――その人は、空を飛ぶように走る人だった。
専属契約が決まってから四年目。シニア二年目のはじめ。
直近の有マ記念では感動的な復活劇の裏で惨敗。ともだちの起こした奇跡に涙しているのか、自身の情けなさに涙しているのかもよくわからない感情のまま「おめでとう」と言ったことがまだ脳裏にこびりついて離れないという、最悪な心境。
掲示板に乗れないレースが続いていた。
カラダの調子はなにもおかしくなかった。
お兄さま――トレーナーさんのことを特別にそう呼ばせてもらっている――も、一度精密検査をしようと病院に連れていってくれたけど、そこでも特に問題なしと診断された。
だとすれば、残る問題は精神面。
確かに、春の天皇賞前にはともだちに強い口調で「もうやめて」と言われたり、お兄さまが他のトレーナーさんたちとたづなさんや理事長さんからもかなり強めの非難じみた声をかけられたりと無茶苦茶なトレーニングをしていた自覚はある。
長く噛んだはずの干し椎茸がカラカラのまま吐き出されるような極限状態だった。
でも、それは勝ちたかったから。
走るのが好きで、好きなことで一番になりたかったからだ。
それくらいしないと、勝てなかった。肉体だけじゃなくて、精神も切り詰めないと勝てなかった。
身を削るようなトレーニング。心を搾り尽くすようなトレーニング。
気持ちと、カラダを純化させる行為。
願いと、祈りとを受けて〝勝ちたい〟だけになる聖なる儀式。
それくらい、走って勝ちたい相手だった。
偉大な記録へ挑戦する彼女を、越えて勝ちたかった。
向かい風のような世界の、向こう側が見たかった。
答えを得たかったわけじゃないけど、あればいいなと思っていた。
結局、答えらしい答えなんてなくって、誰かの落胆の声は以前より強くなっていた。
それでも私のちいさな祈りは、確かな光を放ち始めていたはずだった。
だけど、その落胆と非難の声は、知らず知らずのうちに、自分が思っている以上に、私の足枷になっていたらしい。
走って勝ちたい気持ちは変わらない。
なのに、足が前に進まない。純化が足りない。
足枷を外すための儀式が足りない。
だけどお兄さまの監視がないところでは、限界に近づくことができない。
二人三脚でなければ、儀式を行えない。
前置きが凄く長くなったけど、燻るココロを抱えながら迎えた新年元旦。
お兄さまと約束した初詣に行くまでの短い時間だけど、軽くランニングだけしたくて学園のトラックへ足を運んだときのことだった。
「おやあ、元旦から熱心だ」
ダートコースの中にいた《ポーラスター》の教官と出くわした。
きょろきょろと見回してみると、向こう正面の方にも何人かの教官がしゃがみこんで何かをしている。
こちら側にいるのは、目の前の栃栗毛の教官だけだった。
「サボってるのは黙っててね」
と言いつつ、柵にもたれかかって私に向かって話を続けようとしていた。
どうやら私をサボりのダシに使うつもりらしい。
「ライスシャワーちゃんでしょ」
「え……」
「いやそりゃ知ってるよ。びっくりされるのにびっくりだわ」
「あ、そ、そっか……」
相手は教官だし、生徒の顔を知っていても不思議じゃない。
私なんかは、特に有名だろうし。この人も、ブルボンさんやマックイーンさんの偉業を見届けたかった、と思った人なのだろうか。
「お話は得意じゃない?」
「あ、えと……そういうわけじゃない、ですけど」
なにを話したらいいのかはわからない。
それは教官もなんとなく同じらしく、さてどうやって会話を発展させようかと思案しているようだった。
と、そこでなにかを思いついたようで、少しいたずらっぽく笑うと背筋を伸ばしてぺこりと一礼。
「あけまして、おめでとうございます」
「あっ、そ、そうだ! あけましておめでとうございましゅ!」
か、噛んじゃったあ~っ。
大声で笑うことはされなかったけど、私の慌てた様子がよっぽどおかしかったのか、くつくつと控えめに笑われてしまった。
熱くなった顔を手で仰ぐ。冬の寒さは恥ずかしさの熱をちっとも拭ってはくれなかったけれど。
「有マ記念は残念だったね」
「あ、はい……。でも、テイオーさんもみんなも嬉しそうだったし……」
でも、勝ちたかったのだって本当だ。
教官の言う通り、世間やテイオーさんたちにとっては最高のレースだったんだろうけど、私にとってはただただ残念なレースだった。
「誰も勝てるなんて思ってなかっただろうに、トウカイテイオーっていうウマ娘はすごいよねえ」
「はい、本当に……。一緒に走れたことは、嬉しいって思います」
「レースに勝ってさ、周りからあんなに祝福されて、紙面でも『奇跡の復活!』なんて見出しでさ」
「……はい」
「くやしい?」
「…………」
黙っていても、目の前の教官は優し気に微笑むばかりでそれ以上なにも続けない。
まさか教官なんて肩書を持っている大人が、生傷に塩を練り込んでくるとは思わなかった。
この質問に、おそらく悪意はない。
単純に問うているだけだった。
「私は…………」
「うん」
ただ、その単純な問いかけが、私の泥濘を涸らせたのも事実だった。
おそらくお兄さまでも、ここまで最短距離で私のココロを暴くことはできなかったと思う。
だから、抉られるような痛みよりも、晴れ渡るような天啓を得た心地の方が強かった。
「私はくやしかった」
「そうなんだ」
「私は、走るのが好き。好きだから、走って、勝ちたかった」
競争に身を投じるウマ娘なら、少なからず誰しも思うこと。
「でも、私が勝つと、皆悲しんじゃう。ブルボンさんのときも、マックイーンさんのときも」
「うん」
「それでも勝ちたいって思ったのは、それでも私が走ることを諦められなかったから。それくらい、大好きだったから」
静謐な空気のまま、藍色の空がにわかに白み始める。
ぐぐぐ、と力強く夜の帳をはがして、抜け出そうとしている。
びゅう、と木枯らしが吹く。心臓が高鳴り始めたカラダには、ちょうどいいくらいの冷たさだった。
癖のままに伸ばした髪が弄ばれる。首筋にこもり始めた熱が抜けていく感覚が、すごく気持ちいい。
「勝った先で、なにかが変わればいいと思ったの。でも、そのどちらでも変わることはなかった。……でも、それでも、それでいい。それでよかったんだと思う。勝った先に、答えがあればいいななんて期待してたのが、たぶん、大きな間違いだったんだ。
風が、夜明けをつれてくる。
前髪が垂れて隠れがちな右目も、今はしっかりと前を向いている。
祈るようにずっと言い続けてたことだった。
ライスだって咲ける。咲いてみせるって。
お花さんの幸せがなんなのかはわからないけれど、花が咲くことの意味はいつだって未来にある。
ならそこに、幸せがあるのかもしれない。
