なんとなくpixivに上げてる奴をそのままこっちにも上げてみます。
 戦いが終わった後、数ヶ月位した頃をイメージ。
 裕太の気持ちを知った上での六花ちゃん視点。
 書いた当時は劇場版なんて影も形もない頃なので、食い違いばかりでしょうが、まぁなんか良い感じに解釈して流して下さい。
 あと、書き方の雰囲気が今と違うのもなんか良い感じに流して下さい。

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その後

 ジャンクショップ絢。店内併設カフェスペース。午後六時を回り、夕暮れも過ぎ去ろうと言う頃合い。役割を終えながらも存続している『同盟』の秘密基地には、今日もまた、すっかり少なくなった構成員達の姿がある。と言っても、主要な三人以外は皆故郷に帰ってしまったので、残っているのも集まれるのも、彼氏彼女らだけだが。

「お、俺って、宝多さんとそんなに仲良かったっけ……?」

 どきまぎした様子の響裕太に、宝多六花は思わずラテを吹き出しそうになった。嬉しそうで恥ずかしそうなその様は、まるで小動物系マスコットのようだった。その事に嗜虐的な面白味と愛らしさを感じた彼女だったが、同時に何処か胸の奥底にあるものが痛むのも感じていた。それは、寂しさや悲しさに似た感触をしているように思えた。

 彼にとっては、記憶の無い間に、意中の相手との距離が縮まっていたのだ。慌てると言うか、動揺するのも無理はない。

 しかし六花にとっては、あの時期の事は、忘れようにも忘れられない。この人生――例え神様気取りの誰かによって作られたものだとしても――史上、他には無い強烈な時間だった。そして、そこで育まれた絆と感情は、掛け替えの無いものだった。

「だから裕太、何度も説明したろ? お前は……」

 内海将が諭すように言っている。彼の面倒見の良さには、非常に助けられている。時には鬱陶しく感じる事もあるが、この場の関係にはなくてはならない存在だと、六花は思っていた。

「……って事があったから、って訳だよ」

「うん、理解し難い事だけど、それは何となく真実なんだって分かってる……ん、だけど……」

「何だぁ? お前まだ信じねぇのか?」

「いやいや、信じてる信じてる! 信じてるんだけど、その……」

 裕太が六花をチラリと見る。それは、記憶を無くす前、もっと言えば、彼がハイパーエージェント・グリッドマンと融合し、ヒーローとなる前からしていたような見詰め方だ。思春期の男子がよくやるような、好意と恥じらいとが入り交じった眼差しだ。

「や、やっぱ、あの、自分の知らない間に距離感詰まりすぎって言うか、その、いや、嬉しくない訳じゃなくて、実際嬉しいんだけど、ちょっとびっくりって言うか、複雑でさ……」

「お前……DT丸出しだな」

「は!? う、うるさい! 内海だってそうだろ!」

「やめようこの話、俺に効く」

 童貞よりも馬鹿丸出しの二人を見詰めて笑いながら、六花は矢張り寂しい気持ちが強くなるのを感じた。決してあの頃の裕太が戻ってきてほしい等とは言わないが――そもそもあの頃の裕太はグリッドマンであって、裕太自身では無かったが――押しに弱く優しい中にも、熱い正義感や使命感、勇敢さを見せていた彼に馴染んでしまっていた分、もう少し堂々と自分に接して欲しいと思ってしまうのだ。

「響くんさ」

「ひゃ、ひゃい!? 何、宝多さん!?」

「あのねぇ、別にとって食ったりしないから、ちょっと落ち着いてよ」

「ご、ごめん……」

「全く……」

 苦笑いしながら、六花は続ける。

「私の事、『六花』って名前で呼んでよ? 前はそうしてくれてたからそっちに慣れちゃって、名字だと居心地悪いんだよね」

「え、でも、いきなり名前って……」

「だからいきなりじゃないんだけど……まぁ、響くん的にはそうか」

「前の俺って、凄かったんだね……勇気あったんだなぁ……俺には難しい事でも、簡単に出来ちゃうなんて。俺じゃ勝てないな……」

 その発言に、六花は少しムッとする。

「ねぇ、響くんは勘違いしてるよ? 君が持ってる心ってのは、きっと前だろうが今だろうが変わってない筈だよ? グリッドマンが言ってたもん。自分が取り憑いても尚、私の事が好きって気持ちは変わんなかったって」

