【悲報】私氏、小学生妹ちゃんのヒモになりそう   作:おねロリのおね

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真メスガキわからせ生配信

 いつもの時間になった――。

 わたしは黙っている。

 一分、ニ分と無常の時間だけが流れていく。

 

『しかし、なかなか始まらないな』

『今日はなんか重大発表があるらしいが……』

『夕方頃に配信があったみたいだが、アーカイブも残ってないしな』

『なーんか静かですねえ』

『みんな自粛してメスガキの属性を言わないでいる。スゲェ自制心だ』

『メスガキに優しいお兄ちゃんばっかだよなここは』

『バブぅ(オレはここにいるぞ!)\100』

『カフェ・オレ兄貴、生きてたんかワレェ』

『だが、どう考えてもこれから先は暗雲しかないような気がするが……\100』

『オレも配信見た口だが、それ思ったわ。\100』

『暗雲?』

 

 わたしはしばらくコメントが流れるままに任せていた。

 なかなかエンターキーを押せないでいる。

 みんな優しすぎる。その優しさにわたしは打ちのめされそうになる。

 

――わたしは反省した。本当に本当にこころの底から反省した。

 

 正直なところ、顔見せしたのはやっぱりまずかったかなと思う。

 だから、今のわたしはブイの仮面をまたまとっている。

 裸身の異空ではなくて、メスガキのイソラとして、ここにいる。

 あとはエンターキーを押しさえすればいい。

 その最後の一押しの勇気さえ持てない。

 

 最後にリスナーのお兄ちゃんが言ってたけど、リアル小学生がメスガキ配信しているというヤバさがあるから、みんなはわたしの()()()を赦してくれた。

 

 小学生という被保護対象に遠慮した結果だ。

 

 あれじゃあリスナーさんたちも気まずかっただろうと思う次第。

 

 わたしにとっての最終目標はお姉ちゃんと結婚することであって、いたずらに顔見せしたわけじゃないけれど、わたしはブイとしての価値を――ひいてはリスナーのお兄ちゃんたちを犠牲にしたんだ。

 

 わたしはお姉ちゃんのためなら、自分のすべてを捧げられると思っている。

 ブイだってやめてしまってもべつにかまわない。

 けれど、リスナーたちのメスガキへの想いをないがしろにしたのは、()()()()()()だった。

 

 特にカフェ・オレのお兄ちゃん。

 

 途中で、お姉ちゃんがわたしに恋愛感情を向けてないって言われて、メスガキ度を急激にあげてしまい、あんな態度をとってしまったが、それでも彼は大人としての振る舞いを一切崩さなかった。

 

 周りの大人に相談しろと言われたのが、クリティカルだったな。

 

 あのときはなんでもないふうに対応したけど、パッパもマッマもいなくなって、わたしは誰に相談したらいいか、よくわからなかったんだ。

 

 もちろんお姉ちゃんに相談するのも無し。

 

 学校の先生は?

 

 正直なところ、よくわからない。

 担任は優しい女の先生だけど、優しさが誰かにとっての毒になることはあるだろう。

 

 下手したら、両親の死によって心因性の強迫神経症を患っているとか思われて、カウンセリング一直線ということも考えられる。そんなリスクの高いことは負えなかった。

 

 つまり周りに信頼できる大人がいないんだ。

 無条件に信じてもいい大人はみんないなくなってしまったから。

 それだったら、リスナーのほうがまだ信頼できる。

 だから、配信でリスナーのお兄ちゃんたちの考えを聞きたかった。

 

 それなのに、わたしは心の底では、()()意見も聞いていなかったんだ。

 

 ただ自分の気持ちを突っ走ってきただけだった。

 

 それが今度のことでよくわかった。

 

 わたしは断頭台にのぼる死刑囚のような気持ちで、エンターキーを押す。

 

「……あ、聞こえますか……」

 

『メスガキ……どうした?』

『今日のメスガキちゃんは元気がないわねぇ』

『食あたりでも起こしたんじゃないか』

『お腹冷えたんじゃね? おなか丸出しだしなww』

『腹パンでも喰らったんじゃね?』

『メスガキは生意気なくらいがちょうどいい』

『あ、うん(察し)』

『バブゥ(どうしたメスガキ。例の配信はなかったことにしてもいいんだぞ)\100』

『みんな奇跡的な結束を見せてるからな。マジこいつらスゲェって思ったよ』

『なんか昼配信見てた連中と空気差がすごいな? いったいなんなんだ?』

 

「ありがとうございます。昼のお兄ちゃんたち。こんなわたしを気遣ってくれてうれしいよ。でもちゃんと言います」

 

