やっぱりというか、なんというか……。村の様子は、一言でいえば惨劇そのものだった。その要因を作ったのが、アインズが生み出したデス・ナイトというのが笑えない。別段、アインズさんを攻めているわけではない。単純に、騎士達が齎した虐殺よりも、デス・ナイトが齎した虐殺の方が惨たらしかっただけの話だが。鎧ごと両断された騎士やデス・ナイトに殺された事で従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)となった騎士の成れの果て。うーん、酷い有様だ。
アインズさんはというと、骸の顔で皆の前に出るのは不味いと判断したのだろうクリスマスの日に運営から送られる、ある意味では呪われたアイテム、嫉妬する者たちのマスク、通称『嫉妬マスク』を被っていた。懐かしいな。私も持ってるよ。沢山。えぇ、独り身の私にとって、このマスクはとて縁が深い……くそぅ。
そんな事を思いながらエンリ達に目を向ける。こっちもこっちであまり良い状況ではない。予想していた通り、知人や友人、親をも失ったのだ。それでも、後処理をしなければいけないと気丈に振る舞ってはいるが、内心は穏やかではない事を、人狼としての性質とは関係なく分かってしまう。
村の中を歩いていると、村長と思わしき老人の傍にアインズと、少し離れた所にアルベドの姿があった。見た所、特に外傷もなさそうだ。どうやら、エンリ達を襲った騎士達と同様、此処を襲っていた騎士達も、レベルが高いわけではなかったというわけだ。
「お待たせしましたアインズさん。遅くなってしまい、申し訳ありません」
「いや、丁度良い所だった。これから村長と今後について色々と話す予定だったからな。ジンクスがそこの娘から得た情報も含めて擦り合わせをしたかった」
「分かりました。アルベドはどうしました?」
「アルベドには周囲の警戒と後任の引継ぎを命じている」
村の周囲には隠密性に長けた配下を数名配置している。何かあったら彼等から連絡が来るだろう。そして、後任のルプスレギナが到着次第、亡くなった村人達の弔いをするのだろう。宗教には疎いが、形だけでも故人を弔う事で、気持ちを整理してもらう必要がある。そうでなければ、突然、家族や友人を失った者達には酷と言うものだ。
「そうですか、分かりました。それと、村長殿、申し訳ありませんが少しアインズさんと話したい事があります。席を外してもらっても良いですか?」
これから村長と話すとなると少し時間を取られる事になる。今の内にエンリから得た知識を擦り合わせておく必要があるな。村長が離れるのを見計らい、アインズさんに問い掛ける。
「騎士達はどうしました? 見た所、中々凄い惨状なんですけど」
「デス・ナイトが暴れ回った結果……ですね。何人か生き残りがいたので彼等は逃がしました。自分達の飼い主に伝言を残すよう伝えてからですが」
「内容は?」
「この辺りでこれ以上騒ぐなと。もしも騒ぐようであればお前たちの国に死を告げに行くと。そんな感じです」
うーん、この魔王ロールっぷり、流石はアインズさん。
「悪くはないですけど、正直な所どうですか? 戻ってくると思います?」
「来るでしょうね。仮に別動隊がいたとしたら、彼等の連絡が届く前に」
「う~ん、まだ相手側の戦力は不明という事ですね。アインズさんはどう思いますか?」
「どうでしょう。ですが、少なくともデス・ナイト一体程度で瓦解する程度の実力者が先兵ですから後続の部隊が多少強い程度であれば何の問題もないんですけど」
それでも、警戒レベルは維持しつつ、最悪私とアインズさん、そしてアルベドが撤退する事が出来る様心掛けているのだろう。助けたは良いが、もしもこの後に続く後続の敵が自分達よりも遥かに強い存在であれば、この村の住人を盾にしてでも撤退する。助けておいて薄情なのかもしれないが、そこは仕方がないと割り切るしかない。
「その上で相談ですけど、もしもこれから敵、もしくは判断がつかない相手が此処に来た時、ジンクスさんは姿を隠して待機していてほしいんですけど」
「少しでも情報を隠す為?」
「それもありますけど、PKの基本です。少しでも相手に此方の情報を隠蔽するという意味で、ジンクスさんには隠れていてほしいんですよ」
戦力って……アインズさん。この中で、戦力としては心許ないのが私なんですけどね。私を殿にして撤退するよりも二人が壁になった方が生存率が上がるとそう思っているのかもしれない。
そんな事を思っていると、アインズさんがこめかみに指をあて伝言の魔法を発動させた。
『ジンクスさん。一応言っておきますけど、特別に深い理由はありませんからね。ジンクスさんの戦闘スタイルは、元々妨害や足止めがメインだから、何かあればそれを頼ろうかなって思っていたくらいのものですから』
『あー……すみません。顔に出ていたでしょうか?』
『そうですねぇ、俺とジンクスさんって結構付き合い長いですから、ある程度の事は。それに、人の顔をしていると、人狼の時と比べるとなんとなーくわかっちゃうんですよね』
『あはは……面目ないです。ちょっとあの子達、エンリやネムちゃんの事もあったし、それに……』
『人を殺したのに罪悪感を感じなかった事とか?』
『はい。森の中で騎士を殺したというのに、全然罪悪感を感じなかったんですよ。リアルの私だったら絶対にそんな事あり得なかったのに。それに、彼女達の事を可哀そうとか考えるよりも、自分達にとって価値があるかないかとか、そんな事が先行して、なんだか自分が自分じゃないような感覚なんですよね』
『それは……確かに、俺もそんな感じです。デス・ナイトが騎士達を虐殺していたのに何も感じませんでしたし、正直、この村の人間がどうなっても全然気にならないなぁって、そう思ってましたから』
