【悲報】私氏、小学生妹ちゃんのヒモになりそう   作:おねロリのおね

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わからせられたのはどちらか

「イソラちゃん? ここ、いつもの配信とは違うね。た、高い……」

 

 配信にお姉ちゃんが乱入した。

 その可能性はほとんどないと思っていた。

 お姉ちゃんはわたしのメンバーじゃない。

 そして、恵子のメンバーでもない。

 この配信はプレミアム中のプレミアムで、メンバーにアクセス権を配っている。

 アクセス権というのは、セキュリティトークンのようなもの。わかりやすく言えば鍵だ。

 鍵を持ってさえいれば、メンバーでなくても参加はできる。

 わたしがお姉ちゃんに鍵を渡していない以上、渡したのは恵子ということになる。

 

 でも――、なぜという疑問が消えない。

 

 恵子の思想からすると、お姉ちゃんを参加させることはないと思っていた。

 だって、わたしにお姉ちゃんのことが好きだと自白させたいんだったら、お姉ちゃんがいたら不都合だから。でも、さでずむからすると、こんな盤面を破壊するようなこともやってしまえるのかもしれない。

 

「お姉様、時間通りいらしたのですわね。ここはわたくしとイソラちゃんの決戦の場です」

 

「決戦?」

 

「そう、わたくしとイソラちゃんのどちらが正しいかを決める場所。いえ、わたくしがイソラちゃんをわからせる場と言ったほうが正しいでしょうか」

 

「喧嘩しちゃだめだよ」

 

「喧嘩ではありませんよ。ただ家族の在り方を決めていくだけのことです」

 

 お姉ちゃんはどうにも私たちの話を理解していないようだ。

 わたしと恵子がコラボ配信をするくらいしか聞いていない?

 恵子が誘ったのは事実だろうが、どういう説明をしたんだろうか。

 

「お姉ちゃん。どうしてコラボに参加しようと思ったの?」

 

 わたしは聞いてみた。

 

「え、だって……、イソラちゃんのことが心配で」

 

「わたしのことが心配?」

 

「夜いっしょに寝ようって言ってきたでしょ。そのとき……えこ……淫猫ちゃんは私をヒモにしないって言ってたのが変だなって思ったから。淫猫ちゃんに聞いてみたの」

 

「そんな、理由で……」

 

 お姉ちゃんがコラボに参加したのは、()()()()()()だった。

 お姉ちゃんはコミュ障だけど、わたしが傷つくのがイヤなんだ。

 思い起こせば、スレ立ての動機も、ヒモになりそうってだけじゃなくて、わたしが何か危ないことをしてないのかが心配だったからだった。

 お姉ちゃんに想われてるのは嬉しい。

 でも、わたしはお姉ちゃんの気持ちを理解していなかった。

 そのことが苦しい。胸のあたりが押しつぶされそう。

 

「お姉ちゃん、ごめんなさい」

 

「え、なんでイソラちゃんが謝るの?」

 

「お姉様を蚊帳の外に置いたことを謝罪しているのですのよ」と淫猫は言う。「このコラボでは、お姉様をヒモにすべきか否かを議題に置いてました。それなのに、お姉様を呼ばないのは不誠実でしょう」

 

「う、ヒモについての話し合いをするの? こんな大勢の前で?」

 

「ええ、お姉様には判定役をやっていただきたいと思います。イソラちゃんはお姉様をヒモにしたい。わたくしはヒモにするのはまちがっているという立場です。お姉様はどちらが正しいとお思いでしょうか」

 

「え、えと、それは……」

 

 お姉ちゃんは突然のことに面食らっている。

 

「やめてよ。お姉ちゃんは関係ないでしょ!」

 

「関係あるではありませんか」

 

「違う! お姉ちゃんがヒモになるかどうかじゃなくて、わたしの気持ちが主題のはず」

 

 それくらいは淫猫もわかっているはずだ。

 

「主題? 主題とはなんですか? あなたの気持ちとはなんですか?」

 

「それは……わかってるくせに」

 

「でしたら、わたくしを選びなさいと、そう申し上げているのですよ」

 

「ヤダ!」

 

「あらあら……。では、もう少し戯れましょうか」

 

「いったいどういう状況なのぉ。小学生のネットリテラシー怖すぎるよぉ」

 

 お姉ちゃんが頭を抱えてしまった。

 

「お姉様にもわかりやすいように説明しましょう」

 

 淫猫は両の手をあわせて優美にほほ笑む。

 

 ゾクリ。

 嫌な予感は最高潮に達した。

 

「やめて!」

 

