察するような視線。

 なんだか、気まずいな。

 

「お茶でもだしたほうがいい?」

 

「いいえ、不要です。まず――、異空ちゃんには謝っておきたいことがあります。いままで異空ちゃんの私生活を覗き見るようなことをして申し訳ございませんでした」

 

 綺麗な所作で頭を下げる恵子。

 

「趣味は人それぞれだし、べつにいいよ」

 

 わたしもお姉ちゃんも同じようなことをしてきたからな。

 まあ、恵子の場合は、妹アニメ作るためっていうのが大きな理由だろうけど。

 

「これからは一切盗撮の類はいたしません。鳳寿院の名に賭けて誓いますわ」

 

「お豚さんたちはいいの?」

 

 元になる動画がなければ、説明しにくくなると思うけど。

 

「かまいませんわ。お豚さんたちはわたくしにとっては感覚器のようなもの。あくまでブレインはわたくしなのですから。それにもはや誰かに説明しなければならないこともないでしょう」

 

「ふぅん」

 

 やはり、お兄ちゃんたちとの関係よりも、ずっと薄いな。

 仲間を求めるわたしと、部下を求める恵子との違いか。

 

「それで話ってなに?」

 

「これを異空ちゃんに渡したくて」

 

 恵子が見せたのは、恵子の部屋の合鍵だった。

 黒い色をした少し大きめの鍵で、先端の逆にはハートマークがついている。

 これでいつでも襲ってこいとそう言ってるつもりだろうか。

 

――猫の挑戦状?

 

 狼が猫を襲えば、猫にとっては勝利も同然だからな。

 受け取らないという選択肢も当然あった。

 けれど、結局のところ、わたしは少し迷ってから合鍵を受け取った。

 恵子がほっとしているように見える。

 わたしも家族としての絆を捨てるのは本意ではない。

 

「受け取ってくださらないかと思っていましたわ」

 

「恵子お姉ちゃんも家族だと思っているから」

 

「そうですか……」

 

 ひと呼吸。

 遅延。

 その遅延こそが知性のきらめき。

 

「異空ちゃん、わたくしは異空ちゃんのことが好きです」

 

 流星のように言葉がわたしに降りそそぐ。

 

「うん、知ってる」

 

「それは家族以上の意味です。大好きですよ異空ちゃん」

 

 恵子の口から直接COが聞けた。ちょっとだけ顔が熱くなってくる。

 どちらかと言えば、素直クール系の恵子である。

 氷の女王から熱い言葉を聞くと、その熱が伝わってくるみたいだ。

 

――それはまぎれもない本音だった。

 

 わたしもお姉ちゃんのことが好きって言いたいけれど言えない。

 そういう状況だというのもあるけれど。性分というのもあるだろう。

 恵子が明け透けに本音を語れることが少し羨ましかった。

 

「わたしにお姉ちゃんって呼ばれたいだけじゃないんだね」

 

「そうですわね。具体的には恋人のように、毎日毎朝毎晩、異空ちゃんにキスしてもらえたら嬉しいと思っていますわ。異空ちゃんがうなずいてくれるなら、わたくしは一生結婚しません。異空ちゃんに鳳寿院家のすべてをあげてもよいと思っていますわ」

 

「ありがとうね。でも――」

 

 ぬいぐるみみたいな扱いになりそうだな。

 べつに撫でられるのはいいよって言ってるけどさ。

 

「鳳寿院家の力は要らないかなぁ」

 

「異空ちゃんならそう言うと思っていましたわ」

 

 だから、お姉ちゃんをエサにわたしを釣り上げようとしたんだろうしな。

 お姉ちゃんが鳳寿院家のヒモになってしまったら、そのルートもありえた。

 

「お姉ちゃんも同じだと思うよ」

 

「でしょうね」

 

「お姉ちゃんを鳳寿院家のヒモにしない――むぐ」

 

 わたしの唇に恵子の指先が押しつけられた。

 それ、不法接触ですよ。猫のくせに。

 抗議の目を向けると、恵子は薄く微笑みながらそっと指先を離す。

 

