完全不可視化(パーフェクト・アンノウアブル)……ユグドラシル時代、私が愛用していた魔法の一つだ。この魔法の他にも第二位階の魔法で透明化や不可視化などの魔法が存在するが、今回使用したのはそれらの上位互換に値する第九位階の魔法。姿を消すだけでなく音や気配まで消す事が出来る優れものである。当時、ドルイドの習得可能リストに無かった時はかなり焦ったけど、あの時はアインズさんや他のギルドのメンバーの協力の下、職業レベルを調整して習得する事が出来た魔法だ。この魔法を使う時は、専ら狼の姿で使用した。音もなく背後から巨大な獣が襲い掛かる。そのシチュエーションが楽しくてPKの際はよく用いていたが、対策されれば簡単に見抜かれてしまい、返り討ちに合う事もしばしば……そういえば、アインズさんには最初のPVP以降、完全に対策されてて全く通じなかったな。
まぁ、第三位階の魔法でも前回の騎士達に対処出来たのだ。それに今回はこの村に向かって来ている集団の情報収集と、何かあった際の遊撃、もしくは攪乱する為の布陣だ。私以外の隠密能力に長けた配下も数名各所で待機しているので、彼等と連携して事に当たる次第だ。
私はアインズさんとアルベドが陣取った広場がよく見える位置で身を隠しながら周囲の警戒をする事にした。村人が言っていた通り、この村に向かってくる集団の気配がする。人間の姿の時は、種族の関係か、あまり遠くの気配を感じる事が出来なかったが、人狼や狼の姿の時は遠くまで意識を集中するとある程度離れた距離にいる筈の生物の気配を感じる事が出来る。これは新しい発見だ。特に狼の時は単純な身体能力の他に五感も他と比べて鋭くなっているのか広場にいるアインズさんと村長の会話も聞こえてくる。これなら、これからこの村に来る集団との会話も聞き取る事が出来るだろう。出来れば穏便に済めばいいけど、そこは運次第かな。
やがて騎乗した集団が隊列を組んで広場に集まってきたのだが、あれは何というか、先程の全身鎧の集団とは違った風貌の集団だった。先ず、全身鎧の集団達は皆が同じ装備を纏ったまとまりのある集団だった。だが、今、広場に集まった集団は、よく見れば同じ鎧を纏ってはいるのだが、皆が皆、使い勝手を優先した着こなしをしており、装備した武器も統一性がない。鍛え上げられた兵士は、各々の技術に合わせた装備を身に纏う。漫画や映画で見た様な出で立ちをした集団を見た事があるが、あの感じに似ていた。
見た目だけで判断すれば帝国の騎士ではないだろう。かといって、彼等が王国の騎士……というより、戦士だな。王国の戦士とみるべきか、ある程度統一性をもった傭兵とみるか、アインズさんの判断に任せるとしよう。
「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を討伐する為に王の御命令を受け、村々を回っているものである」
集まった戦士風の中でも、屈強な見た目をした男が名乗りを上げる。王国戦士長、王の命令、近隣を荒らしまわっている帝国騎士達の討伐と、貴重な情報を話してくれた。成程、あの全身鎧の騎士達は帝国の騎士―まだ完全にそうだとは断言できないが―で彼等はその騎士達を討伐する為に王から命令を受けて村々を回っているのか……。
(言い方からすると、あの騎士達は随分と村を荒らしまわっているみたいだな。命からがら生き延びた村人の報告を受け、調査をした結果、今回の事件が発覚し、その調査に王国戦士長が駆り出されたという事か)
という事は、この村以外にも多くの犠牲が出たという事だ。いったい何人、何十人、何百人と犠牲になったのだ?