「イソラちゃんがお姉様をヒモにしたいのは幼い恋心がゆえです。ヒモにして依存心を高め、最終的にはお姉様をモノにしようと考えている狼の思考ですわ」

 

「こい……ごころ?」

 

 お姉ちゃんは怪訝な表情をしていた。

 

 思考が真っ白になる。

 恵子はわたしに選ばれたいがゆえに、お姉ちゃんを人質にしているものだと思っていた。

 その恵子がどうしてバラす。自分で人質を殺すようなものじゃないか。

 

『メスガキ止まるな。手を動かせ!』

 

 お兄ちゃんの言葉にハッとして、わたしは顔をあげた。

 

「家族愛だよ。さっきも言ったよね」

 

「家族愛自体は否定していませんよ。愛はすべてを包摂するものですからね。ですが、本当に家族愛だけでしたら、お姉様がいずれ自立することも認めるべきです。イソラちゃんほど頭がよければおわかりですよね?」

 

「わたし、まだ小学生だから……」

 

 わたしは視線を落とす。

 わたしが子どもだからというのは、最強の攻勢防御ではある。

 だが、そうするといずれはお姉ちゃんをヒモにするのをあきらめなければならない。

 大人になれば、という理由が崩壊する。

 

 お兄ちゃんたちのコメントが目に入る。

 

『小学生CO! って最初からバレてたか』

『いやまあ、淫猫の言うこともわかるんだが、えげつないわ』

『ヒモ姉のヒモ脱却自体は推奨されるべきではある』

『結局、メスガキが子どもだから、メスガキ保護しようって気持ち強いわ』

『でも、淫猫も小学生なんだよなぁ』

 

 そう、恵子も小学生だ。

 同じ小学生から、お姉ちゃんをヒモにするのをあきらめろと言われるのは、大人からそう指摘されるのとはわけが違う。

 

「あ、あの」と、お姉ちゃん。「イソラちゃんが私をヒモにしたいなら、私はそれでもいいよ」

 

「そうやってお姉様が甘やかすから、イソラちゃんがいつまでたっても大人になれないのです」

 

「え、でも、イソラちゃんはまだ小学生だよ。ゆっくり大人になっていけばいいと思うんだけど」

 

「わたくしも小学生です。小学生だからという甘えはよくないと思いますが」

 

「甘えてくれると私は嬉しいけどなぁ。ダメなお姉ちゃんだけどね」

 

「今の発言でわかりました。お姉様も半ばヒモになることを受け入れているのですわね」

 

「ち、違うよ! ちゃんと自立する努力はするつもり」

 

「なら、イソラちゃんを説得したらどうです? 自分をヒモにしないでほしい。自立するよう努力するから、助けてほしいとでも言えばいいじゃないですか」

 

「ううーん。でも、それはイソラちゃんを傷つけちゃうんだよね?」

 

 お姉ちゃんの視線がわたしに向いた。

 

「うん……、お姉ちゃんをお世話したいのは、わたしのワガママだよ。さっき言ったごめんなさいは、その意味も含んでる。でも、お姉ちゃんとは血のつながりがないから。代わりの絆がほしかったの」

 

「うん、わかっているよ。イソラちゃんはずっとずっと私の妹だよ」

 

「そうではありません」淫猫の横やり。「ワインに泥水を一滴混ぜるようなものなのですよ。家族愛を隠れ蓑に恋心を隠す。それがイソラちゃんの考えた戦略なのです。家族愛があるのは真でしょう。家族を失った幼子が唯一の家族にすがるのもあり得る話です。しかし、どちらが主成分か。お姉様、きちんとお考えください」

 

「えーっと、さっきから言ってるのってゲームか何かなのかな」

 

「ゲーム?」

 

「人狼ゲームとかそういうの……」

 

「人狼ゲームですか。確かにイソラちゃんがお姉様を狙う狼だとすれば、おもしろいことに付合していますわね。さながらお兄様たちは狂信者。そして、わたくしは……ふふ、猫ですか」

 

 あれ、これって……。

 恵子はヒモ姉スレッドを知らない?

 そうか、さすがにノーヒントからスレッドの存在を知るのは、天才児でもできなかったんだ。

 

――そして。

 

 お姉ちゃんがかつて一戦目を経験しているということも知らない!