『ばーぶ(本当にそれでいいのか?)\100』

『昼配信の時ですらイキイキしてたのに、なんかあったんか?』

『メスガキが弱ってると調子狂うぜ。あ、昼の時はオレ的にはありよりのありなw』

『むしろメスガキ度は昼のときのほうが芸術点高かった』

『でもカフェ・オレみたいに精神崩壊させられるのは勘弁なw』

 

 こんなクソみたいな状態のわたしでも、みんな庇ってくれている。

 そのことに少しだけ勇気づけられた。

 一度目のような爽快感は微塵も感じない。

 自分で自分の死刑ボタンを押すような、そんな気持ちだ。

 

「ここのスレッドを見てください」

 

 わたしはリンクボタンを発生させる。

 最初は漣が起こるようにゆっくりと。

 でも反応は次第に大きくなっていく。

 

『え? どういうこと?』

『イソラってマジモンの小学生だったのかよ』

『昼配信の時、顔出しでもしたんか?』

『昼の時は、まだイキってたんよ。\1000』

『うーん、これって姉ちゃんにバレて配信やめろって言われたとか?』

『てか、イソラちゃんかわいいwwwもうメスガキしてもかわいいとしか言えないわ』

『ヒモ姉なんで生配信しちゃってるのってスレ民と心一体になってるオレがいる』

『オレはブイじゃなくてもいいと思うけどな。\200』

『オレはブイじゃないと抜けない派』

『なにがあった? \100』

 

 幼児退行プレイを脱ぎ捨てて聞いてくれたのは、カフェ・オレお兄ちゃんだ。

 

「あ、カフェ・オレのお兄ちゃん。お昼は失礼な態度とってごめんなさい」

 

『いや、それはべつにいい。どうしたんだ。聞いて楽になるなら聞くぞ。\100』

『カフェ・オレ兄貴のかっこよさに濡れる!』

『さっきまで幼児プレイしてたけどなw』

『出遅れたのが悔しい自分がいる。メスガキスキーの名折れだ。\2000』

 

 なんか、泣きそうになる。

 情緒ぐちゃぐちゃ丸。

 お兄ちゃんたちに慰められながら、わたしは残酷なシンジツを告げる。

 

「今日ね。お姉ちゃんが帰ってきたら―――、退()()()の用紙を大学からもらってきてた」

 

 

 

 

 

 

 わたしが大学から帰ってきたお姉ちゃんに意気揚々と抱き着くと、いつもは優しく抱きしめ返してくれるはずのお姉ちゃんが、少しだけ目をそらして、きまずそうにわたしを見ていたんだ。

 

 どうしたのって聞くと、おずおずと差し出されたのは退学届の用紙。

 

 わたしにはそれが最後通牒のように見えた。

 それに署名をして提出すれば、死刑が執行される。

 死体になるのはもちろんわたし。

 

 信じていたんだ。お姉ちゃんを神様みたいに。

 それなのに、わたしにつきつけられたのは、そんな気持ちは自分勝手なワガママだという宣告。

 神様に叱られたように感じた。

 わたしは、お姉ちゃんの気持ちをぜんぜん考えてこなかったんだ。

 それどころか、誰の気持ちも考えてこなかった。

 ただ自分の気持ちを押しつけることしか考えてこなかった。

 そのことが身に染みて、わたしはその場でお姉ちゃんを突き放して、部屋に閉じこもった。

 

 そのあと見たのは、答え合わせのようなスレッドでのお姉ちゃんの本心。

 わたしがお姉ちゃんに尽くしてきたのは、ぜんぶぜんぶ、わたしがそうしたいってだけのワガママだった。わたしの行為/好意はお姉ちゃんにとっては迷惑だった。

 

――そう、お姉ちゃんに言われたみたいだった。

 

 実際にそうなんだから救いようがない。

 わたしはお姉ちゃんにとって要らない存在だったんだ。

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんに嫌われちゃったから、もうおしまいなんだよ……」

 

『なんかイソラもコミュ障だなw』

『メスガキ曇らせはジャンルとして妥当なのかねえ』

『ちょっと男子ぃ。小学生の超絶カワイイ女の子が悩んでいるのよ。茶化さないの。\500』

『おねロリのおねさんはあいかわらずカワイイ女の子びいきだなw』

『マイナス方向での姉妹百合か? とりあえずてぇてぇしとくか。\200』

『スレ違いの純情だろ?』

『単純に考えるとヒモ姉が危機感かんじて退学届をゲットしてきただけのような気が』

『メスガキ。まず、自分が何をしたいか考えろ。周りのことは二の次でいい。\100』

 

「二の次?」

 

 カフェ・オレお兄ちゃんはわたしの想いを最初から否定しなかった。

 わたしが小学生だから、そう思ってくれるのかもしれないが、その想いは嘘じゃない。

 

『メスガキはかなり大人っぽいから抱えこんでしまうんだろうが、本当は大人のほうが感情という荷物を受け持ってやるべきなんだよ。まあ、そうなるとヒモ姉がきちんとしろって話になっちまうがw おまえは何がしたいか考えるだけでいい。\100』