報告から調査、そして出陣までの期間、彼等が何もしなかったとは思えない。王国の領土がどれほど広いか分からないけど、仮にも国だ。移動手段が馬しかないような状況で、村を一つ一つ調べるにしても時間がかかる。少なくない数の村が犠牲になったのは間違いないだろう。
アインズさんはというと、村長の話から語られる事のなかった人物もあり、村長に彼が何者か尋ねている。小声でも聞き取る事が出来る聴覚に感謝だな。
話を聞くに、王国で催された御前試合で優勝した人物で、王直属の精鋭部隊を指揮する地位に就いた者だとか……、物語に出てくるような人物像だな。王直属という事は、王に認められた人物であり、王を守る為の精鋭部隊を指揮する地位となると、王様にかなり気に入られている人物なのだろう。あくまでも、彼が本当に王国戦士長のガゼフ・ストロノーフなのかどうかは判断できないけどね。
アインズさんも彼が村長の話していた人物なのか疑っており、彼の言葉を鵜呑みにしているわけではないようだ。
その間にもガゼフの視線は村長へと向けられ、アインズさんが何者なのか問い掛けている。村長も、ガゼフの言葉に委縮しながらも、アインズさんの紹介をしようとしていたが、アインズさんがそれを制し、一礼した後、自己紹介を始めた。
名を名乗り、この村を襲っていた騎士達から村人達を守った魔法詠唱者である事を話すと、ガゼフは馬から降りると深々と、そして重々しく頭を下げた。
これには私も、そしてアインズさんも驚いただろう。何せ相手は王直属の戦士長だ。相当高い身分の人物に違いない。その地位と身分を考えると、下々に頭を下げるなんて普通なら考えられない。リアルの世界でもそうだった。会社の上層部の人達は私達の事を使い捨ての出来る消耗品としか考えていなかっただろう。何かミスがあったとしても全て部下の責任として処理され、不遇な扱いを受けた事がある。そんな事もあってか、彼の……ガゼフの取った行動は、私にとって、好感の持てる人物に映った。きっと、アインズさんも同じだろう。
「この村を救っていただき、感謝の言葉もない」
立場が対等ではないにも関わらず、感謝の言葉も口にする。そんな言葉、身内でしか言われた事が無いぞ。馬から降りて、同じ目線で頭を下げる。これが彼の人柄か。良いな。きっと、彼を配下として迎え入れた王様も、彼のそんな人柄を気に入ったからなのだろう。
「……いえ、実際の所、私も報酬を目当てに彼等を助けたのですから、お気になさらずに」
アインズさんも、彼の人柄を気に入ったんだろうな。声色の中に、彼への好感が入り混じっているのを感じる。その後の、アインズさんとガゼフとの間に、言葉の遣り取りが行われている。
報酬という言葉に対しての冒険者というこの世界の生業を知る事が出来た。村を襲った騎士達の話。更に、此方の世界では名前の呼び方が西洋式である事を知った。しまったな、エンリの事をエンリさんと言ってしまった。ネムの事もネムちゃんと。親しい間柄でもないのに名を呼んでしまったのは失敗だったなと思いつつ、次からは気を付けようと心に誓った。
その後も、いくつか言葉の遣り取りをしたが、大した情報を得る事はなかった。強いて言うなら、アインズさんのキャラ設定やデス・ナイトの件についてだ。ガゼフも此方の事を疑う様子もなく、対等な立場で、しかし、王を第一に考えた物言いもあったが、それは彼が王に信を置いている証拠でもある。だが、流石にこれ以上、武器を携帯した戦士達と村人達を同じ場所にいるのは気が引けるとなり、落ち着いた場所で改めて話し合おうとなった。それにはアインズさんも村長も同意し、一度村長の家で話をしようと段取りが決まったが、残念ながら、そんな暇はないようだ。
村の外で待機していた戦士の一人が広場に駆け込み、大声で緊急事態を告げた。
「戦士長! 周囲に複数の人影。村を囲むように陣を敷いて接近しつつあります!」
村の外で待機していた戦士達。彼等の気配とは異なる気配が複数。この村を囲むように展開し、此方に近付いてくる。予想はしていたが早い。早すぎるな。恐らく、村を襲っていた騎士達とは別の部隊だろう。
それにしても、このタイミングはなんだ?
