刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

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第10話 最強の剣士 大国と魔族に挑む

「な、なんで……!」

 

魔物の森ーー。

 

その一角でヴィンテージの剣奴タハトは目を見開いていた。

 

「なんで魔族とーージャッジの騎士団が話をしてるんだ? いや、どうしてパジャ王国の領土にジャッジの騎士団が居る……!?」

 

タハトにとって理解しがたい光景が映っている。

 

同時にーータハトの頭の中に冷静な部分が生まれて状況を観察していた。

 

明らかに魔族は、この騎士団と連携を取れているーーと。

 

銀色の甲冑に鉄製の面を着けた騎士が人狼に向けて声を上げながらタハトを見る。

 

「おい、魔族。コイツはーー?」

 

「ちょうどいい。ヴィンテージ「も」飼ってたようだぜ。魔族……なのかどうなのか分からねぇが、明らかに人間じゃねえ”何か”をな」

 

「そうか。それは好都合だ」

 

そう告げあう人狼と騎士にタハトは動揺した表情のまま、彼らを見据える。

 

「なんで……? 人間がーー騎士が。魔族と一緒に居るんだ……」

 

「フン、お前みたいな甘ちゃんには分からねぇよなあ? ビジネスってのはよ」

 

「ビジネス……? 仕事だと?」

 

タハトの「心」の部分は動揺し、混乱を起こしているが同時に「力」の部分は冷静に状況を整理している。

 

コイツ等は、民を食い物にする敵だーーと。

 

「余計なことは言うな」

 

「イイじゃねえか。多勢に無勢。この森は魔族の俺の言うことを聞く手駒がいくらでも湧いて出てくる。魔物の森で魔族に喧嘩を売ろうなんざ、無能もここに極まれりだ」

 

騎士の言葉に軽口を返しながら人狼はタハトを見る。

 

その眼にタハトの中にある「力」の部分が、身体の主導権を握った。

 

左手に持った剛刀『兼定』を両手持ちにして青眼に構える。

 

「……何故、ジャッジの騎士団がヴィンテージの。「俺の」土地に土足で踏み込んでいるのか、聞かねばならんな……」

 

発せられた声はタハトのものではなく、アドムのものだった。

 

だが人狼も騎士も、そんなことは知らない。

 

「聞いてどうする。貴様はこれから死ぬのだ」

 

「そういうことだ……! おい、出てこい!!」

 

人狼が腕を上げると木々の影から無数のゴブリンと呼ばれる緑色の肌をした小鬼が現れる。

 

現れた小鬼はタハトを完全に取り囲んで包囲していた。

 

容姿は人間の幼児に似た体躯だが頭髪や眉といったものはなく剥き出しの頭蓋に角が生えていて、口からは牙が覗いている。

 

腰布のみを身に付けーー手には刃が所々欠けたボロボロの剣や刀、弓を持っている。

 

その集団の後ろには2メートルはありそうな巨体のゴブリンが数体、立っている。

 

その手には手入れがまったくされていない錆びついた剛刀が握られていた。

 

「コイツらゴブリンは、さっきの魔狼と違って力や速さはないが。その分、集団戦や連携に長けていてな。テメエの力を削るにはうってつけって訳だ」

 

人狼が右手を上げて告げた。

 

「ーーやれ!!」

 

一斉にゴブリンの弓矢が放たれてタハトに迫る。

 

その矢じりには当然だが毒が塗られている。

 

毒の正体は神経毒。

 

ゴブリンの血には少量では効果が無いが神経毒の効果がある。

 

倒せば倒すほど、血を流せば流すほど、毒が周囲に充満する。

 

返り血を浴びるのは勿論、血の匂いを嗅いだだけでも毒は効果を発揮してくる。

 

ゴブリンの小鬼は、一体一体が弱く村人の男にも簡単に負ける力しかない。

 

そのため殺されることを前提に身体が作られている。

 

殺されたところで代わりは、いくらでも効くのだ。

 

個としての自意識はなく、集団本能で動いているのも厄介であり、恐怖におののくという感情がないため仲間が倒されても向かってくる。

 

どれだけ仲間が倒されても最終的に勝てばよいという消耗戦ができるのだ。

 

魔物の森ならば無限に代わりが効く便利な駒である。

 

無数の毒矢が放たれた。

 

瞬間、タハトは青眼に構えた兼定を袈裟懸けに放つ。

 