「その点については、コラボ配信のときに話しましょう?」

 

「いいよ」

 

 どうせ、わたしのなかの結論は変わらないからな。

 配信という場で、わたしの動揺を誘っているんだろうが、そうはいかない。

 

「ねえ。異空ちゃん。あなたのメンバーに登録してもよいでしょうか?」

 

「それはダメ」

 

「そう……。でしたらコラボは()()()します? あなたが親しんでいらっしゃるお兄様方をお呼びしたほうがよいかしら?」

 

「恵子お姉ちゃんのメンバー配信にお兄ちゃんたちを呼ぶことはできないの?」

 

「ふふ♡ まるで専属的合意管轄の問題のようですわね。それでもよいとは思うのですが、わたくしとしては二人で新しいアカウントを立ち上げるというのはどうかとご提案いたしますわ」

 

 ふたり一組のブイチューバーか。

 コラボというよりは、むしろユニットだな。

 まあそれでもいい。

 

「それでいいよ。でも、スパチャとかは受けられなくなるね」

 

 スパチャが認められるには開設時間と再生数が必要になるからな。

 すべての発言がフラットになる。

 かなりのスピードで流れていくコメントをすべて見切ることはできないし、長い発言もカットされるから、わたしにとっては不利だ。

 でも、そこらへんが落としどころか。

 

 それからいくつかのリアル方面での打ち合わせをおこなった。

 コラボ配信は、わたしたちのメンバーに対して、それぞれチケットを配ることになる。

 

「それでは、異空ちゃん。コラボ楽しみにしてますわね」

 

「うん。わたしも楽しみにしてるよ」

 

「それから、わたくしのお部屋はいつでも開けてくださってもかまいません。異空ちゃんに対しては、わたくし、いつも扉の鍵は開けておきますわ」

 

「遠慮しとくね」

 

 壁紙一面にわたしの写真とか張られてたら怖いからな。

 いくらなんでもそこまではないと思うが、なんとなくありそうで怖い。

 

「ふふ。襲ったりはしませんよ。妹としてかわいがるだけですから」

 

 恵子は楽しそうに笑う。

 実際に楽しいのだろう。

 もはや隠すべき事項もなければ、自分の想いに恥ずべきところもないと考えているのだから。

 ただひたすらに、自分の気持ちに素直になれる。

 それが猫の自由さ。恵子の強さだった。

 

 

 

 ※

 

 

 

 最近、お姉ちゃんに逢ってない気がする。

 いや、実際には毎日顔を合わせてるんだけど、恵子のことにかかりきりだったからな。

 あくまで精神的な意味あいだ。

 決戦の前にお姉ちゃん成分を補充しとこう。兵站はやはり重要だよね。

 

「お姉ちゃぁん♡」

 

 部屋のベルを鳴らして、お姉ちゃんに呼びかける。

 

「どうしたの。こんな夜遅くに」

 

 ふわあと、大きなあくびひとつ。

 お姉ちゃんは妹たちの水面下での戦いに気づいていない。

 この戦いの推移によっては、お姉ちゃんがヒモ化するかどうか決まると思うが――。

 いまはちょうど凪のように状況は落ち着いている。

 だから、お姉ちゃんは精神的にちょっと油断しているようだった。

 わたしが着せたベビードールを着ていて、肩紐がずれていたりするクソエロい恰好。

 見ているだけで、目がさえてくるから不思議だ。

 どうしよう夜なのに♡

 

「今日はお姉ちゃんといっしょに寝たいな♡」

 

「え、いっしょに?」

 

「うん♡ だめかな?」

 

「ダメじゃないよ。おいで」

 

 お姉ちゃんのおっぱいに抱き着いていく。

 やっぱり、ねこぐるみよりずっとずっと柔らかい。

 この感触は甘くとろけてクセになるぅ♡

 

「どうしたの。今日はあまえんぼさんだね」

 

 ベッドに並んで腰かけて、お姉ちゃんは聞いた。

 

「怖い夢を見たの」

 

