ある晩、ある屋台に一人の客がやってきた。
屋台の店主は、いつものようにラーメンを提供していくと、客は、味をかみ締めながら、屋台の店主に質問していった。
最初はラーメンに関するこだわりを聞いていたねだが、やがて店主の家族のことなども会話をしていくようになり……。

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深夜の来客

 

 

 

 突然だが、あなたは、あなたの近くにいる人に対して、多少なりとも違和感を感じたことはないだろうか?。

 料理の味が変わったり、急に大人しくなったり、口調が少し変わったり……。

 なぜこんな前置きをするかって?。

 それがこれから話す物語のテーマだからだ……。

 

 

 

 それは、ある日の晩の午後十時を回っていた頃だった。

 マンションが建ち並んだ敷地に、そのラーメン屋台はあった。

 さすがにこの時間になると、家に帰っている人の方が圧倒的に多く、その屋台の店主も店仕舞いの準備をしようとしていた。

 そんな中、

 

「あ、今大丈夫ですかね?」

 

と、一人の男が屋台にやって来た。

 

「えぇ、構いませんよ!」

 

 店主がそう言ったあと、男は椅子に腰かけた。

 店主は男の格好などを見て、

 

「仕事帰り……、って感じではなさそうだな……」

 

と言う。

 それに対して男は、

 

「いやぁ、どうも家に居ても暇で仕方なくってですね。こう……その辺をぶらぶらと散歩してたら、この屋台が目に入ったもんで……」

 

と、恥ずかしそうに語る。

 男は屋台にかけてあるお品書きに目を通す。

 

「へぇー、醤油ラーメンとチャーシューメンですか……。イチオシは?」

 

「うちのイチオシはですね、醤油ラーメンになりますよ」

 

「あ、でしたらそのイチオシの醤油ラーメン、一つ頂きましょうか?」

 

 注文を受けた店主は、その後すぐにラーメンを作り始めた。

 その様子を、男はまじまじと見つめていた。

 

「だんだんといい匂いがしてきたなぁ……、もう長いんですか?」

 

 男の問いかけに店主は答える。

 

「いやぁ、屋台を始めたのはだいたい二年ほど前でしてね、それまでは中華料理店をやっていたんですよ……」

 

「なるほど、でもどうして屋台に?」

 

「まぁ、店を開いていた建物の老朽化による立ち退きですよ。で、新しい道としてこの屋台を始めたわけです」

 

 店主はそう話しながら、屋台を軽く叩いた。

 

「私も若いころは、駅に並んだ屋台ラーメンに憧れておりました。なんというか……、建物とはまた違う魅力があるというかなんというか、あの古き良き景色をふと思い出しましてね。まぁ、それを自ら提供するのも悪くはないと思いまして……。はい、醤油ラーメン」

 

「なるほど、しかしこれはまた美味しそうだ……、ではいただきます」

 

 そう言って、男は割り箸を割り、メンマで醤油ラーメンのスープを掬った。

 割り箸で、スープに浸かった麺を取り出し、メンマで掬った出汁の上にそのラーメンを浸していく。

 そして、男は三回ほど麺に息を吹きかけてから、その麺を口に含んだ。

 

「うん、うん……、はぇー、これは美味い!」

 

 美味しそうに食べる男の顔を見て、店主も思わず笑顔になった。

 

「気に入っていただけましたかな?」

 

 と、店主は男に聞いてみた。

 

「そりゃもちろん!、しかしどうしたらこんな味になるんです?」

 

 そう言われて嬉しくなった店主は、男に対して答えた。

 

「こだわりはスープですよスープ」

 

「と言いますと?」

 

「ベースとして鶏ガラスープを使っているんですよ。まぁ所詮は大したもんじゃありませんよ、昔ながらの醤油ラーメンの味を今もこんな形で提供してるわけです……」

 

 男は納得した素振りを見せながら相槌を打つ。

 

「なるほど、しかしこいつは美味いな……。ちなみにこの屋台、何時からやってるんです?」

 

「平日の正午から夜の十一時までですが?」

 

「そうですか……、いやね?、こんなに美味いもんだからまた食べに来ようかなって思いましてね」

 

「いやぁ、それは嬉しい限りだ!。私もまた今日みたいにあなたと話したくなりましたよ!」

 

「こちらこそ、あっ、これ」

 

 男は、店主を褒めたたえながら金色に光る硬貨を手渡した。

 

「500円ちょうどですね。またいらしてください!」

 

「えぇ、また!」

 

 そう言って男は、ぶかぶかとフードを被り、屋台から出ていった……。

 

 

 

 およそ三日後の同じ時間帯のことだった。

昨日と同じくこの時間は、もう人通りも少なくなり始める時間であるため、店主は退屈そうにしていた。

 そんな時、

 

「あ、こんばんは」

 

と、聞いた事がある声を聞いて、ウトウトしていた店主は顔を上げた。

 

「あぁ!、またお会いしましたね!」

 

 三日前のこの時間に出会った男との再会を喜ぶ店主。

 男は椅子に腰かけ、お品書きを見て言う。

 

「今日はチャーシュー麺を食べてみたいかな!」

 

「そうですか、じゃあしばらく待っていてください!」

 

 そう言って、店主はすぐさまチャーシュー麺を作っていく。

 その様子を眺めながら、男は話し始めた。

 