空間を斬り捨てたタハトの青い斬閃は剣風を発生させて目に見えない壁を作り、全ての矢の勢いを殺した。

 

矢は全て地面に力なく落ちていく。

 

「チッ、刀を一振りしただけで無数の矢を無効化しやがった……!! やはり強さは本物か!!」

 

「……ほう? 見事な剣技だ。あの剛刀を苦も無く振り回す腕力と言い、殺すには惜しい腕だな」

 

人狼と騎士が呟く中、タハトは八双に構えなおすと一気に駆ける。

 

次の矢が構えられ、放たれるよりも速く集団の一角に詰め寄ると兼定を一閃する。

 

青い斬閃が一筋ーー森の景色に走り、無数の小鬼の首が飛んだ。

 

そのまま瞬く間にタハトは集団の中へ飛び込むと剛刀を振り回し、一振りで無数の小鬼の首を飛ばしていった。

 

紫色の血が飛び散るが、その返り血を浴びることなく即座に移動して斬り伏せていく。

 

「ゴブリンの返り血を見切って避ける? 見切りも身体能力も大したものだ。アレだけの腕なら神経毒になる前に殲滅できる」

 

騎士が呟く。

 

巨体のゴブリンも小鬼も関係なく、紙のように軽く斬り裂くタハトの姿は正にーー鬼神だった。

 

「……ゴブリン共は、いくらでも替えが効くから構わねえが。呼び出し続けたところで意味はねぇな」

 

吐き捨てる人狼に騎士が前に出る。

 

「私がやろう。これほどの剣士、魔物にくれてやるには惜しい」

 

「……け、そうかい。なら人間のーー騎士団長殿の実力を拝見させてもらいますかね」

 

腕を組んで後ろに下がる人狼。

 

騎士団長と呼ばれた甲冑の男は鉄製のハルバードを隣にいた部下に手渡すとタハトの目の前に立って腰の大刀を抜いて青眼に構えた。

 

騎士団長の背丈はタハトとほとんど同じくらいだった。

 

「悪いが死んでもらうぞ。凄腕の剣士よ」

 

「……っ!!」

 

騎士団長が目の前に立った瞬間、タハトの眼にあった赤い光が消えて鳶色に戻った。

 

同時に全身に漲っていた「力」が消え「心」が戻る。

 

「……なんで、人間が……」

 

「鋭(えい)っ!!」

 

呟くタハトに騎士団長は鬨の声を上げながら踏み込んで刀を振り上げて叩きつける。

 

兼定を青眼に持って受けるタハト。

 

「ほう、私の斬撃を受け止めるか。受けた刀ごとへし折るつもりだったのだがーーな!!」

 

「!!」

 

右の胴薙ぎが放たれ、これも受ける。

 

受けた手が痺れるが、泣き言を言っている場合ではないとタハトは受け流すと、勢いそのままに騎士団長は身を反転させて左袈裟懸けを振り下ろしてくる。

 

受けるのではなく紙一重で見切って半歩斜め前に移動しながらタハトは騎士団長の背後を取る。

 

そのまま両手持ちにした兼定をがら空きの首へ背後から振り下ろそうとーーした。

 

「なんという、見切りと体捌き!!」

 

叫びながら振り返る騎士団長よりも速く斬撃は届くーーはずだった。

 

だが、振りかぶった瞬間にタハトは手から力が抜けて全身が震えあがって動けなくなる。

 

その刹那を見逃すものは居ない。

 

刀を振り上げて固まったタハトの胸に強烈なタックルが肩から叩きつけられた。

 

抵抗することもなく背中から地面に叩きつけられるタハト。

 

辛うじて兼定を右手から手放してはいないが、それだけだ。

 

仰向けの状態からなんとか起き上がろうとした鼻先に相手の切っ先が突き付けられている。

 

「フハハハハハ!! どうしたぁ!? さっきまで威勢のよかった鬼さんよぉ!? 敵が人間だと刀もまともに振れねえのかぁ!?」

 

その姿に人狼は大きく笑っていた。

 

「なんと手ごたえのない。ゴブリン共を相手にしたときは桁違いの強さを誇っていた武人が。この程度だというのか……」

 

失望したような声を上げる騎士団長。

 

その目の前で切っ先を突き付けられているタハトは、目の前にある刀を見ていない。

 

「はぁっはぁっはぁっ……!!」

 