「怖い夢……あ、言わなくていい。言わなくていいからね」

 

 怖いのが苦手なお姉ちゃんである。

 

「お姉ちゃんがいなくなっちゃう夢だよ」

 

「あ、そうなんだ。よかった。怖い系統が違ってて……」

 

「お姉ちゃん、いなくならないでね」

 

「いなくならないよ。ずっと、いっしょだよ」

 

「むうううん♡」

 

 わたしは、お姉ちゃんに頭をすりつける。

 お姉ちゃん♡ お姉ちゃん♡ お姉ちゃん♡ お姉ちゃん♡ お姉ちゃん♡

 やっぱり、お姉ちゃんが好き。

 お姉ちゃんをヒモにしたい。

 

――いっしょに布団の中で眠りにつく。

 

 お姉ちゃんの顔がすぐ近くにあってわたしは安心する。

 怖い想像も悪い考えも全部吹き飛ばしてくれる。

 

 ふと思ったのは、スレッドの中に狐がいなかったこと。

 仮の存在だから、FOX3とでも名づけようか。

 実を言うと、わたしがFOX3として、妹と妹Ⅱがコラボしていることをお姉ちゃんに通達するという戦略も考えないではなかった。

 お姉ちゃんはこう見えて、案外行動力のあるところもある。

 わたしと恵子のコラボ配信の存在を知れば、もしかするとコラボ配信に参加してくれるかもしれない。

 

 しかし、そうなると不利になるのは十中八九わたしだ。

 わたしはお姉ちゃんをヒモにしたい悪い狼で、恵子は社会常識的には正しいことをしている。

 

 お姉ちゃんにとってもそうだ。

 お姉ちゃんは何度もヒモになりたくないって言ってて、わたしがしようとしていることはお姉ちゃんを傷つける。お姉ちゃんは天使だから、そんなわたしを赦してくれているけれど、いつまでもそんな関係が続くとは限らない。

 

――大人になれば。

 

 大人になったところで、わたしの想いが成就するんだろうか。

 

「最近……」お姉ちゃんが小さくささやいた。「なにかあったの?」

 

「え、どうして?」

 

「異空ちゃんも恵子ちゃんもあんまり私をヒモにするって言わなくなったから」

 

「ごめんねお姉ちゃん。わたし恵子お姉ちゃんにお姉ちゃんがとられると思って」

 

「いいんだよ。お姉ちゃんは異空ちゃんが傷つかなければそれでいいんだぁ」

 

 わたしはたまらなくなって、お姉ちゃんの胸元でもぞもぞした。

 

「んんっ。くすぐったいかも」

 

 かぷっ。あむあむ。

 わたしはお姉ちゃんを甘噛みした。

 

「恵子お姉ちゃんは、たぶんお姉ちゃんをヒモにする気はないよ」

 

「え、それってどういう?」

 

――だから、お姉ちゃんが恵子を選べば。

 

 お姉ちゃんは勝てる。

 自分で不利になることを言う雑魚狼な自分にビックリだ。

 でも、わたしはスッキリとした気分だった。

 お姉ちゃんに嘘をつきたくない。

 

「おやすみなさい」

 

 わたしは夢の世界に逃げこんだ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 ×月××日

 

 

 

 やはり、異空ちゃんはブイチューバーをしていましたわ。

 

 メンバー配信ではなにやらアヤシイことをしているみたいですけれども、わたくしがこっそりメンバーになって覗き見るというような野暮なことはいたしません。おそらくお姉様に愛を寿(ことほ)いでるような内容なのでしょう。まるで狼の遠吠えのようです。けっしてお姉様には届かない。

 

 異空ちゃんはお姉様のことが好きなのでしょうね。

 

 その好きという意味もわたくしと同じ意味。

 

 そうでなければ、わざわざわたくしのメンバーになろうという意味がわかりません。

 

 異空ちゃんはわたくしのことを、家族として姉としては想ってくれているようですが、最初からずっとお姉様第一主義者でしたから。人は第一印象が九割と呼ばれるように、初日の行動こそがその人のひととなりを現わしていると思います。

