「エキシビジョンレース『トレーナー杯』だって?」
僕は、今年引退したチーフトレーナーから引き継いだウマ娘、■■■■にそう聞き返した。
「そう、トレーナーが走る速さを競うお祭りレースだよ!前トレーナーから聞いたてたよ、国体の長距離走の選手に選ばれてたって!メイクデビューレベルの賞金も出るらしいし、出てみない?」
そう言われた僕は、坂はあるし芝やダートは陸上競技場よりは走りにくいだろうがその分の体力ロスがあっても走りきれるだろうと思い、出場を決めた。コースを聞いたところ、東京2400mで行われるらしい。その日から、■■■■のトレーニングの合間に、自分のトレーニングも行っていった。トレーナー杯に向けて出走するトレーナーへの東京レース場の再現コースの使用許可がおりたため、再現コースを走ることでペースを最適化していき、スタミナを切らさずそれでいて速く走れるようになっていった。5000m競争の世界レコードの半分に近いタイムを出せるようになり、これなら勝てるのでは?と希望を抱きながらその日を待った。
そして、当日になった。想定外だったのは、ウマ娘のトレーナーが出場していたこと。白毛のウマ娘で、尻尾のさきがちょこんと黒鹿毛の色になっている。1枠1番を抽選で取れた幸福はあったが、ウマ娘と人間の身体能力差は歴然としている。2400mは人間の中学生ではまだ長距離走の範疇となるが、ウマ娘のレースでは中距離に分類される距離。人間の陸上競技でのそれと比べて比較的速度を落とさずに走りきれてしまうだろう。2400mが厳しいウマ娘もいるが、さすがにそれなら出てこないだろうからスタミナの関係でペースが落ちることも考えづらい。
これでは流石に優勝は難しいだろうなと思い、それでも陸上競技経験者の意地として2位を目指そうと思った。しかしそれは甘すぎる考えだったのだった。
ゲートに入り、スタンディングスタートの姿勢でゲートが開くのを待った。ウマ娘のトレーナーが大きく他を振り切るだろうが、無視して自分のペースを守れば2位にはなれる、そう信じて心を落ち着けていた。しかし、ゲートが開いて走り出した後、桐生院先輩がウマ娘のトレーナーに競りかけていたのだ。自分を含め皆が動揺したが、自分は自分のペースを守らなければ走りきれないとすぐに心を持ち直し、自分のペースで走った。調子を乱した他のトレーナーがかかり、スタミナが尽きて垂れてくるのをかわしながら走った。しかし、遠く離れた2つの背中には最後まで近づくことなく、ちぎられていた。
『東京2400mエキシビションレース、「トレーナー杯」!1位は桐生院葵、2位はハナ差でスターゲイザー!タイムは3分30秒9、大きく差がついて3位は――』
僕は、6分30秒0で3位だった。経験者の意地は名門の実力にうちのめされたのであった。