「そうだぜ裕太! ……って、六花さんや、ナチュラルにそれ暴露してやるのやめたげてくれません? ほら裕太顔真っ赤にして、多分今心に響いてんのは演説よりダメージの方かと……」

「えー? だって、何か煮え切らないんだもん」

 口を尖らせる六花に、内海は呆れ半分の苦笑を見せる。

「流石六花さん、格好良い。……でも、好かれてて嬉しいのは分かるけど、もうちょっと男心と恥じらいってもんをばね」

「う……」

「あんま浮かれ過ぎてると、後で枕に顔埋めてじたばたする羽目になるぞ」

「う、浮かれたっていいじゃん。誰からでも、好きって思われてんのは嬉しいんだし」

「ほれ、今の『誰からでも』ってので、アイツまたショック受けてんぞー」

「うぁっ!? もー、メンドくさー……」

 項垂れる裕太に、六花は目を閉じて天を仰ぐ。女性に比べて男性はメンタル面で弱いだとか、妙にロマンチックだとか聞いた事があるが、確かに若干夢を見過ぎな感は否めないな、と溜め息を吐いた。

「あの、さ……六花は俺の事、別に嫌いな訳じゃないんだよね……?」

「そりゃ嫌いじゃないよ。大体嫌いだったらこんなに長くつるまないし、ウチの店でわざわざコーヒーまでご馳走しないし……」

「そっか……ありがと、六花」

 ん? ちょっと待って? 今なんか違和感があったな?

 顔の向きを元に戻すと、唖然とする内海と目が合った。彼が視線で促すので従うと、顔を真っ赤にさせて羞恥に耐えるようにプルプルと震えながらも、真っ直ぐ見詰め返してくる裕太が居た。

「ど、どうかな? 上手く、呼べたかな?」

「もう一回」

「え?」

「もう一回聞きたいなぁ。上手く聞こえてなくってさ」

 悪戯っぽく笑い掛けながら言うと、裕太は慌てながら小さな声で呟いた。

「えぇ、マジかよ? 何だよ折角頑張ったのに上手く言えてないって俺ってホントにもう……」

 何度か咳払いや発声練習染みた事を小声で繰り返す裕太。その様が可愛らしくて可笑しくて、六花は微笑みながら声を掛けた。

「うそうそ、ちゃんと聞こえてたよ」

「え、ホント? あー、ビックリしたぁ、良かったぁ……」

「やっと名前で呼んでくれたね?」

「が、頑張りました」

 内海に肩を叩かれながら、緊張したままの顔で答える裕太。端から見れば何とも面白くはあるだろうが、六花にしてみれば、この勇気を振り絞った行いは、嬉しく感じられるものだった。矢張り、中からヒーローが居なくなっても、元から持つ素質に変わりは無いのだ、と改めて実感出来た気がした。

「じゃあこれからも頑張って、それが普通になろっか」

「えぇッ? あ、いや、でも……頑張ります」

「期待してるよ、私のヒーローさん」

 

「私のヒーローさん、だってぇ?」

「うっわ、スゲェ台詞」

 なみことはっすにそう言われて、六花は押し黙る。

 ハンバーガーショップの角席。三人は二対一の形で向き合って座っている。

「ターボ先輩に聞いたぞー? 六花さんたら男心弄ぶの上手ねー?」

「まぁ聞いたって言うか、吐かせたって言うかは置いとくとして……残酷な女だなー、六花さんや。自分の事好きって知ってる相手に行きなり距離詰める割りには、別にOKもしないなんて」