脳裏に浮かんだ自分の両親と村人たちの死。

 

赤い血が飛び散って皆の笑顔を一瞬で奪った、鈍い光を放つ刃物。

 

その光景が、タハトに刀を振り切らせない。

 

「く、そぉ……!!」

 

「魔物を相手になら振れるその剛刀も、人間相手だとまったくのなまくらみてえだな?」

 

何もできない自分に、自分の身体にタハトは悔しくて悲しくてーー涙を浮かべていた。

 

それを人狼が嘲りながら見下ろしている。

 

「俺は……! ぼくは……!!」

 

地面を左手でかきしめる。

 

「拍子抜けだ。力をただ持っただけの平民、といったところか。その力は貴様には過ぎたものだった。我が国の今後の厄災を祓うためにもここで死んでもらおう」

 

突き付けられた刀が振り上げられる。

 

それを見上げながら震えて動けない自分の身体にタハトは頭の中で叫んだ。

 

(くそぉっ! うごけ、動いてくれ!! ふるえるな、僕! ここでーー僕が斬られたら、今度こそアドムは人を殺す……!! 僕が理由で、アイツが人を殺すんだ!!)

 

思い浮かべるのは、赤い目になって返り血を拭おうともせずに貴族を虫の息にまで追い詰めた年端も行かないアドムの姿。

 

あの時、自分が声を上げなければアドムは間違いなく貴族を殺した。

 

動けない体はピクリとするだけだ。

 

まるで脳と体が切り離されているかのように……。

 

「死ね……!」

 

「念入りに殺しておけよ。そいつはただの人間じゃないんだからな」

 

騎士団長がタハトの首を落とそうと告げる。

 

人狼が腕を組みながら忠告する。

 

その中で振り上げられた刀は、半ばから音を立ててくだけた。

 

「な? 私の刀が……折れただと!?」

 

「おいおい団長さんよ、なんてなまくら使ってんだ。相手は受け太刀していただけだぞ」

 

人狼は呆れ、騎士団長はジッと折れた刀を見つめる。

 

「この男が持つ剛刀。刃を合わせただけで私の刀を折ったというのか……! フ、なんという業物」

 

半ばから折れた刀を鞘に納めると騎士団長は脇差の方を抜く。

 

「貴様を討ち取った後で、その業物をもらおう……!!」

 

そう言ってタハトに近づこうとした瞬間。

 

「タハト、いつまで寝ぼけてる! 兼定が時間をつくってくれたんだ。逃げろ!!」

 

「……アドム」

 

その声にタハトは呪縛が解かれたように身体に自由が戻り、声のした方に高速移動で抜ける。

 

あまりの速さに騎士団長は反応できなかった。

 

「なに? ヴィンテージの剣士が使う神速か……! ぬかった……!!」

 

騎士団長と人狼、騎士たちが目を向けた先には赤いマフラーに黒い革のジャケット、青いジーンズを履いたラフな出で立ちの男が立っている。

 

その瞳を先のタハトと同じ赤に輝かせて。

 

「チッ、仲間が来やがったか……」

 

人狼がその男の後ろにいる二人の美女を見つけて確信した。

 

コイツが吸血鬼と対峙した空一面を染め上げるほどの気を放った剣士だと。

 

前のめりに倒れ込んで気絶するタハトを受け止めて男ーーアドムは口を開いた。

 

「ラナさん、タハトを頼む」

 

「はい!」

 

アドムから力が抜けたタハトを受け取り、ラナが抱きかかえる。

 

その光景を見てからアドムは腰の赤鞘を左手で掴んで鯉口を切って人狼と騎士団長を睨み付ける。

 

「リアさん」

 

「なんでしょう……?」

 

「悪いが俺と一緒に前線に出てもらえるか」

 

素っ気なくも映るが明確な依頼にリアは満面の笑みを返した。

 

「もちろんです。アドム様」

 

白木の柄と数打品の二振りの刀を左右の手に持ってリアは無造作に構える。

 

アドムも『村雅』を抜き放って右手に持つ。

 

「チッ。やっぱり吸血鬼の野郎はやられやがったのか……」

 

「黒い髪、黒革の上着に青いデニムのズボン……。ある程度特徴は一致しているが、聞いていた話によれば瞳の色は黒に近い青のはずだが?」

 

吐き捨てる人狼の横で騎士団長が疑問の声を上げる。

 

