太古の活人拳【天地無真流古武術】を学ぶ極普通の高校生、田中勤は悪しき達人の手により一夜にして師匠と妻子の命を奪われた。彼の心が引き裂かれ、現実を受け入れられなくなったその時、心に悪鬼人格が芽生え、復讐の憎悪を以てウゴク・オーラを掌握した。田中勤はタツジンスレイヤー、達人を殺すタツジンを名乗り、復讐の戦いに身を投じる。そして彼は、長く苦しい戦いの末、ついに師匠と妻子の仇と対峙したのだ!

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◆とてつもない勢いでカラテが高まっていく!◆


◆クロスオーバー異世界格闘とくべつプログラム◆


【タツジンスレイヤー】より最終回【メナス・オブ・オガタイッシンサイ】
 


タツジンスレイヤー

 

「オヌシを殺すためだけに暗黒カラテを鍛え、磨き、極めてきた……」

「……きみは、確か……」

「なにも思い出す必要はない。何故ならオヌシは私がこの場で惨たらしく殺すからだ」

 

 

その男はジゴクめいた声とともに、平時から身に付け凡夫を装う眼鏡を外した。そして、背広の内ポケットから鼻下を覆う鋼鉄面皰を取り出し、身につけた。面皰の左右には「達」「殺」の二文字。恨み辛みが深く籠ったおぞましいフォントで刻印されていた。

 

 

ぺろり。拳聖、緒方一神斎は頬に走った切創を舌で舐める。たったいま裂かれたものだ。一介のサラリーマンが繰り出せる手刀ではない。「やるじゃないか」悪鬼羅刹めいた壮絶な笑み!怖い!なんという殺伐とした気だ!武術的威圧たる気当たり!常人がこの場にいたならばしめやかに失禁したことだろう!

 

 

「ドーモ、オガタイッシンサイ=サン。タツジンスレイヤーです」

「タツジンスレイヤー……まさか君がそうだったとはね。あの時の弟子がまさか、これほどに成熟していようとは。この私の目を持ってしても見抜けなかった」

 

 

タツジンスレイヤーのイントネーションは狂っていた。突き出した手刀を引き、両手を合わせてお辞儀している。緒方一神斎は油断なく緒方流古武術を構えた。白ローブめいた武闘着の内は何も着ておらず半裸。異常発達した達人筋肉を晒している。ズボン越しに盛り上がる下半身筋肉も凄まじい。

 

 

無手組、武器組を問わず数多く屠ってきた謎めいた武術、暗黒空手の達人……ややイントネーションが違う。カラテ、であり、タツジン、だ。闇をも喰らう暗黒?その安直なネーミングセンスには疑問を覚えるものの、実力までもがブラフというわけではない。領域に達している。シリアスに。

 

 

「そんな……田中さんが、ニンジャエックスで、ニンジャエックスがタツジンスレイヤーだったなんて……」

 

 

この場に居合わせた白浜兼一は信じられないものを見るような瞳で田中勤を、タツジンスレイヤーを見た。見ることしかできなかった。楽しい遊園地デートが一転して死地に。死闘。共闘。タツジンスレイヤー。あまりにも多くの出来事が起き、理解が追い付かないのだ。

 

 

謎めいた赤黒ニンジャ装束の男、ニンジャエックス。闇の武器組に拐われたとき、白浜兼一は彼に助けられている。『武術に傾倒しても良いことなどない。早く止めたほうが良い』という警句を残して姿を消した存在。その日兼一は殺人拳のおぞましさを直視した。

 

 

その正体があの、陽気でひょうきんな一側面を見せた田中努であったなどと兼一には信じられぬ。梁山泊での香坂しぐれとの試合は、弟子クラスの視点からみても見事なものであった。豊満なイマジナリー回顧している間にも、タツジンスレイヤーは両手を合わせてお辞儀しつづけている。

 

 

「オヌシもアイサツせよ。両手を合わせ、オジギをするのだ。妻子の仇。師匠の仇。オガタイッシンサイ=サン!アイサツするのだ!」

「それが君のルーティーンかい?」

「アイサツせよ!スゴイ・シツレイ!」

 

 

緒方は訝しんだ。タツジンスレイヤーの瞳は殺意と狂気に彩られている。狂気のあまり言語野のほかに思考回路にもなんらかの不具合が?見事な殺気の練り上げであるのに、それを仕掛ける様子をみせないというのは、武人として実に不可解。その間にタツジンスレイヤーは三度アイサツを求めた!

