不知火「――おかげで、私も砲を抜かざるをえなくなりました。近接するまで抜く気はなかったのですが」
蜃気楼のように――白煙の中から――けれども確かな威圧感を持って。
背の主砲に指示を出すように、片手を前に突き出して。
不知火はそこに立っていた。
野分「どうして、無事なはず……、いえ、無傷なはずがない……っ! あの一撃は確かに直撃だった……、回避も防御も姉さんの艤装性能では不可能なはずでは……」
不知火「そうですね。
野分「は――――?」
不知火の動体視力が並外れているとはいえ、彼女の身体能力や艤装では、回避も防御も不可能だ。
――
体勢を崩したまま、己に向けて飛んでくる砲弾を視認して、同じように主砲からの一撃で相殺したと、彼女はそう言ったのだ。
そんな不条理を、不知火はこともなげに告げる。
不知火「……ですが、まさかここまでとは思いませんでした。最初から砲を撃たない、なんて格好付けない方がよかったわね」
不知火「……でもあなたは不知火に砲を使わせた」
不知火「心配せずとも、最低限以外は撃たないようにしますから。今度はそれをハンディとしましょう。……さあ、不知火に一撃を入れてみてください」
不知火「不知火――砲雷撃戦を開始します」
野分(……っ! さすがに、勝てる気が……っ)
背後に移動しながら、轟音と共に主砲を撃ちこむ野分。
せめて水柱ででも不知火の行動を制限する――!
だがそのもくろみは、再びの轟音の後、当然の如く霧散した。
野分と不知火の間の空間で爆発が起きる。爆風に目を細めながらも、野分は今起きた状況を理解する。
野分(やっぱり、主砲を、途中で撃ち落とした……。そんなのは……っ!)
装填が終わると同時に野分は主砲を水面に向けて撃ちこんだ。
至近弾による衝撃波が、不知火と野分の間に生まれる。
野分(―――――っ!)
その隙を待って、野分は全速力で不知火から距離を取った。
野分(速度は同じ――だから直線を走る限りは追いつかれない――けれど、主砲が飛んでくる可能性もある――いつまでも逃げているわけにはいかない。
いや、だからといって……)
野分(落ち着け……考えろ。私に出来るのはそれしかない。でも――)
必中必殺。確実にやったと思った、『砲弾の檻』ですら、あの不知火は避けきった。
あの一撃をもう一度やるには、弾薬の数が心許ない……なによりも、今の不知火は砲を抜いている。
「砲弾を打ち落とす」ことが出来る相手に、今一度あの技は決まらない……っ!
野分(いや……でも、これはチャンスだ。これまでの姉さんはただ私を追いかけているだけだった。……多分雷撃の射程に入った瞬間に攻撃するつもりだったのだろう。
私も姉さんも魚雷の射程は同じ……だから、雷撃戦は完全な早打ち勝負……。
動体視力で姉さんにかなわない以上、万全な状態で撃ちこんでくるつもりの姉さんと雷撃勝負は無理だ)
野分(けれど今は姉さんも主砲を撃ってくる。――つまりこれまでにない攻撃の隙が生まれる。だから――雷撃戦に突入するときにも、こちらの手を入れることが出来るかもしれない――っ!)
距離を取った野分は、不知火の方へ向き直る。
不知火は――元の位置から動いていなかった。
まるで、野分を待っているように――
野分「…………」