天使「人間さんにおかしくされてしまいました」 作:桜の塩漬け
この世界には魔族と呼ばれる存在がいる。
淫魔、天使、魔獣族、竜族、鬼族など多種多様な見た目でありながら共通して見目麗しく、当時の人間は彼女らを歓迎した。人間を遥かに上回る力と未知の技術を持ちながらも、友好的な態度であったことが世論を後押ししたそうだ。
一部の受け入れ反対を掲げていた国も彼女らの態度に絆され、今ではその掌を返している。
噂好きのゴシップ誌では、その国のトップは淫魔に篭絡されていた、日本の総理大臣含む各国首脳の退任も時期を同じくとしており魔族の侵攻ではないか、と騒ぎ立てていたが、発刊の翌日会社自体が倒産したらしい。
有名なニュースサイトでは、魔族に対する新しい法整備でゴタついていた社会の中、権力の推移のタイミングが偶然重なっただけという見解で一致しているし、今やただの陰謀論として扱われている。
実際彼女らの登場から50年たった現在において、彼女らに侵略され不利益を被ることはなく、むしろその逆のことが起きている。
持ち込まれた技術により将来的に不安視されていた資源不足の解決方法が明確になり、加えて通信技術なども飛躍的に発展した。ある研究者によると魔族の台頭により、地球上の技術は何回もの技術革新をスキップしたのだとか。
まあつまり、ここで言いたいことは人間にとって魔族との関係は切っても切れないものであるということだ。
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春うららかなる今日、僕はもうこの一年間で見慣れた通学路を歩いている。肩ひもが少しだけほどけたスクールバックと、ようやくサイズがあってきたブレザーに時間の流れを感じながら、道の傍らに立ち並ぶ都会には珍しい桜並木に目を向ける。
なんでもこの埋立地一帯の管理を担っている鬼族が桜をとても気にいっているそうで、この街では電柱を探すよりも桜の木を探す方が簡単といわれている。
あちこちに桜がある景色は埋立地の固いイメージとはかけ離れた華やかさがあり、この街に愛着が湧くポイントの一つだろう。ちなみに一年通して枯れたところは見たことがない、魔法とやらを使っているのだろうか。
だけどやっぱり春に咲く桜は日本人として特別なものを感じる。少し暖かくなった空気に涼しい風、頭上からは百舌鳥の鳴き声が聞こえ、地面には桜の花びらが絨毯のように広がっている。
僕はこの絨毯に乗ったまま通学路を進むのが好きだった。だから清掃員さんがすべて片づけてしまう前に朝早く寮を出る。
数分歩いて最後の曲がり角を曲がると、視線の先に現れるのは周囲のアパートや飲食店よりも一際大きく存在感を示す建築物。
異世界交流センター、魔族と人間が入り混じるこの世界で次代を担う人材を生み出すべく作られた特殊な学び舎。僕、鬼塚蒼良はその二年生である。
◆
「おはよう、蒼良!今日も早いな!」
「あ、おはよう、大地」
いつも通り朝のHRが始まるまでの時間を自分の席で本を読んで過ごしていると、元気溌剌という言葉が似合いそうな声が前の席から聞こえた。
僕に向かって爽やかな笑みを見せる茶髪の彼の名前は桃谷大地。僕の狭い交友関係の中で最も仲の良い友人である。
・・・別に友人を作るのが苦手というわけではない。クラスに四分の一くらいしか男がいないせいで絶対数が少ないからだ。うん、本当に。
「お、また新しい本読み始めたんだな」
「うん、『アンコウでもわかる新法』って本」
魔族の登場から今まで、世界では様々な分野で変化を求められた。法律もその一つである。この本では、その変化の中で新たにできた法が簡潔に書かれており、非常に読みやすくまとまっている。タイトルは少々奇抜だが。
「また法律系の本かー。いくら両親と同じように弁護士なりたいといっても、いい加減飽きてこないか?」
「うーん、確かに勉強がしんどいって思うことはあるけど、憧れだからね」
僕の両親はともに弁護士として同じ事務所で働いている。なんならお母さんはそこの所長である。鬼族特有の冷静さや管理能力の高さを生かして今日も辣腕を振るっている。
お父さんは普通の人間だが相談者に親身に寄り添う姿勢が好評で、事務所内の人気は並み居る魔族さんたちを押しのけてお母さんに次ぐ二位である。嬉しそうに自慢してた、お母さんが。お父さんは照れてた。
そんな両親の職場には幼い頃よく遊びに行っていた。事務所に入ってきたときは不安そうな顔をした人が、両親と話して安心した顔に変わっていくのを何度も見た。そこで見た両親が人のために真剣に働いてる姿がかっこよくて、憧れて。そのときに僕の夢は決まったんだと思う。