 

 

アイサツは絶対不可侵の礼儀。古くは英雄同士の一騎討ちに始まり、現代では廃止された決闘法にも名乗りの作法が書かれるほど由緒正しい殺人儀礼……殺人拳の使い手の中には殺しのスイッチを必要とするタイプの武人もいる……緒方一神斎は儀礼的な殺人スイッチ可能性に気付いた。

 

 

「……よかろう。その練り上げた殺気に敬意を表して……緒方流古武術。緒方一神斎。いざ!」

 

 

緒方一神斎がタツジンスレイヤーの流儀に合わせ、両手を合わせてお辞儀した、そのコンマ2秒後!「カッ!」「イヤーッ!」両者激突!ハヤイ!先程まで彼が白浜兼一や朝宮龍斗へ振るってみせた拳とは次元の違う、達人同士の速度だ!「田中さぁん!」白浜兼一はもはや声を上げることしかできぬ!

 

 

「イイイヤヤヤヤッ!」両者最小限の動作で迫り来る拳を打ち、払い、あるいは躱し、次を打ち込み、次を、その次を、次へ次へ次へと!ハヤイスギル!ミニマル木人拳めいた拳打の応酬はまさに殺人拳の小宇宙!だが!「ハァッ!」「グワーッ!」ラッシュの合間を縫い先に胴体へ拳を届かせたのは拳聖!

 

 

カラテ衝突に弾かれたかのようにタツジンスレイヤーは水平飛行!ガガガガッ!指先で地を削り減速!そしてしめやかにサイドローリング受身に移行した。「なんと無様な!天地無真流はどうした!御堂戒が草葉の陰で泣いているぞ!」緒方一神斎の一喝!ヤバイ級の気当たり!

 

 

タツジンスレイヤーの繰り出した暗黒カラテに天地無真流古武術は片鱗たりとも見られなかった。それが緒方一神斎の逆鱗に触れたのだ!「黙れ!オヌシに何が分かる!イヤーッ!」タツジンスレイヤーは腰ベルトホルスターから一度に四枚のシュリケンを引き出して投擲!その胸には拳打痕!

 

 

「フンッ!」緒方一神斎は右腕を薙ぎ、親指から小指まで全ての指の間に手裏剣を挟み取る!達人!「天地無真流古武術はカツジン・ケン!腐れ外道どもに振るう気一切無し!イヤーッ!」タツジンスレイヤーは腰ベルトホルスターから一度に四枚のシュリケンを引き出して投擲!

 

 

「フンッ!」緒方一神斎は左腕を薙ぎ、親指から小指まで全ての指の間に手裏剣を挟み取る!達人!「どういうことなんですか田中さん!」兼一は持ち前の無神経さでインタビューを試みる!だが今のタツジンスレイヤーの心には響かぬ!届かぬ!完全に無視!

 

 

「その程度の暗器が通じると思うな!天地無真流のひとつでも繰り出して見せろ!」「断る!全てのサツジン・ケンは我が暗黒カラテで殺す!イヤーッ!」タツジンスレイヤーは背広に仕込んだヌンチャクを引き出し急接近しつつヌンチャクワーク!幻影的な軌跡が目を惑わせ、真に狙うは顔面!

 

 

ガシッ!緒方一神斎は手裏剣を足元に零し、顔面に迫る二節棍軌道を見切って握り締めた!「空手と名乗る割には随分と暗器を良く使う!」ベキベキベキッ!鉄芯ごと握り潰す!達人!だがタツジンスレイヤーはヌンチャクに拘らず手放し、拳聖の足元に身をかがめているではないか!

 

 

意識を上下に揺さぶる妙技!「イヤーッ!」こ、これは!暗黒カラテ技!ヘブンスルーキャノン!「八極拳の八大招・立地通天炮か!」膝下から下顎目掛け達人バネの力で突き上がる拳を見切った緒方一神斎は両手で受け止めたものの、二節棍を手放すために一手遅れる!

 

 

そのためのヌンチャク!拳聖の身体は突き抜けるような気の衝撃で浮き上がる!「イマダーッ!」タツジンスレイヤーが一気に仕掛けた!瞬時にして拳聖の背面に回りつつ跳躍し、がっちりと羽交い締める!「イヤーッ!」そして跳躍勢いを乗せて空高く!

