ある寒い日の早朝、暖かいベッドと毛布に包まれて穏やかな寝息を立てていたダンブルドアは足元で何か小さな生き物がモゾモゾと動く気配を感じて目を覚ました。
夢ではない。柔らかな、それでいて暖かな何かがダンブルドアの足元を確かに包み込んでいた。
イギリス最優の魔法使いであるダンブルドアにとって、自分の足元の毛布をめくる事はそこまでの勇気を必要としない事だった。
枕元で彼と共に眠りについていたイギリス最高の杖であるニワトコ杖を握り締めれば、彼はもう無敵だ。
「あ!」
そこには全裸の少年が巻き付く様に眠っていた。
髪は一番お気に入りの靴下と同じ、ピカピカのレモン色で、顔付きはかつての親友、ゲラート・グリンデルバルドの幼き頃にそっくりだった。
ダンブルドアは小さく息を吐き、無敵の杖を拾い直した。
それから泳ぐ様にあちらやこちらを見つめた後、小さく息を飲んで少年の肩を揺すった。
これには相当な勇気が必要だった、彼は校長先生だが、同時にグリフィンドール生でもあった。
「おはよう、よく眠れたかね?」
「ご主人様! ご主人様! おはようございます! 今日は百年目なんです! 百年目!」
ひゃくねんめひゃくねんめと、はしゃぎ回る少年を見ながら、ふとダンブルドアは今日がクリスマスである事を思い出した。
多くの人に愛され、尊敬されているダンブルドアは実に沢山のクリスマスプレゼントに恵まれている。しかし、その中に目を奪われるようなウールの靴下が紛れ込んでいる事は滅多になかった。
百年前はプレゼントの山から靴下を見つける事にさほどの苦労もなかったのだが……。
少年の髪と同じ色をしたレモン色の靴下も、遥か昔のクリスマスプレゼントだった気がする。
「ふむ……実に興味深いのう、靴下が少年になってしもうた……不思議じゃ、まっこと不思議じゃ」
ダンブルドアの立派な足にはふさふさした白い毛が沢山生えていたが、そこにレモン色の相棒はいなかった。
空っぽの足を見つめ、少し悲しい気持ちになったダンブルドアは杖を振り、二番目にお気に入りの靴下を取り出した。
よれよれになったオレンジの靴下だ。
この世で二番目に愛している靴下の登場にダンブルドアはたちまち夢中になった。
手に持ちしげしげと眺める。実に美しいオレンジ色だった、この靴下を天高く掲げればフォークスはたちまち小さくなってしまうだろう。
胸の内が靴下と幸福な記憶でいっぱいになったダンブルドアは、ふと顔を上げて辺りを見渡した。
そこにはとても悲しそうな、それでいてどこか羨ましそうな目をしたレモン色の髪の少年が立っていた。
その目はキングスクロス駅で両親とただいまを交わす友達達を見つめるトムやハリーと同じ目だった。
ダンブルドアは自分の背中が急に丸くなっていくのを感じた。
あんなに美しかったオレンジ色が、今は恥の象徴にしか見えなくなっていた。
ダンブルドアは靴下を後手に隠し、こそこそと衣装ケースの中にしまい込んだ。
よれよれだったオレンジ色の靴下はもっとよれよれになってしまったが、彼の心中はもっともっとよれよれになってしまった。
しかし、少年の心はピカピカだった。
ニパっと微笑んだ少年は自らの靴下を脱ぎ取り、ダンブルドアに手渡した。
ほかほか。
百年のぬくもりは今日もダンブルドアの足を優しく包み込んだ。