呪いの世にて空を飛ぶ   作:権現

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続きました。



千年前の一時

 

 

 

 

 

 

■──清浄の地──■

 

 

 

 

 

 

 閃光─────後に唸る轟音。

 中心地より数百メートル離れた森林が、その音に続くように薙ぎ倒される。

 それは綺麗に閃光が奔った場所を中心地として円を描くように吹き飛ばされていた。当然、その領域は更地となり、草一つ生えていない平面となっている。

 

 そこに、二つの影があった。

 片方はもう片方に比べて小柄で細い。

 もう片方は小柄な影を覆ってしまう程の大きさだ。

 

 

「毎度のことだけど……敢えて言わせてもらうわ………

 

 

 しっつこいのよ!!莫迦宿儺(すくな)ァァァ───ッ!!!!

 

 

 叫ぶは小柄な影────その美しい顔に血管を浮き上がらせながら怒鳴る少女は、青白い光を放出して向いの巨影を呑み込まんとした。

 

 

ケヒ、単なる()()()()()ではないか、もっと愉しめ博麗ッ!!!

 

 

 呑み込まんとする光から後方へ飛びのき、巨影はその独特な笑いを吐き出しながら愉し気に未だ迫りくる光へその腕を振りぬいた。

 キンッ──という音とともに横一門字に切り開かれる青い光。

 その中から現れる少女────博麗の君は激昂しながら到底その華奢な姿からは想像できないほどの速度で飛び掛かる。

 対するは少女を覆うほどの巨躯に四つの目に四つの腕を持つ異形の人型────少女に宿儺と呼ばれた者は、その少女を迎え入れる様に腕を広げ、自身も飛び掛かった。

 

 再度の衝突、拳同士がぶつかり合うとともに起きる黒と白の火花。

 ぶつかった衝撃に意も返さない少女と怪物は引いた拳を何度もぶつけ合う。

 何度も、何度も、何度も───技術も駆け引きも何もない純粋な殴り合い。

 四本腕の宿儺の方が有利かと思いきや、博麗の君に当たる拳は一つもなく、逆に博麗の君の拳を宿儺は迎え撃つしか出来なかった。

 有利なのは博麗の君の方だった。しかし、その戦況とは裏腹に楽しそうなのは宿儺の方で、博麗の君は未だ激昂したままだ。

 

 

「捌くなッ!弾くなッ!!いいからその面一発殴らせなさいッ!!!」

「はっはァーッ!!相変わらず此方の攻撃は届かず、其方の攻撃ばかりが通る!!全く意味不明だ!!」

 

 

 常人には目で追うどころかその様を視界に入れることすら出来ず即死するだろう死闘も、彼等にとっては単なる喧嘩でしかない。それを証拠に、未だ彼等は会話をする余裕があるのだから。

 万を超える拳の応酬は、博麗の君が飛び膝蹴りを宿儺の顔面にぶち当てるという反則で途切れてしまう。

 それに堪らず仰け反ってしまう宿儺。一方博麗の君はくるりと一回転して着地すると、先ほどの怒りはどこへやら、宿儺に一発お見舞いしたのが余程ツボに入ったのか今度は此方がゲラゲラ笑っていた。

 

 

「アハハハッ!!ザマァみなさい!!一発お見舞いしてやったわ!!」

「ッ……おい、殴るのではなかったのか」

「ああ?殴るも蹴るも同じでしょうが、ようはぶちのめせればそれでいいのよ!」

 

 

 元の体勢に戻るも、鼻から流れ出る血を拭う宿儺は彼女へ苦言を申し立てるが、それを知ったことかと博麗の君は突っぱねた。

 流石に宿儺もこれは癇に障った。蹴られたことよりも、鼻血が出ていることよりも、博麗の君が己を笑っていることに。

 

「……流石に調子に乗りすぎだ、少し仕置きが必要なようだ」

「上等、こっちだって毎度あんたが家の神社ぶっ壊すのに怒りが溜まってたところよ。半殺しでもまだ足りないわ」

 

 互いに見合う両者の身体から赤黒く禍々しい気と青白くも神々しい気が迸る。

 激情と共に溢れ出る力の本流は、同じ力を宿す並みの術師であれば発狂する間もなく消滅させるほど。当然その程度で終わる筈などなく、宿儺は四つのうち二つの両手を閻魔天印(えんまてんいん)の手印を結び、対する博麗の君は右手人差し指を下にする降魔印(ごうまいん)と、それを逆にした左手人差し指を上に向ける独自の印を結ぶ。

