ブルーアーカイブ 実績『RE Aoharu』取得RTA 13:36:51【解説付き】   作:珊月

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なんか気づいたらめっちゃ長くなってたので初投稿です


灰燼に帰した夜

 トリニティ総合学園の体育館――その裏手にある第一戦闘訓練場にて、体操服を着たミカとモネは向かい合っていた。ミカは警戒心がだだ漏れなモネと違い、落ち着いているように見えるが、実際はいつでも戦闘態勢に入れるように彼女は重心を前に(・・)倒していた。

 

 そんな彼女達の間にはただならない空気が満ちており、その渦中にいるナギサは思わず息を呑む。それから5秒も経たないうちに、ナギサは手を上に大きく振りかぶった。

 

「始めっ!」

 

 その掛け声と共に腕が振り下ろされた瞬間、モネは即座に短機関銃(SMG)を構えてミカに向かって掃射する。だがミカはそれを物ともせず、逆に地面を思い切り蹴り距離を詰めた。

 

「なっ!?」

 

 ……銃撃戦において急激に距離を詰めるということは一般的には悪手だ。

 適正射程距離と実際の距離の乖離や、移動することによって発生する弾道のブレ。また、体力の無駄な消費など。それら多くのデメリットがあるからだ。

 銃種にもよるが、それがショットガンやハンドガンのような近距離向きの銃ではない限り好手とは言い難い。だがしかし、そうでない場合だとしてもそれは妙手にはなり得る(・・・・・・・・)

 

 突如として距離を詰めてきたミカに向かって、モネは一心不乱に弾丸を浴びせる。綺麗な直線を描いたそれは確実に当たっている。しかし彼女の足は止まらないどころか、その玉の肌には傷一つ付いていない。

 

「ホント、一体どんな体の構造して――っ!?」

 

 ――弾切れ。

 モネとミカがこうして模擬戦を行うのはこれで4回目だが、ミカは既にモネの癖を見抜いていた。それは、予想外のことが起きれば周りが見えなくなるということ。

 それを理解していた彼女は自らの無防備を晒して相手の無防備を作ることに成功した。

 

 急いでモネはリロードを試みるが、その隙を突いてミカは彼女の銃を蹴飛ばした。

 そしてその無防備なところに1マガジン分の弾を全てお見舞いしてやろうと意気込むが、モネは早々に体勢を整え直し、銃を蹴飛ばされた時の勢いを利用しバク宙をする。そして距離を取り直しながら、彼女はトリニティ製の手榴弾を投げつける。

 

「あははっ!さっすがモネちゃん!」

 

 しかしミカはそれを素早くキャッチし、空高くへと投げ上げた。

 トリニティの手榴弾は、ピンが抜かれてから約2秒で起爆する。どう考えても地面へ落ちるより先にそれは爆発するだろう。

 ミカは意識をそれからモネの方に向けると、彼女は片手は銃を構え、地面にもう片手はつけて重心を低くしていた。

 彼女はその体勢を保ちながら、歩み寄ってくるミカを見上げる。

 

「これで盤面は元の状態……仕切り直しだね?」

 

 彼女がそう言ってもモネの表情は全く変わらない。

 何かこの状況に違和感を感じたミカは、モネの視線が向く先が自分ではない(・・・・・・)ことに気が付いた。そしてもう一つ、鳴るべき音が鳴っていないことを思い出す。

 

「――っ!」

 

 ミカはハッとして後ろを見上げると、先程となんら変わりない手榴弾が目の前を縦貫した。

 その瞬間何かが破裂したような音が鳴り、一つの弾丸がミカの股下を抜けて、手榴弾のレバー目掛けて飛んでいく。それは見事命中しレバーは弾け飛んだ。つまりそれが意味することは――

 

 ――ドゴォォォォォンッ!

