フェリアはラ・パルカと別れた後、ひたすらにインティワタナを目指した。
クスコの市街区からは、すでにピスカ・スーユの制空権となっている。ここからは、千の鳥ワランカ・アルパのメンバーが警戒のために空を飛んでいる。
そんな中、ボロボロの姿で飛んでいたフェリアがクスコ市街地の上空でカイとクシュリュに捕まった。
一度インティワタナの牢獄から脱走しているため、今度はさすがに釈明も叶わない。捕縛され、即、獄につながれる事になった。
「…私はどこにも居場所がなくなったんだ。あのままエストレージャにいても、じきに同僚の女かピサロに殺されていた。」フェリアは牢の中でつぶやく。
「それがあなたを操った私のせいだっていうの?」
牢番役のチャルチは眉をひそめて冷ややかに言い放つ。むろん牢番は彼女だけではない。
「チャルチ。」カイは手で彼女を制した。フェリアはねめつけるようにチャルチに言い放つ。
「…そうよね。私、あんたの正体が植物の女だって見破ったもんね。私の中にあんたの種を入れて、さんざんもてあそんでくれたじゃない。幼馴染のパルカを刺したり、アルカンヘルに斬りつけたり。あんた笑って見てただろ。いい性格だな。そちらのカイと違って。」
チャルチの顔が一気に変貌する。カイは青ざめた。「チャルチ!あんたがいたら話が進まない!ケチャ姉を待とう!」カイは半分チャルチを押しのけるようにして、フェリアの牢の格子の正面に立った。これでチャルチはフェリアには手は出せないはず。
「お待たせ。」そしてケチャが入ってきた。
「ケチャ少尉!お待ちしておりました。」
この最悪な雰囲気を振り払うかのように、カイがわざとらしく敬礼する。
「待たせたな。カイ軍曹。」
ケチャは察したか、カイとチャルチに真剣な表情で敬礼をした。
「ご苦労、チャルチは正規の軍人ではないから、休んでいてくれ。」
「で、でも…。」
「なぁに。カイもじきに下がらせるから。何かカイに飲み物でも用意してやっておいてくれ。」
「はぃ。」
チャルチは明らかに不服そうな表情のまま、フェリアが閉じ込められていた牢を去った。
「もうカイはこの子と顔見知りだな。」
「…腐れ縁ですね。」カイは表情を崩す。少しだけ。
「ケチャ少尉ですか…。女の身でありながら、わざと偽の降伏をして我がエストレージャの中枢近くまで潜入していたという。」フェリアが遠慮がちに口を開いた。
「まあ、エストレージャを裏切ったという点ではあんたと一緒、同類よ。」ケチャはからりと言い放つ。
「私は…祖国に裏切られたというか。エストレージャを裏切れないまま、インティワタナの牢を脱走して、二日間飛び続けて、なんとか皇帝の処刑の日に作戦復帰したんです。その時に…。」
「チャルチの不思議な力で身体を操られて、あなたの仲間を襲うことになったと。」カイが口を挟んだ。「…あれは私から見ていても、ひどいものだった。チャルチの存在が恐ろしかったよ。」
「…そう、あれ。私は反逆の疑いをかけられて、幽閉されたのさ。」
フェリアは絞り出すように声を出す。涙がその声に混じっているようだった。
「私もその時の様子は聞いているよ。一応カイの上官としての立場と、従軍の女兵士としての立場から、チャルチを叱ったけど。…チャルチって、ちょっと病的にカイのこと好きだから、どこまで小言が効いているか。」
少しため息が混じっているようなケチャの話ぶりに、カイも続いた。「ま、そのおかげで、私も何度か命拾いしてるんだけどさ。」
カイは微笑すらなく固い表情のまま肩をすくめる。彼女の左肩は、戦場の古傷のせいか、少し歪んでいるように見えた。