未知の世界を体験する。言ったはいいが、それより先にやるべき事は沢山あった。
先ずは魔法の仕様がユグドラシルと変わらないかの有無である。私の場合、森祭司(ドルイド)という信仰系の魔法を主軸とした魔法詠唱者だ。通常の攻撃魔法はもちろん、強化系や弱体化の魔法など、効果や効果時間に変化はないか一通り確認した。植物系のモンスターを召喚した際は子供の頃からよく見ていたアニメの登場人物みたいに格好良い演出をしながら召喚してみたいという欲求にかられたものだ。今度色々と試してみよう。
次は装備品の確認も行った。武器や防具、装飾品も含めて、全てだ。その上で気付いた事がある。私やモモンガさんは端的に言えば魔法詠唱者。魔法職関連の装備を身に付け使う事が出来るが、前衛職である戦士などの武器や防具は持つ事は出来ても使う事が出来ないようだ。私の場合、防御役であるタンクも兼ねていた為、使えるのではと思ったが、前衛職が使用する武器の使用は叶わなかった。
モモンガさん曰く、外見と同じく内面の方も自身が作成したキャラクターに影響を及ぼしているのかもしれないとの事だ。特にモモンガさんの場合は精神面も強く反映しているらしく、食欲や睡眠欲求といった人間が本来持つ三大欲求すらも希薄になっているようだ。唯一、性欲だけは僅かに残っていると感じているようだが、それすらも、怪しく感じているらしい。この件に関しては、ユグドラシルのサービス終了前に用意していた種族変更の指輪のお陰で食事や睡眠も取れるようにはなったが、装備した事によって種族値が下がってしまう為、ステータスが大幅にダウンしてしまうデメリットがある。使用するとしたらナザリック内でしか使用出来ないだろう。それでも、指輪の件に関しては、私達からすれば、特にモモンガさんからすれば僥倖だったわけだが。
「装備に関しては魔法職関連以外の装備は無理っぽいですね」
「でも、魔法で生み出したものであれば装備も可能ですよ」
「後はスキルも調べないといけませんね」
「場合によっては料理スキルとか搾取スキルを所持していないとこの世界でそれすらも出来ない可能性もありますね」
「ですねぇ……ゲームじゃないのにゲームの設定を反映させられている気がして違和感しかないですよ」
「唯一、ゲームと違うと言えば、フレンドリーファイアが有効になっている事でしたね」
「ですねぇ、変にゲームの設定に忠実なのかそうでないのか」
「あるいは、何かの手違いで中途半端な設定にならざるを得ない状況になってしまったか」
「あぁ……例えば、ワールドアイテムみたいな特殊効果で世界そのもののバランスが崩壊させられたとか?」
「俺達以外のプレイヤーが、この世界にいたらその可能性はありますね」
「それにしては、随分と判断が早いですね。自分達以外にもプレイヤーがいるかもしれないのに切り札を速攻で切るなんて」
「あるいは、切り札を切っても問題ない状況だったか。いや、流石にそれはないですね」
私達がこの不思議な現象に巻き込まれてそう時間は経っていない。一日どころか半日も経っていないだろう。その状況でワールドアイテムを……それも、中途半端にゲームの設定に引っ張られているような状況から『ユグドラシルの魔法を使用したい』とか、『スキルを使用したい』みたいな曖昧な形でお願い系のワールドアイテムを使用している可能性があるとは考えづらい。少なくとも、数日、数カ月と、この世界の状況を詳しく調べた上で必要と判断すれば行使する事も考えられなくはないが、モモンガさんの言う通り、流石にないだろう。
「後は外の状況ですけど、どうしますか?」
「確か、沼地ではなく平原が広がっているって言われてましたけど、それ以上の情報が無いんですよね」
「一応、遠くに森林地帯を確認しているとの事でしたが、それ以上の情報はなかったですね」
「今は夜みたいですし、明日の朝、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で外の様子を確認しましょう」
「RPG風に言えば村か街……最低でも人の姿だけでも確認出来れば御の字ですね」
「ですねぇ」
周囲は平原で、遠くには森しかない。遠隔視の鏡で遠くの様子を調べ、村か街を見つける事が出来れば今後の対策を取る事が出来る。人の生活もそうだが、文明レベルも何処まで進んでいるかが肝心だ。私達は魔法を行使する事が出来るが、この世界の人間に魔法を行使する事が出来るか不明だし、何より、自分達の様な異形種が存在するか確認しなければならない。場合によっては、モモンガさんには種族変更の指輪を常時装備してもらう必要もあるわけだし……。