枯れない花はないけれど、でも、それなら私はいつまでも種を蒔き続けよう。
それはきっと、諦めないってことだ。がんばるってことだ。
こわくても、がんばって、前に一歩ずつ進んでいくことだ。
誰かを悲しませてしまうことがこわい。
私が勝ったところで、みんな悲しんでしまうだけだ。
だったら、もう、走ることなんて――。
そう思っていた自分を変えたかった。ずっと。ずっとだ。
私の名前の通り、誰かの祝福になりたい。そう思ってきた。ずっと。
「ライスは、みんなの笑顔に寄り添える一輪の花がいい」
派手なフラワースタンドだったり、情熱的な花束だったり、もちろんそういうものにもあこがれはあるけれど。
私が勝って、それを観た人が幸せになる――思い返せばなんだかよくわからないことを言っているような気さえする。
でも、咲いた花を見て、幸せになる人って誰だろうなんて思えば、顔から火が出ちゃうくらい恥ずかしくなってくる。
でもそれが、嬉しいと気付いてしまった。
だからわかった。
誰かを幸せにしたいと思っていた
繋いでいけばいいんだ。少しずつ。ちょっとずつ。
いつかそれは大きな輪になって、希望になる。
それが私の本当の夢。
それが私の繋ぎたい願い。
それが私の、ささやかな祈り。
「もう、ライスはくじけないです」
夜が明ける。
今まで燻っていた火が、ゆっくりと大きくなっていくのを感じる。
カラダの方はまだ万全とは言えないけれど、もやもやしていた気分はすっかり晴れている。
お兄さまにも、ココロからのあけましておめでとうが言えそうで、ちょっぴり楽しみだ。
「いやあ、さすがG1を勝つだけはあるね。そんなつもりはまったくなかったのにちょっと話しただけでメンタル持ち直しちゃった」
「い、いえ、そんな……その、とっても助かりました!」
「ならまあ、サボった甲斐はあったのかな?」
うん、ともすん、とも言いにくい返しだった。
あはは、と曖昧に笑って返すと、そこで少し離れた位置にいた他の教官が走り寄ってきた。
「おぉい、お前まーたサボってんなあ?」
「やだなあ、若者の悩みを聞いてただけじゃないですか」
「ん。ライスシャワーか」
「あ、お、おは……あけましておめでとうございます!」
「ああ、あけましておめでとう。元旦から練習か。トレーナーは?」
「おにっ、あ、や、トレーナーさんは来ないです。軽くランニングだけしたいなって思って……」
「そうか。……こいつ、なんか変なことは言わなかったか?」
「言ってないですってば」
「あ、はい。別に……」
視線だけで「本当かあ~?」と問いかける先輩(らしき)教官。
栃栗毛の教官は少し不機嫌そうに顔をしかめると、仕事に戻りまぁす! と嫌味っぽく大きな声で宣言してから大勢の教官が集まっている場所へと駆け足で去っていく。
どうやらトラック中の目視点検をしているらしい。ヒトもウマ娘の教官もコース内でしゃがみこんで芝や砂地をかき分けて危険物がないかを見ている。
「本当になにかあったんなら、謝るよ。大丈夫だったか、ライスシャワー?」
「え、と。はい。本当になにもなかったです。……こういうの聞いていいかわからないですけど、そんなに?」
この先輩教官があまりにも先ほどの教官のことを悪し様に言うので、少し気になってしまった。
私がデビュー前にお世話になった《ポーラスター》にはいなかったと思うので、おそらくあのヒトは私がデビューしてから配属された教官なのだろう、程度のことは察していた。
元競争ウマ娘のみで構成された教官チーム《ポーラスター》は特にデビュー前お世話になるヒトたちだからだ。
『中央トレーナー資格*1』よりも遥かに難度が低いとはいえ『ウマ娘教練教官資格』を取得しているヒトたちなので、もちろん優秀であることには違いない。
入学間もない時期の実習を主に、選抜レース前後であれば基本的にはこの人たちの指導のもと、トレーニングをすることになる。
中央トレセンの生徒はそのほとんどがどこかのクラブチームや名門と呼ばれる学校の部活動を経て入学してくるので基礎ができていることは多いものの、中央・地方問わずトレセン学園ではより専門化するレースの知識を与えてくれるのが教官たち、ということになる。
なので、中央の教官ともなればその実績や人柄は一癖あったりなかったりはするものの、基本的にはとても真摯なヒトたちであることが基本だ。
それをこうも警戒心を露わに、何度も何度も尋ねてくるというのは珍しい――というか、普段の素行がかなりアレという証拠、ということになるのだけど……。
「悪いヤツってわけじゃないんだよ。不真面目だけどね。ただ、なんというか、お節介が行き過ぎることが多いんだ」
「お節介、ですか」
「ああ、まあ、な。本人の経歴もあるんだろうが……」
「経歴?」
「あいつ、中央の教官なのに未勝利ウマ娘なんだよ」
「え」
《ポーラスター》の教官は、上を見れば重賞を勝利していて、下を見ても二勝・三勝クラスらしい。
なので、地方まで行けば未勝利ウマ娘の教官がいても珍しくはないそうなのだが、中央でとなるとかなり珍しい。特例と言ってもいいかもしれない。
縁起だとか、実力不足だとか、諸々をひっくるめて現役の中央所属ウマ娘たちにとって、未勝利という肩書は明確に「格下」と見做されがちだ。
自分の未来がそうでないとは言い切れないというのに。
ともかく。
「勝ててない子に話かけては怒らせたり、泣かせたり……一部にはなぜか懐く子もいるんだが、大多数はそうだな」
「ああ、なるほど……」
妙な納得を得てしまう。
だとすると、目の前の教官には悪いけれど私は後者だ。
懐いたというと言いすぎだけど、信用できるヒトだ、と思うくらいには彼女を受け入れている。
ただ、怒らせたり泣かせたり、という部分にも納得する。
本人が自覚的かどうかは置いておくとして、他人のココロの傷に配慮するなんて微塵も気にしていないようだったからだ。
怒る子や泣く子が出るのも無理はない。お兄さまに出逢う前の私が出遭っていたら、そのまま出走登録を抹消しに走っていたかもしれない。
今の私が聞いても「生傷に塩を塗られた」と感じるほどなのだから、よっぽどだろう。
「お名前はなんていうんですか?」
「あいつか? 聞いてどうするんだ」
「今度、お礼しに行きたいですから」
「……なるほど」
少し呆れた風にふむ、とうなずいてから、教官は彼女の名前を教えてくれた。
§
現在地は都内郊外のとある駅前ロータリー。
たぷたぷとスマホをいじってヒトを待っていると、目当てのヒトに声をかけられた。
「デっち」
「お。やほー!」
「修繕お待ち。シミ取りしなくて済んで良かったネ」
「シミ取り?」
「血の」
「いやごめんてこわいこわい」
差し出されたスーツカバーを受け取るときにグサリと言葉で刺された。