 

 

その高さ、少なくとも10メートルを優に超える。頂点で頭が下になり、そのまま地面めがけて落下する。「こ、これは!?」ジュー・ジツの禁じ手!「まさか暗鶚衆の秘伝!」アラバマオトシ!「鶚落としか!?」

 

 

「いけませんわ!」地に伏していた風林寺美羽が何らかの何かを感じとり、身を起こして叫ぶ!そのバストは豊満であり、身を起こす振動で震えていた。「イイイイヤアーッ!」杭打ち機で打たれる車止めよろしく、拳聖の頭部は地面に打ちつけられた!KRAAAAASH!

 

 

「ぐはぁッ!」「馬鹿な!?」つい先ほどまで兼一と争い、しかし諸事情から兼一が緒方へ喧嘩を売ってからいままで見に徹していたバーサーカーはありえざる光景に思わず叫んだ!地に弾けた達人衝撃波で一同がのけぞる!

 

 

男衆はその場で堪えたが美羽は不安定な姿勢であったが故に再び地を転がった。歪曲した豊満が地に押し付けられている。「ありえねえ」バーサーカーは受け入れがたい現実に呟きを漏らす。拳聖とも称される緒方一神斎が、かような大技を無抵抗に受け入れるなど。

 

 

転がって落下点から離れたタツジンスレイヤーは、ダメージを庇いながら慎重に身を起こし、注意深く、昏倒したかに見える拳聖を見守った。「やった、のか……?」静動轟一の反動で満足に身を動かせぬ龍斗もまた、到底信じられぬものを見るような心地で、まだらに亀裂の走る落下点を見据える。

 

 

おお、しかし、見よ!地面を掴む拳聖の手に力がこもり、ぶるぶると震えたと見るや、ゆっくりとその身を起こしたではないか。「なるほど、やるな。まずは謝罪しよう。暗黒カラテ、無手も武器も厭わぬ節操無しと見下していた」拳聖は自らのアゴを押さえ、捻った。ゴキリ、と骨が軋む音が聞こえた。

 

 

緒方一神斎、無事である。その理由を解き明かすには、緒方流古武術の投げ技、浮遊投げについて知る必要があるだろう。緒方浮遊投げ……宙に浮いたまま遠心力を利用して相手を投げ飛ばす技である。しかしアラバマオトシは言わば空中バックドロップであり、遠心力など発生しない。では何故?

 

 

読者諸君の中に達人観察力をお持ちの方がいれば見切っていただろう。アラバマオトシ完遂、そのコンマ5秒前の不自然な一回転を。そう。緒方一神斎は達人コロの原理で刹那の回転エネルギーを生み出し、気を以ってエネルギー増幅し、遠心力一回転の終わらぬうちにタツジンスレイヤーを投げ飛ばしたのだ!

 

 

転がって落下点から離れたように見えたタツジンスレイヤーはその実、拳聖に投げ飛ばされていたのだ!なんたる達人技!まるでニンジャだ!「どこでどのように暗鶚衆の秘伝を奪い取ったか、あえて聞くまい。だが感謝しよう。これで緒方流にまた一つ、新たな秘伝武術の真髄が刻まれた!」

 

 

緒方一神斎は感激した。伝聞でしか知らぬ一影の流派の秘伝のひとつを、その身に味わい、術理を理解し、モノにすることが出来たのだから。「良いぞタツジンスレイヤー!他にはどんな技を隠し持つ!?全力でかかって来るが良い!貴様が私を先に殺すか、貴様の武術が先に底を晒すか、勝負だ!」

 

 

叫んだ緒方一神斎は見の型を構える!それは彼が数々の古武術を収集する際に到達した見切りの極地!敵方のあらゆる攻撃に対応しつつも達人分析力を以てその真髄を奪いとらんとする時にのみ見せる構えだ!緒方はおよそ後世に伝承されぬであろう暗黒カラテの武をその身に刻もうというのだ!

 

 

「イヤーッ!」「それはもう見た!」緒方一神斎は投げ込まれた手裏剣を親指から小指まで全ての指の間に一瞬つまみ、後方に放り捨てた!『いえーい』固唾を呑んで見守る白浜兼一の脳裏に複数いる師匠の一人、香坂しぐれが自慢げにブイサインしている姿を幻視した。その胸は豊満である。

 

 

豊満な胸を誇る香坂しぐれとタツジンスレイヤー。その手裏剣術を見比べれば、素人目に見ても香坂しぐれに軍配が上がる。タツジンスレイヤーの多彩な殺人術……その一つ一つの技術錬度は真の達人と比較し劣るのでは?だとしたら!「ダメだ!田中さん!」静止の叫び!もう遅い!「イヤーッ!」

