呪術廻戦 電波女と青春の呪い   作:悪事

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エイプリルフール記念投稿。
書きだめ終了しました。




 

 

 

 一年カルテットがシースーで豪遊した明くる日の朝、虎杖たちは一週間分の服と荷物を用意するように言われて招集を受けた。

 

“少年院”の事態把握、生存者捜索を行うという任務の前日に。

 

 トランクケースを持って、寮の前に集合した虎杖たち三人。その中にエリオの姿はない。

 

 元より引きこもりだから、寮にいないというのは知っていたがこうして呼び出しを受けたのに現れないことに虎杖は首を傾げた。

 

「な~、伏黒。確か俺たちって明日、少年院に行くって任務があるんだよな?」

 

「ああ、確か五条先生は別件で動くから一緒には来ないらしいが」

 

「じゃあ、なんで一週間分の服やら荷物を用意しろって言ったのよ。なに、任務終わったら観光にでも連れて行ってくれるの?」

 

「いや、たぶん明日が来るのが一週間後になるっていうことだろ」

 

 

 伏黒の明らかに奇妙な発言に二人は少し考えるが、昨日、五条悟の言っていた内容を思い出す。エリオという五条先生の妹、彼女は術師を強化することに長けた術師であり、時間の流れを変えられる修行空間を用意できるということを。

 

 

「それ、エリオがなんかやってくれるってこと?」

 

「ああ、十中八九。エリオの領域で俺たちを強くしようとしてくれるんだろ」

 

 虎杖が少し興奮したような声音をしている。まぁこの間まで一般人だった虎杖からすれば、呪術はまだファンタジーのように夢のあるものとして捉えられるのだろう。一方で術師としての経験のある釘崎は、浮かれた様子もなく平常の態度でトランクケースに腰掛けている。

 

「……強くなるっていうのはいいけど、その肝心のエリオ何処よ?」

 

「伏黒が言ってた領域って言う結界がなんかしてくれんの?」

 

 三人が駄弁りをしていると、空から目隠しをした成人男性とふとんの簀巻き星人がやってきた。

 

 事情を知らない人間からすると、ただただシュールだ。

 

「おまたせ~」

 

「む~む~」

 

 やっぱり、ふとんの簀巻き状態だと意思疎通に不都合がある。

 

 降りてきたエリオのふとんを伏黒が引っぺがし、虎杖がダッシュで寮の洗濯機に放り込んでくる。なお、その間、ふとんに縋ろうとするエリオは釘崎が羽交い締めにして抑える。手慣れたコンビネーションだった。

 

「ふとん…………」

 

「あれ被るのは一人の時にしてくれ。マジでなに言ってっか、分からないんだよ」

 

 伏黒のうんざりした表情を余所に、エリオはふとんが持って行かれてしょんぼりしている。

 

 改めて見ると本当に整った容姿の持ち主だ。彼女の着ている呪術高専の黒の制服は袖が大きく余りダボダボでゆったりとしたまるで寝間着(パジャマ)のような改造を施されている。いや、実際にパジャマとして使っている疑いがある。

 

 透き通るような白の髪、蒼銀の瞳、完全な左右対称に整った相貌。

 

 これは確かに五条悟の妹だろう。

 

「これで、全員揃ったわね。それでこれから、エリオの呪術使って修行するわけ?」

 

「ああ、“領域”っての?実際、どんなやつなの、それ?」

 

「というか、俺は前からエリオの領域に行ったり来たりしてるから別に良いんじゃないですか?」

 

 

「んん~~、聖徳太子ばりの聞き分けを求められてるねぇ」

 

 

 どこか嬉しそうに困った五条悟は、三人の前にそっとエリオを出して各々の疑問に対する答えを開示し始め……なかった。

 

「まぁ、ここで長々~と説明してもいいんだけど、何事もまずは“歩くより走れ”ってね。頼むよエリオ、武蔵丸のサイン持ってきてあげたでしょ」

 

 不服そうな顔をしているエリオだが、かの武蔵丸のサインには代えられないと静々と合掌をする。

 

 音なく目を閉じたまま、呪力が練り上げられていく。

 

 伏黒は何をするかを察して、虎杖、釘崎の襟元を掴んだ。

 

「ちょ!?いきなり何してくれてんのよ」

 

「どした、伏黒!?」

 

「いいから掴まれとけ!落ちるぞ」

 

 落ちる?