先日のストームブリング・トーナメントの最後を言っているんだろうと思われる皮肉に口元が引き攣ってしまう。
つまりアタシがぷちっと潰れて血のシミにならずに済んで良かったネ、とそういうことだろう。
「シューズの方はもう受け取った?」
「いやまだ。これからお店に行く」
「ウチもついてっていい?」
「許可なんていらんでしょ。てかそのつもりだったし。行こ」
「ムフ」
横に並んで歩き出す。
横目で彼女を見ると、相変わらずの病み系ファッションでギラギラしている。
ゴシックガーリーとは相反するごつめのシルバーアクセを随所に配置した可愛い系なのにかなりイカツい見た目でインパクトがヤバい。
化粧で年齢を誤魔化しているが、アタシよりも年上でハイツインテールにしてる時点で覚悟ガンギマリと言った風だ。
出会ってすぐの頃は隣を歩くのも遠慮していたが、まあ、今では慣れたもんだ。本人これで平気な顔して駅前の中華チェーンに入ってくからな。初めて見たときはドン引きしたけど。
アパレルとアクセサリーの店を掛け持ちして働いている傍らで、まだまだ知名度は低いが勝負服周りのデザイン原案の仕事も個人で受け付けているらしい。
主にトレセン入学前のクラブチームや、社会人ラリーチームあたりからの依頼が多いそうだ。さすがにまだURA麾下の地方・中央の仕事をしたことはないそうで、いつかはやってみたいネ、というのが本人の談。
アタシの勝負服もどきのデザインと製作、その後の修繕もやってくれている。
本人の姿からは想像できないライダーズギアじみたデザインではあるけど、関節部の補強材やキャップからは本人のセンスが滲んでいると思われる。
そんな彼女の名前はカムイフンペ。
左右のサイドヘアだけが真っ白に染まっている、丁寧な手入れを感じさせる青鹿毛。
暗い場所にいると肌だけ浮かんで見えるほどの、年齢を感じさせないうる肌。
妖しげな翠瞳を縁取る泣き腫らしたようにも見えるアイメイクと、血色を隠すための少し過剰な色白メイクに妖艶さの滲む鮮血色のリップ。
そんなにつけてよく立てていられるなと思うほどピアスが装備された耳。チェーンアクセやアーマーリング、腕輪と数えていけばキリがないので、顔と服装からは想像できないほどイカツい。
閑話休題。
フンペは上機嫌に歩き出す。
それに並んで歩き始めると、ちらと横目で上から下までを舐めるように観察された。
「デっち、こないだ服一緒に買いにいったでしょ」
「今日は仕事帰りだからね」
「中央所属の教官って基本出退勤はスーツだって聞いたけど」
「ぐ。いやだって、ああいうカワイイのはアタシには似合わんて」
「それは努力不足なだけ。ウチもすっぴんでこんな格好しないよ」
「ぶはははは!」
「そこで笑うのデっちだけだよ」
呆れたようにフンペが言う。
いやでも確かに言われてみればそんなファッションすっぴんじゃ着れないよね。
化粧した後着替えないと、鏡見た瞬間冷や水ぶっかけられたみたいにスン……てする自信しかない。
ひとまずごめんと謝ってから、自身のファッションを見直す。
とはいえファッションっていうよりも完全にコンビニスタイルというか、まあお出かけって感じではない。
そこはまあ、顔面偏差値高めのウマ娘特有のビジュアル暴力というものに助けられてます感はある。申し訳ない。
化粧っけもある方ではない。激しい運動を伴う職業柄、まあ最低限というやつだ。バッチリ決めてたりすると逆に後悔することもままある。
ギャル系の生徒たちを見てると尊敬の念すら抱いてしまう。歳だなあ、なんてこぼすとフンペが憤怒するので言わないけども。
ともかくビッグシルエットのパーカーと、スキニーなラインジャージ履いてるだけだ。
バッグなんかも小洒落たポシェットやらブランドものなんかじゃなく、駅前の総合スーパーの衣料品やらのコーナーに並べられていた数千円のボディバッグだ。
スニーカーも量販店で売ってるハイカットだし、上から下まで「なんとなくそれっぽく見えるやつ組み合わせました」みたいなファッション……ファッションっていうのも憚られるやつだ。
「デっちは本当にさァ……」
「いやー、ハハハ。えー、ていうか、じゃあアタシの勝負服もそういうデザインにすりゃよかったじゃん」
「ウチ史上最強のバカってボスだったんだけどやっぱデっちってボスの嫁してるだけあるネ」
「もしかしてバカにされてる?」
「もしかしなくてもバカにしてる」
おっと割と真剣めな表情で怒られてしまった。
今度はしっかりごめんと謝って、無言の空間が始まる。
「マ、今更か。そのバカ受け入れて仕事してんのはウチだし」
「面目ないですハイ」
「今度トレセン近くのいいお店で奢ってくれたら許す」
「へへぇ、ぜひ奢らせていただきやす!」
すぐ調子に乗るところ好きだけど嫌いだよ、とだけ言い残して歩く速度を速めるフンペ。
それを追って、目的地へと一緒に向かう。交通機関を使うまでもなく、徒歩で十数分。駅前の商業区を抜けて、廃れ始めた商店街の中ほどまでやってきた。
目的地というのは、なにを隠そうウマ娘向けのスポーツショップだ。一般向けから競技用までの蹄鉄はもちろん、スポーツウェアやトレーニング器具と、小さいながらも品揃えはいい。
「ちわー」
「おお。らっしゃっせーい」
店の入口真横にあるレジカウンターに声をかけると、目当ての人物が座って雑誌を読んでいた。
アロハシャツにジーンズにロイド眼鏡にクシャクシャのブリーチ金髪と完全に接客を舐め腐った格好をしているが、この店ではまかり通ってしまう。なぜならコイツがオーナーだからだ。
胸元にある名札には「オーナー さがん」の文字。
実際には資産運用やらなんやらで儲けているらしいんだけど、趣味人なのは変わらない。
ボスとは昔からの知り合い――幼馴染というやつらしく、アタシじゃない日はコイツがボスに付き合ってる。
彼女がいる気配はしないが、ある程度の女遊びはしてるらしい。行きつけのウマキャバがあるとかほざいていたので「ボス連れてったら殺すぞ」とだけ言っておいた。
まあマジで殺すとチームどころかS.B.Tのスポンサーがいなくなるので半殺しにして生きたまま金を生み続けるモンスターにしてやるつもりだ。
「ヤ」
「フンペの姐さんも一緒か。こいつまた一日にまとめやがったなズボラがよ」
「合理的って言いなね」
「補修諸々完了の連絡してから一週間も取りに来ないのは合理的とは言わねえよ」
「トレセン勤務はアンタが想像してるより激務なの」
「お前がまともに教官できてるところなんて想像できねえよ」
なにをう。
こう見えても指導をサボったことはないんだぞ。
先輩からも呆れられることは多いし、生徒たちからも教官ってよりも友達みたいな視線で見られるし……あれ?
