真剣 野分VS不知火 一本勝負   作:遠野静

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 走り出した不知火に、野分は再び砲撃を開始する。

 けれども――避けられる。先ほどのようにフェイク混じりの一撃を複数回試しても、

 その悉くを避けられる。

 少し前の戦闘で、野分は不知火の事を意外にもブラフやフェイクを看破できる目があると考えたが、それはどうにも間違いだったようだ。

 なぜなら彼女は――全てを見てから判断出来る。

 そして当然のことではあるが……一度撃ちだした弾丸の軌道を変えることはできない。

 彼女は種明かしを見た上で回避できるのだから、ブラフなんて最初から意味を成さないのだ。

 

 

野分(ジャンケンで常に後出しされているようなものだ……こんなのは……っ!)

 

 

 心の中で愚痴りながらも、野分は折れることなく、次の手段を考える。

 

 

野分(……不知火姉さん。彼女の性能はおおよそ理解できた。

 単純な動体視力だけでみれば、紛れもなく化物だ)

 

野分(あえて弱点を上げるなら、回避性能自体は初期陽炎型の艤装性能に捕らわれること。

つまり彼女が攻撃を視認しても、艤装スペック自体が付いてこなければ回避は出来ない)

 

野分(例えば空母による多面爆撃。あるいは戦艦主砲が着弾時、周囲に叩きつける衝撃波)

 

野分(要は範囲攻撃なら、直撃は回避できたとしても、完全に離脱することは出来ないはず……)

 

 ――そこまで思考して、

 野分は、己の兵装を改めて確認する。

 

野分(私に与えられた兵装は、艤装付きの連装砲……手持ちの機銃。そして四連装魚雷……。この模擬戦では姉さんも同じ仕様のはず)

 

野分(爆撃は出来ませんし……この主砲の口径では、直撃でもしない限り側頭部を駆け抜けてようやく脳震盪を起こせるか否か程度の衝撃でしょうね……)

 

 射撃と逃走を続けながら、野分は考える。

 艤装の性能はほぼ同一。身体能力や戦闘経験は圧倒的にあちらが上。

 ならば野分が打ち勝つには――やはり思考で先を取るしかない。

 一度目の未来予知は、彼女の真価を知らなかったが故に失敗した。

 だが――ならば――

 

野分(――心理的な罠が無効化されるなら、物理的に回避不可能な一撃を放つしかないですね。全てを回避するあの人相手にそれを成すには……。つまり……壁をつくる。そして、私の手には機銃が用意されている)

 

野分(撃沈を狙う一撃であれば、機銃の放射は意味がない。けれど……、足止め程度であるなら……よしっ!)

 

 

 決断と同時に、野分は振り向いて足を止めた。

 

野分「主砲、掃射ぁ!」

 

 

 同時に、主砲の雨を降らせる。

 以前やったものと同様――いや、それ以上に狙いすら付けていないように見える砲弾の雨。

 

 

不知火「不知火を落としたければ――」

 

野分「貴女を狙えというのでしょう――? 分かっていますよ」

 

野分(けれどそれだけでは避けられる――4手先が必要、だから……!)

 

 

 次の瞬間、驚愕に目を見開いたのは不知火だった。

 だがそれも一瞬のこと――即座に回避行動に移る。

 彼女が先ほどまで立っていた場所を轟音を立てる銃弾が突き抜けていった。

 

 

不知火「機銃……ですがこの距離でその威力では不知火は――」

 

野分「落とせないでしょうね。それでも足止め――当たりがよければ、

 小破程度なら追い込める――! そして――!」

 

 

 再度の轟音。水柱が何本も立つ。

 主砲と機銃、範囲も速度も距離も違う二つの攻撃方法による多面攻撃……!

 

 

不知火「考えましたね……では採点しましょうか」

 

 

 再び不知火の進軍が始まる……しかし、彼女の動きは以前よりもやや鈍り始めていた。

 機銃の毎分の連射回数は、当然ながら主砲を大いに上回る。

 いくら不知火といえど、真の意味での銃弾の雨を完全に避けて進むのは難しい。

 

 ――だが、それでもなお。彼女は無傷で進軍していた。

 多少かすめるものもあるが、それもかすり傷程度。ただでさえ威力の弱い機銃だ。

 直撃がなければ当たらないも同義だろう。

 そして主砲の方はと言えば、やはりこちらは完全に避けきっている。

 回避の重点を機銃に奪われながらも、時を止める不知火の瞳は、全て避ける。

 霞に向けて撃っているようだと、野分は思った。

 

 

野分(まさに夜の蜃気楼――これが夜戦であったなら、不知火姉さんの姿は霧のようでしょう)

 

野分(ならば――その実態を浮き彫りにする。その為の手段は私にはあるっ!)