「そういえば、僕が来るこの時間までだと、普段はどんなお客さんが来るんです?」

 

 それを聞かれた店主は、ラーメンを作りながら話す。

 

「まぁ、基本興味を持って来てくれる人か、最近来るようになった常連さんくらいですよ」

 

「なるほど、昼の常連さんとかもいるんですか?」

 

「そりゃもちろん。ちょっと小太りの禿げた兄ちゃんなんですがね?、だいぶ私のラーメンが気に入ったのか、よく来てくれますよ。まぁ、あなたとは違って、あちらは無口というか無愛想というか……。まぁ、そんな性格のやつもいますよな!」

 

 店主の話を聞いて笑う男。

 

「はははは、確かに!。ところで、家族とかはこの屋台に来たりしないんですかな?」

 

 そう言われると、店主は少し手を止めてしまい、表情も先程のような笑顔ではなく、暗いものとなった。

 

「実は、妻にはとうの昔に旅立たれてしまいました。息子を出産してすぐです。

 お恥ずかしい話にはなりますが、彼女との間にできた息子には厳しく接してしまいましてね……。結果として息子とは和解しないまま家を出ていかれてしまいましたよ……。

 最近は結婚して娘ができたと噂で聞きましたが、詳しくはなんとも……」

 

「なんか、すいません」

 

 男が申し訳なさそうにそう言うと、店主は慌てて笑顔を作って場を和ませようとした。

 

「いやいや!、私のほうこそ憩いの場で暗い話をしてしまった。あ、頼まれていたチャーシュー麺です!」

 

 と言って、店主は男の前にチャーシュー麺を置いた。

 

「おぉ……、これもまた美味そうだ……!。では、いただきます」

 

 そう言うと、男は前に来た時のような段取りで麺を啜り、それに加えてチャーシューも口に含んだ。

 

「うん、チャーシュー麺もなかなかの味だ……!」

 

「お気に召しましたかな?」

 

 と、笑顔で問いかける店主。

男はそれを聞いて、

 

「えぇ、店主のこだわりだから仕方ないとはいえ、なんだか屋台で食べるにはもったいないし、かといって建物で食べられるようになると特別感が薄れてしまうんじゃないかって気もしますな……」

 

 と言った。

 店主は、嬉しがりながらも、

 

「そうですね……。店にもまだ憧れますが、今の私にはこれがちょうどいいんですよね!」

 

と、笑顔で返した。

 そんなこんなで、男はあっという間にチャーシュー麺を食べ尽くした。

 

「いやぁ美味かった!。やっぱり今夜はここにしてよかったですよ」

 

 と、男は500円玉と、3つの100円玉を店主にて渡そうとした。

 だが、

 

「あっ!」

 

 店主の手に硬貨が乗る寸前で、100円玉が店主の後ろ側へと落ちていった。

 

「あらら、これは大変だ!、またこんな暗い時に!」

 

 と、店主は落ちた硬貨を探すためにしゃがみ込んだ。

 男は席から店主へと近づく。

 そして、腕に革製の黒い手袋を着けて、懐のポケットから何かを取り出した。

 ギラギラと輝くそれは、無常にも店主の背中を突き刺した。

 

「はうっ!?」

 

 店主は、背中に激しい痛みを感じた。

 背後を振り向くと、先程の男がスマホをかざしながらしゃがみこんでいた。

 カシャッとシャッター音が鳴り響く。

 その眩い光が消えると同時に、店主の命も尽き果てた……。

 

「……」

 

 男は、亡骸となった店主の顔を右往左往に動かしながら写真を撮った。

 さらに男は、店主の現在持っているもの全てを没収し、フードをぶかぶかと被っては店主の亡骸を担ぎながら、闇夜へと消えていった……。

 

 

 

 しばらくの月日が経った。

 昼頃、いつもの場所で店主は屋台を構えていた。

 その屋台に、禿頭の小太りをした青年が訪れた。

 

「あ……、今日は何にしますか?」

 

「醤油ラーメン……」

 

 その青年に言われ、醤油ラーメンを作る店主。

 

「はい、醤油ラーメンになります」

 

 青年は出された醤油ラーメンを、一口二口と食べていく。

 

「あれ?」

 

 と、青年が声を漏らす。

 それを聞いた店主は、その青年に問いかける。

 

「どうかしましたか?」

 

「前来た時と味が変わっちゃってるような……」

 

「そうでしょうか?、私はいつも通り作っておりますよ?」

 

「そうですか……」

 

 青年は、疑問を抱きながらも気のせいだったと思うようにしてラーメンを食べ続けた。

 そんな中、屋台に置かれたラジオがニュースを流していた。

 

『現在、行方をくらませている指名手配犯の男は、依然として見つかっておりません。警察関係者は、可及的速やかに対処していきたいと……』

 

 そのラジオのニュースを聞いた店主は、口元を緩ませてニヤリと笑った……。

 

 

 

 人は、普段の日常に慣れているがあまりに、突然起こる違和感を見逃してしまうものです。

 今日会ったその人が、明日もいつもの通りの人であるという保証は、案外ないのかもしれません。

 改めてお聞きしますが、あなたは、あなたの近くにいる人に対して、多少なりとも違和感を感じたことはないだろうか?。

 

 

[完]


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