刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

1 / 46
 暇つぶしに描いてみたものです\(゚ω゚ )

 ちょい、リハビリがてらやっていきまーす_(┐「ε:)_


第1章
第1話 アドム・ヴィンテージ


 どうしてこうなったんだ?

 

 流れていく血と共に力が抜けていく。

 

 うつ伏せから動けない。

 

 血に滲んだ目で周りを見渡せば、血に塗れた騎士達が横たわっている。

 

 その向こうでは、僕の大事な人ーー幼なじみのソフィアが虚な目を見開いて涙を流しながら力なく倒れている。

 

 殺されている。

 

 僕の大事な人がーー、野盗なんかに虫ケラみたいに。

 

 ごめん、ソフィア。

 

 僕が、バカだった…。こんな依頼なんか受けなけりゃ良かったんだ。

 

「ごめ、ん、、、。ごめんよ、、、ソフィ、、、」

 

 僕の喉元を何かが上から貫いて、声すら空気に変わっていく。

 

 力が入らない。

 

 もう何も見えない、感じない。

 

 もう直ぐ闇に飲まれる僕には、ただ幼なじみが無惨に殺された死顔と野盗が笑う声が聞こえていた。

 

ーーーー

 

 町と村の境にそびえら山の獣道を月がこうこうと照らしている。

 

 山の中腹を蛇行する道の左右に木々が鬱蒼と生い茂り、この獣道を抜けた先には開けた平野があった。

 

 その奥に建てられた粗末だが広い山小屋。

 

 昔、この地の貴族が狩りの道具を置く物置として使っていたと思われるーー今は捨てられた小屋は、山に住む賊の住処となっていた。

 

 革の胸当てと具足を付けて武装した筋骨隆々の男達十数人が互いに談笑しながらその粗末な山小屋に吸い込まれていった。

 

「なかなかに良いものが手に入りましたな、お頭!」

 

 男達の一人が右手に中身が目一杯に入った巨大な布袋を掲げて鉄兜を着けた男に向けて笑いかける。

 

「……麓の村の連中、生意気に冒険者を用心棒に雇っているとはな」

 

 松明の灯りを浴びて返り血を浴びた顔が露わになり、獣のように笑う兜の男。

 

 右手には二メートルはある長い鉄の棍の先に斧のように肉厚で曲がった片刃を取り付けた武器を手にしている。

 

 その腰には帯を巻き、大小二振りの赤鞘に緑色の柄巻きを揃えた打刀を差している。

 

 他の者たちが、腰に差しているのは黒鞘に黒の柄巻きという一般的で造りも粗末な大刀一振り。

 

 あるものは片手に槍、あるものは弓を持っている。

 

「それにしても若い冒険者たちでしたなぁ」

 

 部下の言葉にお頭と呼ばれた男は貴族の子どもであろう先ほど、この手にかけた5人組のことを思い出す。

 

「あんな、しょんべん臭い田舎の貴族でもひとときの癒しにはなったな」

 

 下卑た笑いを漏らすものたちの袋の中には、村から奪った食料と冒険者たちが身に付けていたと思われる鎧や武器などが入っていた。

 

 今日は実にツイている。

 

 いつものように麓の村から金目の物と食料を脅して巻き上げに向かえば、村の前に4人の立派な鎧兜を付けた剣士とフードとマントを一つにしたようなものを羽織り、木の杖を右手に持った女魔導士が待ちかまえていた。

 

 その顔を見れば分かったが、女魔導士と立派な鎧兜を着けた男の年の頃は15を回ったくらいだろう。

 

 他の冒険者達の装備品と見比べれば、男女二人が貴族の出であるのは明白だった。

 

 大方、貴族の三男坊辺りが家を継ぐことを諦めて冒険者へと成り下がり、付き人として付けられた女魔法使いと護衛の三人の奴隷と共に依頼を受けて来たのだろう。

 

 予め山道から脇へと弓を持ったもの数名を回り込ませていたら、何も警戒することなくガキの剣士が立派な装飾の入った刀を抜いてこちらへと降伏しろ、などと言っていた。

 