 空になったシェイクの容器が、ズルズルと音を立てる。ポテトはとうに全て消えている。逃げ道は無くなったみたいだ。

「別に、弄んでるつもりなんかないし……ただ、何かまだそんな気がしないって言うか……」

「まだ? って事は?」

「響くんの事、嫌じゃないよ。でも、恋人になりたいかどうかって言うと……そう言う風には考えられないって言うか」

「それに『まだ』ってのが付く訳か」

 はっすの問い掛けに、自分でも分からないように俯く六花。実際、自分でも分かってないのだ。響裕太との関係をどうしたいのか。

「ねぇ、アイツのドコが良いの?」

 なみこが問う。

「髪の毛赤ぇだけの普通の奴だよ?」

「それは、違うよ」

「ふぅん?」

 六花は思い出し、噛み締めるように続けた。

「響くんは……彼は、とっても良い人だと思う。確かに、何か抜けてて人とテンポが違ってて、それにイラっとさせられて、背も低くて痩せっぽちで、男らしさとかとは縁遠いように見えるけど……」

「いや、ひでー言われようだな。間違っちゃないけど」

「でも、穏やかで優しくて、勇敢で、それに人をよく見てるもん。アカネの怒りと苦しみだって、彼は倒すんじゃなく、癒して救おうとしたし」

「でもそれって、グリッドマンとか言う、あのでっかい人が乗り移ってたからなんでしょ?」

「そうだけど、きっとそうだけじゃない。響くんの持つ心がグリッドマンと同じだったから……だから彼らは一心同体になれて、変身出来たんだと思う。だから……」

「そんな彼の事が、気になるようになったんだなぁ、六花さんは」

 なみこの一言に、六花は頬が熱くなるのを感じた。

 恥ずかしさに、違うし、と否定しようとしたが、それを失礼に感じる。そしてその時点で、最早認めているも同然に思えた。

「何が引っ掛かってんの?」

「別に、何が引っ掛かってるって訳じゃないけど……でも、まだなんだよなぁって」

「六花自身の覚悟が決まってない感じかな、こりゃ」

 そうなのかも知れない。六花は思った。自分の問題なのだろう。ヒーローである彼を受け入れる心が、まだ備わっていないのかも。

「響の事、人をよく見てるって言ったけどさ」

 それまで静かにジュースを飲みながら居たはっすが、マスク越しにも分かる笑みで言った。

「六花も大概、人の事よく見てるよね。一見したら冷めてるように思われがちだけどさぁ」

「え?」

「響の事、あんなに説明出来るって時点でそうだろ」

 はっすは六花の目を真っ直ぐに見詰めながら言った。

「別に今私達の前で気持ちを認めろなんて言わないからさ。……アンタが感じてる通りで良いと思うよ。それはきっと正しいからさ。後はゆっくり自分の中で覚悟決めてけよ」

「何かかっこいー事言ってんじゃん? 流石人気配信者は違いますねー?」

「茶化すなよーなみこー、これでも今のマジの奴なんだぞー?」

「分かってるよ。アタシもおんなじ気持ちかな。ま、どーせアイツぞっこんラブな奴なんだし、アンタが『決めるぜ覚悟!』ってやれるまで、待っててくれるよきっと」

「取り憑かれてまで好きだったくらいだもんな」

「ホントに」

 六花は二人の親友の掛け合いに笑いながら、その胸の内に力強い何かが生まれるのを感じた。彼女らのお陰で、より明確に、自分の気持ちが見えてきた気がするのだ。

「正直、私自身がどう思ってるのか、自分でも上手く言えない所があったんだよね。でも……何か二人と話してて、少しずつ見えてきたような気がしたよ」

 親友達は黙って、彼女の言葉に耳を傾けていた。お喋りな連中だが、聞くべき時に必ず聞いてくれる、相手の話を蔑ろにはしない奴らなのだ。だから、親友と言えるのだ。六花はまた言葉を紡ぎ始めた。

「恋なのか愛なのか、友情なのか信頼なのか、まだよく分からないけど……『この世界』で、皆がアカネばかりを見る世界で、彼は私を見ていてくれた。それは本当に驚くべき事だけど、同時に凄く嬉しく思える事かなって。素直に……素敵だって言える事かなって」

 六花の目には、優しい顔をした二人が映っていた。急に恥ずかしさも沸いてきたが、それを包み込むような友情が、目の前の二人からは感じられた。

「いい顔してたよ、六花。ロマンチックでね」

「響の気持ちが分かったわー。私が男だったらほっとかねーもんな」

 普段のやり取りなら、馬鹿にしてるのかと冗談混じりに問い質すようなコメントだったが、その声色には、一切の嘲りが無かった。六花は、彼女らに微笑み返した。

 



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