石炭にも意地があるのだ

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みのひつじさんの3分で読めるノベル企画にお邪魔した作品。お題は食事シーンとのことでした。いつもありがとうございます


石炭の意地

石炭の意地

 

「はいよ!お待ちどうさん!」

 

 

ここは戦場だ。

厳密に言えば数刻、あるいは数瞬後には戦場になる場所だ。

 

ここドンドルマは土地柄、古龍の襲撃が多くその度に俺たちは

巣を突かれたランゴスタのように飛び出して大慌てで迎撃準備をする

 

炊き出し場から先刻まで駆け回っていた場所を見下ろすと

壁からそれはもう巨大かつ強大な槍の穂先が鈍く輝き、その存在を主張していた。

 

古龍接近の報を聞き、怖くねぇと言えば噓になるがそれでも

あいつがバッチリ働けるように腹いっぱいにさせるのが俺の仕事だ。

 

ポケットに入り込んだ石炭を足元に転がし、粗末だが大きな木の器を受け取った。

器の中にはゴロゴロとした肉に一口大に切られたジャンゴーネギ。

そこにいくつかの香辛料が散らされている。

 

料理長曰く今日はお得意のテールスープ。しかも

たまたま近くを通っていた凄腕ハンターさんが大盤振る舞いしてくれて、

なんと黒角竜の尻尾を贅沢にぶち込んだ代物らしい。

 

 

迎撃準備の炊き出しには色々あるがここぞ!といった時にはどんな相手にも

「勝てる、絶対勝テールスープ」を出すのが料理長のゲン担ぎらしい。

さっさと食えるし肉が入ってるならこれ以上を望むのなんてバチ当たりってなもんだ

 

湯気の立つスープを火傷しないよう、口に含む

 

その瞬間、強い蒸留酒を飲んだ時のように喉が、胃が強い熱を帯びる。

気が付けば眉間に力が入り、目が強くそして固く閉じられる

 

 

美味い

 

 

何度かこういった機会にテールスープを食った事があるが今回のは格別だ。

誰かが偉そうに角竜は他の肉食ってる飛竜に比べてサボテンとかが主食だから

臭みがなくべらぼうに美味いとか言ってたのを思い出した

 

味がどう上等とかはわかりゃしねぇと思っていたが、一口で理解させられた。

角竜の尻尾ってのはそれ自体が優秀な素材でもあり凶悪極まりない武器でもある。

そいつから作ったスープが大人しいワケがない。こりゃ砂漠の暴君なんて呼ばれるワケだ

 

白濁したスープに浮かぶ肉も口に運んでみる。

 

嚙み締めた瞬間に溢れ出る強い旨味。それなのに一瞬で解け口の中に溶けて行く。

 

 

味付けなんざ荒く砕かれた胡椒と岩塩しかない。そのはずなのに竜骨髄から染み出た

暴君の残滓が疲れ果てた心身を、恐怖に縮まる魂を脈動させる

 

一息に残ったスープを飲み干し、皿の縁に残った脂を惜しむように舐めとり立ち上がった。

 

ふと足元に転がした石炭を拾い上げ、少し迷って再びポケットへ入れて走り出す。

 

向かう先は激竜槍の発射機関部。

食事を終えた同僚達が膨大な量の燃石炭を運び込んでいる

 

俺たちはここにある燃石炭みたいなもんだ。転がったままじゃ石ころと変わりゃしない。

火の中に放り込まれて初めて何かを動かす力になる。力になれる。

 

「さぁて、お前が働けるよう俺も、もうひと頑張りすっか!」

己が戦う場所へ二つの石炭は向かっていく

 

これは誰かを導く星でも無く、燃え上がる炎でもなく、英雄にすらなれない。

 

 

しかし数多の想いが束ねられ龍をも撃ち倒す槍。それを動かす一欠片の物語である

 

 


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