 

 

「単調な!こちらから行くぞ!」緒方一神斎が叱責とともに仕掛けた!「イヤーッ!」その突進行為を予め読みきっていたかのようにタツジンスレイヤーはシュリケン取り出し動作をキャンセル!フェイントだ!迫り来る拳聖へとツイノセン!右ポン・パンチ!「ハァッ!」

 

 

緒方一神斎は突進勢いを殺さずに流麗な浴びせ蹴りで回避と攻撃を同時に!「ヌウーッ!」タツジンスレイヤーは後頭部を左腕ガード!拳聖は全身燕返しめいた弧と円の動きの合間にタツジンスレイヤーのTシャツ袖に指を引っかけ投げる!あれこそ緒方流浮遊投げ!先ほど見せた窮地キャンセルとは違う!

 

 

アブナイ!タツジン遠心力で頭から叩きつけられては再起不能ではすまないぞ!あたまがばくはつしてしまう!「イヤーッ!」タツジンスレイヤーはマイコめいた動きに合わせ自らも回ることでタツジン遠心力を獲得!そして片手を地に着いた際のカラテ反発力を乗せてメイアルーアジコンパッソ!

 

 

「今度はカポエイラか!」緒方一神斎は浮遊投げの型をあえて崩し、頭部粉砕せんと迫るタツジンスレイヤーの右踵を紙一重で回避!KRUSH!空振り踵が地を砕く!「イヤーッ!」タツジンスレイヤーはカラテ反動で身を起こし、アグラめいた姿勢となりつつある拳聖の心臓部へドラゴン・クロウ・ツメ!

 

 

緒方一神斎は胡座姿勢から遠心力余波のみで立ち上がり、掌握した気を凝縮してタツジンスレイヤーの抜き手を正面から迎撃せんとする!あれは緒方流数え抜き手!なんたる天地無真流正統後継者へ天地無真流から奪い取った武術を返す外道行為か!「ヨン!」両者の指先が正面衝突!

 

 

だが気の練り上げかたを変化させる事でカラテ斥力発生せず!「サン!」タツジンスレイヤーは迫る数え抜き手を同じ技で返すのか!?否!右チョップ突きで突き出す指の数は四つ!あくまで暗黒カラテを貫き通すつもりだ!「イヤーッ!」両者の指先が正面衝突!バキバキバキ!右指5本複雑骨折!

 

 

「ニィ!」緒方は気の練りを変化させ二本指を突き出す抜き手!タツジンスレイヤーは左チョップ突き!突き出す指の数は四つ!あくまで暗黒カラテを貫き通すつもりだ!「イヤーッ!」「いけない!」この後の顛末を悟った龍斗がなんとか身を起こそうとする!だが動けぬ!静動轟一の反動だ。

 

 

両者の指先が正面衝突!グシャア!左指5本粉砕骨折!「グウーッ!」「イチ!」凄まじい達人コロの原理を含んだ固有の気の練り上げ内包した指一本突きがタツジンスレイヤーに迫る!アブナイ!タツジンスレイヤーの無事な指はもう無いぞ!「イヤーッ!」あ、あの突き技は!?

 

 

掌打だ!指が無事であれば五指がきれいに並んでいたであろうその暗黒カラテ技はダーカイ掌打!「カアッ!」先ほどまでとは全く気の練り上げが違う指一本突きが掌打を貫く!だが憎悪の殺気を練り上げた腕一本を貫き通せず!読者諸君には一度ハンマーと釘の関係性を思い出していただきたい!

 

 

仮に釘先端部を逆さにしハンマーを振り下ろしたとて、釘がハンマーを貫き通すだろうか?表面を抉っても、あるいは根元まで突き刺さったとしても、ハンマー自体を貫くことはないはずだ!(八極拳の打開か!あらゆる防御を貫き通す数え抜き手に被せて打開を!?このような返し技があったとは!)

 

 

極限の瞬間、緒方は感心した。掌を犠牲にすることで必殺の一撃をむしろ逆に……突き手の腕の芯にまでより深く気が通っていたのはダーカイ掌打のほうだ!「ぬおおっ!」「とんでもねぇな!」その全容こそ完全には捉えきれぬバーサーカーであったが、極限の瞬間は見えた。

 

 

一秒に満たぬ四連突き応酬を制したのはタツジンスレイヤーだ。「カッ……ハハハハ!すばらしい!またひとつ武が発展した!」高笑いを上げる緒方一神斎の右肩は脱臼していた。「ドラゴン!」タタミ3枚距離離れていたタツジンスレイヤーが追撃の暗黒カラテ、ドラゴン・トビゲリ!