「あ、アタシってもしかして……?」
「マ、数年勤務できてるなら問題ないでしょ」
「フィジカルエリート揃いの中央で、そいつら相手に教官してるのは素直にすげえんだけどな、こいつが全然そう見えねえんが悪いんだわ」
あんまり酷いことを言うなよ自信喪失するだろ。
しかも年齢的にもアラサー一歩手前なアタシには、若くて弾ける思春期どもは眩しくて仕方ない。
ちゅーてもまあ、トレセンは校則*2にある通り、本格化が遅れてデビューが高等部であったり、本人の資質ゆえに長年のレース出走が可能である娘は在籍し続けるので「最初の三年」と呼ばれるレース人生の第一歩が終わる前に二十歳に届く娘もいるし、なんなら私とそう歳の変わらないウマ娘がまだ学生としての籍を置いていたりもする*3。
そう考えるとアタシもまだまだイケるかも!? とはならない。
哀しいかな、社会を経験すると踏み込めるものも踏み込めなくなるんだよねコレが。
その点でいえば、フンペの趣味の一貫性がいかに尊く偉大なものであるかが理解できるというものだ。
「もういいからそういうのは! ほらシューズ!」
「へいへい。ばっちり補修できてるよ」
と、すでに用意されていたのか、カウンター下からビニールに包まれたシューズが出てくる。
足首周りまで補強されたハイカット仕様のスニーカータイプ。衝撃吸収力に優れた素材が使われており、元はラリー競技向けのものを改造して作ったものだ。
アルミニウム合金製の競技用蹄鉄も装蹄されているものの、本来のそれと比べると靴底へかなり埋め込んでいる。アスファルトとの兼ね合いが理由で、このあたりはかなりストームブリング・トーナメント向けの改造と言える。
「ウマ娘たるもの、ぴかぴかのシューズには興奮を隠せませんなあ!」
「そういうもん?」
「ウチは方向性違うけど、まあおおむねそう」
「ウマ娘に限らずなんかこう好きなもんみたらワクワクするでしょ? サガンならお金とかそうじゃないの?」
「守銭奴じゃねえっつの。やりたいことやりてえから金儲けてんだぞこっちは。でなけりゃS.B.Tに出資なんてしねえよボケ」
「それはそう」
公道で無許可かつゲリラ的に行う違法競争《ストームブリング・トーナメント》。
発起人はボス。聞けばその夢はずっと昔から持っていたそうで、幼馴染のサガンはそれを支えたくて金儲けに精を出しているそうな。
嵐を呼ぶ、の名の通り、法令遵守クソくらえの精神で運営されるこのレースのモットーは〝ウマ娘の輝きは翳らない〟。〝限界を越えた先の世界へ〟。〝遠くへ、ココロごと、連れ去ってくれ〟。
あの頃の昔、トゥインクル・シリーズを走るウマ娘に脳を焼かれた連中がこぞって集まって、引退したウマ娘が出場し、一歩間違えば
レースだけが走ることではない。引退するにも様々な理由がある。
まあ、犯罪行為に走ってる時点でアタシらもクソ野郎だって話なんだけどね。
今この店にいるやつ全員結構な罪状抱えた奴らだぞ。そう考えるとヤバいな。
「あ、そうだ。次のトーナメントっていつするの?」
「企画は練ってるよ。それに、最近理事のひとりが面白い相手と知り合ったって騒いでてな」
「絶対ロクでもないのがわかるのさすがの信頼感だと思うよネ、S.T.B理事役員」
「アタシらの一番身近な理事がコレだからねえ」
「陰口は本人に聞こえないところでするから陰口なんであって、本人目の前にしてそういう言い草は完全に名誉棄損なんだよ」
「今更名誉棄損がなんだっつの。こちとら道交法&ウマ娘道交法よくばり違反セット背負って走ってるブリンガーぞ」
こんなふわふわした犯罪者がいると思うか? しかしいます。残念ながら。
しばらく雑談を続けて、そろそろいい時間かと店の時計を見上げると、それを察した二人も一瞬で解散の空気に切り替わった。
「デっちはこれからボスのとこ?」
「そー。おばさんに一緒にごはんどう? って誘われてる」
「いつ聞いてもなんかのバグかと思うわ。なんで家族ぐるみの付き合いしてんのお前ら」
「これで付き合ってないのは確かになんかおかしいよネ。マ、本人たちがそれでいいならいいけど」
「あー、まあ、ボスとは一瞬そういう関係になりかけたけどなんやかんやでそういう関係にはもうなれないと思うよ」
なんていうか、ボスはアタシというよりもアタシの走りが好きなんだろうし。
なんならアタシの頭が邪魔とまで思ってそうなんだよなあ、あいつ。
いや、怖くて聞いたことなんてないから実際どう思ってるかなんてわかんないけど。
そう思うハメになった出来事はもちろんあって、そのおかげというか、そのせいで、というか。
アタシを苛んでいたPTSD――トラウマの克服も、無理矢理成し遂げたというか。
絶ぇ――っ対に、先日のダイブのことを強く言えないようなことしでかしてるからな。
そう思ったら腹立ってきたわ。なんでアタシあんなにあいつに怒られたんだ。
「ま、そのあたりはボスも望んじゃいないでしょ。あいつはアタシが走ってるのが好きなわけで、いわゆる伴侶になってお世話させるのは絶対イヤだろうし」
「デっちがそれでいいならいいけどね。あんな無茶苦茶してて、いつ死んでもいいようにだけはしとかないと」
「できればこっちのトラウマにならんような死に方してくれよな!」
「うっせー、死ぬ前提で話すな!」
とはいえ、そのあまりに皮肉げな心配は、それはそれで嬉しいものだ。
アタシだって無茶がしたくて無茶をしてるわけではない。やれると思ったからやったのだ。
イチかバチかじゃない。百の確信を以て飛び降りたんだ。
それを死ぬだのなんだの! 言い方ってもんがあるでしょうに!
「じゃ、アタシはボスん家行くから! フンペは勝負服、サガンはシューズ、ありがとね!」
「おーう、あいつによろしくな」
「またネ」
店を出て、ボスの家へ向かう。
駅前まで戻ってから、電車に乗り込む。
そう離れているわけでもない。そのまま十数分、たった数駅の移動。
目的の駅で降りて、ロータリーへ。
ウマ娘レーンを走ればすぐにでも到着するんだけど――。
まあ、そう急ぐこともないか。
「よう、思ったより早かったな。もっとゆっくりしてきてもよかったんだぜ」
「忠犬みたいに待ってたくせにさあ」
「嬉しいだろ?」
「ホント、ポジティブだねえ」
ボスと一緒に帰るのも、悪くない。
§
「マルゼンさん!」
「ライスちゃん、お疲れ~!」
「お久しぶりです、マルゼンスキーさん」
「たっちゃんトレーナーもおひさ~!」
中山レース場で開催されるGⅡ、日本経済新聞社賞――「日経賞」。
去年の年明けに件の教官さんと話してからココロの調子は取り戻すことができたけれど、カラダが全然ついてこなかった。
その理由も、今回ははっきりしていた。
お兄さまが言うには精神的な低迷時期にもカラダは成長を続けていて、去年の明け頃に上がり調子になったとき、アタマの中のカラダは低迷前の状態で記憶されていたからだ、というお話だった。
ギコバタと足並みが揃えられなかった、ということだ。言われてみればそういう感覚があったので、さすがライスのことならなんでも知ってるお兄さまだと感心したものだった。
不甲斐ない結果が続く一年だったけれど、ココロとカラダがようやくぴったりとくっつく感覚が今回得られた。
この調子なら春の天皇賞までにもっともっとうまく走れるようになると、私が確信するくらいに。
「わざわざすみません。僕の都合で御足労おかけして……」
「なに言ってるの。トレセンから中山レース場なんて私にとっちゃ近所よ近所」
