野分の機銃攻撃を不知火はやはり動体視力だけで回避した。この距離でなお避けきれるのかと驚愕する野分に不知火は更に距離を詰める。
野分「……………っ!」
再び機銃を構える彼女の腕を、下から不知火が、同じ機銃をもって打ち上げる。
銃口は互いに空を向き、野分の銃口からあらぬ方向へと銃撃が飛んだ。
不知火「はあっ!」
不知火の蹴りが野分の腹をかすめる。――距離を取られた! と野分は瞬時に理解した。
不知火「…………」
とっさに横へと転がり滑る野分。一瞬前まで彼女のいた場所を、銃弾が駆け抜けていく。
不知火の機銃が更に追撃しようと下を向く。――だが、その瞬間を待っていた。
野分「ふっ――――」
野分の機銃が、不知火の機銃を弾く。今度は野分が照準を合わせる。だが、それもまた不知火の機銃に払われる。そして銃声。
今度は完全に読み切っていた野分が、横に抜けるように彼女の腕を取りながら回避した。
不知火「ここまで来たから、あくまで個人の武で戦うつもり? それなら……っ!」
野分「――――っ!」
野分の顔面に裏拳が飛んでくる――ただの裏拳ではない。
艤装――すなわち使えなくなった主砲を使った裏拳だ――っ!
野分「くっ――!」
たたらを踏んで後退する野分。
不知火は魚雷を取り出して、再び雷装を装填しようとしている。
この距離で雷撃を喰らえば、野分に防ぐ術はない――!
野分「させ――るか!」
動体視力と判断力。その全てを集中して、彼女の雷装を機銃で撃ちぬいた。
これで雷装は使えない――だが――っ!
不知火「――射線を外しましたね」
――野分のすぐ真横から、静かな声がした。
とっさに手を引くがもう遅い。
彼女の腕から機銃は既に叩き落とされて波の上。
そして、不知火の機銃は――まだ彼女の腕の中に――
野分「――――――――」
この瞬間――彼女の手には兵装はもはやなく――そして、不知火の手には機銃がある。
勝負は確定した。駆逐艦同士の戦い……密着しての純粋な技量による殴り合いにおいて、
野分が何の策もなく、錬度の高い不知火を前に、勝てるはずはなかったのだ。
不知火「けれど――貴女はよくやったほうです。きっともう一度あれば」
不知火の銃口が、野分へと向く――
これにて戦いは決着する――そう、野分に何の策もなければ――!
野分「勝負を、確定させましたね。姉さん」
不知火「――――っ!」
とっさに機銃の引き金を引くが、野分はそれを回避した。
撃つなら、このタイミングであろうと予測していた。
それは最初に見せた、推理による未来予知――!
不知火「だが――どうするのです。もう兵装はない――どちらにせよ――!」
不知火の言葉は真理だ。
例え最初の一撃を回避できたとして――この距離で機銃を持った不知火に敵う筈がない。
いや――例え不知火の方も完全に兵装を失っていたとしても、この距離では勝負にならないだろう。
それは、野分に兵装が無ければの話。
不知火「――――」
不知火が、今度こそ野分に一撃を決めようと、機銃を野分へと向ける。
もはや言葉もいらないのだろう。あるいは聞こえていないのか。
今の野分には一秒がやたらとゆっくりに思える。
――なるほど、これが不知火姉さんの見ている世界なのかと、今更に関係の内容な事を思った。確かに、これなら弾丸くらいは避けれそうだとふと笑う。
不知火「――――――――」
不知火の銃口が向く。後は引き金を引くだけか。
いや、まだだ。野分が引き抜いたのは――まだ壊れていない野分の雷装――!
そして、そこに装填されていた。
一発だけ、撃ちださなかった野分の魚雷――!
不知火「まだ……残して……っ!?」
野分「あの手段なら、私があえて全発撃ちぬく必要もありませんでしたからね――!」
賭けではあった。魚雷をどうせ全て誘爆させるのであれば、一本くらい残していても問題ないのではないかと野分は判断した。前方の爆風を見れば魚雷の距離は読める。既に自分に向けて射出されたものであれば、方向は変わらない。
だから、最後の一本だけは、回避するつもりだった。
……それでも、最悪の場合、一発喰らう可能性もあったが。
とにかく、そうでもしないと勝てないと判断した。
野分「―――――っ!」
雷装の再装填は、この瞬間では致命的な隙を生む。
……だが、既に装填されていた魚雷を引き抜いて手で握る分には、何も問題はない――っ!
不知火「――――――――」
ここで初めて、不知火は迷った。
野分を撃つべきか、雷装を壊すべきか――いや、引き抜かれた魚雷を破壊しなければどの道――そもそも、彼女はどうして魚雷を素手で――
野分「この距離なら――雷撃よりこうした方が確実でしょうっ!」
不知火「――――――――」
不知火が、答えを出す――とにかく野分さえ撃てば終わるという事実に気づくのと、
野分の手にした魚雷の先端が、不知火の首筋を捕えるのは――ほぼ同時だった。