 

 

「フンッ!」爆発的な鋭角飛び蹴りに合わせ、拳聖は回し蹴りで事も無げに迎撃した。「グワーッ!」水平飛行!ズザー!両足で減速!やはり単純なワザマエを打ち合わせたならば圧倒的に緒方一神斎が強い!暗黒カラテのベールが剥がされきったそのときこそ、タツジンスレイヤーは死ぬ!

 

 

状況はジリー・プアー(訳注・徐々に不利)だ。どうするニンj……タツジンスレイヤー!その胸部に刻まれた拳打痕と蹴り痕はあまりにも深いぞ!肋骨大破!肋骨大破!片膝をついた姿勢から立ち上がれぬ!ダメージ重篤!

 

 

緒方一神斎は事も無げに脱臼した肩をプラモデルめいて嵌め込み、手を握り、開きと繰り返した。「どういうことなんですか……」その時である!「田中さん……師匠の……妻と子どもの仇って!」兼一は持ち前の無神経さで再びインタビューを試みる!タツジンスレイヤーは兼一を一睨みした。

 

 

未だに立ち上がれぬ!ダメージ重篤!「私が答えよう!」緒方一神斎はスタスタとタツジンスレイヤーに歩み寄りながら返答した。武術の発展に欠かせぬ、その犠牲について……「という、非常に残念な一例があっただけということだ!」なんたる悲劇!そんなことが許されて良いのか!

 

 

「タツジン殺すべし……」歪んだイントネーションとともにタツジンスレイヤーは立ち上がった!「タツジン殺すべし!」ザバッ!背広をTシャツごと握り締め、無残に剥がし取る!そんな、無事な指は無いはずなのに!「タツジン殺すべし!」タツジンスレイヤーの目が邪悪に見開き殺気が膨れ上がった!

 

 

まさか……暴走!?「コオー……ッ!ハアー……ッ!」彼はセンコめいて瞳を収縮させているが、特殊な呼吸法により怒りを深く心に鎮めた。「変わった息吹だ。まだまだ秘技を隠し持っているようだな。面白い」チャドー呼吸を見た拳聖の目は爛々と輝き、初めてタノシイ・ランドにやってきた少年めいた。

 

 

白浜兼一にはこの巨悪を憎めぬ。悪しき殺人拳の使い手であるはずなのに、武術へのラブ、リスペクト、そしてラブは本物だからだ。同時に、タツジンスレイヤーを静止する言葉も持たぬ。愛する妻子や師匠を奪われた者を失った人を止める言葉など持ち合わせていないからだ。

 

 

では彼のインタビューは無意味な、無価値な、余計な言葉であっただろうか?否。その間、タツジンスレイヤーは呼吸を整え、立ち上がることができたのだから。だが次の瞬間!「崩れる!危ない!」龍斗が声を荒げた!なんでだか炎上している遊園地の火の手が城めいたアトラクションを崩したのだ!

 

 

ガラガラガラ!崩落先には横たわる美羽!千切れた水着で儚く隠れる豊満が揺れる!だが龍斗は動けぬ!静動轟一の悪影響だ!「うおおおお!」動いたのは兼一!死闘の後遺症を省みず達人たちに鍛えられた力を振り絞って美羽を抱きしめるように救出!美羽のバストは豊満であった。

 

 

「それでいい。君は守れよ」タツジンスレイヤーが零したのは微かに残された人間性の発露か。ほんの一時、拡大しかけたその瞳は再び鋭く収縮した。「コオー……ッ!ハアー……ッ!」タツジンスレイヤーが呼吸を繰り返すたび、その目のオーラめいた輝きは強く、鋭くなっていく。

 

 

シンピテキなインスピレーションがタツジンスレイヤーにもたらしたレッサー・チャドー。その奥義のすべてを引き出すことはできない。だが!「イヤーッ!」タツジンスレイヤーは自ら人手裏剣めいて側転強襲!暗黒カラテ!カマキリ・トビゲリ!「もっと見せてみろ!」緒方一神斎は見の型で防ぐ!

