人狼は不死者の王と共に異世界を謳歌したい   作:モノクロさん

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イベント発生ですよ、モモンガさん

 翌日、私とモモンガさんは昨晩話していた通り、遠隔視の鏡を用いて外の様子を調べていた。鏡に映る外の風景。リアルの世界では見る事は叶わなかった自然の景色がそこにある。モモンガさんと私は、鏡をタブレットの様に操作しながら画面を切り替えていった。最初は操作する事に苦戦を強いられると思っていたが、いざ使ってみると、案外簡単に操作する事が出来た。何となく、鏡を出すと共に使い方が頭の中に浮かんできたのだ。もしかすると、私が設定していた魔法の深淵を覗き見たという設定に中に、マジックアイテムの使用時のノウハウもある程度であれば瞬時に理解出来るといった追加効果が付与されているのかもしれない。もしそうだとしたら、恐ろしいまでのファインプレーである。

 

 とはいえ、画面を切り替えたり、ちょっとずつ遠くまで景色を映していくも、未だに街はおろか村も発見できない。ついでに言うと小動物を発見する事は出来たが、人の姿が未だに見つからない。

 

「…………」

 

「…………」

 

 無言で作業を続ける。普段であれば、談笑交じりに作業するのだが、この部屋には私とモモンガさん以外にもう一人いる。ナザリック地下大墳墓の執事、セバス・チャンである。セバスは私達ギルドメンバーの生活面を支える使用人の最高責任者という設定だ。NPCの前では普段の様に砕けた口調で話す事が出来ない。私は兎も角、モモンガさんが出来ない。ナザリック地下大墳墓の支配者として、普段の口調で話していたら威厳を損なってしまうそうだ。

 

(沈黙が……沈黙が辛い……)

 

 何となくだが、セバスが私達の事をじっと見ている気がする。何だろう、見張られている訳ではない筈だ。気にしすぎだろうか。それとも、見てはいるけど特に他意がないとか? ただ見ているだけで深い意味はないとか? どっちだろう……。

 

「……あ」

 

 と、セバスの視線を気にしすぎていたせいか、誤って画面を大きくスライドさせてしまった。少しずつ捜索範囲を広げていくつもりが一気に遠くまで行ってしまった。これはやらかしたと思い、画面を元の位置に戻そうとした私の目に、漸く目的の光景が映り込んできた。

 

「モモンガさん、見つけました。人です」

 

「っ……ほう、そうか」

 

「見て下さい。馬に乗った……全身鎧(フルプレート)の集団です」

 

 私の画面に映し出されたのは、馬に騎乗した全身鎧の集団が真っ直ぐに近付いてくる光景だった。全身鎧……まるで中世のヨーロッパ風な佇まいだ。迷いなく真っ直ぐ何処かに向かっている集団を見て、私とモモンガさんは漸く知性のある生物を発見できた喜びと、彼等の格好からなるこの世界の情勢に期待を膨らませながら彼等の行方を追った。

 

「漸く知性ある生物を確認する事が出来たな」

 

「えぇ、そうですね。彼等が何処に向かうかまで追跡する事が出来れば、もっと情報を得る事が出来るかもしれません」

 

「そうか。ははは、苦労した甲斐があった。という事なのだろうな」

 

 偶々とはいえ、貴重な情報源を見つけた。このまま彼等の動向を見守ろうとしていたその時、私達の会話に応える様に拍手が鳴った。拍手した人物は私でもモモンガさんでもない。先程まで私達の傍に控えていたセバスから発せられたものだった。

 

「おめでとうございます。モモンガ様、ジンクス様」

 

「あぁ、ありがとうセバス。これで漸く外部との接触を図る機会を得られたというものだ」

 

 掛け値なしの称賛の言葉に、思わず口元が緩んでしまう。普段から誰かに褒められる事が無かったせいか、相手がNPCでも、嬉しくなるというものだ。

 

「とはいえ、まだまだこれからだ。彼等の動向を調べ、その上で然るべき処置を……ん?」

 