 

『わおーん』

『わおーん』

『わおーんです』

『メスガキがんばれ』

 

 向こうにバレないようにDMを送ってくるお兄ちゃんもいる。

 

 淫猫が知らない情報がどう作用するか――。

 いやどう作用させるかが、わたしの盤面操作だ。

 

 

 

 ※

 

 

 

「さて、議論を続けましょう。お姉様はヒモになりたくないがイソラちゃんのためにヒモになってもいいと考えている。ここまでは合ってますわね?」

 

「う、うん。そうだけど」

 

「ですが、イソラちゃんはあなたに恋心を抱いている」

 

「違うと言ってるじゃない」と、わたしは言った。

 

「では、ここでわたくしも人狼ゲームにちなんでCOしましょう」

 

 下々を睥睨する淫猫。

 その視線は氷のように冷たい。

 淫猫は言った。

 

「猫又CO」

 

「え、猫ちゃん? ネコミミついてるけど、そういうこと?」

 

 お姉ちゃんが頓珍漢なことを言っている。

 でも、淫猫は不敵な表情を崩さない。

 

「違いますよ。お姉様は人狼ゲームのことをあまりよくお知りじゃないんですのね。猫という役職は狼に噛まれることで、狼を道連れにする村陣営のことです。わたくしは、イソラちゃんのことを家族以上に想っているのですわ」

 

「え、え、え?」

 

「イソラちゃんのことを愛しているのです。残念ながらイソラちゃんは家族以上には想ってくれていないようですが、それもまもなく変わるでしょう」

 

 どういう原理でだよ。

 

「淫猫ちゃんが、イソラちゃんのことを好き?」

 

「そうです。毎日髪を梳いてあげたい。キスしたい。抱きしめたい。ずっとずっと一緒にいたい。添い遂げたいと思っているのです」

 

 淫猫の言葉を止めることはできない。

 わたしがどんな言葉を投げかけたとしても、淫猫が言ってしまえばそれで終わり。

 もし止めることができるとすれば、恵子を選ぶという言葉だけ。

 そんなのはごめんだ。

 

 恵子は悠々と続ける。

 

「わかりませんか。お姉様。ここに()()()()()()()()()()()()()()()()という事例があるのです。でしたら、イソラちゃんがそうでないという保証はどこにもないでしょう。答えは簡単です。イソラちゃんもまたそうなのですよ。お姉様を愛していらっしゃるのです」

 

「淫猫ちゃんがそうだからって、わたしもそうだとは限らないでしょ。自分が特殊だからって、それを一般化しないでよ」

 

「弱い反論ですわね。でしたら、最初の問いに戻りますが、お姉様をヒモにするのをあきらめるのですか? 違うでしょう。あなたはそうしない。絶対にお姉様を噛むことをあきらめない」

 

「妹たちが何言ってるのかぜんぜんわからないよぉ」とお姉ちゃん。

 

 すでに精神的にボロボロだ。

 お姉ちゃんがアルコールにのまれないか心配だ。

 

『ヒモ姉カワイソス』

『胃痛役か。まあ残当』

『姉妹百合を愉しんでたのにどうしてこうなった!?』

『マジそれなw』

『しかし、盤面から言えば相当不利だな』

『オレ氏たちにできることはあるのか』

 

 十分助けてもらってるよ。

 

「お姉様に今一度問いかけますが、お姉様はヒモにはなりたくないのでしょう? いえ、このような遁辞は少々飽きました。ハッキリと言います。お姉様はイソラちゃんを妹以上に見れますか?」

 

「それはどうだろう……」

 

 むぐぐ。

 知ってたさ。今の時点のお姉ちゃんの気持ちは変わらない。

 

「そのような優柔不断なことだから、小学生妹のヒモになっているんですよ。大人ならば淡い恋心など切って捨ててしまいなさい。でなければ、お姉様はイソラちゃんを押し倒して責任をとりなさい。いまこの時点において、二つに一つですわよ」

 

『ヒモ姉が犯罪者になっちゃう!』

『いやその選択がありうるのならメスガキ勝利だが』

『淫猫は何がしたいんだ?』

『盤面整理をするスペースがないのが困りものだな』

『あえて言えば、メスガキが姉に迷惑かけたくなければ自分を選べって言ってるんじゃないか』

『ここまでされたら普通嫌うだろ』

『妹価大暴落じゃね? せっかくお姉ちゃんとしては見てもらえてたのにな』

 

 その点は奇妙ではある。

 どうして、恵子はここまでCOをした。

 お姉ちゃんにわたしの気持ちを伝えてしまえば――、わたしは敗北する。

 だけど、恵子もまた、わたしに嫌われるだろう。

 わたしに選んでほしくなかったのか。

 わたしと交渉するために、猫であることを隠していたんじゃないのか。

 さでずむがそうさせるのか。

 