 三人の護衛を先に殺した後、ガキの首を刎ねて村人の前に転がしてやった。

 

 これで村人たちは当分おとなしくなる。

 

 俺たちの顔を見ただけで飯と金を用意するだろう。

 

 バカな冒険者を雇ったものだと半分呆れながら、盗賊頭は笑っていた。

 

 殺人も金も飯もすべて満たされ、今夜は久々に上機嫌で寝れると笑った俺だったが。

 

 最高の気分は、背中に冷や水を浴びせられたかのような寒気と気付きによって破られる。

 

「テメエら、待て!!」

 

 俺が叫んだと同時、小屋の扉に手をかけていた部下が二人、後方にふっ飛ばされた。

 

ーーーー

 

 二人の山賊がなにが起こったのか分からないという表情で目を丸くして腰を地面に下ろしていると、開いた扉の向こうから月明かりを反射するように透き通った白い肌の。

 

 艶やかな黒髪をセンター分けにした匂い立つような美丈夫が現れた。

 

 身の丈は180センチを越えており、細身ながら無駄なく引き締まった肉体を持った男は、白いシャツに黒い革の長袖のジャケットを纏い。

 

 青いデニムのズボンに黒いブーツを履いている。

 

 その腰には茶色革製の剣帯が巻かれ、飾り気のない黒光りする鞘に納められた刀が差されている。

 

 その刀ーー鞘越しでも分かるほどに長さ(刃渡り)と太さが尋常ではない。

 

 肉厚と幅を見るに刀の長さは柄頭までを含めて120センチはある。

 

 山賊の持つ一般的な刀の長さが100センチない長さなので如何に美丈夫の刀が長いか分かるだろう。

 

「な、なんだ、テメェは!?」

 

 山賊の一人が叫んで注目を集めながら、周りの弓兵が矢を番える。

 

 人外とも言えるほどの色香を放つ美丈夫は、一見黒に見える青い瞳を月の光で晒し、低くよく通る声で告げた。

 

「野盗どもに名乗る名はない」

 

 瞬間、美丈夫に向かって左右から腰の刀を抜いた山賊が二人斬りかかる。

 

 袈裟懸けに振り下ろされた刀に向かって美丈夫は一歩前に出ると斬りかかって来た山賊の刀の柄を簡単に握ると、そのまま逆方向から斬りつけて来た山賊の刀と切り結ぶ。

 

「……な!?」

 

「にぃ!?」

 

 自分の腕ごと刀を操られた一太刀目の山賊と、刀を止められた山賊が目を見開いて美丈夫を見る。

 

 その一瞬の硬直で刀の柄を取られた山賊の鳩尾に右拳を叩き込み、後ろ回し蹴りで逆サイドの山賊の顎を蹴り上げて倒す。

 

 二人の山賊は一瞬で気を失った。

 

 美丈夫は己の刀を腰の鞘から抜くことすらせず山賊の刀を右手で掴みなおして空を一つ斬って刃を払い、告げる。

 

「…それなりに加減はするが、骨の一本や二本は覚悟してもらおう」

 

 瞬間、美丈夫が風を巻いて一気に山賊たちのど真ん中に躍り出た。

 

 弓で狙い撃とうとしていた山賊たちは仲間に当たるような距離だった為、急いで狙いを外す。

 

 それを狙い打つように美丈夫の刀が空気を割いて横薙ぎに放たれ、三人の弓兵が後方に吹き飛ぶ。

 

 強烈な一撃は生きているのが奇跡と言うべきものであり、鎧兜など何の意味もない一閃だということを倒れた山賊達が示していた。

 

「な、なんだ、こいつは!?」

 

 人に斬りかかる時は刀を返して峰で打ち、切り結ぶ時や鎧兜を斬る時は刃を使う。

 

 そんなことを瞬時にやりながら、美丈夫は次々と山賊を倒していく。

 