 

「きゃあっ!」

「ぐぅぅう……!」

 

 手榴弾は強烈な爆発と轟音を炸裂させ、とっさに対応できなかったミカは戦闘場の端まで吹き飛ばされてしまった。

 だが、重心を低くし構えていたモネは何とかその身を守ることができた。

 

 彼女達の戦いの一部始終を見ていたナギサは、モネのリカバリー力に思わず感嘆する。

 自らのミスに気が付き、そのマイナスを0にする……いや、プラスにまで持っていくための策を瞬時に構築し、実現してみせるほどの戦闘センスの高さと技巧。

 

(それこそが彼女の本領……過去の3回では、それを発揮することができずに敗北を期したのでしょうか?これほどの戦闘能力があり、成績も優秀。もしかすると次のティーパーティー候補に――)

 

 爆発によって発生した土煙が徐々に晴れてゆく。

 そしてようやくナギサから状況が見えるようになったところ、そこには手を挙げて降参の意を示すミカと、彼女にSMGを突きつけるモネが立っていた。

 

「……勝者、星詠モネ!」

 

 ナギサは二人の間に割り込み、モネに軍配を上げた。

 

「――やっっっっっったー!勝った!」

 

 そう言ってモネははしゃぎ回る。

 

 そもそも一体どうしてこのようなことになったのか。その発端は今から約4時間前に遡る。

 

 

 ◀■■

 

 

「……戦闘訓練?」

「そう!モネちゃんと一度やってみたかったの!」

 

 日付は5月2日。世間ではゴールデン・ウィークと呼ばれる連休の真っ只中であり、トリニティもその例に漏れず今日この日は休日だった。

 なのだが、モネはミカによって学校の体育館の裏手まで呼び出されていた。

 仕方ないので彼女は元々入っていた予定をキャンセルしてまでその場に現れたが、待ち受けていたのは予想の斜め上を行くものだった。

 目の前に広がるのはとても頑丈な作りになっているように見える大きな床。バトル漫画でよく出てくる戦闘場のような見た目をしているそれは、彼女の度肝を抜いた。

 

 そして何よりも驚いたのが、この戦闘訓練ではミカと模擬戦を行うということだ。

 知り合った頃から「私は戦闘が得意」だと言いふらしていただけあって、彼女は非常に強い。具体的に言うならばフィジカルお化けであり、センスの塊。まず普通にやったら勝てない。

 やるなら手榴弾とか使ってド派手にやらないと満足に相手できないと思うのだが……そしたら、この訓練場が壊れてしまうのではないだろうか?

 

「そもそも、こんなことを勝手にやっていいの?もし壊しちゃったりしたら……」

「うん☆だからもうティーパーティーのホストの方から許可貰っておいたんだよ☆」

「私が聞きに行ったところ、二つ返事でOKを貰えました。」

 

 そんな簡単に許可出していいもんじゃないでしょ……と、モネは心の中でツッコんだ。

 まぁミカだけでなくナギサもがここまでするなら付き合おう、とも思った。だが、一つ疑問が残ったままだ。それは、どうして急に戦闘訓練なんかを行おうと思ったのか、ということだ。

 試しに彼女がそれを訊いてみたところ、ナギサから面白い返答が返ってきた。

 

「戦闘訓練、というのはただの建前ですよ。実際はミカさんが最近お菓子の食べすぎで太ってしまいまして……そのダイエットをすると同時に、ゴールデン・ウィーク中の運動不足の解消も兼ねています。」

「うわぁっ!ナギちゃんそれは言わない約束でしょっ!!」

「はぁ……こんな事のために呼んでしまってすみません。モネさん、このお返しはいつか必ず。」

 

 それを聞いて、モネはこの戦闘訓練という名のエクササイズに協力することを決めた。

 だが、それからというものが地獄だった。

 

 1度目は惨敗。彼女の想像以上にミカの体力が多すぎてペースについていけなかった。

 しかもミカはミカで「意外とあっけない」だとか、「運動不足治らないなー」だとか言って調子に乗っていた。

 それがあまりにも頭に来たのでリベンジを要求したが、2度目も惨敗。3度目は惜しいところまで行ったが、結局は敗北を期した。時間の関係で今日はこれで最後と言われたため、4度目の戦いはもう後がない。

 

 そう。その4度目の正直こそが、この激闘の終着点であった。

 

「いい作戦だったと思ってたんだけど、負けちゃった☆」

「はい。ミカさんがまさか特攻に出るだなんて、思ってもみませんでした。」

 