まるでガゼフがこの村に入るのを見計らったかのようなタイミングじゃないか。そして、村を囲むように陣を敷くこの集団は村に入ったガゼフを逃がさないようにしているようにも見える。いや、これはそう見えるじゃないな。これは……いや、そもそも王国の村々を襲った騎士達の行動も、王国戦士長であるガゼフを狙った作戦だったという事だ。
たった一人の為に村人を虐殺するのが作戦か。王直属の精鋭部隊を指揮する程の人材だ。彼一人を討つ事で、今後の戦争で優位に立つことが出来ると考えれば、帝国側からすれば効率的なやり方なのだろう。
ここ以外にも村を襲っているとなれば、そこに駆け付けたガゼフの部隊も、生き残った村人を保護する為に人員を割く事になるだろう。先程までの遣り取りで、彼の人格なら、危険を冒してでも村人達の為に行動しただろう。その結果が、僅かな兵力で村人を守りながら戦わざるを得ない状況に持ち込まれてしまった。
(今の私は王国側の気持ちになっているから酷い事だと思っているんだろうな。でも、帝国側から考えれば、此処で王の懐刀を討つ事が出来れば、帝国側の騎士達の被害が減る。それに、彼等からすれば敵国の、それも、自分達に刃を向けるかもしれない住民だ。国力を落として、働き手を減らして、騎士達の被害を減らすやり方は、きっと彼等にとって正しい事……なんだよな。それでも)
それでも、私は決めたのだ。彼等を守ると。あの娘達を守る為に、身を挺して二人を守ろうとした父親の姿を、私は見たんだ。きっと、アインズさんも……。
『アインズさん。少し良いですか?』
『……何をするつもりですか?』
『必要でしたら配下と一緒に村の周囲を囲んでいる集団の偵察を。恐らくこの集団の狙いはガゼフです。彼がこの村に入ってから、村を囲むように展開しました。帝国側か法国側かは判断できませんが、まず間違いないかと』
『タイミングとしてはそうなんでしょうね。彼一人の為に随分人員を割いたものだ。それと、偵察の件ですが……そうですね。今は少しでも情報が欲しいです。お願いしても良いですか』
『ありがとうございます。任せて下さい』
『その代わり、深追いしない事。自分の身を第一に考える事を守って下さい。村を守りたいという気持ちは分かりますが、優先順位は間違えないでくださいね』
『はい。分かりました』
『折角守ると決めたんです。守りましょう。この村は俺達ギルド、アインズ・ウール・ゴウンが最初に目をかけた村です。国同士の勝手ないざこざに巻き込むような真似は許しませんよ』
『ありがとうございます。でも、良いんですか。今回は村人を守りながらの集団戦ですよ』
『それこそ、望むところです。寧ろ、後悔させてやりますよ。俺達が守ると決めた村で、好き勝手しようと考えてる輩には、きついお灸をすえてやりましょう。勿論、彼等からも情報を引き出せるだけ引き出しますけどね』
『ははは、それは怖い。アインズさんを相手にする敵が可哀そうに見えてきましたよ』
思わず笑ってしまう。村人からすれば、ガゼフ率いる精鋭部隊とアインズさんがいるとしても気が気ではないだろう。少し前まで騎士に襲われ、続けざまに正体不明の敵が来たかもしれないのだ。その心中を察するところはある。そして、脳裏に浮かぶのは娘達を守る為に凶刃に散った父親の姿。彼が守った娘達は……いや、娘達も含めて、守って見せよう。
『では、アインズさん周囲の様子を見てきます』
『気を付けて下さいね』
『もちろんです。何かあったらすぐに連絡します』
そこで伝言を切ると、隠密に長けた配下と共に行動に移す。村周囲を囲むと言っても、完全に包囲する事は出来ない。それだけの人員を用意するとなると隠密性に欠け、最悪、包囲する前に気付かれる可能性もある。したがって、配置された人員には限りがあり、後は良くて情報系魔法で監視しているくらいだろう。対情報系魔法による功性防壁を張って対策を取っておこう。さぁ、此処からが踏ん張りどころだ。私とアインズさんの、この世界における最初のイベントだ。
GWが終わったので、少し更新速度が落ちるかもしれませんが、頑張って更新していきます。しおりを挟んでくださった皆様、お気に入り登録してくださった皆様、評価してくださった皆様、本当にありがとうございます。凄く励みとなっております。これからも頑張って更新していきますので、感想などもありましたら宜しくお願い致します。
個人的にオーバーロードで好きな4名なので、作品に登場させる予定ですが、皆さんはこの中で誰が好きですか、参考までに教えて下さい。
-
アルシェ・イーブ・リイル・フルト
-
番外席次
-
ニニャ
-
ネイア・バラハ