「私は、黒の中隊の中では実力を認められていた。」
「わかるわよ。あんたが支給された武器の切れ味と頑丈さを見ていれば。鉄の武器は私たちピスカ・スーユにとっては脅威でしかないけど、あんたの武器は他の一般の兵士が使っているものに比べてもモノが違いすぎる。」
「そうか。少尉もわかってくれるか。」
ケチャは牢の前でフェリアから押収したナイフを手に取ってしげしげと眺めている。「カイの話だと、ククリというらしいな。東洋のナイフかな。独特な形をしている。」
「天竺の奥のあたりの国で使うらしい。エストレージャでもなかなか手に入らない貴重品だよ。それを私は支給されたんだ。」
「そう、黒の中隊、とやらの中でもあんたは特に期待されていたのか。…私はあの帽子の無表情の美人さんが怖かったよ。空中で音もなしにすっと後ろをとられて、髪をつかまれたり。点にしか見えない遠距離から正確に私の足を撃ち抜いたり。おかげでキートまでたどりつくのに苦労したわ。」
「そいつはアルカンヘルだ。黒の中隊1番機。ヤツは特別さ。蘇生も飛び抜けて早かったしな。ただ私は苦手だったな。何せあいつは全く言葉を発しないんだ。パルカがヤツの表情を読み取っての通訳者替わりだったから作戦行動が取れただけで。ただピサロの気に入りだった。アルカンヘルは言葉を話さないが人の心を見透かしているような行動をする。陰気な癖に恐ろしく気が回るんだ。」
「チャルチに刺し傷を与えたのもそのアルカンヘルだけだったな。」
「そのチャルチという名前の方が私にとっては恐怖だよ。怖いもの知らずの私だけど、あのきれいな顔をして冷酷な笑みが。そしてデタラメな破壊力が。」
「まぁチャルチは前皇帝の意向でここには来られないようにしてあるから、安心しなよ。私はお前のことをもっと知りたいから、話の流れでチャルチやカイのことを口にするかもしれないが、それ以外の意図はない。…私の個人的な気持ちでは、お前をこのまま牢に繋いでおくのは惜しい。できれば私の部下に欲しい。」
「…こんな裏切り者の私にもったいないお言葉。しかしそれはカイとチャルチと一緒に働くということでしょうか?」フェリアが妙に丁寧な言葉遣いになった。目が少し泳いでいる。
「そうなったら、カイとチャルチは独立させて一小隊にしても構わないだろうが。ただ、チャルチの力は私たちでも制御し切れるかわからないところがあって、彼女は正式な軍属ではないんだ。彼女は正式には前皇帝直属の女官で戦場ではカイの手伝いという扱いになっている。そしてカイは現状私の部下だから、そのような間接的な命令系統になっている。」
「なんとなくわかります。私たちで言うなら、極秘任務以外で単騎での出撃を唯一認められたアルカンヘルのようなもの。私たちも彼女が仲間とはいえ、底知れぬ力を恐れているところもありました。」
「すこし違うかも。…でも、まあ大筋は合っているかな。しかし。…そろそろ聞いていいか。お前がエストレージャの反逆者として捕縛された後に脱走した理由を。」
「…少尉殿相手でも、お話はできかねる。すまない。」
フェリアは固い表情になって、口をつぐんだ。
「そうか。フェリアがそうなったら、何も話してくれないと言うことは私も分かったよ。もう夜も遅い、私はこれで失礼する。」ケチャはフェリアに向けて笑みを浮かべた。
フェリアは手錠をはめられた両手をケチャに向けて深く礼をした。