そういえば当時は考えもしなかったが、職場に幼い子供がうろちょろして鬱陶しがられても仕方なかったというのに、事務所のお姉さんたちはお菓子をくれたり、一緒にボードゲームで勝負してくれたりと優しい人ばかりだった。僕が来るなり仕事を放ったらかして一日中構ってくれた淫魔のお姉さんは元気だろうか、もうお母さんに怒られていないといいけど。
「まったく、いいか蒼良!俺たちはまだ学生なんだ、勉強ばかりなんてもったいない!恋して、遊んで、青春を謳歌しなければ!」
「恋って、二人とも彼女できたこともないのに・・・。でも、そうだね今日はちょっとゲームの気分かも」
熱弁する大地に同意を返す。僕が勉強に掛かりきりになってしまったとき、大地はこうして軽く諫めてくれる。
頑張りたいと思ったときには励ましてくれて、しんどいと思ったときには強引にでも連れ出してくれる。まるで心が読めているのではと思ってしまうほど気配りができる男である。
「今日の放課後、僕の部屋にコントローラー持って集合でいい?」
「おう!今度こそリベンジを果たして見せるぞ、俺の必殺コンボに驚くといい!」
僕たちが放課後にゲームの予定を決めたと同時に、教室の扉が滑る音がした。
ふと周りを見てみるとほとんどの生徒がすでに着席している。僕たちが話している間にHRの時間が迫っていたようだ。
「みなのもの~、おはようさん」
扉から出てきたのは頭に捻じれた角を持ち、黒に近い緑色の髪を腰まで伸ばした長身の美人、我らが担任のりゅーちゃん先生である。あだ名の由来はまんま竜族であるから。なにかと理由をつけてお菓子をくれることと、臨場感ある歴史の授業が人気を集める教師である。
そして、その後ろから扉を潜るのは・・・
「先生、プリントはこちらの机の上に置いておきますね」
「いつもわざわざすまぬのう。ご褒美に今日も饅頭あげような、ちょこもあるからの」
太陽の光に当たりほのかに赤色を帯びた金髪に翡翠色の透き通った瞳。そしてなにより、背中に広がる六枚三対の翼と頭上に浮かぶ輝く輪が彼女の種族を雄弁に語る。彼女は天使族、人間から苦痛を取り除き天界に導くのが使命なのだとか。
そんな彼女だが別に人間だけを救っているわけではなく、今日のように先生の手伝いでプリントを運んだり、淫魔の生徒の恋愛相談に乗ったり、果てには悪魔の先輩に頼まれて運動部の助っ人に出たりと八面六臂の活躍を見せている。
人間の想像した天使が現実になったかのように、本当に彼女は優しい人なのだ。
「すいません先生、大変ありがたい申し出なのですが、あの、私最近ちょっとだけお腹周りが・・・」
「貰ってくれんのか?これ、おいしいんじゃがのう・・・」
「ああっ!そんな悲し気な顔なさらないでください!?頂きますっ、頂きますから!」
・・・本当に彼女は優しい人なのだ。
―異世界交流センターでは季節が夏になりプールの授業が近づくと、とある先生の周りに女生徒が急に近寄らなくなるという。
男子に少しでも綺麗な身体を見せたい乙女心と、普段よくしてくれるその先生の悲しむ顔を天秤にかけることを強制するその期間は『竜の試練』と呼ばれ、多くの生徒に恐れられている。
~今日の動物~
百舌鳥・・・
言わずと知れたサイコ鳥。秋から春にかけては開けた平地、夏から秋にかけては涼しい高原に生息している。また、越冬するための狩場争いが激しいことでも知られる。
モズのはやにえで有名だが、その明確な理由は不明。一説によると『狩猟本能』を満たすため、『獲物』を晒すことで縄張りを主張しているとも言われている。
ハードなエロの匂いがしますね。
鮟鱇・・・
言わずと知れたリョナ魚。水深300m以下の深海に生息している。広大な深海に対して個体数が少ないため『性的寄生』という特殊なプロセスが生殖に含まれる。
深海で雄と雌が出会った場合、まず雄が雌に嚙みつき、その後雌が雄を『吸収』する。この際雌の外部器官として雄の精巣は掌握され、ただ『精液を供給するだけ』になる。
このプロセスでは、雄側に免疫システムが機能していないことが重要である。しかし免疫がなくとも雄の鮟鱇が病原体に対抗している事実があり、全く未知の免疫システムを持っていると結論づけられている。
「わからせ」、「ふたなり」と隙がありません。日本人の何人かは鮟鱇から人間に進化したルーツを持つんでしょうね。
綺麗な女の子に近づいたらゴー、フィニッシュで食べられます。
出展;https://honcierge.jp/articles/shelf_story/6796
https://nazology.net/archives/65753