 ナギサはそう言って、彼女の蛮勇ともとれる行動を振り返る。

 目の前から飛んでくる銃弾に怯まず、真っ直ぐに突っ切るあの行為は、他ならぬ"ミカ"だからこそできるものだ。もしもナギサがあんなことをしようものなら、1マガジン使い切る前に意識を失っているだろう。

 

「結構『本気の弾』だったんだけど、あんな無傷でいられたら自信無くしちゃうよ……」

「でも結構痛かったよ?普段だったら泣いちゃってたかも!」

 

 そうおちゃらけてみせるミカに少々苛立ちを感じながらも、モネは達成感に包まれて夕焼けの空を見上げる。

 

「今日は3対1で私の勝ち越しってことだね!」

 

 そうミカが勝ち誇った顔で言ってみせると、モネはそこに見事突っかかった。

 

「何をっ!次があったらまた絶対戦闘訓練するよ!」

「それじゃ、また今度やろっか☆」

「……ふふっ。」

 

 ミカとモネの仲睦まじい姿を見て、ナギサは思わず笑みを溢した。

 

 

 


 

 

 

 昨日、私はまた予知夢を見た。

 

 それは、ここ最近よく見るようになった異常な夢だった。不可解で、捻れて歪んでいて……彼女(・・)の云っていたものとは、これのことなのだろうと私は悟った。

 

 トリニティ総合学園の監獄。その中に捕らえられた"彼女"は泣き崩れており、私は牀に倒れ伏している。その口からは血が滴り落ち、鮮血の海が形作られていた。

 牢獄の外からは誰かの声が聴こえてくるが、内容までは聴き取れない。

 

 だが、ただ一つだけ分かったことがある。外から聴こえるその声は、

 

「……っせいで……わたしがっ……バカなせいで……!」

 

 あの泣き腫らしている少女を、劇しく糾弾するものだった。

 

 

 

 ――場面は切り替わる。

 

 

 

 見覚えのないカフェの窓際の席。そこに座った私は、若竹色の髪と大きな羽を携えた少女と向き合っていた。ティーパーティーの制服を着た彼女は俯き、目を合わせようとする意思が介在しないように見える。

 

 店内を見渡すが、伽藍堂。時辰儀は出鱈目な時刻を示していて全く役に立たない。

 窓の外を覗いてみるが、誰一人として人は歩いていない。それどころか、全ての燭光という燭光が存在せず、在るのはただ孤独に浮かぶ三日月のみだった。

 

「先輩は……知ってるんですよね。あの人のことを。」

 

 彼女の口からは掠れた声が漏れ出た。尽きることのない疑念。果てのない憤怒。沸き返る怨嗟。そしてそれらを大きく上回る絶望の淵源の片鱗が、そこから滲み出ていた。

 私がそれに応えようと試みる前に、勝手に私の口はそれに答えていた。

 

「………………それは違う、モネ。私が彼女について識っていることはな――」

 

 そう言い終えようとした瞬間、目の前の少女はテーブルを強く叩いた。上にあったティーカップがその衝撃で倒れ、中身がテーブルの上に散乱する。

 叩いた手を下ろすと同時に、彼女は顔を上げてみせた。その瞳は濁り切っていて、その奥のモノは底知れない狂気を放っている。それに目を丸くしていると、突如怒号が飛んできた。

 

「嘘をつかないで下さいっ!!私はもう知ってるんですよ!あなたが■■■■■■と会ったことがあるんだって!」

 

 彼女はそう叫び私に肉薄した。

 その剣幕と切羽詰まった様子に私は息を呑む。

 

 一体何があったのか。そして、この状況は何なのか。私はそれがどれだけ訊きたくとも、訊くことは叶わない。何故なら、予言にどう抗ったとしても結局無駄(Vanitas)だと私はよく知っているからだ。

 

「あなたは前言っていましたよね。」

 

 この未来は、避けることはできない。この先の結末は、知りたくもない。

 知ったところでどうにかなるのか。否、どうにもならない。それが真実それだけが真実(Veritas)だ。

 

 

 

 ――場面は切り替わる。

 

 

 