 全身鎧の集団を追っていると、そこには小さな村があった。畑で囲まれた小さな村、ゲームの世界で言う所の開拓地といったところだろうか。村も見つける事が出来た。成程、この全身鎧の集団はこの村を管理している国の騎士か何かなのだろう。視察の為に此処を訪れたのだと、安易に思った私は、ついでに村の様子を確認した。だが、その時の村人の様子を見て、私は、その考えが間違っている事に気付いた。

 

 村全体を見ていた為、村人の表情までは読み取る事は出来ない。だが、人狼という種族の特性なのか、村人達の心境とでの言うのだろうか? 彼等の様子から戸惑いと焦りの色が見て取れた。普通、同じ国の騎士を前にそんな変化があるのだろうか。その疑問は、村人達に近付いてきた騎士達の行動で理解した。理解してしまった……。

 

 剣を抜き、手近にいた村人に、その刃を振り下ろす。身体を斬られて倒れ伏す村人と、それを見て悲鳴を上げ逃げ惑う者。何が起きているのか分からず、呆然としている村人達は、後続から来た騎士達の手によって一人、また一人と斬り捨てられていった。

 

 虐殺だ。昔の映画でよく見た光景だ。中世ヨーロッパを舞台にした戦争ものの映画で、騎士達が略奪の為に村人を襲い、金目の物や女子供を連れ去るという、兵士とは名ばかりの蛮族が行う行為。抵抗する手段もなく、一方的に狩り取られていく村人達の様子に、私は目を疑った。そして……。

 

(なんで……目の前で人が殺されているのに)

 

 これは映画ではなく、現実で起きている事だ。現実で起きているリアルな光景だ。にも関わらず、私はその光景に対し、何ら感情が動かなかったのだ。まさかこれも人狼という種族による精神に魂が引き寄せられている影響なのだろうか。

 

 ちらりとモモンガさんへと目を向けるも、モモンガさんも、自身の心境の変化に戸惑ってはいるが、目の前で人が殺されている事に対して何も感じていない事が理解できた。多分、モモンガさんは、貴重な情報源が……程度の事しか考えていないだろう。何故なら自分自身がそうなのだから。草食動物が肉食動物に襲われたからと言って、それは自然の摂理だ。強いものが生き、弱いものは死ぬ。強いものとは騎士の事であり、弱いものとはこの村人の事だ。違う種族の事に対して一々感情的になる事自体が可笑しな事なのだ。

 

 そう感じてしまう自分自身が、酷く恐ろしいものの様に感じてしまった。

 

「…………」

 

 そんな私達の様子をじっと見つめる者がいた。セバスだ。セバス……同じギルドのメンバーであるたっち・みーさんが創ったNPC。あぁ、懐かしいな。こんな状況であるにも関わらず、あの人の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

―誰かが困っていたら、助けるのは、当たり前!―

 

 そうだ。何を考えていたんだ。昨晩、モモンガさんと話していたじゃないか。キャラクターに……自身の種族に精神が引っ張られていると。そうならないように気を付けようと。目の前の光景を見ろ。人が襲われているのだ。無抵抗な村人を一方的に虐殺する騎士達。こんな事がまかり通っていい筈が無い。きっと彼なら、たっち・みーさんならこう言う筈だ。『助けよう!』って。

 

「……モモンガさん」

 

「……どうした。ジンクス」

 

「助けましょう。あの村人を。折角見つけた情報源です。此処で見捨てるのは勿体無い」

 

「だが、彼等にそれだけの価値があるとは思えん。寧ろ、あの騎士達に危害を加える事で余計な問題を抱える可能性があるのだぞ」

 

 冷たく切り捨てるが、本来であればそれが正しいのだろう。此処は未開の地。そしてモモンガさんはギルドの長として、私や他のNPC達を危険に晒す事は出来ないと、村人と私達を天秤にかけ、私達を優先したのだ。それでも……。

 

「モモンガさん……お願いします」

 