「おそれいります」
「も~、お堅いんだから」
お兄さまとマルゼンさんは仲がいい。
というよりもマルゼンさんと仲が悪いヒトをあんまり見たことがない。――いや、全然かも。
だからといって八方美人だというわけもなく、本当に、誰とでも仲のいいヒトだ。
「さて、じゃあライスちゃん。一足先に学園に帰るわよ!」
「あ、はい! それじゃあ、お兄さま。お疲れさまです」
「うん、お疲れ、ライス。明日と明後日は休養日にしてるから。もし自主トレしたくなったら連絡して」
「はい。お兄さまも、無理しすぎないでね」
「わかってるよ。ありがとう。――じゃあマルゼンスキーさん、よろしくお願いします」
「OK牧場! ライスちゃんはばっちり送り届けるから任せて、君は君のお仕事しっかりね」
お兄さまはもう一度だけ「くれぐれも安全運転でよろしくお願いします」と言って、レース場へと帰っていった。
URAからなにかあるらしくて、最近はよくレース場や学園でもトレーナーの方が集まってなにかしているみたいだった。
マルゼンさんにも「タッちゃん」に乗り込む際に聞いてみたけど、曖昧な表情を浮かべるだけで詳しく知っているようではなかった。
「一昨年の有マ記念のときは心配してたけど、ライスちゃん最近はどんどん顔が良くなっててお姉さん安心しちゃったわ」
「あ、はい。お兄さまにも、周りのみんなにも支えられて、なんとか取り戻せた感じ、です」
「次の天皇賞、現地は難しいかもしれないけれど、バッチシ応援してるからね!」
「はい! ありがとうございます!」
笑顔で運転席のマルゼンさんを向いた顔が、シートに半分埋まる。
相変わらず暴力的な乗り回しで、急発進したのが原因だった。
とはいえ法定速度に達するとしっかり加速をやめて速度維持をする。
スキール音が常に鳴り響く、急ハンドルと急な加減速。
メリハリのある運転、といえばよく聞こえるだろうか。私はもうここ数年で乗り慣れてしまったけれど。
人間であるお兄さまは負荷に耐え切れない様子で、私と一緒にドライブに誘われるといつも断っている。今回は事実、用事があったので穏便に断れたとホッとしていることだろう。「いやあ、ちょっとないよね……」とひきつった笑顔を浮かべるお兄さまを、忘れることができない。
「マルゼンさんはお仕事どうですか?」
「実はね……辞めちゃった」
「えっ、ええ!?」
「ルドルフに誘われて一緒にURAで働いてみたけど、なんかねー」
マルゼンさんが、仕事を辞めた。
レースと仕事は違うことだって頭ではわかっていたけれど、マルゼンさんの口から直接聞いてしまうと、すごく現実味のない話だった。
私はずいぶん驚いた表情を浮かべていたんだと思う。ちらりとこちらを伺ったマルゼンさんが、苦笑いを浮かべてから前方の赤信号に急減速をかけて停止線ぴったりで止まった。
「ルドルフは頑張り屋さんでしょ? URAのアレコレを改革して、ウマ娘にとってよりよい環境を作るんだ~ってもう真っすぐなのね」
「想像できますね」
「うふふ。そうそう。生徒会長やってた頃からなんにも変わんないの」
「……その、どうしてって聞いても?」
「全然オッケーよん。っていっても、そんなに複雑なアレコレがあったわけじゃないのよ。ルドルフのやってることが大事だってことはわかるし、それを支えていくやりがいもあったわ。……学生の頃は全然気にしてなかったんだけど、私ってほら、彼女と比べると好奇心旺盛っていうか、落ち着きがない感じでしょ? で、ちょっと前になんとな~く、ほんとになんとなくね、あっ、って気づいちゃったのよね。あ、私ってそこまで大人じゃないな、ルドルフよりよっぽど子供なんだなって」
そう言ってアクセルをべた踏みしてタッちゃんを急発進させたマルゼンさんの横顔は、話す内容に反して明るかった。
否定的な気付きではなかった、ということなのだろう。額面通りに卑屈な捉え方なんかじゃなく、もっと前向きな気付き。
「今ね、私、トレーナー資格の勉強してるの」
「え、すごいです!」
「アハ、ありがと」
思わず口から出ていた賞賛を、マルゼンさんは素直に受け取ってくれた。
ウィンカーの意味があるのかわからない鋭すぎる車線変更のあと、そこから先を話すことを少しだけためらう様子を見せて、照れたような可愛い顔を浮かべて続きをしゃべってくれた。
「トレーナーくん……あ、たっちゃんトレーナーじゃなくて、私の担当してくれてたトレーナーね? 彼に連絡を取って、ちょっと勉強見てもらったりとかして」
「それって、その……そういうことですか?」ちょっとワクワクしながら聞いてしまった。
「向こうはその気があるんだかわかんないけどねー!? でも、私がトレーナーになりたいって相談したらすっごい喜んでくれて」
現場向きだったってことかも、とマルゼンさんは言う。
確かにマルゼンさんのフットワークの軽さは社屋でじっくり働くイメージよりも、そこらじゅうを飛び回ってバイタリティに活躍する現場向きなのかもしれない。
そういう意味では、URAでトゥインクル・シリーズやドリームリーグの運営に携わるよりも、競技者側の、それも指導者は適任なのかも。
ふと、指導者からの連想で一年前に切っ掛けをくれた栃栗毛の教官のことを思い出す。
印象に残っていたからか、あれから何度かデビュー前のウマ娘たちを指導する姿を見たことがあった。
名前を知る機会は残念ながらなかったけれど、とても仲がよさそうに友達のような距離感で指導にあたっていたことを覚えている。
「すごいなあ……。ライスは自分のことでいっぱいなのに」
「比べる必要なんかないわよ。ライスちゃんは主役なんだから、周りのことはたっちゃんトレーナーに任せちゃえばいいのよ!」
「あははっ、はい、いっぱいお兄さまに甘えちゃいます」
車のタッちゃんは、いつの間にか高速道路に乗っていた。
たぶん、一瞬不自然に減速したタイミングで料金所を潜っていたのだろう。
合流地点を越えた瞬間、カラダがぐん、とシートに押し付けられる。
「ライスちゃんは、フリースタイルレースって知ってるかしら?」
「フリースタイルですか……? クラスメイトの子が話していたのを聞いたことがあるくらいです」
「あー、じゃあ、その……」なにかを言いよどんで、マルゼンさんは不機嫌そうに眼を細める。「ダメね。私らしくないわ」
追い越し車線へ乗って、クオッ、と鋭いエンジン音を響かせてタッちゃんが加速する。
まるでマルゼンさんのストレスを解放するかのような、気持ちのいい加速だった。
数台を追い越してから車線を戻して、マルゼンさんは改めて言った。
「知ってるのよ、私。たっちゃんトレーナーとか、彼とか、今なにに忙しくしてるのか」
「それって、最近多くなってるトレーナーさんたちの集会のことですか?」
「そう。集会っていうか……対策会議かしらね?」
「対策……ですか?」
そのとき、後方からクラクションが鳴らされた。
しかも単発ではなく、かなり長い間鳴っている。
後ろを振り向くと、大型トラックがすぐそこまで迫っていた。
「まさか、今ここで……!?」
「な、なんなんですか!?」
瞬間、タッちゃんの真横に大きな鳥が追いついてきた。
両翼の先端をギラギラと輝かせて――いや、これは、飛行機……? ドローンだ!
『ストームブリング・トーナメント!』
タッちゃんの全長にも届きそうな大型ドローンのスピーカーから、聞き取りづらい大音声が吐き出された。
ストーム、なに……?