 

 でしたら、さっさと最後通告を引き渡してしまえばよいと思われるかもしれません。

 

 わたくしが、異空ちゃんに選択を迫れば、異空ちゃんに逃げる術はありません。

 

 しかし、それはわたくしを選ぶというよりは、選ばざるを得ない状況を創り出してしまうとも言えます。それはあまりに無粋というもの。

 

 わたくしが欲しいのは、異空ちゃんの自由なこころであり、異空ちゃんそのものです。

 

 狼と猫。

 

 人外同士の戯れ。

 

 実に楽しい。この瞬間を味わいつくしたい。

 

 そして、異空ちゃんを絶望の淵に叩き落とし、その泣きはらした瞳を鑑賞しつくしたい。

 

 想像をするだけで、背中にゾクゾクとした享楽が駆け抜けます。

 

 度し難いほどに――さでずむ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 と、そこまで書いた時。

 部屋のベルが鳴りました。こんな深夜の時間に一体だれが……。

 まさか、異空ちゃんでしょうか。

 チラリと考えたものの、冷静な頭は94パーセントの確率で異なる結果を導き出します。

 勝手に計算してしまう、この頭が恨めしい。

 果たして、わたくしの想像どおり、そこに立っていたのはお姉様でした。

 

「どうしたのですかお姉様。こんな夜更けに?」

 

「あのね。異空ちゃんが私の部屋で寝たいって言ってきて、いいよって私も伝えて……。それで、異空ちゃんが言ってたんだけど、恵子ちゃんはお姉ちゃんのことをヒモにはしないって」

 

 要領を得ない言葉を聞いていると、だいたいの事情は察せられました。

 どうやら、狼さんが自らの弱点をさらけだしているようです。

 

 おやおや……これはどうしたことでしょうか。

 お姉様をヒモにしたい異空ちゃんと、そうしたくないわたくしとでは、お姉様視点、どちらのほうが有利かおわかりにならないはずもないでしょうに。異空ちゃんは自ら弱点をさらけだしたことになります。

 

 しかし――、その矛盾こそが美しい。

 

「お姉様のお考えは正しいですよ」

 

「じゃあ、恵子ちゃんは()()なんだね」

 

「ふふ♡ 小学生に危険を感じるなんて、おかしな話ですよ」

 

「そうだけど……」

 

 お姉様は、異空ちゃんのことを脅威に思っているのでしょうか。

 いえ、おそらくお姉様の中にも相反する想いというものがあるのでしょう。

 異空ちゃんの想いに半ば気づきつつも、それを受け入れたいという気持ちと、そうしてはいけないという気持ちの両方をお持ちなのではないでしょうか。

 

 異空ちゃんの長年の努力が実を結ぼうとしているともいえるのかもしれませんですわね。

 

 お姉様も理解(わか)らせる必要があります。

 

「お姉様は、異空ちゃんがブイチューバーをやってることはご存じですよね?」

 

 いくつかのアーカイブにお姉様も出演していましたわ。天使の恰好をしていて、メスガキ・イソラちゃんがASMRするという内容でした。あれしてほしいと心底思ったものです。

 

「あ、うん」

 

「わたくしも、同じくブイチューバーをしております」

 

「へえ、そうなんだ。うちの小学生たちがすごい……」

 

「それで、わたくし異空ちゃんとコラボ配信することになりましたの」

 

「コラボ? 仲良しさんなんだね。いいなぁ」

 

「お姉様に選択権を与えます」

 

 わたくしは申し上げました。

 

 お姉様のアカウントにDMでコラボ参加のチケットを送っていいか。

 

 これは異空ちゃんにとっても迷いを晴らすチャンスになるでしょう。

 

 もちろん、モラトリアムを続けたいというのなら、それでもかまいません。

 

 異空ちゃんは今、夢の中でまどろんでいるのでしょうから。

 

 そうしたいのなら、いつまでもお付き合いいたします。

 

 

 

 

 お姉様の選択は――。

 

 

 

 

 

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