順番はタイトルから察して下さい。
ただ、割りと私は自分で作った内容忘れて続き書く癖があるんで、なんか妙に食い違ってる所もあるかも。
あと、これも書いた当時は劇場版なんて影も形もない頃なので、まぁなんか良い感じに解釈して流して下さい。
書き方の雰囲気が今と違う云々は以下略。
気付けば、響裕太と言う少年の事が、ずっと離れなくなっていた。
宝多六花は教室の後ろの席を見やりながら、親友二人のやり取りを聞き流していた。
放課後の夕暮れに包まれる教室で、赤い髪の少年は、眼鏡を掛けた彼の相棒・内海将と何かを話して笑い合っている。またウルトラマンか怪獣の話かで盛り上がっているのだろう。男の世界だなぁ、と六花は思いつつも、彼らの好きな世界を知りたいとも感じていた。
ふと、彼が六花の視線に気付いた。六花は反射的に目を逸らす。何でだろう、と疑問に感じながら。
何で見詰めてちゃいけないんだろう? 何で恥ずかしいとか思うんだろう? 堂々と見てれば良いのに。友達なんだから。って言うか、話し掛けに行けば良いのに。もう親友なんだから。
そんな事を考えながら、チラチラと裕太の事を窺ってしまう。
彼は目を丸くして、少し頬を赤らめている。内海に何事か尋ねられているが、気付いてないようだ。
これはまるで鏡写しかも。六花はそう思った。今の自分にそっくりな状況なのだ。頬が少し熱を帯びているが、なみこが肩を揺らし、はっすが問い掛けてくるが、六花には気にならなかった。ただ、見詰め返してくる彼の視線に驚いて、目を少し丸くしながら、何度も逸らしては向けて、逸らしては向けてを繰り返している。
「思春期の男子かよ!」
なみこ、はっす、そして内海の呆れた声が重なって、教室に響いた。だが、最早このクラスにその事でとやかく言う者は居なかった。皆が知っているのだ。彼氏彼女らのもどかしい関係を。知らぬは当人達だけであるが、敢えて言うような野暮な事はすまいと言う、級友達からの気遣いだった。
「裕太、来い! ほら六花も!」
内海が呆れるままに手を引く。
「私達はぁー? ターボ先輩ー?」
「あぁん? ったく……来たけりゃ来いよ」
はっすの問い掛けにもそのまま返し、彼は廊下を進んでいく。なみことはっすがにやけながら後をついて来るのが分かった。
彼は渡り廊下の上にあるベンチスペースに行き、六花と裕太を座らせて眼前に仁王立ちした。なみことはっすは、まるで彼の取り巻きのように少し下がって並ぶ。特撮物の悪役か、と六花は思った。もしくは少女漫画によくある嫌みな役か、とも。
「お前らさぁ、焦れったいんだよ」
内海が乾いた笑いのままに言った。本気で怒っている訳では無いのは、六花にも分かる。彼の激情を見た事があるので、これは違う。だがふざけてからかっている訳でも無い。それも分かった。ノリの良い彼だが、こう言うノリ方はしない。
「う、内海、何言って……」
裕太が戸惑いながら言う。顔を髪と同じくらいに赤く染めながら、彼はあたふたと慌てている。六花はその様から目が離せなくなっていた。恥じらう様が、とても愛くるしい。
そして、ふと自分の頬に触れる。薄化粧の肌が、いやに熱い。よく、白い肌と評されるが、今はどうだろうか。手鏡を見れば分かるだろうが、わざわざポケットから取り出す必要も無さそうだった。姿見の鏡が隣で焦っている。
「六花さんもさぁ」
「な、何、内海くん?」
「もうこの際オープンにしちまえば……いや、もう分かりやすいんだけど……あぁもう」
内海も内海で恥ずかしいようだ。六花は、言葉選びに苦心する様にそう思う。そりゃあそうだろう。誰がわざわざ、友人同士の恋心の確認なんかしたがるだろうか。殊、奥手な人種である、思春期のオタク少年で。
「ちょ、ターボ先輩そこまでしといて尻込みかよ! 退いて、私が言う!」
なみこが内海を押し退けながら前に出た。かしましい思春期の少女であれば、恋路に世話を焼きたがっても当然か、と六花は苦笑した。
「あんね、二人共さ……もう分かってんでしょ?」
「ちょ、待っ、やめてくれよ」