事情を知っているらしい隣のマルゼンさんを伺うと、苦虫を噛み潰したような、焦りも滲んだ横顔が見えた。だけど彼女からの説明はない。
マルゼンさんの焦りが私にも伝わってくる。現状をどうにか把握しようとして、シートから身を乗り出して後方を確認する。
大型トラックはある程度の車間距離を取って、タッちゃんの真後ろに陣取っていた。ごくりと生唾を飲み込む。今すぐにではなくとも、こちらが下手な動きを見せれば追突してくるのでは、と思ってしまう不気味さ。
緊張感がピンと張り詰めたとき、トラックの荷台が走行中にも関わらず展開していくのが見えた。
赤、青、緑の色とりどりの閃光がほとばしる。
それぞれが大型ドローンの傍へ集って、大編隊を組み上げた。
『マルゼンスキー! ライスシャワー! これは驚きのゲスト!』
大型ドローンからは相変わらず大音量の声が叩きつけられてくる。
一瞬で聞き取りづらくはあるけど、どうやら女声らしいことはわかった。
実況というよりはアナウンス、といったテンションの声。こんな状況でもなければ聞きやすくて心地よかっただろうに。
『倫理、常識、理性――我々を鎖に繋ぐものは数多い。果てなき自由はおそらく、誰もが想像するよりも自由ではない』
声は語る。
社会のルールというものがある。
法律、自制心、理性、倫理観、そして共通の常識。
文明とひとくくりにしたそれこそが、人間を人間たらしめている境界なのだ、と。
愛おしき不自由と、それを謳う。
であれば、自由、とはなんなのか。
なにものにも囚われず、自分を自分と表現すること。
法律に縛られないということは、犯罪者で。
倫理に囚われないということは、背反者で。
常識に諭されないということは、異端者で。
『だから、我々はウマ娘に夢を抱く。夢を見る。願いを託して、祈りを捧げる』
「勝手なことばっか! あなたたちなんかにそうしてもらわなくても結構よ!」
思わず、という風に出たマルゼンさんの反論に、私は、私はけれど――。
『懐かしい言葉を思い出す。すべてのウマ娘の幸福を願って。その理想を掲げて走ったウマ娘がいた。その言葉を、聞くたびに、思い出すたびに、ハラワタが煮えくり返る!!』
「ただの嫉妬ってことでしょうが! ルドルフは、本当に、それを願って、叶えようと努力してる!」
『大儀、大いに結構! 理想、夢、追い求めるなにかが、輝く道になる! 菊花賞!』
「っ――」喉が、きゅうと絞まる。菊花賞。その名前を出されて、その言葉が差すのが、マルゼンさんでもルドルフ元会長でもないのは明白で。
『春の天皇賞! おめでとうございます! あなたの勝利に、ココロからの祝福を! だのに――!! ココロない誰かは、あなたの幸せを曇らせた!!』
――たぶん。この声の主は、ウマ娘だ。それも、レースを知っているヒト。
あの場にいた誰もが、私の立場にいるかもしれなかった。現実として、それが私だっただけ。
あそこで走った誰もが、三つ目の冠を、盾を、戴かせるわけにはいかない。今度こそと私が、と、必勝を掲げて挑んだ。
ブルボンさんも、マックイーンさんも、その勝利が当然のものであるとは考えていなかった。
彼女らも、頂を目指す同志で、ライバルだった。
菊花賞のときも、春天のときも、お兄さまは相当荒れた。
普段の優しい人柄からは考えられないくらい、不機嫌だった。
私が出せなかった怒りのぶん、お兄さまが怒ってくれたんじゃないかってくらいだった。
振り返れば、叫びたかったのだろう、と。
去年からずっと思っている。バカにするな。みんな必死だった。誰が勝ってもおかしくなかった。
みんな、この日のためにがんばってきた。
焼けるような肺を抱えて、張り詰めた全身の筋肉に顔をしかめて、きしむ骨と関節、足りなくなった酸素でもうろうとする意識、動くための体力がざあざあと音を立てて流れ落ちていく。
そうして鍛えて、刻み付けてきた練度と肉体を、レースを目標に絶頂に近づけていく。
ココロとカラダを、抑えきれない闘志と熱を、ぎゅうぎゅうに詰め込んで爆発寸前まで持っていく。
感情と、意志と、カラダがまじりっけなく同調して、最高に届く。
『あなたの勝利を、望んだヒトのココロまで、その誰かは傷つけた。許しがたい。なんで死んでないの? そいつらは』
感情が抜け落ちた音声だけが、窓越しに届く。
『今でものうのうと生きて、トゥインクル・シリーズのレースを見ては文句を垂れて、評論家ぶって誰かを貶すことしかできないクソボケども。言葉が簡単にヒトのココロを砕くんだって、そいつらは知らない!!』
今まで悲しみだけを感じていたココロに、そよ、と怒りが吹き込まれている感覚があった。
そういうヒトたちがいるのを、たぶん、現役のウマ娘の中では、私が一番よく知っている。
悲しい――本当に悲しいことだけど、だけど、私は。
「私は、一輪の花になりたいって気付いたから……」
誰でもいいわけじゃない。
今度の春の天皇賞を勝って、もしかしたら怒られちゃうかもしれないけど、そのときにお兄さまに伝えようと思っていたことがある。
誰でもいいわけじゃない。――あなたの幸せに、私はなりたかったんだって。
それが私の、ライスシャワーの幸せで、いつかそれが輪になって、いろんな花が咲く場所になったらいいなって。
『言葉よりも遠くへ、早く――連れ去って、ブリンガー!』
この違法競争の目的がわからない。
危険を冒してまで、命を懸けてまで、走ることの意味が。
私たちだって、確かに怪我のリスクや、競争人生を賭けた勝負をすることはあるかもしれない。
レース中の転倒事故で病院に搬送されたあと亡くなったウマ娘だって、いなくはない。
でもこれは、なにかが違う。
まるで、死ぬために走っているようだった。
その輝きは毒だろう。まともな光じゃない。
そこに希望を見出してしまうくらい、魅了された誰かは暗く深く、沈んだところにいるのだと思う。
努力、友情……そのどれもがバカバカしくて、自分以外のものは全部、自分を傷つけるものでしかなくて。
法律とか、倫理とか、常識とか、そういうものに押し潰されてかろうじて生きていくしかない。
息苦しさに胸を掻き毟り、肉を剥いで、骨を開いて、内臓を晒して、それでもきっと、なくならないナニか。
そういうものを抱えて生きていくことは、この世の地獄でしかない。
でも、でもそれでも、希望はたしかにある。
こんな私でも、それができた。
できたんだから――!!