「そういえば、ジンクスさんは人狼ですけど、人間の姿になれるんですか?」
「はい。感覚ですけど、人の姿にもなれますし、狼の姿にもなれそうです。説明するのが難しいですが、何となくそれが普通に出来るって感じですね。ただ、この半人半狼の姿がデフォみたいなものなので、この姿の方が楽ではありますね」
試しに、狼の姿になってみる。ただ、狼の姿になると、種族値としてのステータスが強く反映するらしく、その代わり、装備していたアイテムの効果が得られない……というより、自然と装備がアイテムボックスに戻されるらしく、狼の姿となった私は所謂『全裸』になるのだ。しかし、狼の性質が強く反映されているせいか、その件に関しては一切気にならない
「……っと、どうですか、モモンガさん」
モモンガさんに話しかけるも、自分の口から発せられたとは思えない低い声質。声帯が人狼や人間みたいなものとは違うのだろうか。その辺りは詳しくわからない。
「おぉ、立派な毛並みですね。後、大きい」
指摘通り、狼の姿になった途端、目線が高くなったような気がする。というより、モモンガさんが少し小さくなったような感覚だ。アニメや神話を元にした映画に登場するような森の主、大の大人を数人背中に背負っても難なく駆け回る事が出来そうな体躯と、モフモフな毛並み。分かってしまう。このモフモフは絶対に気持ち良い。
「モモンガさん、是非ともモフって見て下さい。私にはわかります。この毛並みは絶対に良いやつだと」
「自画自賛しますねぇ。でも、確かにこの毛並みは……」
そう言って毛並みにそって撫でるモモンガさん。
「うわぁ、凄いモフモフですよ」
撫でたりポンポンと叩いて感触を確かめる。きっとこれは癖になるだろう。
「それじゃあ今度は人間の姿ですね」
「そういえば、ジンクスさんの人間種の姿ってあまり見た事が無かったですね」
「単純にステータス値が高いわけではないですし、どちらかというと人狼時の姿の方がバランスが良かったですからね。狼の姿は単純な身体能力でしたらいいんですけど……まぁ、装備品の恩恵がないのが大きかったから、最終的に人狼姿の方が無難だったんですよねぇ」
うまく種族値を振り分ければ、人間時の姿の方が良いという情報もあったのだが、その時にはステータスの振り分けを人狼時に多めに振っていた事もあり、人狼>狼>人間という形になってしまったわけだが。
「それでも、人間時のキャラも頑張って作成したんですよ」
そう言って、人間の姿になると、モモンガさんも『おぉ』と声を漏らしてくれた。
「なんというか……人のよさそうな親戚のお兄さんみたいな雰囲気ですね」
「子供受けしそうな顔でしょ? まぁ、リアルの世界では女性関係に恵まれる事が無かったので、その反動で作った様なものなんですけど」
伴侶にも子供にも恵まれる事はなかったが、子供自体は好きだ。親戚もいなかったので、職場の同僚が自慢気に子供のスクショを見せてくれた時には羨ましいとも思った。そんな中で自分のキャラクターを作成していた私は、せめて自身の分身となるこの『ジンクス』に子供受けしそうな見た目にしたのだ。
あぁ、なんだか懐かしいな。もしかしたら、人間時の『ジンクス』にステータス値をあまり振らなかったのは、子供に好かれたい自分が、子供受けされたい自分が、単純に暴力的な人物として映らないようにしたいと、心の何処かでそう思っていたからなのかもしれない。
人間の姿になると同時に、アイテムボックス内にしまわれていた装備品が元に戻っている。どうやら此方も自動的に戻るらしい。これは便利だな。そもそも人狼の姿から人間や狼の姿に戻る機会があるか分からなかったけど、もしもの時……狼から人狼や人間になる際に一々服を着替えなおさないで済むという事だ。
「これで一通りの確認は終わりましたね」
「ですねぇ。スキルも魔法も、フレンドリーファイアがある事も分かりましたし、マジックアイテムの仕様効果もある程度把握できました。後、するべきことは……」
「あ、もう一つありました」
「なんですか?」
「ほら、私がサービス終了前に購入したワールド・アイテムです」
「……あぁ、すっかり忘れてました」
「まぁ、これらに関しては宝物殿行きなのは確定ですけど、正直、買ったアイテムがアイテムなんですよねぇ」
「確かに、特に『アレ』は不味いですよね」
「少なくとも、厳重に管理しないとヤバイやつですよね」
最後という事もあり、曰く付きのワールド・アイテムを手に入れた私達ではあるが、こればかりは厳重に厳重を重ねて管理しなければならない。なにせ、元の持ち主がお願い系のワールド・アイテムを使って生み出した特殊な……いや、最厄のワールド・アイテムなのだから。