 まったく危なげなく、瞬く間に10数人からなる山賊は頭を残して全員美丈夫の足下に呻きながら転がっている。

 

「て、テメェ。いったい何ものだ!?」

 

「……同じことを繰り返し言うつもりはない」

 

「…クソッ!」

 

 男は右手に持った剛槍を悪態と共に薙ぎ払う。

 

 紙一重で斬撃が見切られている。

 

「…貴様に聞きたいことがある」

 

 美丈夫は淡々とした口調で黒い上着の内側から金属の板を見せてきた。

 

 鎧に付ける貴族の家紋である。

 

 鎧から切り取られたそれは、赤黒い血に染まっていた。

 

「…この紋に見覚えはあるか?」

 

「へっ、麓の村の奴らが雇ってた冒険者のガキの家紋か。それがどうしたぁ!?」

 

 話をしながら相手の注意を逸らすように地面の小石を槍の柄先で突いて青年の目に向かって飛ばし、超反応で紙一重左に見切る美丈夫に斬りかかる。

 

 そのクールな美貌を歪めることもなく、美丈夫は次々と繰り出される斬撃や刺突をかわしながら静かに間合いを一歩詰めてくる。

 

「…この、やろう!!」

 

 踏み込んできた美丈夫の首を刎ねようと槍を薙ぐ。

 

 だが、自警団も王都から来た騎士も貴族も返り討ちにしてきた盗賊頭の槍は、白魚のようでいて逞しさも併せ持つ美丈夫の左手に柄を握られる。

 

 その万力が如き握力で突こうにも引こうにも動けずに止められていた。

 

「な、なんだと!?」

 

「……終わりだ」

 

 美丈夫は右手に持った刀で強烈な一閃を頭の鉄兜に見舞った。

 

「バカな…!?」

 

 山賊の頭は、自分が身につけていた鎧兜が真っ二つにされて足下に転がるのを衝撃と耳と音で感じた。

 

 部下の刀は研がれるくらいはされていたが、その辺の武器屋で売られているような安いものだ。

 

 騎士や貴族から奪った鎧兜を真っ二つにするなど考えられない。

 

 美丈夫の振った安刀は刃毀れ一つなく、名刀のように輝きながら峰に返った抜き身は頭の脳天に振り下ろされていた。

 

(本物の、剣士……!)

 

 意識を断ち切られながら、美丈夫の腰に鞘から抜かれることなく存在感を放つ剛刀に目をやる。

 

 飾り気のない質実剛健たるその佇まいに、美丈夫の本質を見た気がした。

 

 最後に残った山賊の頭を峰打ちで叩き伏せ、美丈夫は周りに目をやりながら左手に持った槍を地面に突き刺す。

 

 そして倒れ伏した山賊の中から自分が刀を奪ったものへ近寄ると、彼が腰に差していた鞘を左手で抜き取って右手の刀を納めた。

 

 そのまま鞘越しに刀を右手に持つ。

 

「アドム様!!」

 

 後ろから聞こえた声に振り返れば、騎士の姿をした2人の男が美丈夫ーーアドムに付き従うように膝をついて首を垂れている。

 

「…若い冒険者達は?」

 

「村の者が手厚く葬っておるとのことです」

 

「そうか」

 

 無表情かつクールな声で返すも、アドムの右拳は固く握り締められている。

 

「…仕方ありません。自警団やこの地方を統べる貴族からの連絡がなかったのです。アドム様が冒険者ギルドの情報を見ていなければ、ここまで早く対応することすら」

 

 騎士の一人が告げるもアドムと呼ばれた黒髪の美丈夫は背を向けたまま、山賊の頭から奪ったーー先程地面に刺した槍を握る。

 

 彼の左手中指に嵌められている銀色の指輪が輝き、槍は光に変化すると、細かい粒子になって指輪に付けられている黒の宝玉に吸い込まれた。

 

「山賊達の処理と親父殿への報告は、お前達に任せる。俺はギルドに冒険者達と山賊のことを伝えに向かおう」

 

