「て事があって、今に至る訳です。俺はどういう状況でこんな話をしてるんでしょうね」
「……そうか」
キャメロットの一室、俺はモルガン女王と一緒に大量の書類仕事を処理していた
立場上はメリュジーヌの部下なのだし、戦えても一般兵士程度の俺がこういった仕事に回されるのはごく自然なことだと思う
一緒に仕事してる人が普通じゃないんだけど
「何でこんな事聞きたがったんです?」
「興味だ」
「なるほど……」
「…何だその目は」
「いえいえ、聞いてたイメージと違うなって」
ここに来る前は『冬の女王』だとか聞いていたので、もっと冷徹な人かと思っていたのだが……
興味だとか、トリスタンの事だとか、人間牧場の妖精達よりよっぽどいい人に見える
「そうか」
「はい」
…………気まずい
今の立場になってからはや数ヶ月。ガウェインにトリスタンに、ウッドワスとも意外と早く打ち解けたものだが、モルガン女王とは流石にキツい
立場の問題ももちろんあるが、それ以上に俺が彼女に抱えている負い目が大きい
メリュジーヌは俺の存在を容認させる為、女王にきょうは……取引を持ち掛けた
俺の存在を容認しなければこの國を焼くと言った。メリュジーヌとモルガン女王が本気で殺し合ったらどっちが勝つのかはわからないが、どちらにしても被害は甚大だ、モルガン女王は取引を受け入れるしかなかった
もちろんそのおかげで俺はこうして社会的地位を手に入れて生きている訳だし、俺がとやかく言えた話でもない。それはそれとして思う事がない訳じゃない
「……そう思い詰めるな」
「俺一言でも喋りましたっけ」
「私に隠し事はできん。お前が気に病む事はない。メリュジーヌがお前を想う気持ちはよくわかる」
「……バーヴァンシーとの事ですか」
「…待て、何故知っている」
「俺に混じった魂の欠片は…多分バーヴァンシーのものです。そこから……断片的にですが、記憶を。それを踏まえて何ですが……もっと構ってあげたらどうです?」
「……構う?」
「一緒に居て、話すだけでもいいですよ」
「……考えておく」
「考えてないですね」
立ち上がってモルガン女王に近づく。どこか困惑したように立ち上がった彼女の背中を押して部屋の出口まで連れて行く
「何をする!」
「仕事はやっとくんで、今日は休んでバーヴァンシーの所に行ってあげてください!」
「だが、私は……」
何か言いかける前に、モルガン女王を部屋の外に追い出した。ドアを閉めると、ため息と足音が聞こえてくる
どっか行ったな、俺の勝ち
「……何でもいいが、幸せにな」
呟いてから、机の上に大量に積まれた書類に目を向ける
……やっぱ追い出さない方が良かったかな、と一瞬浮かんだ考えを振り払い、ペンを握った
──────────────────
「つっっっっかれた……!!」
ペンを置いて伸びをする。ずっと同じ姿勢で座りっぱなしだったせいで体がバッキバキだ
あー癒しが欲しい。具体的に言えばメリュジーヌが
「呼んだかい?」
「呼ぼうと思ってたところだ、どっから入って来たんだよ」
無言で手招きをし、素直に寄ってきたメリュジーヌを思いっきり抱きしめる。鎧ではなく私服なので抱き心地がいい。最高
「ん〜……」
「……あったかいね」
「……そうだな」
仕事は済ませた。外が明るく、メリュジーヌが来てるという事は恐らく昼過ぎだろう。今日はずっとこうしてよ
「ねえベセト」
「ん?」
「働きすぎじゃない?」
「今休んでるし、そこまででもない」
メリュジーヌを抱きしめたまま仰向けに寝転ぶ。ベッドではないので固いけどまあいいや。
「……無理はしないでね?君に何かあったら──」
「國を焼かせはしないから安心しろ」
「……もう」
メリュジーヌは不満げに声を漏らす。そんな姿も可愛くてより一層強く抱きしめると、彼女は嬉しそうな顔をしてから俺の胸に顔を埋めた
すごい幸せ、ずっと続かないかなぁ
「陛下、少し──」
「あ」
「あら」
その時、部屋の扉を開けて入って来たのはガウェインだった。俺達を見るなり呆れたように溜息をつく
「……またか、メリュジーヌ、ベセト。仕事中だぞ」
「仕事は終わった〜……てかモルガン女王に用があるなら今日は無理だぞ。俺が休みにした」
「いやそれ自体は急ぎの案件ではないからいいのだが……待て、お前が休みに?」
「うん。多分バーヴァンシーとなんかやってると思う。邪魔してやるなよ」
「は、はぁ」
困惑したような声を出しつつ、ガウェインも床に座り込んだ
「それで……いつまでそうして…」
「今日は多分ずっと」
「……そ、そうか……仲が良いようで何よりだ」
そうして、今日一日は時折雑談をしつつ、三人で過ごした
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日が落ち、暗くなった廊下をメリュジーヌと二人歩く。仕事帰り、というやつだ
「あ、ちょっと寄り道していい?」
「構わないよ。何処に?」
「モルガン女王の所。ちょっとでいいから大人しくしててくれ」
そう言って玉座の間に向かう。モルガン女王は玉座の後方で大穴を見つめていた
「どうでした?バーヴァンシーと」
「ああ……楽しそうにしていた」
「何があったかはどうでもいいですけど、楽しそうなら良かった」
「……世話になった。ところでだが……」
「はい?」
「お前にはバーヴァンシーの魂が混ざっていると言ったな」
「ええ」
「それなら……お前は私の息子と言えるのでは?」
「……は?」
唐突すぎて意味がわからず、思わず聞き返してしまった
「いえあの……どういう事ですか」
「お前にはバーヴァンシーの魂が混ざっている。バーヴァンシーは私の娘だ、つまりお前は私の息子だ」
「いやいやいやいや」
何言ってんのこの人、連続勤務でおかしくなった?
「……冗談だ」
「あ、ですよね……よかった」
「だが──」
モルガン女王は俺の顎に手を当て、軽く持ち上げて目線を合わせる。顔がいいから照れるんですけど
「……お前の心は、好ましい。いっそのこと本当に息子にでもなってみるか?」
「……陛下」
メリュジーヌが、俺とモルガン女王の間に割り込むようにして入って来る。そのままビビるぐらい一瞬で担ぎ上げられた
「それ以上は見過ごせないな」
「…ふふ、冗談だ」
「今日すごい冗談言いますね」
「たまにはな」
「……帰るよ、ベセト」
「あ、ちょ、失礼しまぁぁぁ!?」
そのまま超スピードで飛行して家まで連れていかれた
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「うえ……酔う……」
「陛下にデレデレした罰だよ」
家に一つしかないベッドの上に寝転び、メリュジーヌの飛行によって酔った体を休める
「デレデレなんて……してたわ」
「そうだね。私が居るのに」
「……ごめん」
「…して欲しいこと、わかるよね?」
「…………はい」
上体を起こして両手を広げ、メリュジーヌを受け入れる体勢を取る。それを見るなりメリュジーヌは嬉しそうな顔をしながら抱きついて来た
「……ベセト、幸せ?」
「……うん。お前がいるからな」
「私も幸せ。君に会えて良かった」
「俺も」
どちらともなくキスをする。舌を入れ合うような深いものではなく、ただ触れ合わせるだけの軽いもの。それでもお互い満足だった
その後直ぐに俺を眠気が襲ってくる。メリュジーヌも同じだったようで、二人揃って眠りに落ちた
そのまま二人眠ってしまい、朝の弱いメリュジーヌに昼まで離してもらえなかったのは別のお話