 いや、違う。

 そうじゃない。

 もしも、恵子が()()考えを持っていて行動しているのなら、一貫している。

 

 わたしが思考を進めているさなか、お姉ちゃんも迷っていた。

 

「お姉様。悩んでいるのは本当はわかっているからですよね? イソラちゃんはお姉様を姉以上に見ている。そのことに気づいていらしたからこそ、お姉様はヒモでいることを選んでいるのです」

 

「ちょ、ちょっとだけタイム!」

 

 お姉ちゃんが変なことを言いだした。

 

「またモラトリアムの時間ですか。いいでしょう。わたくしも少々喋り疲れました。十分間ほど休憩をとりましょう」

 

 そして続ける。

 

「……それにしても、イソラちゃんには少々落胆いたしました。あなたはわたくしに有用な反論をなにひとつできなかった。お姉様という首根っこを捕まえているから当然と言えば当然なのですが、少しばかり骨のない狼さんでしたわね。せいぜいログの精査でもしておきなさいな」

 

 そう言って、淫猫の姿はかき消えた。ログアウトしたみたいだ。

 今に見てろ。わたしの最後の一撃をくらわしてやるからな。

 

 お姉ちゃんはたぶんあっちに行ってるんだろう。

 お姉ちゃんのことはお兄ちゃんたちに任せておけばいい。

 

 わたしができることは、ただひとつ。

 

 狼の()()だ。

 

 

 

 ※

 

 

 

 装備確認ヨシ!

 スケスケのベビードールに勝負パンツ。

 ひそかにお姉ちゃんとの夜を夢見て買っていた紐パンだ。

 残念ながら、わたしはまだブラジャーをつけるほど胸がないので上半身は下着同然のコレ一枚ということになる。

 おっと、忘れるところだった。

 恵子にもらったヘアピンを装備。

 お化粧はまだわたしには早いが、リップクリームくらいは塗っておくか。

 ここまで約30秒。

 

――出陣だ。

 

 もちろん、行き先は恵子の部屋だ。

 恵子自身から受け取った鍵を使って、強引に押し入る。

 ベルも鳴らさない。そんなのはもはや折り込み済みだ。

 恵子も百パーセントに近い確率で、わたしを待っている。

 

 最後の決戦を望んでいる。

 

「あら、お待ちしておりましたわ」

 

 恵子はベッドに横たわって、本当に休憩をしていた。

 少し疲れたというのは本当なのだろう。

 わたし視点無敵の巨人に見える恵子も、所詮は小学生の体力に過ぎない。

 上半身を起こしたままの恵子が、再び口を開く。

 

「それで、選ぶ決心はつきましたか。お姉様のことを考えるなら、わたくしを選ぶのが正しい選択です。誰にも迷惑はかからないでしょう」

 

 わたしは無言のまま、恵子につめよる。

 狼に会話は不要だ。

 ベッドに乗っかり、恵子の肩をつかんで、そのまま押し倒す。

 ちょうどお腹のあたりに両足で挟みこんで、マウントポジション完了。

 ここまで一切の抵抗はなかった。

 

 やはり――。

 

 猫。いや本質的な意味でのネコなのだろう。

 

「ねえ♡」わたしは聞く。恵子が望むように。「どうして負けようとしているのかな♡」

 

「なにを言っているかわかりませんね。それよりもわたくしを噛もうとしているのでしたら、お早目にどうぞ。なにしろ残り時間は七分と三十六秒ほどしかございませんので」

 

「違うでしょ♡ 恵子ちゃんはわたしに嫌われるのを望んでいたんだよ♡ おかしいと思ったんだ。誰だってそう思うよね。普通好きな人には好きって言ってもらいたい。だったら、お姉ちゃんにネタバラシして、わたしに嫌われるムーブをするのはどうしてってことになる♡」

 

「それは……、わたくしがイソラちゃんを飼い殺すためです……」

 

 顔が赤いぞ。どうしたぁ?

 

「だったら、どうして最初からお姉ちゃんに猫COしなかったんだよってことになる♡」

 

「コラボ前はまだイソラちゃんが狼だという確信がなくて」

 

「よく考えればさぁ。確信なんかなくてもいいんだよ。小学生女児が小学生女児を好きだと言っても犯罪にはならない。常識的にはちょっとだけマイナーかもしれないけどね。だから、コラボ配信前に猫COをしなかったのは、いやそれ以前にお姉ちゃんをコラボ配信に呼ぼうとすら最初してなかったのは、わたしの敵愾心を煽るためだったんだ」

 

「イソラちゃんに嫌われるなんて……わたくし耐えられそうにありませんわ」

 