 

『さりげにヒモ姉全否定で草』

『いやまあヒモ姉もがんばったからこそ退学届をもらってきたんじゃねーのw』

『これが……これが大人の真のわからせってやつか』

『オレ、なんか感動してるw』

『真メスガキわからせ配信がここに完成する』

 

「わたしは……お姉ちゃんに大学辞めてほしくない!」

 

 それが本心だ。

 わたしを重荷に感じて、お姉ちゃんが大学をやめなきゃいけないなんてイヤだ。

 それはわたしのワガママだけど。でも、わたしはワガママでいていいって言ってくれてる。

 

『今日は腹パンなしで勘弁してやるぜw \200』

『なんか萌えてきたぜ。\200』

『お姉さんはイソラちゃんのこと全肯定よぉ。\300』

『泣かすのは明日にしてやる……。\200』

『嫉妬するくらい熱い想いだな。\100』

『おまえをわからせるのは最後にしてやる。¥300』

『そろそろ。オレ氏の今月のお小遣い。尽きそうだわw \100』

『いけえええええええっ!』

『いや、小学生が配信中に姉に突貫してる図がおもしろすぎるんだがw』

『最初の理知的なメスガキはどこにいったんだろうなぁ』

 

 わたしはお姉ちゃんのもとへ走った!

 

 

 

 

 

 

『で、配信者がいなくなっちまったんだが、この状況どうすんのw』

『イソラが人生に勝負賭けてるって思うと、なんか出歯亀だよなオレらw』

『恋する小学生は最強だと思うオレがいる』

『実際、イソラが説得に成功する確率ってどうよ? \100』

『いや、普通に通るだろ。生活全般お世話している妹がお願いするんだぞ。\100』

『そういやそうだったわw \100』

『おまえらスパチャで会話すんなw \100』

『おまえもしてるやろがい。\100』

『これがホモソーシャルってやつです。\200』

『オレおまえらのこと好き。¥100』

『オレも。¥100』

『ワイもww。¥100』

『なんで、野郎どもでイチャイチャしてるんやw』

 

「ただいま!」

 わたしはみんなに挨拶する。

 配信中にいきなり離席するなんてブイ失格だけど、みんな待っててくれたらしい。

 

『キタ! マッテタ!』

『なんか晴れやかな笑顔やな』

『うまくいったんか? ¥100』

 

「うん。お姉ちゃんわかってくれた。わたしがお姉ちゃんに大学やめてほしくないって言ったら、その場で退学届を破り捨ててくれたよ。わたしがお姉ちゃんに抱き着いたら、お姉ちゃんはいつもどおりわたしを優しく抱きしめてくれたんだ」

 

『ふむ。姉妹百合てぇてぇな』

『もしかすると、逃げられんと悟ったヒモ姉の悲痛な叫び説w』

『まあ、普通にメスガキの想いを感じ取ったんだろう』

『どうだ。これが大人の力だ。舐めるなよメスガキ!』

『今月のカフェオレ買う金もなくなっちまったが、丸く収まったようでなによりだよ。¥100』

 

「うん!」

 

 本当に()()()()()()()()()()

 わたしが本当に信頼できる大人のお兄さんたち。

 

「みんなありがとう。大好きだよ♡ お兄ちゃんたち♡」

 

『あ……』

『これはいけない』

『小学生がしちゃいけない表情しちゃってる』

『単体尊い』

『なあ、イソラのこと撫でまわしたいんだがいいか? 性的な意味は一切ないんだが』

『ほんまそれオレも思ったわ』

『イソラ、かわいいな……』

『なあ、メスガキのくせにかわいすぎるんだがっ!』

 

「あ、お兄ちゃんたち。ちょっとわたしが甘い顔見せたら、すーぐ欲情するんだね♡ ほんと変態ロリコンなんだぁ♡ ざこざーこ♡ もひとつざーこ♡」

 

『ヨシヨシしてあげたい」

『あーあ、メスガキはお兄さんたちを怒らせちゃったね!』

『ほほえまーw』

『もう、ほんとかわいい』

『AIちゃん、メスガキを妹にする方法ありますか?』

『そんなもんねーよ』

 

「じゃあ、今度はぁ♡ お姉ちゃんを堕とすための方策を考えようかぁ♡ お兄ちゃんたちならできるよね♡ わたしをわからせちゃったお兄ちゃんたちなら簡単だよね♡」

 

『オレらはいったい何をさせられてるんだ』

『爆弾持って姉ちゃんに特攻しろってことだよ。言わせんな』

『メスガキちゃんが楽しそうでなにより』

『メスガキはわからせられて真に輝くからな』

『ちくしょうううううううう』


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