 画面に映り込んだ騎士と男の姿。家から飛び出した二人の少女。もしかすると姉妹なのかもしれない。ならばこの男は姉妹の父親なのかもしれない。必死になって騎士から娘を庇おうとする父親の背中に刃が突き立てられる。倒れ伏しながらも、騎士の足元にしがみつき、娘達に逃げるよう叫び続けるその姿に、私は再び、モモンガさんにお願いをした。

 

 ギルドのメンバーとしてではなく、ただの個人として。ジンクスではなく、リアルの世界に存在した一人の男が、同じ趣味を共有した友に対して、頭を下げた。

 

「…………」

 

 暫しの沈黙。そして、私の肩をぽんと叩く感触に、私は顔を上げ、そこにいる人物へと視線を向けた。

 

「分かった。彼等に価値はないかもしれないが、この世界においての我等の実力を確認する必要がある。それを調べるだけの価値はありそうだ」

 

「モモンガさん……ありがとうございます」

 

 足にしがみついていた父親の背中を、他の騎士が何度も貫き、周囲を血に染める。動かなくなった父親の最後の言葉に従う様に森の中へと逃げる姉妹を、先程の騎士達が追いかけていく。このままではあの子達の命が危ない。

 

 

「セバス。ナザリックの警戒レベルを最大まで引き上げるのだ。そしてアルベドに完全武装で来るよう伝えよ」

 

「畏まりました」

 

「それと、後詰めの準備も忘れぬ事だ。最低でも、村の周囲には隠密能力に長けた人材を数名配置せよ。そしてジンクス。アルベドが来るまで私の警護を任せるぞ」

 

「分かった」

 

「モモンガ様、警護でしたら私が……」

 

「問題ない。私とジンクスは長きに渡って多くの強敵を屠ってきた。特に警護に関していえば私はジンクスを信頼している。では、行くぞ。ジンクス」

 

「あぁ、了解した」

 

 その間、セバスはアルベドに伝言を伝えるべく部屋を出ている。今、この場にいるのは自分とモモンガさんだけだ。

 

「……モモンガさん」

 

「どうしました、ジンクスさん」

 

「ごめんなさい。本当は私達の事を思ってあの村は見捨てようって言ってくれたんですよね」

 

「……そうですね。俺にとって優先順位はこのナザリックの皆が最優先ですから。正直、あの村人が全員殺されたとしても、それだけで特に何も感情がわきませんでした」

 

「……やっぱり」

 

「えぇ、昨晩話していたようにキャラクターに精神を引っ張られているみたいですね」

 

 苦笑交じりにそういう。人としての感覚が失われつつある事を危惧していながらも、どうしようもない事実に、私は呟く様に口を開いた。

 

「……先ずは助けましょう。彼女達を。そして村人を。それがきっと、人として失ってはいけない感覚なのかもしれません」

 

「……ですね」

 

 そう自分達に言い聞かせるように、村人を助けに行かんとモモンガさんが魔法を唱える。転移門(ゲート)。次ぐドラシルの世界において最も有効的な魔法による移動手段。

 

 目の前に広がる光景は遠隔視の鏡に映し出された景色そのもの。森の中に逃げた姉妹の背後には父親を殺したであろう二人の騎士。その内の一人が剣を振り上げ、その凶刃が姉であろう娘の背中に振り下ろさんとするのを視認すると同時に、私の身体が勝手に動いていた。

 

 一蹴りで間合いを詰め、振り下ろされた剣を杖で防ぐ。軽い一撃。受け止めただけで理解出来る。この騎士達は弱い。大したレベルではない。

 

「な、なんだこいつは!」

 

「亜人か! くそ、何でこんな所に!」

 

 狼狽する騎士達を横目に、転移門からモモンガさんが姿を現す。亜人に加え、アンデットの出現に、騎士達の焦りは相当なものだったのだろう。どうすればいいのか分からず棒立ちになった所を、モモンガさんの魔法が一人の騎士を捉えていた。

 

「心臓掌握(グラスブ・ハート)」

 

