原神 アチーブメント『軌道は放り出ず、逆巻く』獲得RTA 作:底無ノどろ沼
気づいたときには既に遅く。
ヴィシャップ達に囲われ、戦う以外の選択肢は無かった。
目の前で同族の幼体を狩った憎き相手に容赦など無いだろう。
自身の力は人より遥かに強いがヴィシャップを軽々と倒せはしない。
呼吸を整え、敵を見渡す。
折れた槍もどきを前方の一体に投げつけ、後ろの一体に殴りかかる。
それを合図にヴィシャップ達が咆哮を上げ、身体が宙を舞った。
あれからも度々集落は移動を繰り返している。
段々と豊かな土地から遠のき、食料が少なくなっているために病人が増えてきているのだ。
狩りだけでなく薬の材料収集もしなくてはならない。
ヘウリア様から足りない材料を聞き、それを採ってくる日々がしばらく続いていたある日。
「この書状をここから南西にある帰離原の長に届けて来てくれませんか」
ヘウリア様から書状を預かった。
「貴方には無茶をさせてしまいます。帰離原に行く道は厳しいでしょうが必ず無事に帰って来てくださいね」
準備を終わらせ出発しようとすると
「帆藻」
呼ばれて振り向く。
「いってらっしゃい、気をつけてね」
いつものように微笑んでヘウリア様は見送ってくれた。
ヴィシャップの豪腕を喰らい、少し気を失っていたらしい。
あれからどれほど時間が経ったかわからないが、地面に大の字で倒れていた。
ヴィシャップ達が近づいて来るのが分かる。
死ぬ、そう思ったとき─
─冷たい風を感じた。
「──く──て!!」
誰かの声が聞こえ、目を開く。
浅葱色の矢がヴィシャップに当たり、氷の華が咲いて──炸裂した。
矢が飛んできたほうに目を向けるが視界が霞んで見えない。
何か叫んでいるが上手く聞き取れない。
ヴィシャップ達は弓使いを警戒し、コチラに注意を払っていない。
一番後ろにいる奴に狙いをつけぶつかる。
抵抗できずに倒れるヴィシャップ。
そのまま頭に全身全霊の震脚。
一発目で留めにはならず二発目を打ち込み片付ける。
その間に他のヴィシャップ達は弓使いに倒されたようだった。
全身から力が抜け膝をつく。
早く書状を届けないと…!
「大丈夫ですか!?」
綺麗な声が耳に届いた。
身体を支えられ、木陰に連れて行かれる。
力が全身に巡る。
「痛む所はありませんか?」
大丈夫です。ありがとう、ございます。
お礼を言って立ち去ろうとするが、よろけてしまう。
「傷は治しましたが流れた血を戻したわけではありません!少しでも休まないと」
いえ、やるべきことがあるので
よろけながらも歩こうとすると、腕を引かれて座らせられた。
助けてくれた人物の姿をそこで初めて目にした。
水色の髪の女性が自分を見下ろして怒っていた。
角と全身タイツのような格好も気になったが、それを指摘してはいけないことは容易に分かった。
「怪我人だから言わないでおこうと思いましたが、無茶し過ぎです!私がいなければ死んでいたんですよ」
す、すみません。
その迫力に驚いて謝ってしまった。
叱られるということに慣れていなかったのもあったんだろう。
集落では叱られるようなことはせず、したとしてもヘウリア様は叱るというよりも嗜めると言ったほうがいい。
父からも叱られた記憶がなく、初めて叱られたため、正座して説教を聞く。
すいませんとごめんなさいを繰り返して頭を下げ続けた。
ひとしきり叱ったあと、女性は息をついて
「もうこんな無茶をしてはいけませんよ」
と手を差し伸ばしてきた。
その手を掴んで立ち上がり、再度感謝を伝える。
「私は甘雨、貴方は何故ここにいるんですか?」
自分は帆藻。あー帰離原に用事が…
「帰離原、ですか。私は帰離原の者ですが、貴方は違いますよね?」
甘雨さんの目が細められたため、慌てて事情を説明すると、案内してくれると言ってくれた。
丁寧に断ろうとしたが
「また貴方は無茶をするかもしれませんし」
と笑顔だが、雰囲気が表情通りではないことが分かる。
よろしく…お願い…します。
下手に逆らうとまた られると感じたため、素直に案内を頼んだ。