「お任せください」

 

 応えた騎士に頷いてからアドムはギルドに向かって山道を歩き始めた。

 

 道中に現れる魔獣を右手の山賊の刀で追い払うためだ。

 

 すると、彼の腰に差された剛刀の鍔が歩を進める度に鞘を鳴らす。

 

 それを見下ろしたアドムが左手で軽く剛刀の柄頭を撫でると鍔鳴りが止んだ。

 

 なんの変哲も無い只々丈夫な刀。

 

 切れ味も最低限度しかなく、使い手の腕に頼り切ったそれの特性はーー折れない曲がらない刃毀れしない。

 

 合戦場でしか使い物にならない剛刀を、アドムは宝物のように扱っている。

 

 抜くべき時、使うべき時にしか使わない。

 

 アドムにとって、腰の剛刀は相棒であり恋人である。

 

 この刀を振るうに値する己であるために、彼は自己研鑽を絶やさない。

 

 あらゆる武具、戦闘術、剣技を身につけながら、更に磨いていく。

 

 山賊の安刀であろうと、使い手が使えば名刀に劣らない。

 

 それを知るが故にアドムは、腰の剛刀を滅多に抜くことは無かった。

 

(この程度の戦では足りない。この剛刀を振るうに値する相手。俺とコイツに全力を出させてくれる、そんな相手は居ないのか…?)

 

 街道を歩き、迫る熊や狼の魔獣を難なく斬り伏せながら王国の剣と謳われたヴィンテージ家の嫡男ーーアドム・ヴィンテージは溜め息を吐いていた。

 

 それは強敵と呼べるものとの激戦を一度味わったが故の、己の限界を試したいという純粋な願いだった。

 

ーーーー

 

 山を二つ越えて人気のない街道を歩いていると、馬車が止まっているのが目に入った。

 

 見たところ、行商人の馬車だ。

 

 その馬車を黒装束に黒いターバン、黒の布で口元を隠し目だけを覗かせる男6人が囲み、抜き身の刀を右手に脅している。

 

 彼らの足下には、商人に護衛兼御者として連れていたと思われる質素な裾まである布製の服に首輪を付け、裸足の姿の剣奴と呼ばれる奴隷が3人、うつ伏せに倒れていた。

 

 刀を持ったまま、血を流している様子。

 

 男達に必死で交渉しようとする商人を見る。

 

「…また野盗か」

 

 瞳を鋭く細め、アドムは静かに右手に掴んだ安刀を鞘から抜いた。

 

「…ど、どうか命ばかりはお助けください! もう馬車の中は女子どもの奴隷しかおりません! 金目のものなどは一切ないのです!!」

 

 必死で語る商人の声に黒装束の男が一人告げた。

 

「残念ながら、貴様を生かす理由はない。殺してから、ゆっくり荷を改めさせてもらう。…っ!?」

 

 刀を手に脅える商人の首を刎ねようと男が近づこうとしたとき、強烈な気を感じて後方に飛び退いた。

 

 男達の見つめる先には、黒髪の美丈夫ーーアドムが立っている。

 

「貴様…! 何者だ!?」

 

 気だけで自分らを圧倒しそうな存在に男が叫ぶ。

 

「待て! その長身ーー黒い革の上着に黒髪、青い瞳。貴様がヴィンテージ男爵の嫡男アドム・ヴィンテージか!?」

 

 男の言葉にアドムは静かに目を細める。

 

「野盗に名乗る名はない。まして、その身のこなしに刀の構え。剣士でありながら野盗に身を落とし、武器を持たぬ者を容赦なく斬ろうとする輩にはな」

 

 これに最初に叫んだ男の左右から、別の男が叫んでくる。

 

「…ほざけ! 貴様がアドム・ヴィンテージならば話は早い!! 我らが主人は貴様の父アスラ・ヴィンテージによって爵位を奪われ自害なされた!!」

 

「ヴィクトリヤ王に長年仕えた主人の無念! 国王に示した上で晴らさねば我らが義はない!!」

 