 最初から全力で、舐めプなしでの高位魔法。死霊系魔法に長けたモモンガさんの得意魔法。例え防がれようとも追加効果で足止めし、その間に別の手段を用いるつもりだったのだろう。だが、モモンガさんの即死魔法は騎士の命を刈り取り、糸の切れた人形の様に崩れ落ちるのを見たもう一人の騎士は、悲鳴を漏らしながら後ずさった。

 

「女子供、果ては抵抗する手段を持たぬ村人には嬉々として殺戮するが、私達の様な存在を前にすれば恐怖に震え尻込みするか。なんと哀れな」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」

 

 勝てないとみるや、武器を捨てて逃げ惑う。だが、逃がさない。モモンガさんが低位の魔法で止めを刺す前に、杖を騎士の背中に向け、魔法を行使した。

 

「電撃(ライトニング)」

 

 ユグドラシルにおいて、直線状にいる敵を貫通してダメージを与える事が出来る魔法。放たれた電撃は騎士の胸を貫き、瞬時に彼の命を刈り取った。

 

「低位の魔法でも……一撃みたいですね」

 

「そうだな。彼等が弱いのか、それとも此処にいる二人だけが弱かったのか、まだ判断は出来ないがな」

 

 一瞬にして二人の騎士を殺した。殺してしまったというのに、罪悪感を感じない。これで私達の疑問がより確実なものとなった。異業種となった事で、人としての精神が薄れ、異業種のものとなってしまったのだと。

 

 それでも、私とモモンガさんは助けたんだ。騎士の凶刃から姉妹を助けたんだ。怯える姉妹に近付き、目線を合わせる様に腰を下ろす。姉の方が小さな悲鳴を漏らし、妹を守ろうとギュッと抱きしめている。

 

 あぁ、そうか。人から見れば、この人狼の姿は唯々恐怖でしかないのか。

 

「……大丈夫ですよ。私達は貴女達を助けに来ました。敵ではありません」

 

 出来るだけ優しい声色で諭す。姉妹の姉は困惑の表情を浮かべていたが、自分達を追ってきた騎士達を殺した事もあってか、完全に拒絶しているわけではないのだろう。

 

「あ……あの……あ、ありがとう……ございました」

 

 恐怖で上手く言葉にできていなかったが、必死になって感謝の意を告げる。

 

「礼には及びません。それより、貴女達の村が心配です。私達は今から村に……」

 

 村に行かないといけない。そう言いかけた私の服を、姉妹の妹の方がギュッと掴んできた。きっと怖かったのだろう。このまま二人を置いて村に行っている間に別動隊に襲われないとも限らない。遠隔視の鏡越しでは村を襲っている騎士以外に増援や後続の部隊を確認する事は出来なかったが、彼女達からすれば此方の情報などあてにならないだろう。守りの魔法を唱えたからとて、此処に残すのは忍びない。

 

「準備に時間がかかってしまい、申し訳ありません」

 

 そうこうしている間に、武装したアルベドが転移門から姿を現した。

 

「ジンクス。此処はお前に任せる。アルベドは私と共に村に残った騎士達を掃討するぞ」

 

「了解した」

 

 此方の意図を汲み取ってくれたモモンガさんが、二人の警護を私に任せ、アルベドと共に村へと向かう。その際、騎士の死骸を中位のアンデット作成によってデス・ナイトを召喚し、先兵として村に送り込んだ。先程の騎士の実力がこの世界のアベレージならデス・ナイト一体で十分対応が可能だろう。先行したデス・ナイトが走り去った道を見つめ、アルベドと共に村に行こうとしたモモンガさんを、姉妹の姉の方が呼び止めた。

 

「あの! 本当にありがとうございました! そ、それと……お名前を! お名前を教えて頂けますか」

 

 姉の言葉に、モモンガさんは立ち止まって思案する。そして、ふいに浮かんだその名を、モモンガさんは口にした。

 

「アインズ・ウール・ゴウン……それこそが我の名だ」

 

個人的にオーバーロードで好きな4名なので、作品に登場させる予定ですが、皆さんはこの中で誰が好きですか、参考までに教えて下さい。

  • アルシェ・イーブ・リイル・フルト
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