道すがら自分が夜叉であることを話すと甘雨さんも仙獣の血を引いていると言われたり、親交を深めれたと思う。
甘雨さんに案内されてからは、問題もなく帰離原に到着した。
「あっ、甘雨!」
ブカブカの服を着た少女が手を振って近づいて来る。
「帰終様、ただいま戻りました」
「おかえりなさい、そっちの子は?」
様づけで呼ぶということは甘雨さんよりも地位が高い。
頭を下げて挨拶をする。
東から来ました、帆藻です。帰離原の長にお目通りを願いたい。
「これはこれは。東というと…?」
「塩花の集落です、帰終様」
そのまま甘雨さんが帰終様に事情を説明してくれた。
「なるほどね…。分かったわ、その書状を渡してくれる?」
袖から書状を渡し、また頭を下げる。
「楽にしていいわよ。でも今ここには私しかいないから返事は数日待ってくれる?」
返事を待つことは想定できたので、何も問題はない。
数日間世話になることにする。
よろしくお願いいたします。
帰離原では甘雨さんから仙力の使い方を教えてもらった。
少しだが元素も扱えるようになり、楽しい。
だが、甘雨さんからも無茶をしないようにとの小言を毎回言われる。
教えてもらうのはありがたいが小言は遠慮したい。
ある日、甘雨さんに仙力を教わっていると帰終様がやって来た。
「そうねぇ、おそらく明日にはモラクスも帰ってくるから明後日には返事ができるわ」
帰終様から今後の予定を聞いたその時、嫌な予感がして東の、集落の方角に振り返る。
「この力…!」
「これは…まさか…!」
──ヘウリア…様?
集落に急いで戻る。
制止の声を振り払って走る。
教わった仙力を駆使し、行きよりも疾く走る。
魔物が集落に入ってきたのか、他の魔神が攻め入ってきたのか。
嫌な想像が広がり、それを振り払うように速度を上げる。
集落に着いた時は既に数日が経ち、朝日が昇っていた。
集落の外周や建物に被害は見えないため、敵が来たわけではなさそうだが、様子がおかしい。
この時間にはもう畑の様子を見る人が一人は居るはずだが、誰も外にいない。
集落に入り、声を上げる。
誰かいないのか!?
家の中から気配は感じるが、誰も出てこない。
やっと一人、老婆が出てきたと思うと、自分の顔を見ると泣き崩れてしまう。
近づいて支えようとすると、集落の奥──遺跡のほうを指差す。
もう一度老婆に目を向けると、家の中にもう一人いたことに気づいた。
家にいるのは青年だが、片手がまるで塩のように白くなっている。
──ヘウリア様は?
何とか声を震わせることなく尋ねられた。
老婆は首を横に振るだけで何も言わない。
遺跡に急ぐ。
入ってすぐに息を呑んだ。
白い彫像があった。
塩でできた彫像が大量にあった。
その彫像はまるで遺跡から逃げようとしているように見える。
こんなことするわけがない。敵でさえ傷つけるのを嫌い、絶対に争いを避けるあの人が民を塩に変えるはずがない。
彫像を避けながら、遺跡の奥に進む。
心臓の音がうるさい。
これは悪い夢だ。さっさと目覚めてヘウリア様に報告しないと。
しかし何時だって現実は残酷だと思い知らされる。
髪を掻きむしり、顔を覆う。
あんなにうるさかった心臓の鼓動も聞こえなくなる。
周りの塩の彫像も何も見えなくなる。
全身から何かが抜けていくような感覚。
剣を持った彫像とその側に積もる塩。
ヘウリア様だったものの前で崩れ落ち、ただただ泣き喚いた。
うぁぁぁあああああああああああああ──!!!
嫌だ…、嫌だ…、イヤだ!
まだ何も返せていない。命を救ってくれた恩も、生きるための知識も、注いでくれた愛情も──。
『いってらっしゃい、気をつけてね』
最後に会った姿と言葉が思い浮かぶ。
ああああァァああァァァァァァああああああああ──!!!
喉が嗄れ声もなく叫び、涙が枯れるほど哭いた。
何時の間にか手に握られていた紫色の目に気づかないまま。
ヘウリア様は最期を迎えた。
俺はまた、大事なモノを失った。
小説パートムズイ。
RTAパートは結構適当でいいんですよねー。
タグの曇らせのタゲは主に主人公くんです。これからも主人公くんを曇り散らかして行きましょう。