情けない声で、裕太が言う。押しに弱く優しすぎる彼は、こんな状況でも強く出られないようだ。そこも含めて、六花は彼の心に敬意を抱いている。彼の優しさが無ければ、救われなかった者が居るのだから。
「いや、言うね! もう半年以上よ!? いつまでウダウダモジモジやってんのさ! いー加減こっちが悶え死にそうだわ!」
「前はゆっくりやってけば良いって言ったのに……」
六花の呟きに、なみこは鼻で笑ってから答える。
「七ヶ月も前の話じゃんそれ! 大体言ったのアタシじゃないもん、はっすだもーん! それに、もう互いに相手の心分かってんでしょ!」
その問いに、六花は思わず裕太を見る。裕太もまた彼女を見やっていて、二人は視線を交わし、一瞬息を止める。
「ほーらこれだ! だったら何でジーっとして何もしないのよ!?」
「い、いや、俺達には俺達のタイミングってのがあって……」
「ジーっとしててもドーにもならないんだよ! 決めるぜ覚悟くらいしろよ!」
隣で内海が感激しながら頷いている。何に、どこに、と尋ねたくなったが、口を挟むとどんな返しが来るか分からなかったので、六花は黙っていた。
はっすが寄ってきて、裕太に何事を囁いた。
※
「なぁ少年や。六花さんを見ろ」
「え、うん」
「見たな? 良し。君も知っての通り、彼女は美人だ。着痩せする胸も、本人は気にしてるけどあの足も、セクシーの極みだ。水着見てるから分かるよな?」
「当たり前だろ! ……って、あ! いや、あの……」
「いやいや、良いんだよ。さて、そんな美人さんの彼女は、ナンパは勿論、校内外の人気も高いし、スカウトまでと、引く手あまた。君にライバルは多いんだよ。いつまでも君にばかり目を向けているとは限らない。どうする? 他になびいちまったら?」
「そ、そんな……! そんなの……」
「ん?」
「そんなの、嫌だ……!」
「好きなんだろ?」
「あぁ」
「だったら言えよ。場は作ってやるからさ」
※
「わ、分かった……俺……頑張るよ」
「その意気だよ、響」
裕太は頷くと、興奮と緊張の入り交じったような熱を帯びた顔で、六花を見詰めた。その眼差しには、嘗て光の英雄戦士だった頃にも似たような勇猛さが見えた。とは言え、あの頃とは随分違う、欲にまみれてる気がしたが。
はっすは続いて、六花の元へとやって来て、そっと囁いた。
「六花さんや、思い出してくれるかのぅ」
「何その口調?」
「若者諭すとしたら老師だろー? ノリ悪いなー、分かれよー」
「あー、はいはい、で? はっす老師は何教えてくれんの?」
「響裕太、半年前まで怪獣と死闘を繰り広げていたヒーロー、だったんだろう?」
「グリッドマン、ね。で、そうだけど何?」
「またいつその役目が来るかも分からんぞ? そしてその時が来たら、死ぬかも分からん戦いに飛び出して行かねばならない」
ふと、六花は思い出した。何度も何度も、グリッドマンは傷付いたり、倒れたりした。その度に裕太の体にもダメージはあったし、時には戦いの果てに行方知れずとなる事もあった。アクセスフラッシュ・合体変身をする為に必要なパソコン・ジャンクのモニター越しに、彼の苦しむ声を聞く度に、六花は焦り、おののいた。いつかこのモニターから、彼は帰ってこなくなるのではないだろうか、と。助けに行きたくても助けに行けない、何の力も無い子供でしかない彼女は、応援してじっと待つ以外には、唇を噛んで耐え、勝利を祈る事しか出来なかった。
もし今、再び命を懸けた戦いの幕が上がったとしたら、彼がまたグリッドマンとして立ち向かう事になったとしたら――この想いを告げぬままに送り出して良いのだろうか? それで堪えられるのだろうか? 自分自身もそうだが、彼も。
伝えられなくなった時を想像して、六花は恐怖した。堪えられない。絶対に嫌だ。彼女の両手は震えを止めるように、力強い握り締められていた。
「いつまでも言えるとは限らないんだぜ? なぁ、六花。どうする?」
「言えないままにはなりたくない。絶対にやだよ」