「あなたたちのそれは、間違ってます!」
『ストームブリング・トーナメント、エンゲージ!!』
§
実況のスタートの声と同時に、数名のウマ娘が展開されたトラックから飛び出す。
それぞれがアスファルトを蹴って加速を始めるなか、何名かのウマ娘が勢いに乗り切れずに転倒、プロテクターから火花を散らしながら後方へとすっ飛んでいく。
その中でも復帰できたのは一名のみだが、白バ隊が到着するよりも早く、どこかで高速を降りてレースから離脱するために走り出したに過ぎないだろう。高速道路でコケるのは、イコール、ほぼ全力疾走している速度の中での転倒にも近しく、加えて地面は芝やダートではなくアスファルトだ。復帰できなかったウマ娘は、チームの救助班が命懸けで助けるのを祈るか、白バ隊に捕まって病院送り、その後に刑務所勤めが待っているだろう。
スタートを切れたウマ娘らは順調に速度を上げ、足に負担の大きいアスファルト上を、ほとんど全力疾走する形だ。
各々がマルゼンスキーらが乗車した車を横目に追い越していき、先行した大型ドローンを追いかけ始めた。
だが、そのうちの一人が、タッちゃんに並ぶように走っている。
目深に被られた帽子と、黒を基調にしたライダーズギアじみた勝負服とで印象には残りづらい。
その、栃栗毛の毛髪を除けば。
§
「教官」
「おんや、ライスシャワーちゃん。まともに話すのは……あー、一年ぶりくらい?」
その態度を、ライスシャワーはしらじらしいとは思わなかった。
日経賞の翌日、早朝。ずいぶん早く登校したライスシャワーは、教務課横にある《ポーラスター》の教官室を訪ねていた。
お目当ての教官は、ぼんやりとした様子で自分の机の前にいた。
温かかったろうコーヒーも、もう冷めているのか湯気が出ていない。
食べかけのあんぱんと、サンドイッチ。朝練をするウマ娘のために早朝から開いている購買部でよく見るものだった。
ライスシャワーが傍に来ても、机の上を見つめたまま彼女を見ようともしない。
ライスシャワーは顔が強張るのを感じた。その気配を感じたのかはわからないが、教官はようやくといった様子で顔を上げた。
「なあに、怖い顔してさ」
「……わ、私……」
「…………やさしいんだね、君はさ」ライスシャワーから視線を外して、教官は続けた。「その様子だと、トレーナーにも話してないでしょ?」
「どうして、ですか?」
「どうして、ときましたか」
教官はくくく、と喉を鳴らして笑った。
あー、と取り留めもなく声を鳴らして、椅子の背もたれに体を預ける。
そのまま顔だけをライスシャワーに向けて、立ったままの彼女を上から下まで見た後、おもむろに立ち上がると隣の机から椅子を持ってきて彼女に差し出した。
「とりあえず座れば? 先輩、来るの結構遅いし」
「……し、失礼します」
控えめに椅子に座ると、ライスシャワーは改めて目の前の教官に目を向ける。
栃栗毛の髪は、深めの色合いをしていて派手さはない。陽の光があれば赤く見えるだろうけど、影に入れば黒髪にも見えそうだ。
垂れ目がちで、左には二連星の泣きボクロ、唇も薄め、鼻もそこまで高くはないけどひとつひとつのパーツが絶妙に噛み合った「和風美人」とでもいうべき美貌。
座っているからわかりづらいが、手足もすらりと長く、気だるげにしている今の姿がかなり様になっていた。
「どうしてっていうのは、つまり、アタシがどうしてあんなレースしてるのかってこと?」
「そ、そう、です。あんな……まともじゃないレース、どうして?」
「ハハ。ええ? 結構はっきり言うね。思わず笑っちゃった」
からかっているわけではなく、本気で思わずと言った風だったのでライスシャワーもカッとなったりはしなかった。
どう話そうか、頭の中でまとめているのだろう様子も感じ取れたので、それ以上急かすことなく待つことにした。
うーん、という唸り声が一分近く続いて、ようやく教官はぽつぽつと話し始めた。
「走れないんだよね、アタシ」
「……、……っ?」
「アタシの現役時代のこと、知ってる? いや知らなくても全然問題ないんだけどさ」
「その……未勝利だった、としか」
「あー、はいはい。もしかして去年? 先輩から聞いた?」
「あの、はい。そうです」
「まあ、ありがちな話なんだけどメイクデビューで事故ってさ、トラウマ抱えてまともに走れなくなったの」
いろいろ努力したんだよ~、と何気なく語る教官。
走ろうとしているウマ娘が、走れなくなることの絶望は如何ほどなのか、ライスシャワーは想像するしかない。
彼女自身も、勝利に伴う虚無感や落胆、誹謗中傷の声からレースそのものを遠ざけていたが、本質的には「走れる」者だった。だから、教官に共感することはできない。
ただ、想像はできる。
たぶんそれは、自分にとってやさしい世界だ。
勝利の先にあった茨もなく、敗北のくやしさも苦しみもない、安寧の日々だ。
その世界の自分は絵本作家になることにひたむきなのだろうか。そんな世界も、あるいはあったのかもしれない。
いわゆる「創作の苦しみ」というものを代わりに抱えていそうではあるが、痛し痒しといったところかと納得できる。
そしてライスシャワーは、その幻想を打ち砕く。
毒々しいやさしさだと、それに気付けるだけの経験を積んできた。
その世界にはない悲しみも、虚無感も、情けなさも、くやしさも、苦しみも、そのすべてを「あったっていい」と思えるくらい、素敵な出逢いを重ねてきた。
これまでの道がなければ、今の自分はない。嫌いだった自分も、今は好き。だから、今の自分がないのなら、そのifに価値はない。
ライスシャワーに、傷はあろうと瑕はない。
「――君も、強いヒトだ」
「……強くしてもらいました。ライスひとりじゃ、ここまで来れませんでした」
「じゃあ、誤魔化すのもやめよっか」
同情を引くつもりだった、と言外に口にしてから、教官の表情に妖しさが宿る。
「アタシには夢がある。みんなのココロを連れて飛ぶ。高く、遠くへ」
「あなたのそれは、自殺を高尚なものと勘違いしたひどい夢です」
「言うねえ。傷つくなあ……」
「ライスは……聖人のつもりはありません。今の私が誰かの夢を否定するような言葉を吐いていたとしても、私はこの足で、いくつもの夢を壊してきた実績がある」
「怖いよ、君」
「そう、ライスは怖いんです。だから教官、もうあんなレースはやめてください」
ミホノブルボンの三冠阻止。
メジロマックイーンの春天三連覇の阻止。
去年の暮れには「ナイスネイチャの四年連続有マ記念三位阻止」も追加された。
説得というには拙い、けれど圧としては充分にすぎる。
「
「それは――」
「トレーナーにも言ってない。――あは。アタシはさ、自信あるんだ」
なんの、とライスシャワーは言葉にできなかった。
その通りだったから、というのもある。警察でなくともいい。トレセン学園でもいい。なんなら担当トレーナーに言えばよかった。
そうすればわざわざ早朝に教務課に足を運ばずとも、この教官は職を失い、危険極まりない違法競争をしていた罪を問われて塀の向こう――。それでよかったはずなのに、なぜ黙って本人と対面することになっているのか。
「ココロが連れていかれそうだったんでしょ、アタシの走りに」
それがすべての理由だった。
その走りを見る機会を、潰したくなかった。
だから、ライスシャワーがここに来た本当の理由は別にある。
あんな危険なレースはやめてほしい、というのも本心だ。
一度だけとはいえ、話して、ココロを晴らしてくれたヒトでもある。その恩返しもしたい。
でも、それよりも、なによりも、ライスシャワーが誰にも告げずに教官の前に現れた理由は別にある。
「――私と、本気で勝負してくれませんか」
もう一度でいい。
もう一度だけ、このヒトの走りが見たい。
アスファルトじゃなくて、芝の上を走る、このウマ娘を見たい。
本気だ。併走だとか、ペースメーカーとしての走りじゃない。
勝つための走りが見たい。このヒトの、全力の走りが見てみたい。
「でも、君は来月末の天皇賞にも出走するんでしょ? 昨日の日経賞もある」
「……構いません」
「構うよ。腐っても教官よ、アタシ。トレーナーと相談して、日程決めてきなさい」
「え」
「なに?」
「や、あの、断られてるんだと……思って」
「それができれば一番いいんだけどねえ。まあ、アタシの弱み握られてるし、言うことは聞いとこっかなって」
