苛烈な勝利を。
温いなと感じた。
ウマ娘トレーナーの資格を得て、漸く夢を実現出来ると臨んだ中央トレセン学園、選抜レースを見た俺の正直な感想だ。
誤解は無くしておきたいのだが、中央というだけあって血筋が優れている娘も、此処に来て初めて名前を聞いた娘も優れた素質を持っているし、誰もが輝かしい未来への期待に満ちており、誰を選んでもある程度の成果は望めるだろうとは俺も思っている。
しかし、俺が望むのは剥き出しの……獣のような闘争心と勝利への貪欲な熱だ。
レースを経験してからソレに目覚めてる娘もいるだろうが、俺はそんな出遅れに対して拒否感があり、担当するのなら初めからレースという戦場が生み出す勝者と敗者に強い拘りのある……そんな娘の担当をしたい。
「今日、最後のレースは……メジロラモーヌか」
ターフに脚を運んだ彼女は、メジロの令嬢らしい優雅な笑みを携えており、その表情は俺が求めるウマ娘とは最も程遠いと感じ、そんな愚か極まる考えは彼女の走りで総て、『黒』へと染め上げられ、気が付けば他のウマ娘など見る気にならず、視線はメジロラモーヌへと奪われていた。
戦績は圧倒的なまでの一着だったのだが、俺の視線の先に立つ彼女は満たされている様には見えず、何一つ乱れていない呼吸がこの選抜レースに対する失望なのだろう。
「ッッ……出遅れた」
メジロラモーヌに染め上げられ、見惚れていた為に即座に動けず、彼女と契約しようとするトレーナー達の壁が既に出来上がっており、今から行ったとしてもあの壁を超えていくのは至難の技だろう……しかし、諦めるという選択肢は無い。
「……」
新人からベテランまで、数多くのトレーナーに囲まれている彼女をただジッと見つめ続ける。
──来いよ、メジロラモーヌ──
「へぇ」
視線がぶつかりあった瞬間、誰もを魅了し惹きつけてやまない妖艶な笑みを浮かべるメジロラモーヌが、その笑みで周囲の人間を退かすと、雅な脚取りで座ったままの俺の前に立つ。
「よぉ。何か用事か?」
何を言いに現れたかは想像が出来るが、素直に口にしてやるのは負けた様な気がして煽るような態度を取る。
「熱い視線を投げかけた癖に」
そんな俺の態度すら見抜いて、色っぽく口元に手を当てて微笑むメジロラモーヌを見て背筋に寒気が走るのを感じた。
なるほど……次は強がりすら許さないと……良いな、やっぱり俺好みだよお前。
「余計な言葉をお前は好まないだろうから、端的に言おう。俺の手を取れ、メジロラモーヌ」
お前だけじゃ決して味わえない勝負の場と、勝利を俺が捧げてやる。
だからこの手を取り、俺の隣で何処までも苛烈に鮮烈にターフを駆け抜けて欲しい。
「強引なのね……見たところ、新人トレーナーの様だけど何が貴方をそこまで駆り立てるの?」
一歩俺に近づき、手を差し出し座ったままの俺をゾッとするほど冷たい瞳で見下ろしてくるが、氷の如き瞳の先に僅かに俺に対する興味と期待の色を浮かんでいるのを見て、俺はニヤリと笑いながらメジロラモーヌを見つめる。
「お前が作り出す戦場を共に駆け抜けたいと感じたからだ。理想も夢も主義も何もかもを捨て去り、この世に生まれ落ちたただのウマ娘として、ターフを駆けるお前と、お前に呼応した者達が生み出す戦を俺はお前の隣に立つ者として見届けたい……だから」
伸ばしていた手を更に伸ばし、見下ろしているメジロラモーヌの手を掴み取りグッと俺の元へ手繰り寄せ、互いの息が相手に届き混ざり合うほどの至近距離で見つめ合い、滾る熱を交差させる。
「──俺を選べ。メジロラモーヌ」
「……良いわ。貴方が私を退屈させない限り、貴方をトレーナーとして認めてあげる」
妖艶にけれど、抜き身の刀身の様な鋭い殺気を滲ませながら『ラモーヌ』は俺をトレーナーとして認めると、ウマ娘らしい力で俺の拘束から抜け出し学園へと戻って行った。
……ははっ、これから忙しくなるぞ、一瞬でも気を抜けばラモーヌに食い殺されるのは俺だ。
「……ははっ!」
灰簾石の色をすっかり移されてしまった様だ──悪くない。
続くかもしれないし、続かないかもしれない。