 左右の男を下がらせながら、ギラギラと殺意に満ちた瞳でリーダーらしき男が叫ぶ。

 

「聞いての通りだ、アドム。我が主人の無念がため、ヴィンテージ家嫡男たる貴様の命をもらう…!」

 

 アドムは静かに右手の刀の切先を男の眉間にかざす。

 

「…野盗に堕ち、無抵抗な者に剣を向ける者が義を語るか。獣にまで成り果てた痴れ者が、恥を知れ」

 

 瞬間、男達が一斉に斬りかかる。

 

 アドムは一番初めに斬りかかってきた右の男の振り下ろしを突き出した刀で横に払い、その反動で左手から斜めに斬りかかる男の胴を薙いだ。

 

 峰で打たれたとはいえ、男は5歩の距離を後方に弾き飛ばされる。

 

 完全に肋骨をへし折られ、血を吐く。

 

 その威力と勢いに怯んだ後方の男二人に一足で詰めると刀を2閃して叩き伏せる。

 

 瞬間、背後を取った男二人が同時に斬りかかるも後ろに目がついてるかのようにアドムは身を翻し、圧倒的なスピードの身のこなしと剣捌きで二人が剣を振り下ろすより先に右胴を薙いで一人を吹き飛ばし、もう一人を左切り上げで宙返りさせながら地面にはたき落とす。

 

 正に刹那の時である。

 

「な、なんだと…!?」

 

 瞬く間に叩き伏せられた他の剣士達を唖然と見た後、リーダー格の男は一人で立つ我が身を自覚し、刀を両手で持って正眼に構える。

 

「…まだ、やるか?」

 

 問いかけでなく、確認の意味を込めた言葉に男は闘志を燃やした。

 

「確かに噂通り大した腕だな、アドム・ヴィンテージ。だが、これはどうだ?」

 

 剣の腕では敵わぬと悟った男が懐から見せたのは、一枚の札である。

 

 その表には円と線で描かれた紋章が刻まれている。

 

「…魔術符か」

 

「如何にも、そのとおりよ!」

 

 札が光の粒子になり、男の左手に紋章が赤く刻まれる。

 

「…喰らえ、ファイア!!」

 

 人の頭程もある炎の弾が、凄まじい勢いでアドムに迫る。

 

 半身を捻り、弾を脇に見切ると弾に隠れて男はアドムに駆け出しており、刀を振り上げている。

 

「もらったぁ!!」

 

 勝機を悟り雄叫びを上げる男の鳩尾に、刀の柄頭が置かれていた。

 

 思い切り踏み込んだ勢いそのままに腹を撃ち抜かれ、男は白目を剥いて倒れた。

 

 己が倒した男達を見回しながら、周囲にも目を走らせた後にアドムは山賊の安刀を鞘に納める。

 

 今の戦闘で刀の刃の殆どの部分が刃毀れしている。

 

 次に野盗や魔物と戦闘になれば、流石に使い物にならなくなるだろう。

 

 それほどに激しい剣戟をアドムは使っていた。

 

 「…怪我はないか?」

 

 商人ーー額に赤い宝玉を嵌めた白いターバン、白いシルクの布の服にキラキラとした金のネックレス、腕輪を付けた小太りの男は、アドムの機嫌を取るように手を合わせながら人当たりの良さそうな笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございます、剣士様。私は奴隷商を営んでおります、マラカスと申します。以後、お見知りおきくださいませ」

 

「…アドムだ。マラカス、お前に怪我が無いなら悪いが先を急がせてもらう」

 

 淡々と語るとアドムは馬車の脇を通り過ぎようとして、マラカスに前に回られた。

 

「…アドム様! 後生にございます! どうか、私と馬車を王都まで護衛してくださいませんか!! 謝礼金は弾みますし、なんなら気に入った奴隷をお譲りいたしますので」

 

 マラカスとしては、王都まで2日の距離だが背に腹は変えられない。

 