「ああ、はい……え? その、じゃあ、あの危ないレースもやめてほしい……」
「それは無理かなあ。その代わりに君と本気で勝負するからさ」
へらり、と笑いながら言う教官の宣言にはあまり真剣見はない。
だけど目は雄弁だった。だからライスシャワーは困惑した。
へらへらと、飄々としている彼女の目は、恐怖に濡れていた。口では「勝負する」と何の気もなく言っているにも関わらず、ココロがそれをひどく拒絶している。教官は笑っていた口元を、自然な動作で隠す。ライスシャワーはその類稀なる観察眼で、教官の口元が強張っていたことを見抜く。口元へやった手は頬を強く掴み、もう片方の手は白くなるほど握りしめられている。ギシリ、と床が軋む。座ったまま放り出されていた脚を、強い力で床に押し付けている。首元でぐっと力んで、顔の青さを隠そうとしている。
「……どうして、そんな」
「あー、バレてるか。普段の教導とかぐらいならさ、なんとかなるくらいまでは回復してんのよ。でもさ、真っ当なレースってなると、まだ、カラダがね」
「昨日の走りは?」
「
「…………、それは、トラウマの克服なんかじゃないですよ」
「知ってる。知ってるよ、そんなこと。でも、君ならわかるでしょ? それでもアタシが君と走る理由。
言いたくなかった。こんなにレースを恐れているヒトを、引っ張り出してまでと思ってしまったこともある。
言葉だけでも、ものすごいことだ。恐怖することを「やる」と言えることがどれほど勇気のいることなのかは、ライスシャワーもよく知っている。目の前の教官が語る理由と、おそらく同じ理由で己も走り続けてきたから。
立ち止まったライスシャワーを奮い立たせたのは、彼女のトレーナーだった。友たちとの絆だった。そしてなによりも、彼女自身から湧き出る「走ることが好き」だという理由だった。
教官もそうなのだろう。
ライスシャワーと経緯は違えど、走ることが好きだから、走り続けた。
トラウマを抱えてまともに走れなくなったのに走り続けられたのは、それでも走ることが好きだったからだ。
そしてそんな彼女の走りは、本当に、本当に――。
「あんなレースで走ることがもったいないくらい、教官の走りは綺麗でした」
それは今の教官のアイデンティティを侵す言葉かもしれなかった。
でも、本当にそうなのだから、ライスシャワーにとってはたまらなかった。
走ることが好き、とココロから言えなければ、あんな走りに到達することはない。
現役を探しても、日本中――いや、世界中のどこにもあの高次元の走りに到達したウマ娘はいないに違いないと確信できるほどだった。
それで勝てるかどうかは別問題として、その走りの〝質〟は現役最高峰に手をかけるライスシャワーをしても、手が届かないと言わざるを得なかった。
競争ウマ娘としてその全盛を過ごしていたら、一体、どれほどの逸話を残しただろうと夢想してしまうほどだ。
できることなら今一度。今からでも遅くはない。
もう一度ターフへと戻ってきてほしい。
このどうしようもなく綺麗に走るウマ娘に、勝ちたい。
瞼の裏に貼りついて離れていかないほど鮮烈な、あの走りを上回りたい。
「わかります。それでもライスが走る理由。
椅子から立ち上がり、ライスシャワーは教官へと手を差し出す。
もうどうしようもなく、ココロが高鳴っていた。
ライスシャワーは思い出す。お兄さまは言っていた。「ジーッとしてても、ドーにもならないよ」と。
「ディーンドライブ教官。ライスと、真剣勝負、してください!」
たとえそれが相手にとってどれほど残酷な選択になろうとも。
余計なお世話と突き放されようと、うっとうしいと煙たがられても。
いや、すでにその心配はなかったのだと、ライスシャワーは己の手を握り返す手で気付く。
まだ強張っていて、震える手だった。それでも、だからこそ、ぎゅうと力強く握ってくれた。
走る理由。それでも走る理由を問うてきた時点で、教官の答えは決まっていたのだ。
「いいよ。やろっか。真剣勝負」
[Connect〝WISHES〟]ライスシャワー
スピ:B+
スタ:S+
パワ:B+
根性:SS
賢さ:A(ついてく発動時はS)
芝:A/ダート:G
短:E/マ:C/中:A/長:A
逃:B/先:A/差:C/追:G
所有スキル
☆ブルーローズ・チェイサー Lv.9?
「これ!」と決めた相手と終盤以降に競り合っていたとき、最終直線ですごく加速する。最終コーナー以降で追い抜いていたとき、速度もすごくあがる。
「これ!」と決めた相手がいない場合、発動しない。
原点に立ち帰ったライスシャワーは、運命を覆す準備をしている……。
◎ついてく、ついてく!
「徹底マークの鬼(仮/金)」の進化スキル。
「これ!」と決めた相手がいるとき、根性が十分にあるとき賢さがあがる。根性が十二分に仕上がっているとレース中、常に賢さがすごくあがったままになる。「これ!」と決めた相手のすぐ後ろにつけるとわずかに息を入れる。
「これ!」と決めた相手がいないとき、実力を発揮しづらくなる。
◎漆黒のステイヤー
「黒の刺客」の深化スキル。レース中盤に持久力をすごく回復し、速度がわずかにあがり、さらに視野が少し広がる。
◎決めたよ、覚悟!
「決意のヒーロー」の深化スキル。下り坂で加速力をあげ、さらにぐんと前に出る。
「これ!」と決めた相手がいるとき、強い意志でさらに速度をあげる。
◎燃やすよ、勇気!
「がんばるぞー…おー!」の深化スキル。レース中盤が迫ったとき前の方にいると持久力を回復し、速度があがる。「これ!」と決めた相手がいるとき、少しの間、他のウマ娘からの妨害を受けなくなる。
◎見せるよ、衝撃!
「トリック&トリート」の深化スキル。レース中盤に前の方にいるとき、後ろのウマ娘が掛かるとその持久力を大きく削り、自分の速度があがる。「これ!」と決めた相手がいるとき、疲れにくくなる。
◎怒涛の追い上げ
◎弧線のプロフェッサー
◎スピードスター
◎全身全霊
◎鍔迫り合い
◎一意専心
◎究極のヒルクライム
・長距離直線○
・長距離コーナー◎
・先行直線○
・先行コーナー◎
・影打
・先行のコツ◎
◆運命の領域
シニア三年目、三女神像を通してウマソウルからの強制的な継承が行われる。宝塚記念への出走が運命づけられ、レース場が阪神から京都に変更される。以降本人にも周りにも気付かれることなく、調子が絶不調になり続ける。「京都レース場×」「コーナー功者×」「コーナー加速×」「坂苦手」「鮮明になる畏怖」が各種取得スキルを無視して上書きされる。
第三コーナーに差し掛かるとライスシャワーは転倒し、競技者生命が断たれたうえで二度と歩くことができない脚になる。失意の中、トレーナーは引退し以降消息不明、ライスシャワー自身のもうひとつの夢であった絵本作家になる情熱すら冷め切り、抜け殻のようなココロとカラダのまま一生を終える。これはライスシャワーというウマソウルに刻まれた破滅の運命である。
今はまだ、運命が刻む悪夢の中でもがき苦しんでいる……。
◆特殊イベント「私の名前」
ライスシャワーがココロを預けたトレーナーがいること。
ライスシャワーがココロを燃やしたライバルたちがいること。
ライスシャワーがココロから走ることを愛していること。
もはや奇跡を追う必要もない。その脚は、確かに踏み出せる!
純化した夢。研ぎ澄まされた願い。彼女への愛しき祈り。
すべての願いは繋がり、希望は守られ、運命は変わる。
運命を覆した先でライスシャワーの固有スキル「ブルーローズ・チェイサーLv.9?」が深化し「ブレッシング・チェイサーLv.1」に覚醒する。
☆ブレッシング・チェイサーLv.1
先行[作戦]、中・長距離のレースのとき、本領を発揮し実力を十二分に示す。
レース序盤にコース取りがうまくなり、好位置につけると気配を殺して息を整える。
レース中盤に視野が大きく広がり、ココロを落ち着け掛かりにくくなる。
レース終盤以降に「これ!」と決めた相手と競り合っていたとき、最終直線で加速力をすごく上げ、力強い踏み込みでゴールまでの間、速度がすごく上がり続ける。ライスシャワーへ送られる声援が多ければ多いほど効果は高まる。
※Tips
◆たっちゃんトレーナーのひみつ
実は、昔に子役として鳴らしていた時期があるらしい。