 

 二人が無言のまま首を傾げたと同時に、エリオの合掌した左手だけが180度反転。

 

 合掌された右手は上に、左手が下になった瞬間、呪術の秘奥が展開された。

 

『領域展開……』

 

 

 息を呑むほどの呪力の猛り、周囲を瞬く間にエリオの呪力が覆い尽くし世界を一変させる。

 

 それは既存世界を押しのけて開かれる生得領域。

 

 現在、確認されている領域の中で最大の規模と完成度を誇る領域。

 

 他者に対する害意のなさという術師のとっての欠陥。

 

 病的なまでの外敵に対する臆病さ。

 

 閉鎖的な心理性から来る史上類を見ない結界術への驚異的な適正。

 

 欠陥と欠点から生じた前代未聞の領域。

 

 今、此処に、戦闘力皆無でありながら呪術界においてあまりに有用過ぎるがため、例外的に最年少で特級認定を受けた最弱の呪術師の最大の呪術が開放される。

 

 

『――“無窮蒼穹”――』

 

 

 

 

 

 蒼と白の無辺の世界が呪いを手繰る若人たちを歓迎する。

 

 まず始めに果てなき蒼穹が、虎杖たち三人の一年の目に飛び込んできた。

 

 壮大に過ぎる雲海と青天を眼下に見下ろし、ようやく虎杖たちは自分たちが空の果てにいると言うことに気づく。

 

 五条先生に持ってくるよう言われた一週間分の荷物が場違いのようにぷかぷかと浮いている。それを口を開けて呆然と見ていた虎杖と釘崎に、全体重プラス不可解な重力が伏黒に掴まれた襟首にかかり、首元を締め付ける。

 

 

「「ぐぇ!?」」

 

「まずっ!おい、二人とも呪力を練るの、いったん止めろ。でないと……」

 

 とっさのことで呪力のコントロールを手放してしまった虎杖、そして呪術師としての経験を持つが故に非常事態で呪力を練ることを条件反射としていた釘崎に、重力が問答無用でのしかかる。

 

 重量の変化に耐えきれず、この空の世界で浮かんでいる伏黒の手が離され、虎杖たちは重力に従って底なしの空へ堕ちていった。

 

「伏黒、こらぁぁ手ぇぇ放すんじゃないわよぉ!!」

 

「言ってる場合か、釘崎ぃぃぃ!?」

 

 二人は真っ逆さまに空へと落ちていく。

 

 見下ろす限り蒼天で地上というモノが見えないため空に堕ちている状態。

 

 五条悟と伏黒は何故かこの蒼の世界で浮いているにも関わらず、虎杖たちは課された重量に伴い落下速度は加速していき下へ下へと落ち続ける。

 

 落下の風圧でバタバタと、鳥の羽ばたきのようにスカートやフードが風に靡く。

 

 二人は大の字で落下をし続けた。

 

 全身を覆うように、いや打つような風を肌で感じ取る。

 

 虎杖は不思議な爽快感を味わっていた。なぜか、空気が無性に清々しく感じる。落下しながら息を吸って、吐くだけで体が内より創り替えられていくような不思議な感覚。なるほど、こんな感覚を体験できるのなら、スカイダイビングだとかパラシュートやバンジーを趣味にする人もたくさんいるだろう、と。

 

 そんな風なことを考えていると、目の前には雲海が広がっていた。

 

「うっそだろ!?」

 

 雲海に落ち、体が多少濡れたが、濡れたことを気にするよりも落ち続けていることが問題だ。雲海を突き抜けた辺りで虎杖は釘崎を見失った事に気づいて、全力で名前を呼んだ。

 

「お~い、釘崎!!どこだー!」

 

 しかし、耳に入るのは大きな風切り音のみ。

 

 自分とて釘崎の心配ばかりをしていられない。何せ、地面が見えないとはいえ自分も落下中。直近で落下死の恐れがないのが救いなのかもしれないが、余裕がないのは自分も同じだ。でも、なぜ自分たちと違い、五条先生と伏黒は落ちていなかった?

 

 自分たちより軽いから?違う、となると前提としてこの空間に何かがあるのだ。

 

 術式、確か伏黒たちが使っていたような呪術の効果内容。

 

 もしかして、この空間全てがその術式の効果範囲なのか?