 

 

「イヤーッ!」タツジンスレイヤーは空を蹴り、エア・トライアングルリープ!そしてヒショウ・ドラゴン・ツメ!「蟷螂拳と三角飛び、鷹爪翻子拳の合わせ技か!」緒方一神斎は暗黒カラテの術理を見抜いて防御!ガシッ!タツジンスレイヤーの腕が複雑に交差し拳聖の腕を絡め取る!

 

 

暗黒カラテ!逆イポン背負い!サツバツコンボ!「イヤーッ!」「ふははははは!」緒方一神斎は背中合わせの体勢から笑いながら自ら跳び、さらに身を翻してタツジンスレイヤーと対面しなおすと脇腹を掴み、逆に投げる!あ、あれは!緒方流脳天地獄蹴り!「頭だ!かわして田中さん!」

 

 

投げで天地逆転させ脳天を蹴るさまを見たことのある兼一の助言!「イヤーッ!」タツジンスレイヤーは頭部をクロス腕ガード!「プッ!」そしてメンポ隙間からフクミ・バリ!「むっ」「イヤーッ!」さらに宙にいながらにしてウインドミルめいた旋回脚!「ぜあっ!」緒方一神斎は見の構えで弾く!

 

 

両者ノックバックしタタミ4枚距離!ゴジュッポ・ヒャッポ!……本当に?一見拮抗しているかのように見えるが、悪鬼羅刹のごとき笑顔を浮かべる緒方一神斎はまだまだ余裕があり、レッサー・チャドー呼吸を繰り返すタツジンスレイヤーには一切の余裕は見られない。ダメージ差も明白。

 

 

タツジンスレイヤーの両指はすべて要即時治療、掌に風穴、肋骨も大破。明らかな重症。一方、緒方一神斎が負ったのはアラバマオトシによる頭部への多少のダメージと右肩脱臼。あとはせいぜい頬を掠めたフクミ・バリ程度。体力アドバンテージはどう贔屓目に見ても緒方一神斎にある。

 

 

これが達人の中のエリートと自称タツジンの差なのか?積み上げた年月が、修練に掛けた歳月が、時の重みめいて両者間に隔たっている。その差はあまりにも深い。緒方一神斎はストレッチめいて手足をブラブラとさせ、防いだ技の威力を顧みる余裕すらあった。

 

 

そして達人分析結果を口にする。「どうやら暗黒カラテとは空手、柔術、中国拳法、カポエイラ、暗器を高度に融合させた武術体系のようだな」ワオー。どっかで聞いたことある組み合わせにちかいことだなあ。アッ鳥獣戯画=サンがぴょんぴょんしているよ!カワイイだね!

 

 

なお、このクロスオーバーはニンジャヘッズが偶然ここに来て投稿しています。ニンジャと達人の相関性とは実際無関係。「使える忍術は鶚落としだけか?それが君の限界なのか?君が私を殺しきれぬなら……私が君を殺すぞ」コワイ!

 

 

ゴアアア!ああ!また何らかのアトラクション施設が謎の火の手で崩れようとしている!その下には美羽との壮絶な死闘の末、いろいろあって気絶した少女、小頃音リミが横たわっている!破れた衣服から零れるその豊満はかすかな呼吸で上下するばかり。危険だ。

 

 

「ぐううう!」龍斗は軋みをあげる身体に鞭を打つかのごとく必死に歩み寄る。だが彼女の元へたどり着いた時点で半ば力付き、座りこんでしまった。BREAK!崩れるアトラクション施設!誰か、誰かいないのか!龍斗はほのかな笑みを浮かべてリミを抱き上げた。次の瞬間!KRASH!

 

 

拳を突き上げ崩落アトラクション施設を砕いたのは……「バーサーカー!」「アンタとはいずれ戦ってみてえからな。こんなとこで死ぬんじゃねえぞ」ユウジョウ!ヤンク……もとい、不良同士の暗黙の了解めいた共通認識が二人を救った!

 

 

「コオー……ッ!ハアー……ッ!」その間に、タツジンスレイヤーはレッサー・チャドー呼吸を整え続けた。彼はまだ、あるヒサツ・ワザを隠しもっていた。温存したのはこの、最期の打ち込みのために!(ナラクに行くぞ。これが最期のイクサだ)サツバツとした決意。

 

 

そんな彼にじりじりと、緒方一神斎は間合いをつめていた。生死の瀬戸際にこそ、最も武術の本質が出る。拳聖は最後の最後まで出汁たっぷりな暗黒カラテを骨髄までしゃぶりつくすべく、タツジンスレイヤーの回復を待っていたのだ。

 

 

「ただひとつ……暗黒カラテに武術的アドバンテージがあるとするならば……私の武術はタツジンをスレイするためだけに修練されたということだ!」

「やってみせろ!この緒方一神斎に対して!」

 

 

タタミ1枚距離!長い間をおいて拳聖の問いにタツジンスレイヤーが答えた、その瞬間がノロシとなった!「イヤーッ!」命をかけた打ち込み!緒方一神斎の右ストレートパンチ!「イヤーッ!」タツジンスレイヤーは打ち込みキャンセルブリッジ回避!(ブリッジ?)