 貴重な護衛の剣奴を殺されたのだ、次に野盗に襲撃されれば命も金の種である馬車に積んだ奴隷も全て無くしてしまう。

 

「生憎だが、奴隷も金も間に合っている」

 

 にべもなく淡々と返すアドムに、マラカスは脂汗を流しながら笑みを消して頼み込む。

 

「お願いいたします! どうか、私をお助けください! 見殺しだけは、どうかご勘弁を!!」

 

 その時、馬車の中から美しい女が現れた。

 

 首輪をしており、粗末な布の服を着ているものの、胸や尻は大きく腰は折れそうな程に細いのが見て分かる。

 

 長く青い髪は艶やかで、顔も化粧され整えられている。

 

 他にも数人の美しい女達が馬車から出て来てアドムを見つめている。

 

 真っ直ぐな水色の目をアドムに向ける青い髪の美しい女奴隷。

 

 その気品は奴隷の服を着せられていても、女の美しさを損なうことはない。

 

「…剣士様、先程はありがとうございました」

 

 鈴の鳴るような耳触りの良い声を上げて、女奴隷達はアドムに頭を下げる。

 

 その様は、まるで貴族のようであった。

 

「どうかお願いいたします! 私どもを守ってくだされれば、この中の好きな女をお譲りいたしますので!!」

 

 駄目押しとばかりにマラカスが頭を下げると、アドムは静かにため息を吐いてから言った。

 

「…王都まで2日かかる。道中の食事よろしく頼む」

 

「…おお、ありがとうございます! アドム様!! さあ、お前たちも感謝を述べんか!!」

 

 奴隷商人の言葉に女奴隷達は揃って頭を下げながら異口同音に感謝を述べる。

 

 その中で、青い髪の奴隷はいち早く頭を上げるとアドムの顔をジッと見据えた後に柔らかい微笑みを浮かべた。

 

ーーーー

 

 この国は、刀と呼ばれる片刃の剣を持って戦う武芸の国。

 

 名をパジャ王国。

 

 ほんの20年前までは、乱世と呼ばれる程に荒れていた。

 

 今は一つの国は、かつて70もの州と州に別れて互いの土地を巡って血で血を洗う戦を行なっていたのだ。

 

 国を一つに納めようと多くの武力と権力を持つもの達が平和を願って争った。

 

 その戦さの果てに先先代のパジャの王が、国をまとめることに成功したのであった。

 

 アドムの祖父は、戦国時代の功労から王を守る剣として最強の流派ーーヴィンテージの名を国中に広めた。

 

 そしてその剣捌きを王の一族に教え、身を守る術とさせたのが父であるアスラだ。

 

 剣を振るしか能がないと言われた初代や先代のヴィンテージ男爵とは違い、アスラは知略を好んだ。

 

 父である先代の功績を基にして、己の一族が長く繁栄するように王の血が絶えぬ限り、己の一族が繁栄することを願っていた。

 

 王の剣としての権力に陰りが来ないように有力でありながら王に対して敵対するようなものを半ば言いがかりに近しい論法で悉く失脚させ、僻地へと飛ばしたのだ。

 

 そして王命とあれば、率先して手を汚す男であった。

 

 現在、パジャ王は3代目となって1年であり、未だ20前半の若さ。

 

 しかし初代パジャ王の懸命な教育の賜物か、3代目ーークロード・パジャ・ヴィクトリヤは武力と知力を併せ持った傑物であった。

 

 同時に己の力が秀でていることを自覚していたクロードの若さゆえの傲慢さは、国王となる以前から足元を掬われかねない危うさでありアスラは頭を悩ませながらも、対抗馬を担ぎ上げようとする貴族達の芽を根こそぎ摘んでいったのだ。

 

 初代パジャ王と王族の剣とした動きを徹底した結果。

 

 たった10年にも満たぬ時で、アスラはクロード国王からの信頼と公爵にも迫る発言力、そしてヴィンテージ一族が王家不動の剣術指南という地位を手にしていたのだった。




ありがとうございました\(゚ω゚ )
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。