呪いの世にて空を飛ぶ 作:権現
($・・)つ更新
■──清浄の地──■
「それで………今が丁度千年先の世で合ってる?」
博麗の君は未だ清浄の地を形成している結界内部にいるため、今が本当に千年先の世なのか判断がついていなかった。
なにせ、自身の意識と肉体を“境界”で切り離し、肉体は自身の“巫力”によって実質的な不老状態にしていたのだから。その間、意識は自己の生得領域内に籠らせて眠りについていたため、時間的感覚が大分ずれてしまった。これでは実感の仕様もない。
「ああ、此処から出ればすぐにわかると思うよ」
博麗の君はその返しに「そう……」と納得した。
博麗の君はうんと頷いた後、腰かけていた賽銭箱からひょいっと飛び降りた。
ふわっと袖が舞い上がるも、着地の際の足音は聞こえない。
そのまま
「はい、手出して」
「ん?ああ……そういうことか」
一瞬何のことかと思うも、直ぐに察しがついたため博麗の君が差し出した手に自身の手を重ねる。
すると、博麗の君の袖から赤い糸が伸び、腕を伝って重なった
ぱっと重ねた手を放し、糸が繋がっているかどうかを確かめるべく腕を左右上下に回してみる。
「これでいいわよ」
「相変わらず……凄い技術だよね、この“境界”の糸は」
「でもこれ、呪力で作っても出来ないからね。縛る性質になる呪力に対して、この境界の糸は結ぶ物。反転術式に用いる正の力の性質を熟知してないとそもそも形にならないわ」
「後、反転術式を使える奴にしか効果ないし」と付け足す博麗の君。
そんな神業をさも簡単と言いたげな彼女に
千年の月日を生きてきた自分もかなりの経験と修練を積んできたが、未だに彼女に届いたという気がしない。甘く見積もっても漸く影が見えたかなと思える程度だ。悔しくはあるが、それ以上に博麗の君はこうでないとという憧憬が現実に戻ってきたのだ。当然嬉しい。
思わず頬を緩めてしまったためか、彼女は気持ち悪いものを見る目で此方を見た。
「なによ胡散臭く笑って」
「ただいま千年前の日常」
「は?」
今日は良い日だと
■──現在・岩手県・盛岡市──■
「はぁぁ~……美味しいぃ」
盛岡駅付近の某〇屋にて、彼女は
それはそれは幸せそうな顔だった。
彼女の周辺に蝿頭一匹たりとも存在しないといえばその空気のほっこり具合が伝わるだろうか。
博麗の君は満喫していた。千年前の世では体験できなかった娯楽溢れる現代をそれはもう楽しんでいた。
数時間前、結界の外へ出てすぐに博麗の君は
だからいって好き勝手な場所というわけではなく、あの面倒臭い呪術師が集まる京の都や、もう一つ集いの場として増えたという東京には遠ざかる形にした。
其処等は博麗の君も承知していた。今もあの鬱陶しい鼬ごっこを続ける馬鹿どもに自分から関わりたくはない。
よって、都会でも田舎でもなく、割と半々な形で残る岩手の中心地にしたのだ。
食いしん坊な彼女にとってうれしいことに、駅周辺には美味しいものが割と揃っているのである。そして都心よりも安いので懐にも優しい。
そんな理由で
途中、個人的な用事があるとかで彼女一人になってしまっているが問題はない。
だって財布は彼女の元にあるのだから。その貯蓄の許す限り彼女は食べ歩くことにした。
「満喫しているね」
「あらおかえり、もうちょっと遅くても良かったわよ」
ふと、彼女の腕に巻き付いている赤い糸が反応した。
結ばれたその先には同じく腕に赤い糸が巻き付いている
今更だが、この“境界の糸”の役割がこれだ。
───“境界の糸”───
博麗の君が編み出した結界術の到達点たる“境界”を更に応用した術。
まず、正の力の極みたる“巫力”で以て糸状の結界を形成。
同時に境界としての性質であるモノとモノの隙間を糸に付与。
後は正の結界式の性質たる“結ぶ”力で二者の間に繋がりを形成。
このすべての工程を行ったことによって、糸で結ばれた術者と片割れは互いの位置を糸を通して共有可能となる。また、糸を辿ることによって被術者も術者の元へ呪術的に遮断された空間でなければ辿り着くことが可能となるのだ。
当然、呪力ではない為に残穢は残らないので術者と被術者以外の者では痕跡を辿ることも出来ない。