 これなる構えの意味は、呪いを道具とする呪術師の最終段階であり、呪術戦の極致。己の理を世に布き世界を染める理外の技。

 

 

「「── 領域展開 ──」」

 

 

 

 あの後、宿儺と博麗の君の本気の喧嘩まで発展したが、結局決着はつかず疲れたと言って両者は切り上げた。

 領域展開まで持ち出したものの、双方ともに互いを殺す気など全くなかった。只ほんの少し、互いの笑う顔がむかついただけなのだ。

 そんな自分勝手な二人は現在、修復途中の縁側で空を見上げてぼけーっと日向ぼっこに興じていた。

 

 

「ちょっと!博麗!!アンタの神社なんだからアンタが直しなさいよ!!」

「なんで?物作るのはあんたの方が得意でしょ、(よろず)

「だからってなんで私が無償で直さなきゃいけないのよ!!?せめて手伝うとかしなさいよね!!」

「ええ~だってあんた宿儺側でしょ?今回も宿儺が壊したんだから直すのは当然でしょ。後、今は日向ぼっこで忙しいの、私」

「~~ッ!!!?」

 

 

 万と呼ばれた女はこの生意気な小娘に罵倒を浴びせたくて、けれど過去に彼女と勝負し、“負けた方が勝った方の言うことを聞く”という()()を結んでしまい、結果負けてしまった以上言うことを聞くしかなかった。

 万からしてみればそれは一生の不覚と言っていい出来事だった。そして、今も尚その縛りは有効である。なにせ、期限を決めていなかったのだから。

 故に今、彼女は絶望の淵に立っていた。なにせ、彼女が一方的に思いをはせている存在───宿儺の目の前でこんな無様をさらしているのだから。

 

 

「~~~ッッッ!!!!!(ちっくしょーッ!!!)」

「は~い、がんばれがんばれ~」

 

 

 それが、1000年前の彼らの一日のひと時だった。

 

 

 

 

 

 

■──現在・とあるカフェ店──■

 

 

 

 

 

 

 

 とあるカフェレストランにて、一人の袈裟姿の男と、三人の呪いが会合していた。

 三人の内、一人は不愉快そうに顔を歪め、残り二人は表情には変化が見られないが、其の二人とも先の一体と変わらず不愉快であると言った雰囲気を醸し出している。

 袈裟姿の男はそれに対して困ったように笑うとこう告げた。

 

 

「そんなに怒んないでよ、確かに遅れたのは悪かったけどさ。こっちにも用事があったんだ」

「フンッ我々との会合を遅れるほどの用事だったというわけだな?それをこちらが聞いても納得できるであろう用事であると」

 

 

 苛立たし気な呪霊に、袈裟姿の男は笑みを深くする。まるで聞けば必ず納得すると言いたげに。

 

 

「いや、多分聞かない方がいいよ?君達にとっては」

「ほう……そこまで言うならば聞かせてもらおうではないか。此方にとっての聞きたくないこととやらを」

 

 

 そう言葉を強くしながら、呪霊は自身の頭からポンッと音を鳴らすとともに、熱気を放つ。もしもそれがつまらないことならば、焼き尽くすつもりで。

 袈裟姿の男はますます笑みを深める。だって、そんな脅しが何の意味もなくなり、寧ろ聞かない方が良かったと冷や汗を流す姿が容易に想像できるから。

 

 

「呪いなき地、清浄の地と呼ばれるところに行ってきたんだよ」

 

『――――』

 

 

 三人の呪霊が息を呑むのが、男にはわかった。

 はい、これで無駄話はおしまい。後は今後の予定を計画するだけだ。

 聞かずとももう彼等の返答は分かるが、それでも敢えて男は三人に問い掛けた。

 

 

「その場所が本当にあったと知った君等はどうする?」

 

 

 三人の呪霊達の返答は決まっていた。

 

 

「聴かせろ」

 

 

 一人の呪霊―――漏瑚は冷や汗を垂らしながらも、聞かねばならないと本能で理解した。故に緊迫した様子で問いただす。他、花御と陀艮の二人も表情は変わらずとも同様に緊張していた。

 無理もないだろう。何せ、千年前の()()()()()()()()()()()()()が、今も尚現存しているというのだから。自分たちにとっては凶報以外の何物でもない。

