真剣 野分VS不知火 一本勝負   作:遠野静

5 / 8


不知火「――おかげで、私も砲を抜かざるをえなくなりました。近接するまで抜く気はなかったのですが」

 

 

 蜃気楼のように――白煙の中から――けれども確かな威圧感を持って。

 背の主砲に指示を出すように、片手を前に突き出して。

 不知火はそこに立っていた。

 

野分「どうして、無事なはず……、いえ、無傷なはずがない……っ! あの一撃は確かに直撃だった……、回避も防御も姉さんの艤装性能では不可能なはずでは……」

 

不知火「そうですね。だから、撃ち落としたんです(・・・・・・・・・・・・・)

 

野分「は――――?」

 

 不知火の動体視力が並外れているとはいえ、彼女の身体能力や艤装では、回避も防御も不可能だ。

 ――だから、撃ち落とした(・・・・・・・・・・)

 体勢を崩したまま、己に向けて飛んでくる砲弾を視認して、同じように主砲からの一撃で相殺したと、彼女はそう言ったのだ。

 

 そんな不条理を、不知火はこともなげに告げる。

 

 

不知火「……ですが、まさかここまでとは思いませんでした。最初から砲を撃たない、なんて格好付けない方がよかったわね」

 

不知火「……でもあなたは不知火に砲を使わせた」

 

不知火「心配せずとも、最低限以外は撃たないようにしますから。今度はそれをハンディとしましょう。……さあ、不知火に一撃を入れてみてください」

 

 

不知火「不知火――砲雷撃戦を開始します」

 

野分(……っ! さすがに、勝てる気が……っ)

 

 背後に移動しながら、轟音と共に主砲を撃ちこむ野分。

 せめて水柱ででも不知火の行動を制限する――!

 だがそのもくろみは、再びの轟音の後、当然の如く霧散した。

 野分と不知火の間の空間で爆発が起きる。爆風に目を細めながらも、野分は今起きた状況を理解する。

 

野分(やっぱり、主砲を、途中で撃ち落とした……。そんなのは……っ!)

 

 装填が終わると同時に野分は主砲を水面に向けて撃ちこんだ。

 至近弾による衝撃波が、不知火と野分の間に生まれる。

 

野分(―――――っ!)

 

 その隙を待って、野分は全速力で不知火から距離を取った。

 

野分(速度は同じ――だから直線を走る限りは追いつかれない――けれど、主砲が飛んでくる可能性もある――いつまでも逃げているわけにはいかない。

 いや、だからといって……)

 

野分(落ち着け……考えろ。私に出来るのはそれしかない。でも――)

 

 必中必殺。確実にやったと思った、『砲弾の檻』ですら、あの不知火は避けきった。

 あの一撃をもう一度やるには、弾薬の数が心許ない……なによりも、今の不知火は砲を抜いている。

 「砲弾を打ち落とす」ことが出来る相手に、今一度あの技は決まらない……っ!

 

野分(いや……でも、これはチャンスだ。これまでの姉さんはただ私を追いかけているだけだった。……多分雷撃の射程に入った瞬間に攻撃するつもりだったのだろう。

 私も姉さんも魚雷の射程は同じ……だから、雷撃戦は完全な早打ち勝負……。

 動体視力で姉さんにかなわない以上、万全な状態で撃ちこんでくるつもりの姉さんと雷撃勝負は無理だ)

 

野分(けれど今は姉さんも主砲を撃ってくる。――つまりこれまでにない攻撃の隙が生まれる。だから――雷撃戦に突入するときにも、こちらの手を入れることが出来るかもしれない――っ!)

 

 

 距離を取った野分は、不知火の方へ向き直る。

 不知火は――元の位置から動いていなかった。

 まるで、野分を待っているように――

 

 

野分「…………」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。