「なーに、皇帝の座はヘタレの弟にやったから、俺は動きやすい、なんならフェリア嬢の尋問は俺がやってもいい。」
インティ前皇帝は陽気に笑う。
「陛下なら。ヤコブをフェリアの尋問にあてるのでなければ、私はそれで安心できます。」ラフィタは安堵の表情を見せた。
「そのヤコブだが、以前のフェリアの尋問には女性の部下を同席させていたようだ。そんなに邪な人間でもないのではないか?」
「しかし、エストレージャでは300人近くの命を錬金術の実験対象にして奪ったと。」
「…。それも聞いている、だがまだこの国ではヤコブは罪に問われる行動は起こしておらぬ。この件についてもしばらく余に預けろ。」
「ははっ。」ラフィタはかしこまった。
インティは手をパンパンと叩いた。
「お呼びでしょうか。陛下。」
「おうリゲル。今日からお前にも一つ仕事を受けてもらう。エストレージャからフェリアなる小鳥が再び舞い込んできた。ラフィタにも彼女の世話と監視を頼んでいるが、こいつは男だ。着替えや入浴の世話などは以前やってくれたようにお前に頼みたい。女のお前ならフェリアも抵抗ないだろう。」
「ははっ。」リゲルという猫目の長身の美人はラフィタに一瞥をくれて、インティ前皇帝の御前でかしこまる。
「ちこうよれ。」
前皇帝はリゲルのみを呼び寄せ、耳元でささやいた。
「フェリアはスパイかもしれん、怪しい動きを見せたら、ちゅうちょなく捕らえよ。生捕りが難しければ、命を奪うのもやむをえん。」
「はっ。」
「…もう一言言っておこう。ピスカ・スーユの民の中にはフェリアの命を狙う過激な者もいると聞く。アタタルカ皇帝や俺を拉致した連中の仲間だからな。むしろそいつらが暴走する可能性もある。そいつらからもフェリアを守ってくれ。クスコの強硬派の中には魔女狩りをせよとがなりたてる連中がいるらしいからな。」
「魔女狩り…。」リゲルは息を呑んだ。
「おぞましい話よな。何も罪のない少女たちを無実の罪で捕らえ、見せしめで火あぶりにするなんて。旧大陸の野蛮人どもの悪習を我が国で行わせてはならん。これは余の厳命と心得よ。仮にフェリアがスパイだったとしても野蛮な魔女狩りなどでの処刑はならん。」
「ははっ。」
「そのためにはお前の超人的な能力も使うことは許すぞ。その猫のような俊敏な身のこなし、見事なものだ。」
「お褒めに預かりまして。では」
いつの間にかリゲルの姿は消えていた。
「ラフィタも下がって良いぞ。」
「はっ。」
この話で初めて、リゲルなる登場人物が出てきました。オリジナルキャラクターに見えますが、実は彼女は単行本3巻で初登場します。ヤコブの助手の、あの猫目の長身美人です。結構重要な脇役なのに、名前が明かされていません。そこで私はリゲル、と彼女に名づけ、また、再び活躍の場を与えてみることにしました。