 

 

 一方で――対峙する不知火は野分の攻撃に違和感を覚えていた。

 主砲と機銃による多面攻撃。確かに不知火の動きを制限しているが、それだけだ。

 それでも尚、不知火は避けきって野分へと近づくだろう。

 そもそも、主砲の何割かが、不知火にちゃんと照準が合っていない。この雨で不知火を討つ気なら――主砲は全て不知火を狙う筈では――

 そこまで考えて――不知火は考えるのをやめた。

 どちらにしても。彼女は野分が一挙一動を、後出しで見ることが出来る。

 野分が思考の粋を尽くして、その不知火を超えていくというならば、その採点をするのが彼女の務めだ。

 

 

不知火「さあ……これでは不知火は止められません。ここからどうするのですか?」

 

野分「無論――貴女を落としますよ!」

 

 

 機銃掃射を回避する不知火の耳が、都合四度の主砲発射音を捕える。

 二つは上空。もう二つは発射直後。どちらも着弾地点は不知火から多少ずれている。

 そこに再び機銃と主砲の掃射が襲い掛かる。

 そのすべてを回避して――野分と視線を交わす。

 

 そう、機銃を構えながら主砲の照準を不知火に合わせている野分を。

 

不知火「回避を――――っ!?」

 

 不知火の――動きが止まる。何故ならば回避する先などないからだ。

 

不知火「動きを縫われた――もう一度――っ!? しかも……」

 

 何かを言いかける不知火の目に機銃が火を噴くのが見えた。

 飛び交う弾丸の一挙一動を追いかけ、全てを回避していく。

 だが、そうして彼女は野分の選んだ場所に入らざるをえなくなった。

 

野分「あなたが、全てを見てから回避できるというならば。

 回避できない攻撃を行えばいい。それをするにはこれしかない――っ!」

 

 一撃目の砲弾がくる。

 それは、不知火であれば確実に回避できる――だから、問題はその後だ。

 砲弾を回避した先に、既に砲弾が確実に待ち構えているとしたら――!

 

 ――それは砲弾の壁。

 機銃から打ち出された弾丸。不知火が無意味だと思っていた、何割かの「不知火に照準を合わせていなかった」砲弾が今、不知火の行動範囲を制限している。

 不知火が回避をすれば、回避した先にも砲弾が落ちてくる――「例え何処に回避しようとも」だ。

 

 

野分(あなたは、例えどれだけ完璧に虚をついても回避してしまう。――ならば、それよりも更に一手先……っ! 私が読んだ未来に対して、更に虚を一つ張る――それが……!)

 

 時を止める不知火の眼には砲弾と銃弾に囲まれた己の姿が見える。

 そして、野分が一撃を打ち出そうとしている姿も、そこから発射される砲弾の軌道も、確かに見えている。

 だが、それを回避すれば、別の砲弾に直撃することになる。

 コンマにすら満たない時間。不知火だけが見える筈のその瞬間。

 わずかでも時が進めば、水柱となって消えていくだけのもの――だがその一瞬だけは、

 彼女の周りの弾丸の雨は、不知火を捕える檻として機能していた――

 

 

野分「これで、捕えた――っ!」

 

 

 心からの期待を込めて、不知火の目の前で、野分の打ち出した砲撃が爆発した。

 同時に、撃ちだした砲弾が彼女の周辺で着水し、水柱を立ちあげる。

 ……水の壁と、白煙の中――野分はその光景を、見ていた。

 

 

野分(やった……?)

 

 白煙がゆらりと、陽炎のように消えて――

 

不知火「大したものです」

 

野分「――――――――」

 

不知火「一秒未満を見据える不知火を捕える為に、一秒未満でしか成立しない檻を張る。……発想も、それを可能とする実力も。本当に大したものだと思います」

 

野分「なん、で……」

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