 

 

それは緒方一神斎になんら武術的優位性を感じさせぬ回避動作であった。正中線剥きだし。手足は死に体。隙だらけだ。だが、その、あまりにも無防備な姿勢が、彼の戦意を一瞬フリーズさせた。理解に苦しむ。要分析な。

 

 

――田中勤は知っていた。極普通の高校生であったころに知った。それは、およそ達人と呼ばれる人種は、戦闘中に戦闘的に意義を見出せない動作を見せると、ほんの僅かに硬直、無防備にフリーズする瞬間があるということ――世界広しと言えども、田中勤だけが知るであろうタツジン真実!

 

 

緒方一神斎が得意とする二連突きの二段目を忘れ、どこか気の抜けた、次の瞬間!「イヤーッ!」「がはっ!」ゴウランガ!タツジンスレイヤーのマケドズ・デッドリーアーチ!ブリッジ姿勢から臓腑を抉り取らんと繰り出されるは異次元に語り継がれる伝説のカラテ技!サマーソルトキック!

 

 

ナムサン。かつて金に困ったタツジンがショービズとして観客にハンマーで自身の腹筋を打たせていたが、ある日気が緩んだ一瞬に叩かれて死亡した悲劇的事故が想起される。まさかタツジンスレイヤーはその事故情報からマケドズ・デッドリーアーチに至るヒサツ・ワザを編み出したというのか!?

 

 

気の抜けた達人おそるるに足らず!異次元的な事象に例えるならば、ニンジャソウルの抜けたニンジャはもはやニンジャではないのだ!

 

 

右足爪先部が拳聖の脇腹を深く抉り!地から足を浮かせ!左足踵部が拳聖の下顎を完全に捉え、砕き、天高く跳ね上げた!(なん……だと……!)ゴフッ!血反吐を吐きながらも緒方一神斎は訝しんだ。何故ブリッジ姿勢なのか、何故サマーソルトキックなのか。答えを求めて思考を回す。

 

 

だが彼の知る殺伐とした殺人を中心とした闇の武術の世界に、あえて全身の急所を曝け出すかの如きブリッジ姿勢に可能性を見出した武術など存在しない!タツジンスレイヤーの暗黒カラテはまさに武術特異点!

 

 

「イヤーッ!」一足先に着地したタツジンスレイヤーが再跳躍!天高く吹き飛ばされた拳聖をフルネルソン!タツジンコロの原理で旋回力追加!ま、まさか!タツジンスレイヤーは先ほど破られたばかりのヒサツ・ワザ改善をあえて再び繰り出そうというのか!また緒方浮遊投げで投げ返されるぞ!

 

 

だがそのために緒方一神斎は今一度、体内に気を練り上げるところから始める必要がある。しかし彼の武術思考回路はいま、ブリッジ回避の謎を暴くべく全力稼動していた!ERROR!ERROR!ERROR!データに不足!過去の殺人組み手に、武術収集事例に、参考情報一切なし!地面が迫る!

 

 

拳聖は何故気を練り上げないのだ!?まさか、まさか、一度目のアラバマオトシの際に負った頭部へのダメージが、彼の状況判断になんらかの悪影響を!?コンマ5秒あれば抜け出せるという余裕が、彼に武術解析を優先させているのか!?タツジンスレイヤーはそこまで考えて!?

 

 

緒方一神斎の脳天が地に打ちつけられる、そのコンマ01秒前!(そうか、わかったぞ!マカーコだ!カポエイラの魅せ技のひとつ!単なるバック転!ただのバック転が、これほどの可能性を……)緒方は頭上の大地を見た。もはや静動轟一の暇は無い。(これだから武術は面白い!あっぱれ!)