 

 そんなことができるものなのか?

 

 落ちる、蒼へ。

 

 落ちていく、空へ。

 

「くっそ!考えろ、考えろ!」

 

 無限に広がっているような大空に圧倒されたが、この空間がどういうことなのかを考え続けろ。思考を止めるな、頭を回せ。でなければ、自分はこのまま地面のシミに……なるのか?

 

 今のところ、しばらく落ち続けている。それでも、まだまだ地面は見えない。

 

 この空間はエリオが創りだしたモノのはずだ。

 

 落下するようにデザインされた世界。

 

 その世界で攻撃手段として地面を創造するのは至極当然なこと。でも、エリオのイメージにそぐわない。こないだ寿司を食いに行っただけの間柄、それでも分かる。分かりやすいほどに分かってしまっていた。彼女の攻撃性の無さ、引きこもりで事なかれ主義。

 

「地面は無い?」

 

 全周囲、一面の空。でも、あえて地面を、この空間から排除している?

 

 攻撃性を一切排除した?

 

 でも、どうして?

 

 いや、そうでもしないと空間全部に術式を付与するなんて、無茶ができないのか。

 

 空間全域にまで術式が強制的に適応されるという、とんでもない反則。

 

「くっそ、どうすれば」

 

『なるほど興味深い』

 

 自分の頬より尊大かつ傲岸な声が聞こえてくる。この間から、自分の内に宿ることとなった悪鬼、両面宿灘の聞き慣れてしまった声。

 

「おまえ、何が起こってるか、分かんの?」

 

『蒙昧な、これが俺の器とは……』

 

「るっせぇ、悪かったな!?」

 

『しかし、完全に呪力の存在し得ぬ領域の創造とは、今の時代の呪術師も中々に特異なモノだ』

 

 言うだけ言って、沈黙し出す宿灘、その後も何度か内に宿る悪鬼を大声で呼び出そうとするが一向に返事がない。諦めて、この事態を打開するのは自分しか居ないのだと観念する。ただ、自分勝手に現れただけだったのだが、それでも呪いの王は一つの情報を残してくれた。

 

「呪力がない?」

 

 そう、改めて認識し直して見ると空気の妙な透き通りようを再認識する。

 

 これまで空間に満ちる呪力というものを虎杖は認識したことはない。それこそ空間に呪力がまったく存在しないという有り得ない状況を認識するのを遅らせた要因であろう。

 

 

 

 思考が廻り出す。

 

 “確か、エリオの術式ってモノを重くしたり軽くするんだよな”。

 

 それは、触れたモノの体積を増やしたり減らしたりじゃなくて、何かに干渉して重力を減らしたり増やしたりしてるんだ。

 

 その“何か”、見当を付けるなら呪力というものなのかもしれない。そういえば、思い出すのが遅れたが伏黒も言っていたではないか。

 

「“呪力を練るな、いったん止めろ”?」

 

 伏黒が直前に言った内容を思い出し、脱力して呪力の量が減らしていく。すると減らした呪力に比例して体に加重されていた謎の重力が減ったような気がした。いや、落下し続けている所為で気づかなかったが、相当の重力が自分には掛けられていたのだろう。

 

 呪力を完全に止める、今までやったことは無かったが、不思議なことに始めてやったにも関わらず“不思議なくらい上手くいった”のだ。体の内に存在する呪力を詳細に把握できる。

 

 まるで冷たい飲み物が喉から胃へ流れるのを把握できるかのように。

 

 

 これがこの空間の効果なのかはわからないが、考えている内にどうにか完璧に練られ続けていた呪力が肉体から完全に停止した。

 

 そうすると、体から重量の感覚が跡形もなく消えた。体から中身が全て落っこちたかのような奇妙な感覚。しかし、そこに違和感や不快感はなく、感じ取れるのは謎の爽快感のみ。

 

 

 だが、問題は未だに解決していない。体から完全に重さが消えても、今までの落下による加速で自分は落ち続けているままだ。減速をしようにもこの空中において、減速に用いられそうな物質は一切ない。万事休す、これでは落ち続けていくだけだろうかと、思ったとき頭上より声が聞こえた。

 

 自分勝手に人を救うと零していたへそ曲がりの同級生。

 