「その点も恵子ちゃんはCOしているよね。愛するよりも愛されたい。嫌われても自分の在り方を変えることはできないって♡」

 

「パターナリズムです」

 

「いい加減認めたらぁ♡ 恵子ちゃんが望んでいる愛され方って嫌われたいってことだったんだよね?」

 

「ち、違います。そんな、変態チックな……」

 

 ハァハァと恵子の息が荒かった。

 まるで、エサを期待している――。

 わたしは上半身を覆いかぶせるようにして、恵子の耳元でささやく。

 

 そう、恵子の属性はこの一言に集約される。

 

「――メスブタ♡」

 

「ひゃう!」

 

 びくんと恵子の身体が跳ねた。

 

 そう、さでずむなんかじゃない。

 恵子はわたしに敗北させられ、わからせられることを望む――()()()()()だったんだ。

 百合乱暴的な場面では、ネコとタチがいて、ネコというのは組み伏せられるほうでもある。

 そんなことはまあどうでもいい。

 ともかく、恵子の様子から見ても間違いないだろう。

 正直、ここにいたるまで、まだ迷いもあった。

 

 誰が自分から嫌われるというマゾい行為をする?

 しかも、嫌われるといっても、わたしが気づかなければ本当に嫌われて距離とられて終わる。

 なんつう綱渡りな……。

 いや、でもそれが恵子の欲しいモノだったんだろう。

 

「メスブタのくせにずいぶんと生意気な口をきいてくれたよね♡」

 

「は、はい。ごめんなさい……ふひ」

 

 恵子の端正な顔が、お茶の間に見せたらいけない顔になっている。

 小学生女児がしていい顔じゃない。

 

「違うだろ。豚は豚らしく、ブヒって言えよ♡」

 

「ブヒ♡」

 

「キモ♡ わたしみたいな小さな女の子にイジメられるのが好きだなんて、本当生きてて恥ずかしくないの? 天国のパパさんに申し訳ないとか思わないの♡」

 

「わたくし、そういう性分なんですの。圧倒的強者からねじ伏せられることに下卑た快感を覚えてしまう……。どうしようもない性分(さが)なんですのよ」

 

「そのわりにわたしみたいな女の子が好きなんだね♡」

 

「わたくしの性分を満足させてくれる女の子はいままでいませんでしたわ」

 

「だから、さっきガッカリしてたんだ。わたしが負けそうだったから」

 

「そうです。イソラちゃん……いいえ、イソラ様。わたしを飼ってくださいませんか。豚のようにこき使っていただいてもかまいません」

 

「イソラ様はちょっと……」

 

 さすがに引くわぁ。

 

「だいたいさぁ。わたしがお姉ちゃんのこと好きなこと知ってるのに、よくそんなお願いが言えるよね♡ さっきまで負ける気なんてありませんって顔してたくせにさ」

 

「あつかましいお願いだとは思っております。あの……お姉様のことをどうなされるおつもりですか。わたくしがうまく誘導すれば、あるいは」

 

 ぺちん。

 ちょっぴり軽く頬を叩く。

 ぜんぜん痛くないへなちょこビンタだが、それでも恵子は身を震わせるほど快楽を得ていた。

 度し難い……。わたしよりも度し難い存在がいたとは、世の中って本当に不思議だ。

 わたしは与えられたロールに従って、続ける。

 

「メスブタのくせに生意気♡ あのまま行っても、わたしは勝ってたよ♡」

 

「お姉様はわたくしの主張を真と見ないのでしょうか」

 

「お姉ちゃんの考えは、わたしにはわからないよ。でも、頼りになるお兄ちゃん達がいるからね」

 

「お姉様もどこかにコミュニティを持ってらっしゃるのですか?」

 

「あ、さすがに気づいた?」

 

「それは、人狼ゲームのことを持ち出しておいて、あまり知らなさそうなところで気づきました」

 

「そっか。そりゃそうだよね」

 

「そ、それで! イソラちゃんはわたくしを噛んでいただけるのですか?」

 

 期待のまなざし。

 わたしは恵子の肩をつかんで――また上半身を耳元に寄せた。

 

「調子にのるな♡ メスブタ♡」

 

「も、もっと!」

 

「わたしの言うことに従ってくれるなら――、いや、従え♡」

 

「はい♡」

 

「だったらちょっとだけ考えてあげる♡ それまで放置プレイね♡」

 

「ひゃい。わかりましたブヒ♡」

 

 ダメだ。この村。早く焼き払わないと。

 

 そんなことを思いつつ、わたしは恵子の部屋を後にした。

 

 

 

 

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