「ちょっと秘密工作の仕事をもらったんで、5日間ほど留守にします。」
レイ・コリブリは、黒の中隊の控え室に戻ると、彼女の武器のフランキスカ・アックス(飛斧)を手にして、出ていこうとする。
いつも無言なアルカンヘルに一礼したあとで、レイはアルカンヘルの首筋に手を絡めて抱きついた。アルカンヘルは現在も療養中だが、この頃は作戦会議には出られるまでに回復していた。
「行ってまいります。姉様。」
「どこへいくんだ?」ブラソが行き先を尋ねるも、レイは無言のアルカンヘルにまとわりついてにっこりと微笑んで答える。
「極秘任務よ。閣下からそう言われているの。」
ちょっと鼻息が荒いレイを、ラ・パルカがいぶかしむ。「5日間も留守にするということは、…ピスカ領内へも行けますね。」
こいつはいちいち勘の回る女だ。そして私達のみならず、ピサロやアルマグロに対しても平気で皮肉を言う。
「…万が一フェリアに会うことがあったら、パルカがよろしくと。」
ラ・パルカは冗談とも皮肉とも本気とも取れる口調でレイを惑わす。
「フェリアが生きているとは思えませんが。フェリアが逃げた日。大量の出血が残っていたことをラ・パルカも覚えていますよね。あのトゲ付きの鉄格子から這い出すために相当な怪我を負ったのでしょう。あの状態でピスカ領内まで逃げ込めるとは思えません。」
一応格上のパルカには敬語を使うレイ。しかし、レイはラ・パルカも少々苦手であった。落ち着いた語り口でさりげなく本質をついてくる。
「…そうですか。」
パルカが少し微笑んだようだった。レイはいらつく自分に気づいた。これ以上ラ・パルカと話すとボロを出すかもしれない。フェリアの生存を口走ってしまうかもしれない。
「行ってきます。」
アルカンヘルは相変わらず無表情でうなずいた。
「レイとかいう女性がフェリアの見張りにつくと言うことだけど。アタタルカ陛下の部下と言っても、私たちと全く面識がないじゃない。ちょっと心配なのよ。だから、リゲル、それからラフィタにも警戒をお願いしたい。」
ケチャがキートに旅立つ夜、彼女に呼ばれたラフィタとリゲルはお互いの顔を見合わせる。
「もちろん二人のお仕事が増えることになるから、インティ陛下に頼んで手当ははずんでもらうようにしたんだけど。」
「わかりました。ケチャ少尉のお帰りまで、フェリアさんをお守りします。」
リゲルは力強くうなずく。ラフィタはそれを見て、おずおずと話し出す。
「僕は世話係といえど、フェリアさんにまだ会えていないんですが。」
ケチャは涼やかに笑った。
「いいのよ。フェリアのピンチの時に、彼女を救ってくれれば。」
ラフィタはうつむく。
「僕で役に立てますでしょうか。」
「君の腰元にある銃にきいてごらん。」
ラフィタはハッとしてケチャを見つめた。「知ってるよ。ラフィタが毎日射撃の練習をしていることぐらい。」「その銃は飾りじゃないことぐらい気づいたわよ。」
ケチャはラフィタを見つめて、力強い視線を向ける。
「騎士道、っていうのかしら。エストレージャには親愛なる女性を守ってこそ一人前の男って考えがあるみたいよね。ラフィタが騎士になるのを楽しみにしているから。」
そう言って、ケチャは漆黒の夜空に飛び去っていった。目指すは家族の待つキート。