これは、境界に至っている技量と呪力の反転たる正の力、呪術師で言えば反転術式を会得していなければ不可能。更に言うのならば、反転術式を会得している者同士でのみにしか適用が出来ないのも短所と言っていいだろう。
尤も、理の既外にいる博麗の君と千年を生きた
「彼方の要件が単純なものだったからね、話はすぐに終わったよ」
「あっそ、じゃあちょっと待って。まだこのヒレカツ丼食べ終わってないから」
「いいよいいよ、ゆっくりしてってね」
■──時間継続・◇◇某所──■
「ふぅ………」
煙管を吹かせる呪い───カフェレストランにいた時よりも随分と小さくなった火山の特級呪霊
傍らにいるのはレストランでは見かけなかった、漏醐に劣るもののそれでも尚どす黒い呪いを振りまく人の特級呪霊
互いに跋除されてはいないものの、無視できない程の消耗をしていたため次なる呪い合いに備え呪力の回復に努めていた。
「ねえ、漏醐」
「なんだ……」
すいすいと活火山付近の温泉を泳ぐ真人はふと、気になることが頭に浮かび漏醐へと問う。
「博麗の巫女ってそんなにヤバいやつなわけ?」
「………ヤバい、程度で済めばいいがな」
しかめっ面をしながらも煮えたぎらない返答を返す漏醐に真人は訝し気にしながらもある程度の納得を示す。
しかし、それでも聞いたことがあるだけで見たこともない博麗の巫女が、本当に自分たち呪いの天敵たりうるのか甚だ疑問だった。
「確か、宿儺と唯一引き分けたって聞いたけどさぁ……ぶっちゃけ尾ひれついてそうだなあって俺は思うけどな」
宿儺の尋常ならざる在り方とその根幹を文字通り刻み込まれた真人にとって、あれと引き分けたというのがどうにも疑わしかった。
そもそもその博麗の巫女は人間だというのだから、それが千年もたって未だに生きているというのが可笑しい。
よしんばその力が本物だったとしてもあの宿儺と引き分けられる存在というのは真人にはどうしても想像できなかった。
「ひょっとして夏油のブラフだったりして」
「……奴は胡散臭く、そして用心深い故その可能性もなくはないだろうな」
「だろう?ならさ───
「「!!!!?」」
真人と漏醐は動けなかった。
まるで太陽が其処にあるような、これ以上ないほとまの絶対的存在感。
背中越しにも伝わる圧倒的な正の力の本流。
そのまま存在を保つことすら危うい力に、二人は抗う術を持たない。
どうしようもない彼我の力の差をたった一息で刻み込まれた。
「(これ……あの時と同じだ……ッ)」
真人は戦慄していた。
あの時、宿儺と魂越しに対峙したときに刻まれたどうしようもない無力感。
自分の命が脅かされている………いや、避けられない死を実感した瞬間に溢れ出る恐怖。
これにはどうしたって敵わないと示された明確な絶望。
「“これ等”があんたの言ってた協力関係の呪い?」
その声は自分たちを敵として扱っていなかった。
“これ等”と言っていた通り、自分たちをそこら辺の石ころと同じようにしか見ていなかった。
その扱いに対して不愉快に思うもすぐにその思考は掻き消された。
「まあ、そうだね。でもあんまり虐めないでくれよ」
「虐めてるつもりないけど……私はあんまし近寄んない方がよさそうね。気を抜いたら消しちゃいそうだし」
その言葉と共に、自分たちを滅する力の波動は弱まった。
膝をつく真人。
止めていた呼吸を再開する漏醐。
彼等は今初めて、自分たちの“生”を実感した。
その直後、真人は其処にいるであろう存在を見るべく体を回した。
「」
───そして、真人の両眼は潰れた。
・巫力の詳細
呪霊に対しては魔虚羅ソード宜しく一瞬で蒸発させるほどの効果を発揮する。
ついでに言うと術師の反転術式と同じく治癒効果もある。
・霊夢の身体について
霊夢も元々呪力を持っていたが、その力が反転したのは今の姿になってから。
体の呪力全てが反転してしまったため、その力の特性上それ以降老いることはなくなった。
しかし、精神は時を重ねるため彼女は千年も意識あるまま過ごすことを嫌った。
よって、完全な力技で千年の時を睡眠していた。
・巫力の出力について
術師の呪力が1に対して最低でも倍の出力である。
これは漫画本編で五条悟の術式反転の出力が順転の倍となると言われているのでそれを基準としている。
故に呪力反転した場合、単純にその呪力がすべて巫力に変換されるため実質総呪力量が倍になったと言ってもいい。