野分(違う……か。どの道、砲撃戦でも不知火姉さんにはかなわない。
なら、雷撃戦で敵う道理もない……それなら、私に出来るのは1つだけ)
野分がゆっくりと距離を詰めていく。
そして、不知火とある程度の距離で、ぴたりと止まった。
それは二人の雷撃の射程範囲限界。
あと一歩踏み出すだけで、野分は不知火の射程に入る。
――だが、それは自分も同じことだ。
ここより先は死線だと意識する。
一呼吸をして、魚雷を艤装へと装填する。
不知火は4装。野分も同等の数を装填できる。
――彼女は左手に持った魚雷を全て装填し。
早打ち勝負では敵わない――だから。
野分「――ってぇ!」
弾丸を装填した主砲を一撃打ち出すと同時に、野分は一歩、踏み込んだ――
無論、その程度の一撃は中空にて打ち落とされる。
不知火「――――」
野分「――――」
ほぼ同時――いや、わずかに不知火の方が早く、装填した魚雷を一斉に解き放つ。
そして野分は――己の発射した魚雷のすぐ後ろを、駆け始めた――!
野分(これが正解だ……!
魚雷には二つ弱点がある。一つは他の砲撃と同じ……一度打ち出した後は方向を変えられないこと。そしてもう一つは……平面的にしか行動できないこと!)
野分(不知火姉さんの雷撃は、早さも正確さも一流――だから、必ずこの軌跡を通ってくる――そこに魚雷を打ち出せば――!)
野分の目の前で爆発と共に水飛沫が舞う。それをも無視して、更に野分は歩を進める――っ!
都合3度の爆発の中を、全速力で野分は駆ける。
最後の水柱を超えると同時、爆音が二回、続けて聞こえた。
一つは――野分の主砲。完全に大破して、もはや使うことなどできないであろうもの。
そしてもう一つは――野分の主砲と全く同じ状態で砕けた、不知火の主砲から。
野分「やっぱり……不知火姉さんなら、ここで撃ちこんでくると思いました」
不知火「そう。そしてあなたは、破壊されるより前に私の主砲にも同じことをしたのね。……それで?」
野分の進軍が止まる。
お互いに残る艤装は、空の雷装と機銃だけ。
主砲は完全に痛み分けとなっている。
雷装を再装填するには、致命的な間が空くだろう。
距離はこれまでで最も近い。
だが、これが駆逐艦の戦闘距離だ。戦艦の装甲すらも無視して、敵となぐり合うための距離。
これこそ、かつて駆逐艦が栄華を飾った夜戦時代の距離であり……。
野分「――来ました、姉さん」
不知火「――来たわね。野分」
交わした言葉は同時――放った銃弾もまた、同時だった。