「ああ、目の色が変わってるのは仕様でな。お前ら……やりすぎだぜ。ひとの領土に土足で入り込んだ挙句、罪もない領民を巻き込みやがって。おまけにタハトまで……! 久しぶりにブチ切れ過ぎてどうにかなりそうだ……!!」

 

全身から紅い陽炎のような光を放ってアドムは凄まじい怒気を瞳から放つ。

 

その圧は先のタハトの比ではない。

 

「フッ、領土か。貴様がアドム・ヴィンテージでほぼ間違いないようだが、噂と瞳の色が違う。本物かーー確かめさせてもらおう」

 

言いながら騎士団長は下がりながら人狼に話しかける。

 

「魔族、頼めるか?」

 

「ケッ。おいお前ら!!

 

人狼が一声、森の中で声を張り上げるとゴブリンの群れがアドム達を取り込むように再び現れる。

 

「八つ裂きにしちまいな!!」

 

その声に殺意をゴブリン達がアドムに向けた瞬間、青い斬閃が一筋走りーーアドムの仲間を中心に円を描くと青白い炎が燃え上がって爆発した。

 

「なに!?」

 

「ちぃ! 総員伏せろ!!」

 

人狼と団長が叫んで地面に伏せる中ーーそれは無数の飛ぶ斬撃へと変化し、半径数100メートルの迷いの森を瞬く間に更地へと変えてしまった。

 

物理攻撃を完全に遮断するマジックシェルを張った上で地面に伏せたが、正解だったようだ。

 

強大な範囲魔法が放たれたように地形が変わっている。

 

もし棒立ちしていればマジックシェルごと切り裂かれていただろう。

 

「ほぅ、噂にたがわぬ強さだ。アレだけいた魔物と鬱蒼と生えていた木々が、たった一振りで全滅か」

 

鎧兜の奥から光る目を細めて言う騎士団長に人狼が叫んだ。

 

「おい、騎士団長! コイツはやばいぞ!! さっきの甘ったれとは全然違う!!」

 

先ほどまでは、どこか余裕を崩さなかった人狼が、切羽詰まった表情で続ける。

 

「コイツは本当に手を出したら駄目なヤツだ!!」

 

「フン、目を見ればわかる。この圧、この技、この力。まさにーーアドム・ヴィンテージ」

 

そんな会話をする二人に向かってアドムは口許を歪ませた。

 

鋭利な刃物のようにーー牙を剥き出しにしている。

 

「手を出したら、だと? 手を出してから言うセリフじゃないな」

 

村雅の切っ先を騎士団に突き付けてアドムは続ける。

 

「ジャッジの国王に伝えろ。舐めた真似をするとーーこの俺が貴様の首を刎ねてやるとな」

 

その気配、その言葉にハッタリは一切ない。

 

それが許される程、圧倒的な力ーー。

 

騎士団長は思わずうなる。

 

「ーーそれと魔族の王にも、な」

 

そのついで、と言わぬばかりに人狼に目を向けて告げるアドム。

 

思わず人狼が怒りに目を見開いた。

 

「おいおい人間風情、たった一人で魔王様に喧嘩を売るつもりかい? 寝言は寝て言え……、あ?」

 

そう告げる人狼の眼をアドムの赤眼が黙らせる。

 

「売ってきたのはーーお前らだろうが……!!」

 

思わず一歩下がる人狼に騎士団長が話しかけた。

 

「魔族よ、ここは一旦退くぞ」

 

「ふ、ふざけんな! 魔族の王を、こんだけ虚仮にされて黙って帰れってのか!?」

 

精一杯に虚勢を張る人狼を静かに騎士団長は見据える。

 

「貴様が死にたければ止めんが、分かっているんだろう? 此処で挑むのは自殺行為だとな」

 

「……チッ」

 

おそらく一瞬で全滅させられる。

 

それを理解した上で人狼はアドムを睨みつけた。

 

「アドム・ヴィンテージって言ったな。きっちり魔王様に報告させてもらうぜ」

 

「私もだ。我が国王に話を通しておこう。できてまだ二十年も経っていないパジャの国の騎士が、ジャッジの国王に対して無礼を働いたとな」

 

騎士団長の言葉にラナが叫ぶ。

 

「なにを理不尽な! 黙って聞いていれば一方的に他国の領土に踏み入り、魔物をけしかけた挙句にアドム様が無礼ですって!? 貴様も騎士ならば恥を知れ!!」

 