 

 

KRAAAAAAAAAASH!燃え盛る炎が衝撃に煽られ、一瞬沈静化するほどのインパクト!濃厚な土煙が立ち上り、ギャラリーと化した弟子クラス存在はその結果を見ることができなかった。「兼一!」その場へ新たにエントリーしたのは馬連華。兼一たちの味方だ。

 

 

馬連華が唯一身に纏うジャケットを持ち上げる胸は豊満であった。「おーい!ここだー!」そして新白連合の総督、新島春男もまた手を振りつつやってきた。「どこも火の海だ。ヤベェぜ!早く逃げねーと!」兼一たちはやや逡巡した。決着はどうなったのだ?

 

 

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回転エネルギをも加えたアラバマオトシが完全に入った。カラテのオバケ、一影九拳の一人といえども流石に無事ではいられまい。タツジンスレイヤーは自身にも伝達されるはずのカラテ衝撃を拳聖へと受け流し、そのダメージを増幅させていた。だが全てではない。反動ダメージがその全身にフィードバック。

 

 

タツジンスレイヤーはバックドロップ叩きつけ姿勢から全身の気が抜け落ち、仰向けに倒れた。気力を使い果たし、指先ひとつ動かせぬ。緒方一神斎は、その上半身が埋まっている。頚椎損傷程度では済むまい。その顔に浮かべるのは果たして、悪鬼羅刹の醜悪な表情か、あるいは……

 

 

眼鏡もなくおぼろげにかすむ田中勤の視界の先で、幾人かが集っている。「もう無理だ!」その中には、冷静な判断を下せる者がいるようだ。再び蘇った火の手がまわり、燃え盛る炎が視界を阻む。「た、田中さんは……田中さーん!」

 

 

ああ、心優しい少年が自分を呼んでいる。答えなければ。巻き添えにするわけにはいかぬ。田中勤は最期の力を振り絞り、欺瞞を口にした。

 

 

「こんなのぜんぜんへいきへいき!むしろヘッチャラ!確かにおかしなアトラクションが多いけど、そんなのばっかりってわけでもないぞー!」「な、なんかあのオッサンはけっこう余裕あるっぽいぜ!俺達も行こう!」「う、うん」再確認したが、やはり指一本動かせない。

 

 

(私のようにはなるなよ。兼一君)地に倒れたまま動けない田中勤の元へ歩み寄ったのはバーサーカー。風船ガムをクチャクチャと咬み、ありえざる光景に目を見開いていた。「ウソだろ?まだ死んでねーのかよ」誰が?田中勤が?ち、違う!まさか!ピクリ。緒方一神斎の指先がかすかに動いた。

 

 

そんな……活路を捨て、命を捨て、人間性を捧げてなお、事足りぬというのか!?拳聖はコンマ01秒で生存に足る気を練り上げたとでも……いうのか!?なんたる達人!「お……わ……」地中から囁きめいた声まで!コワイ!バーサーカーはぶっきらぼうに緒方一神斎を肩に担いだ。

 

 

「こんなでも、俺の師匠なんでな。どっちの勝ちにしろ、勝負アリだ。連れてくぜオッサン」

「む、無念……」

「そうでもない。死んだほうがマシだと思うような、そんな後遺症が残るかもな」

 

 

バーサーカーはツカツカと早足で歩き去った。去り際に残した言葉は飾らぬ本心か、田中勤の死期を悟って気を利かせたのか……FLAAAAAAAAME!炎はますます勢いを増し、田中勤は動けない。(センセイ……マユ=サン……フユコ……スミマセン……届かなかった……)

 

 

ニンジャであれば殺せた。そのようなタラ・レバなど実戦では何のタクティカル・アドバンテージにもならない。しかし今際の時に、少しばかりの夢想が胸中に浮かんでも仕方ないではないか。だが、彼が次の瞬間に幻視した光景は、彼がニンジャに成り果てていれば見られなかったものだろう。

 

 

おお、見よ!ゴウランガ!それは憎悪の炎がもたらしたのか、浄化の炎がもたらしたのか。田中勤のイビツに歪む視界の先に、燃え盛り身を包む炎の先に、亡き師匠と妻、そして生まれることすら叶わなかった娘のプラズマめいたイマジナリー幻影が!

 

 

「御堂師匠……真結さん……芙由子……」

 

 

田中勤の魂は、先に逝った者たちに導かれ……この燃え盛る遊園地の中で……この燃え盛る遊園地の中で……ナムアミダブツ!おお!ナムアミダブツ!タノシイ・ランドに包まれてあれ!

 

 

【メナス・オブ・オガタイッシンサイ】終わり【タツジンスレイヤー】完

 

 


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