「ネタとしては面白いですけど、絶対に使っちゃダメですよね」
「そうですねぇ。まぁ、もしも、誰かにお披露目する機会があったら、紹介するだけでしたらまだ良いんじゃないですか?」
「ははは、お披露目しただけでアウトなやつなので、最悪、その時の映像媒体だけを視聴させるだけになりそうですけどね」
元の持ち主が『それ』を使用した時の映像、元々はその持ち主と敵対していた人物が配信用にと残していたものだったが、その映像が流出した事によって一時期はユグドラシル内で『それ』の使用を禁止するよう運営に抗議の文が殺到し、その一度の使用からサービス終了の間、『それ』が使われる事はなくなったのだが、当の持ち主は、サービス終了を機に競売にかけ、それを私が競り落としたというのが、そのワールド・アイテムを入手した経緯だ。因みに、その時の映像を見た当時のメンバーはあまりの内容にドン引きし、最悪の場合、宝物殿に避難する事も視野に入れるレベルの代物である。
まぁ、そのアイテムを記念として入手した状態で、この未知なる世界にいるというのはある意味大きなアドバンテージとなるだろう。何せ、一度発動すれば、その後どうなるか私達は知っている。対処法も分かっている。この世界が私達が生活するには過酷すぎる環境で、危険な場所だと判断すれば、最悪これを使ってしまえばいいのだから。
(……と、そんな事、考えちゃけないな。これはあくまで抑止力みたいなものだ。安易に使っちゃいけない。これを持っているというだけで、交渉のテーブルに着く事が出来る程度考えておかないと)
うん、やっぱりこれは危険だ。国同士が『俺を怒らせたら大変な事になるぜぇ』って言いながら牽制し合っていた過去がある。ボタン一つで国を亡ぼす事が出来る兵器を、何かの拍子にそのボタンを押せば、後は互いにボタンを押しあって世界は終わってしまう可能性を秘めた歴史があったのだ。そんな事をしてはいけない。
「じゃあ、これは宝物殿に封印という形でいいですね」
「はい。確か、モモンガさんが創ったNPCがそこにいましたよね。折角ですから会いに行きますか?」
「え? あぁ、いや……そ、そうだ。折角ですからそのアイテムは俺が持っていきますよ。一人で」
「え、私が行ったら何か問題でも? パンドラズ・アクターに会えると思ったのに」
「ははは、流石に自分が創ったNPCを他の人に見せるのは恥ずかしいと言いますか……」
「……あぁ、成程。そうですね。分かりました。では、パンドラとはまた機会を見て。それでいいですか?」
「はい。お願いします」
宝物殿にはモモンガさんが創ったNPCであるパンドラズ・アクターがいる。でも、モモンガさんはその子の紹介を渋っている節がある。当時は格好良いと思って自分の趣味を前回に創ったNPCだから、今更になって恥ずかしくなったのかな?
この先、宝物殿を訪れる機会が増えるのだ。その時に会えばいいだろう。
「では、このアイテムをお願いします。私は部屋に戻って明日に備えますよ」
「分かりました。では、また明日」
「はい。あ、でも、モモンガさんもしっかり睡眠を取って下さいよ。アンデットは睡眠が不要なのかもしれませんが、人だった頃の生活リズムだけはしっかり守っていきましょう」
「そうですね。分かりました」
そう言って、種族変更の指輪を取り出したモモンガさんに、私は頷くと、部屋から退出した。モモンガさんの部屋も良いけど。私の部屋も中々に良かった。もしもこんな部屋に住む事が出来たらと夢を見ながら家具の種類を厳選し、配置に気を使いながら完成させた夢のマイルーム。まさかそこを使う日が来るとは夢にも思わなかったが、悪くないな。この昂る感情を胸に、軽い足取りで自室へと戻った。
オリジナルのワールドアイテムを登場させましたが、そこはご容赦下さい。
お願い系のワールド・アイテムを使って創られたヤバイ系のアイテムです。
元の持ち主自身、此処まで効果が出るとは思わなかった代物です。
なお、そのアイテムを使用した後、ユグドラシルプレイヤーの多くがそのアイテムの使用を禁止するよう運営に抗議文が殺到するレベルの代物です。
もしも、後に登場するであろう金髪聡明な鮮血何某がその時の映像を見ようものなら卒倒するレベルの代物です。
出すか出さないかは、その時の筆ののり具合で考えていこうと思っています。
それでは、感想等ありましたら、是非ともお願いします。
個人的にオーバーロードで好きな4名なので、作品に登場させる予定ですが、皆さんはこの中で誰が好きですか、参考までに教えて下さい。
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