ピスカ・スーユの精鋭部隊がアタタルカ現皇帝と、インティ前皇帝を奪回したキートの政変から2ヶ月が経った。
現在、インティワタナではインティ前皇帝が重病で病床に臥しているとの噂が飛びかっている。無論これは流言で、アタタルカに全権を譲った前皇帝が、アタタルカ現皇帝に権力が集中するようにとの配慮だった。その配慮を活かせるか否かはアタタルカ皇帝の手腕によることが大きいが。
現在、インティ前皇帝の近況を知っているのは、ワランカ・アルパのメンバーと、その周辺の者、極秘で募っている前皇帝の親衛隊ぐらいのものだった。市井の住民たちはインティ前皇帝の重病を真に受けている者が多い。
しかし、その情報に惑わされない勢力がいる。
先のキートの政変で同士討ちをしたりして、いいところなく敗れ去ったエストレージャ特殊部隊「黒の中隊」だった。中隊の頭脳とも言うべき存在で作戦行動の要であるラ・パルカ(2番機)はチャルチに身体の自由を乗っ取られたフェリア(5番機)に刺されて重傷を負い、早々に戦線離脱を余儀なくされた。
「インティ前皇帝の重病は嘘情報のはずです!油断はなりません。私は以前インティ前皇帝を拉致した時に、彼の胆力や頭脳明晰ぶりを間近に見ております。」
ラ・パルカは熱心に主張する。現にインティワタナに忍び込ませている間諜もそのような情報を得てはいるものの、肝心の居場所や近況が全くつかめない。
「姉様。」
1番機アルカンヘルのそばに寄り添う長身、金髪の彼女。こちらはタカシナ歩兵と空兵クシュリュに苦戦したレイ・コリブリ。彼女もインティの崩御に疑問を抱いている。そして彼女が一番疑念を抱いているのが、5番機フェリアの存在だった。
「フェリアは裏切る可能性があります、閣下の早急な処断を求めます。」
レイはアルカンヘルに斬りつけたフェリアを許せないらしい。アルカンヘルはそんなフェリアを不憫に思い、言葉を発しないのでピサロ宛ての手紙を書いた。
《私はフェリアが裏切るとは思えません。あれは水の女の妖術に操られただけのこと。》
全く自分の意見を言うことのない無口な彼女が、手紙を綴るのすら異例だった。しかしこの手紙は、ピサロの手に渡る事はなかった。嫉妬に駆られたレイがピサロに渡すふりをして、隠してしまったからだ。
ここまでレイがフェリアを嫌うのは、彼女がキートの政変からの敗走直後に、フェリアとアルカンヘルとの言い争いを目にしてしまったからだった。