「伝えてやろうぜ。アタシらが場、作ってやるからよ」
「……うん」
六花が頷くと、はっすは穏やかに笑って肩を叩き、それから離れて行った。
なみこがはっすと幾つか話すと、満足げに頷いた。
「じゃ、最後にターボ先輩から一言」
「は? 何いきなり言っとんだお前、もうこれで上手く収まってんだろ、無茶ぶりすんなし」
「さっきからセリフ少ねーのかわいそーだなって思って言ってやってんのに」
「う、うるせぇ! 俺は保護者的立場で見守ってんだよ!」
たじろいでから、内海は少し唸り、口を開いた。
「あ、後は若い者同士でゆっくりと……?」
「お見合いかよ」
図らずも、六花と裕太の声が重なる。二人は互いを見やり、少し気恥ずかしそうにしながらも、笑みを交わした。
「何だよ、そんなようなモンじゃん……」
内海は些か憮然とした表情を浮かべてそう呟くと、咳払いを一度して、再び言った。
「もう分かってる仲なんだから、気負わず素直に行けよ」
それを言い終わると、彼らはそそくさと渡り廊下から立ち去って行った。
「場を作るってここでかよ」
また二人の声が重なった。確かに相性は良いのかも、と六花は熱い頬に苦笑を浮かべた。
※
結局、告白騒ぎは進展無く、放課後にまでもつれ込んだ。
場を作ってやったのに、と、あの三人は愚痴っていたが、六花にしては無茶振りが過ぎると答えるしか無かった。
精々で言えた事は、一言。
「学校終わったら、ウチ、来る?」
ジャンクショップ・絢の店内には二人しか居なかった。他の客も、何時もの連中も、母親の姿も無い。休日として閉められており、騒ぎ立てそうな母親が買い付けに回っていると分かっていたので、敢えて彼女は此処に招いたのだ。
カフェスペースのカウンターを挟んで、二人は向き合っていた。
「はい。私の奢りだから」
「あ、ありがとう」
六花がラテを出すと、裕太は恥ずかしげながら何処か嬉しそうに笑い返した。
カウンターの内で、六花は妙に居心地が悪い感覚を覚えた。今までと同じ立ち位置なのに、心がそわそわと慌ただしくなる。慣れた場所でなら落ち着いて居られるだろうかと思ったのだが、そうでも無いようだった。
見ると、裕太も同じようだった。視線をさ迷わせて、何処か落ち着かないようだ。
そうか、と六花は隣の席に座った。対面するのがアレなのかも……。そうではないと思い知るまで直ぐだった。
「大丈夫?」
裕太が案じるように言った。彼は自分もそうなのだろうに、他人の心配を優先しているのだ。そこが好きだと六花は思った。
「大丈夫、じゃないかも。ごめん、響君」
「良いんだ、俺もだから」
余裕は確かに互いに無い。だからこそ、相手が分かる。そんな気がする。
「あの、さ」裕太が言った。
「うん」六花は頷く。
「俺……」
「……何?」
裕太は溜め息を吐くなり黙ってしまった。上手く言えないようなもどかしさに、自分で自分に呆れたのだろう。震える手でカップを摘まんで口に運んでいた。
「あの、さ」六花は言った。
「うん」裕太が頷く。
「私も……」
六花は裕太の顔を見た。その先が言えない。目を見れず、赤く染まった頬に視線を落とした。
「勘違いじゃ……」裕太が願うように問い掛けてきた。
「ないよ、絶対」六花はその後の言葉を続けるように言った。
互いにもう言ったも同然だった。だが、決定的な一言を伝えなければ、と言う気持ちが強く残っていた。そしてそれは裕太も同じだろうと分かった。口をパクパクと開閉させて、必死に言葉を紡ぎ出そうとする彼の様を見れば、一目瞭然だった。
「あの」二人は同時に言った。
「あ、ごめん、先に聞くよ」逃げるようにではなく、気遣うように彼は言った。
「ううん、響君からどうぞ」六花も逃れる為ではなく、尊重として言った。
二人の反応は反射的で、本心からのものだった。六花は、だから好きなのだと思った。
「じゃあ、一緒には」
「そうだね、一緒に」
それから二人は顔を見合わせて、はかるでもなく同じタイミングで、同じ言葉を言った。
そして、一瞬の間の後、互いに笑顔を交わした。