 少女は仰ぐ。火と灰に染まった禍々しい(そら)を。

 少女は嗤う。この全ての状況を招いた元凶に気が付いたから。

 少女は歩む。その感情の荒波に身を任せて。

 

 その血に(まみ)れた手で短機関銃を構え、いつでも撃てる状況だ。

 銃口が向けられた先には、瓦礫に挟まった誰かがいる。

 

「…………あなたと初めて会った時から、こうしていれば良かったんです。」

「星詠、モネ……君は――」

「……さようなら。次会う時は、向こうで会いましょう。」

 

 乱射音が辺りに鳴り響いて、目の前が暗転して、――

 そしてその瞬間、私は目が覚める。

 

 

 

 この予知夢を見始めてから、二ヶ月。私は夢の中に出てきたカフェをようやく突き止めた。

 しかしそれからというものの、ティーパーティー役員としての仕事があったり、体調が優れなかったりでなかなかそこへ赴く機会が無かった。

 だが今日、入学式があった今日この日、終に私はここへ足を運ぶことができた。

 

「いらっしゃいませ。一名様ですか?」

「あぁ。あの窓際の席でいいかい?」

「はい、空いている席ならばどちらでも構いませんよ。」

 

 窓際の席。あそこで相違ない。

 予知夢の中で、私とあの少女が会話していた例のテーブル。

 私はその席に坐ると、窓の外を眺めてあの夢を鮮明に思い出せた。

 血と灰燼に塗れた、あの夢を。

 

 ――恐らくだが、あの夢が訪れるのはまだ当分先だろう。

 夢の中の少女が着ていたティーパーティーの制服が、補佐官専用のものだったからだ。私が調べた限りでは、現在の補佐官候補者の中にはあの星詠モネという名の少女は存在しない。

 つまり、今から一年後にしかあれは起こり得ないということだ。

 

 しかし、こうしてここまで来てみたものの私はこれと言って目的は無い。

 強いて言うならば、ただこのカフェがどういうもので、どういう場所なのかを知りたかっただけという、一種の知的好奇心に過ぎないものだろう。

 ならば何か適当なものを頼んで手短に済ませよう。

 そう思い店員を呼ぼうとカウンターの方を向いた時、私はあの少女と出逢ってしまった。

 

「すみませんお客様……!只今大変混んでおりまして席が……」

「あちゃぁー……それじゃあ、席が空くまで待と――」

 

 ――彼女と目が合った。

 間違い無い。確かにあの少女だ。

 だが、彼女が纏う雰囲気は何もかもが違っていた。

 疑念も、憤怒も、怨嗟も、そして何もかもを飲み込む絶望の一切が無い。その下ろした翡翠色の長髪は乱れておらず、瞳は透き通っている。

 夢で見たあの様相しか知らなかった私は、それを目の当たりにし愕然とした。

 一体何があったら……いや、一体何を抱えていたら、彼女はそうなるのか。それが気になって仕方がなかった。

 

 ――今この機会を失ったら、彼女と対話することが叶わなくなるかもしれない。

 そう考えた私は素早く行動に移した。彼女を手招きし、相席を勧めてみせる。

 彼女は少々困惑していたが、最終的にはそれに応じてくれた。

 

「突然こんなことを言ってすまないね。私は百合園セイア、ティーパーティーの役員だ。」

「あっ、えっと、私は――」

「――星詠モネ。そうだろう?」

 

 私がそう言ってみせると、彼女はハッと目を見開いた。

 ……当たってしまった、か。

 

 信じたくはなかった。もしかしたらこの少女とあの少女は別人で、双子だとかなんだとかの関係なんだと思いたかった。

 

「……じゃあ、先輩はこれから一体何を話したいんですか?」

 

 この少女が"ああなる"と識ってしまった以上、私にできることはなんだろうか。

 いや、たとえ私が何をしたとしても、彼女はそこに行き着くしか無い。つまり、私にできることはない。ならばどうするか。答えは至って単純だった。

 "諦める"。未来を識ってしまった者として、私はその選択を取った。

 

「予知夢では『私達が会話するということ』しか分からなかったんだ。」

 

 ――だからこそ、こう嘘を吐いたんだ。




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次回も引き続き小説パートの予定です。
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