ラナの怒りの声に騎士団長は鼻で笑った。

 

「フッ、力なき者は踏みにじられるが道理。自国の民を豊かにするため他国の弱者を食い尽くす。それが騎士というものだ」

 

唇が白くなるほどに怒りで強く噛みしめるラナの隣でリアが静かに告げた。

 

「アドム様、よろしいのですか? 彼らをここで生かして帰せば、パジャの国はジャッジという大国と戦争を起こすことになるかもしれませんよ」

 

「アドム様、私もそう思います! なによりこのような外道を……!!」

 

ラナも感情のままに強く訴えかける。

 

「……行け。こちらも国王への報告など、それなりに筋は通させてもらう」

 

村雅を右手に抜き身でもったまま、アドムは淡々と告げる。

 

これに騎士団長は愉快げに告げた。

 

「では、また会おう。次会うときは戦場でな」

 

言うと人狼と騎士団の後ろに銀色の光のカーテンのような幕が現れる。

 

それはーーよく見れば街の中を映している。

 

人狼が真っ先にカーテンに向かって歩いていくと、そのまま消えた。

 

騎士団も団長に顔を向けた後、何も言わずに去っていく。

 

最後に一人だけ残った騎士団長はタハトの右手に握られた『兼定』を顎で指して告げた。

 

「その剛刀、気に入った。そなたらの首を刎ねたあと、それは私が必ずもらう」

 

言いながら騎士団長もまた銀色のカーテンを抜ける。

 

するとカーテンは音もなく消えて行った。

 

「アドム様、なぜ!?」

 

「ここでアイツ等を殺しても、おそらくソレを理由にパジャの国は攻められる」

 

「向こうが攻めてきたのですよ!? そのような……!!」

 

興奮するラナにアドムは頷きながら応える。

 

「ああ。だが、村人をやったのは吸血鬼だ。魔族と人間がつながりなど持つはずがない。そう言われたらどう返す?」

 

「……!! でも、現に……っ!!」

 

「審の国ジャッジは大国だ。建国して二十年しか経っていないパジャが、そんなことを指摘したとしてもまともに取り合う国はいないさ」

 

その言葉にラナは何も言い返せない。

 

貴族の間でさえ上下関係や力の大小で正しいことが通らないことがある。

 

だが、国同士でもそれがまかり通っていることが信じられなかった。

 

「ラナさん、ごめん……」

 

ショックを受けるラナの腕の中でタハトが声を上げた。

 

「タハトさん! 大丈夫なのですか!?」

 

ゆっくりとタハトはラナから離れて立ち上がる。

 

「うん。ごめんね、心配かけちゃって。アドムもリアさんも……」

 

頭を下げるタハトにリアが首を横に振って笑顔になった。

 

「いいえ。私たちは貴方に守られていましたから……」

 

「そうです。タハトさんがいなかったら……!」

 

ラナも強く同意するとタハトはホッとしたようにため息を吐いた。

 

「ありがと~」

 

そして自分の主人に顔を向ける。

 

主人の瞳は、普段通りの黒に近い青に戻っていた。

 

「アドム」

 

「? なんだ?」

 

「その、なんだ……。ありがとう」

 

そう言った瞬間、アドムの右手がタハトの額に伸びて中指で弾いた。

 

「あでぇ!?」

 

「フッ」

 

馬鹿にしたような顔でアドムは、弾いた額を抑えているタハトに告げる。

 

「今更、なに言ってんだよ……」

 

軽く指で弾かれただけなのに凄まじい痛みだったことに半泣きになりながらタハトは言う。

 

「まったく、ちょっとお礼を言ったらコレなんだよ……」

 

だがーー痛みとともにどこか、タハトは救われたような気持になっていた。

 

「そんなことより、急いでヴィンテージ家へ帰るぞ」

 

「……だね。まさか審の大国ジャッジが、パジャの国を狙ってるなんてね」

 

真剣なアドムの声にタハトも深刻な顔に変わる。

 

この大陸には5つの国がある。

 

その中で最も強大な力を持っているのが審の国ジャッジだ。

 

大国と魔族が繋がっているのならば、パジャ王国というできたばかりの小国など簡単に飲み込まれてしまう。

 

新たな戦乱の世が始まろうとしている……。

 

その事実に当代最強にして鬼神の魂を持つ男ーーアドムの眼が天を射抜いていた。

 

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