このまま、人としての感情が薄れ、やがて自分が創ったキャラクターの精神に魂が引っ張られるのかもしれない。気を付けようと話していたにも関わらず、その精神性が徐々に如実になっていく。アインズさん……いや、今はモモンガさんと考えよう。モモンガさんは、私が付き合ってきた人たちの中で言えば善人だ。面倒見も良いし、最後まで私を見捨てる事はなかった。ギルドのメンバーが引退していく中、ギルドマスターだったモモンガさんは仲間が離れていく度に辛い思いをしていた筈だ。勿論、私だって、皆と別れるのは辛かった。でも、モモンガさんは私以上に辛かった筈だ。それでも、皆が残したギルドを維持する為にずっと奔走してくれたし、ユグドラシルのサービスが終了すると通知が来ても、私みたいな人に最後まで付き合ってくれたのだ。そんな人がモモンガとしての性質……人を憎むアンデットであり、カルマ値も−500と、極悪な性質となっていくのは、正直嫌だ。
『……うん、嫌だな』
『何がですか?』
『このまま、自分達が創ったキャラクターに持っていかれるのがですよ』
モモンガさんが誰かを殺す事になんの躊躇いもならなくなるのも、それを許容してしまう自分も、絶対に嫌だ。肉体も精神も、元の人間のままに、私はモモンガさんと一緒にいたい。その為には何が必要だろう。いや、それよりも先に、この現状をどうにかする事が先だ。この村は私とモモンガさんが救ったんだ。失われた命を魔法で復活させる事は可能だろうが、モモンガさんはそれを許容する事はないだろう。それは私も理解している。なら、こうして生き残った村人くらいだったら庇護下においても良いのではないだろうか。
『モモンガさん』
『何ですか、ジンクスさん』
伝言越しだけど、モモンガさんの声色は何処か優しかった。うん、良いね。やっぱりモモンガさんはこうでないと。
『折角助けたんです。出来うる限りでいいので、この村を私達の庇護下に置きませんか? 勿論、無償で……なんていうつもりはありません。持ちつ持たれつ、この村を拠点に、この世界について色々と調べてみませんか?』
モモンガさんも自身の名をアインズ・ウール・ゴウンと名乗った。それは、自分達のギルドの名を広める事でこの世界にいるであろうユグドラシルのプレイヤー……もしくは、ギルドのメンバーが同じように何かの拍子に流れ着いているかもしれない。そんな彼等に自分達の存在をアピールする事で接触を図っているのかもしれない。彼等が友好的かどうかは分からないけど、友好的に接触する事が出来るのならそれに越した事はない。その時に、自分達が非道な行いのせいで敵対する可能性を少しでもなくす必要がある。その為の第一歩として、この村は私達にとって最適な場所ではないだろうか。
善意で彼等を救うのではない。偽善と言われても構わない。人としての意識が薄れているのなら、人としてどうあるべきかを、この村を通じて取り組んでいけばいい。きっとこの考えも、人出はなく異形種としての精神の現れなのかもしれないが、それを踏まえた上で人としての道を踏み外さぬよう心掛ければいいのだ。
『先程、エンリ達から色々と情報も得ました。モモンガさんもこれから村長に色々と話を聞く予定なんでしょ? だったら、この村は私達にとって、この世界における第一歩となりました。折角です。大事にしましょう』
『……ははは、なんか、色々と勝手に想像を膨らませての結論だけを言ってませんか?』
『あはは、そうですね。なんだかこの姿でいると、色々と考えちゃうんですよね。だからつい、勝手に想像を膨らませてしまいました』
『うん、良いんじゃないですか。この村は俺達が初めて関わった最初の村です。それに、未だに右も左も分からない状況では少しでも情報が欲しいですし、逃げていった騎士達の動向も気になります。此処で待っていれば向こうから接触してくる可能性もありますし、その点では、この村には利用する価値がありますから』
『モモンガさんがアインズと名乗ったのも、その一環ですよね』
『あぁ……勝手に名乗ってしまって申し訳ありません』
『いえいえ、全然大丈夫ですよ。最初は驚きましたけど……うん、アインズ。良いですね。名前としても悪くないですよ。今は伝言ですけど、普通に話しかける時はどうしましょう?』
『すみません。では、さん付けはなしでお願いします。あくまでも俺とジンクスさんは対等な関係でいたいので』
『では、私の事も人前では呼び捨てでお願いします』
『分かりました』
『それじゃあ、そろそろ伝言ではなく普通に話しませんか? 流石にずっと無言だと、村長も声をかけづらそうですし』
『ですね。それじゃあ、ジンクスさんがあの姉妹から得た情報を教えて下さい』
『はい、わかりました』
そうして、伝言を切ると、エンリ達から得た情報をモモンガさんに伝えた。ポーションの件については、今後気を付ける事を念頭に置き、小鬼将軍の角笛に関しては許容された。多分、この世界では相当レアものかもしれないけど、その程度のものだろうと結論付け、この村を襲った騎士達の事は現状保留という形でまとまった。後は村長から情報を得られるだけ得て、その後に考えようという事で話を区切り、改めて村長の家で今後の件について話し合うのだった。
個人的にオーバーロードで好きな4名なので、作品に登場させる予定ですが、皆さんはこの中で誰が好きですか、参考までに教えて下さい。
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アルシェ・イーブ・リイル・フルト
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番外席次
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ニニャ
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ネイア・バラハ