 その地が残っているということは、“例の巫女”が今もいるということなのだから。

 そんな存在が、今も尚この世のどこかに存在しており、且つ未だに全盛期の力を有しているのだとすれば、彼等が恐れぬ理由はなかった。彼等の目的―――この世を呪いの世とするのに、どうあがいても障害となりうるに相応しき存在が今もどこかにいると知ってしまったのだから。

 

 

「おい、その地があるということは……!!」

「ああ、大丈夫大丈夫……()()に関しては此方から仕掛けない限り全くの無害だよ。呪霊だからといって無暗に祓ったりしない。これは信じていい」

「………真であろうな」

「うん、なにせ私の友人だからね。それに彼女は呪術師じゃない。気にするだけ無駄だよ」

 

 

 どこかホッとするような三人を見ながら、袈裟姿の額に傷のある男───体の名を夏油傑、真の名を羂索(けんじゃく)はこれまでのどの笑みとも違う、口が裂けたようにニィと口元を釣り上げ、嘲った。これからの世界(地獄)が楽しくて仕方がないと。

 

 

 

 

 

■──数時間前・清浄の地──■

 

 

 

 

 

 

「ここへ来るのも久しぶりかな」

 

 

 羂索(けんじゃく)は日本の某所の森林の奥深くにある古びた社の前に立っていた。

 そこは不思議なことに人が出入りした痕跡がないのに、社は古びているものの傷んでいる個所はどこにもなかった。

 羂索(けんじゃく)はゆっくりと社のそばまで近ると、袖の下を漁り五円玉を取り出す。そしてすぐに賽銭箱へ投げ入れて二礼二拍手一礼をする。

 すると社の背後───森林が広がるだけのはずの空間が裂け、真っ直ぐな石段と共に山が姿を現した。

 石段は頂上まで続いており、何かがあることが伺える。

 羂索(けんじゃく)は一段一段丁寧に石段を上っていき、そして頂上へたどり着いた。

 

 そこには石段の下にある社と瓜二つの、あちらよりも清浄な空気に満ちている神社があった。

 そして、その手前───賽銭箱に寄りかかるように禅を組んで座っている少女が目に入った。

 

 

「待たせたね、博麗の君」

 

 

 羂索(けんじゃく)の言葉に反応したのか、少女は閉じていた目をゆっくりと開いた。

 その瞳は変わらず、穢れもなく、淀みもなく、汚れもなければ埃もない、羂索(けんじゃく)が一目ぼれしたままの綺麗な目をしていた。

 

 

「もう千年たったの?随分と速かったわね」

「そりゃ君は寝ていたからね、私としては君に会うのは千年ぶりだよ」

「あらそう、少し見ない間にまた面のいい人に乗り換えたのね。私としては前の方が好みだったけど」

「ありゃりゃ……こっちの方がいけてると思うんだけどな…失敗したか」

 

 

 久しぶりの会話を純粋に楽しみたい羂索(けんじゃく)に対しても、彼女は変わらず興味なさげだ。

 そんなところにほんの少しの寂しさと、同時に胸に広がる懐かしさに羂索(けんじゃく)は失笑してしまった。

 

 

「さあ、約束を果たしに来たよ」

「ええ、せいぜい楽しませてもらうわ」

 

 

 彼の言葉に、ようやく博麗の君も笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 






独自設定

巫力を持つものを呪物にすることは出来ない。
当然、呪霊にすることもできない。
よって、その方法で千年を生き残ることは不可能である。
もしも千年の時を生きることが出来るとしたら、それは羂索(けんじゃく)の協力ありきの方法ではなく、博麗の巫女独自の方法である。

ところで結界には先の技術が存在しており、それは“境界”と呼ばれている。これはとある妖怪の独自の能力ではなく、結界術を極めた先にある技術とされているようだ。その根拠として、とある妖怪独自の力を、まったく別の人間巫女が同様の力として使えた描写があるので、本作はその説を採用している。

境界を操ることが出来るということは、繋がっている物を断つことも、別のものとを繋げることも出来るということ。
例えば、空間と時間を切り離したりとか。



備考Ⅰ
千年前の伝承を知る意志を持つ呪いたちは、宿儺以上に博麗の巫女の伝承を恐れている。なぜならば、その力の前では呪いが存在していることさえ許されないのだから。


備考Ⅱ
博麗の巫女も術式を保有している。
保有しているが、その力を見たものは宿儺を含めて四人しかいない。
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