 伏黒の自分を呼ぶ声が確かに聞こえた。

 

「虎杖ぃぃ!!」

 

「お~い、伏黒ぉ!」

 

 自分目掛け落下してくる伏黒は、こちらへ向けて右手を伸ばしてくる。

 

 この無限に落ち続けていく蒼穹で自分の手を必死に掴もうとしてくれる仲間がいる。

 

 そのことに励まされた虎杖は伏黒へ向け手を伸ばし返す。互いに伸ばされた手は狙い違わずに強く確かに掴み合った。しかし、肝心なことが解決していない。

 

「って、お前も落っこちてんじゃん、どうすんだよ!?」

 

「いったん、落ち着け。呪力はもう練ってないな?よし、それなら話は早くて済む。いくぞ虎杖。五条先生たちのところまで浮かんでいく」

 

 “浮かんでいく?”

 

「え、それってどういうことよ?」

 

「詳しくはエリオから聞け、術式の開示があれば修行がスムーズにいくからそっちの方が効率的だ」

 

 そういうと伏黒は目を閉じて集中し始めた。

 

「反転開始」

 

 その一言と共に、まるで見えざる手に押し上げられているかのように伏黒と彼に掴まった虎杖が上空へ浮かび上がっていく。上空といっても360度、空なので上空というのも変な話だが。

 

「おおう、何これ伏黒もしかしてこれワイヤーで引っ張られてる?」

 

「違う。これは浮力を与えられているから浮かべるんだ。ただ、呪力は切ったままにしとけよ」

 

「え、これどうやんの?呪力を切るんじゃ、ただ軽くなるだけだし。かといって増やすんじゃ、落ちるだけだし」

 

「この領域が呪力に反応するところまでは把握してるのか、それならまぁ話は早いだろ」

 

 浮かび続ける速度は落下に比べ一定だが、それでも着実に上に向かっている。しばらく、伏黒の胴周りに掴まったまま浮かび続けていると上の方で釘崎と五条先生に、エリオがいるのが見えた。

 

 五条先生とエリオは空中で直立不動のまま浮かんでいるが、残る一人の釘崎は自分のキャリーケースの上で体育座りをしていた。

 

 そして、周囲には自分や伏黒の持ってきたキャリーケース、一週間分の荷物が空中に浮かんでいる。

 

 その光景を見て、虎杖はようやくこの領域のルールを朧気に呑み込んだ。

 

「そっか、呪力が無いものには重さが与えられない。だから無重力になるってことか?」

 

 重さが与えられない、言葉にすると変な感じだが、それがこの領域のルールなのだろう。

 

 呪力があればあるほど、重さは付与され続けていき落下の速度に足されていく。そして、呪力を練るのをやめる、もしくは止めれば重さは無くなる。現に呪力のない物質であるキャリーケースは浮かび続けている。

 

「ご名答、まぁ最初に恵がもろ呪力練るなって言ってたのとキャリーケースが浮いてるの見ればなんとなくはわかるでしょ」

 

「ていうか、最初からそう言うことだって説明しなさいよ。そうだったら、こんな七面倒な真似をしなくて済んだじゃない!」

 

「まぁまぁ、でもこれでわかったろ。領域っていうもののおっかなさが。入れば問答無用で術式の効果範囲に入る。僕としては領域に入っても、そこから反撃に移れるだけの経験が欲しかったんだよ。まっ、普通の領域だったら、入って攻撃されたらそれで必殺ってのが多いんだけどね!」

 

 にこやかに言うことではないと思うが、虎杖が説得されているのを見て俺は肩の力を抜く。虎杖をキャリーケースの上に放り、俺は五条先生やエリオと同じように空中に浮かぶ。

 

 

 俺たちのように反転術式をマスターしているなら、反転術式による浮力の加減で直立不動の状態で浮かんでいられるのだろうが、虎杖と釘崎の状態では何かモノの上に乗ることでバランスを取るしかない。

 

 まぁ、無重力に慣れれば、たゆたうくらいはできるが浮くことはできない。

 

 浮遊には反転術式の習得が必須となる。

 

 

「じゃあ、早速はじめましょうか。エリオズブートキャンプをっ!」

 

「恵、ジュースちょうだい」

 

「ちゃんと虎杖と釘崎の面倒見てくれたらな」

 

 

 

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