刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

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第15話 最強の鬼神 と 鬼神の欠片

ヴィンテージ屋敷を後にした泰鬼。

 

彼は堂々と街中を歩きながら路地裏へと足を運んでいく。

 

「……出てきやがれ」

 

そう告げると目の前に赤く光るコウモリが無数に現れて一人の人間を作り出す。

 

黒の燕尾服に茶色のベストに白シャツ、赤の裏地に黒のマントを羽織った男。

 

その貌はアドムやアグニ、そしてアスラによく似ていて血のように紅い瞳だった。

 

肌の色は三人よりも病的で青白い。

 

「鍾鬼……の式神? あの好き勝手に暴れてた野郎が式神を創るとは」

 

「はじめまして、鬼神泰鬼様。私は我が鬼神鍾鬼の使い。名もなき式神であり器です」

 

「器? あの鍾鬼そっくりの顔をした小僧のことじゃねえのか?」

 

聞き返す泰鬼にニヤリと笑みを返すとアドムと同じ顔をした吸血鬼は自分の足元から巨大な血色の刃を生じさせた。

 

瞬間、泰鬼は無造作に右腕を奮うとーーガラスが割れるような音を立てて刃はアッサリと砕けた。

 

「……何の真似だ?」

 

「失礼。貴方の血を回収したく存じましてーー。鍾鬼様と同じ鬼神である貴方ならば、我が鬼神に相応しい器となるでしょう」

 

赤い太陽のように煌めく瞳は鋭く細まり、似て非なる紅色の瞳を睨みつけた。

 

「本人が出て来やがれ……! 鍾鬼!!」

 

「……我が鬼神は、この身体を私のものとしてくれております。それゆえーー今は表には現れません」

 

「回りくどい真似しやがって……!! テメェをブチのめして引きずり出せって話か?」

 

泰鬼は言いながら右手に赤い雷を発生させながら自分の鳩尾の高さまである長い棒を取り出す。

 

それは細かい棘が全身に付いた金砕棒と呼ばれる武器だった。

 

「テメエ如き、鬼の紛い物。俺様の拳を使うまでもねぇ……!」

 

踏み込み、右手一本で赤い雷を発生させる金砕棒を自分の頭上まで振り上げる。

 

そのまま力任せに振り下ろした。

 

強烈な火花が散り、吸血鬼は自身の右腕に黒マントを羽織らせて受ける。

 

マントの裾が蝙蝠の羽のように変化して受け止めた。

 

受け止めた先端は血色の刃になっている。

 

「……」

 

「……!! 素晴らしい力……!!」

 

無表情に泰鬼は受け止めた吸血鬼の眼を睨みつけると金砕棒を力任せに押し込む。

 

受け止めた血の刃はヒビが入り、砕けて金砕棒は吸血鬼の頭上に振り下ろされる。

 

赤い光を放つ血の霧へと変化して霧散する吸血鬼だが地面に突き刺さった金砕棒から放たれる赤い雷が走って血の霧を空中へ縫い留める。

 

「な……!?」

 

「うつけが。鬼神にテメエの小細工が通じるわけねぇだろうが……!!」

 

空中に止まった赤い霧の集合体を泰鬼は睨みつけると両手に金砕棒を持ち換えて左から横薙ぎを放つ。

 

「鬼雷ーー破砕撃!!(きらい・はさいげき)」

 

放たれる赤い雷撃は血の霧を完全に跡形もなく消し飛ばして消える。

 

それほどの圧倒的な一撃を放ちながら、周囲の建物には一切影響がない。

 

圧倒的な力とーー計算し尽くした一撃。

 

鬼の力と神の技を併せ持っていた。

 

「……テメェじゃ、鍾鬼のガキどもにも勝てねぇな。もっとも、あのガキどもは鬼神の血を引いているんだから当然と言えば、当然だが」

 

地面に重い音が鳴り衝撃が響くーー金砕棒が突き刺さっている。

 

「消し飛びやがったか、式神」

 

しばらく待つが復活の気配さえない吸血鬼に泰鬼は呆れた表情に変わっていた。

 

「最強の鬼神に挑んでくるからには、何かあると思ってたが。アテが外れたぜ……」

 

つまらなそうに告げる泰鬼の背後に人影が現れる。

 

それは吸血鬼と同じ姿をしていた。

 

「やっと出て来たか、鍾鬼」

 

泰鬼が振り返って男の名を呼ぶと男は口の端を歪めて先ほどまでの紅い血の色とは似て非なる太陽のように赤い輝きを放つ瞳に代わっていた。

 

「相変わらず桁違いの強さだな……、泰鬼」

 

その声に話し方に泰鬼の口許がニヤリと吊り上がる。

 

その貌、その表情を見れば分かるーーかつて己と死合い、最強を求めた鬼神だと。

 

「テメェと決着をつけるために、こんな世界まで追ってきてやったんだ。有難く思えよ、鍾鬼」

 

「……釈迦如来の仕業か。相変わらず仏と仲の良いことだな、泰鬼」

 

「ふざけんな! 俺様が、あの説教好きと仲いい訳ねえだろうが!!」

 

目を見開いて怒る泰鬼に鍾鬼はニヤリと笑みを返すと右手を開く。

 

血のような色を放つ赤い霧が棒状に集まって血色の刀へと変化した。

 

それを握って鍾鬼と呼ばれた吸血鬼は赤いオーラを全身から放ち始めた。

 

これに泰鬼も同じ色のオーラを身に纏いはじめる。

 

「その式神の身体で俺様に挑む気か? 鍾鬼」

 

「試したくてな、異界の鬼の身体を」

 

言うと同時に神速で踏み込む鍾鬼に泰鬼が金砕棒を右手一本で振り回す。

 

両者目を見開いて口許は耳の端まで裂けるほどに開かれている。

 

両手持ちの血色の刀を下から振り上げてくる鍾鬼。

 

右手一本で金砕棒を頭上から振り下ろす泰鬼。

 

二つの力がぶつかり合った時、赤い稲妻が二人の周囲に吹き荒れる。

 

だがーーお互いの力を力で相殺して被害は周囲には起こさない。

 

「……人間の街を壊さないつもりか。相変わらず甘いな、泰鬼」

 

「テメェこそ、所かまわず攻撃してきやがる所は変わってなくて嬉しいぜ……!!」

 

軽口を叩き合いながら互いに武器を振り切り、切り払う。

 

右手に金砕棒を左手に雷を纏って泰鬼は鍾鬼を睨みつける。

 

「ウォオオオオオ!!」

 

咆哮と共に上空へと飛び上がり唐竹を振り下ろしてくる鍾鬼に泰鬼は雷を放つ左掌で刃を受け止める。

 

掌に触れる前に刀は空中で止まる。

 

圧倒的な鬼神の雷を前に吸血鬼の血刀はヒビが入り始める。

 

その事実に鍾鬼が嬉しそうに狂ったような笑みを強める。

 

「そんなモンかよ、鍾鬼!!」

 

同時に泰鬼が叫びながら右手の金砕棒を突き出す。

 

血の霧となって霧散する鍾鬼。

 

泰鬼は目を後方にやり振り返りながら金砕棒を振り下ろす。

 

右手一本で血刀を横薙ぎに払ってくる鍾鬼と金砕棒がぶつかる。

 

両者の中心で地面が割れてクレーターになる。

 

「!!」

 

その一刀に込められた力は、辺り一帯を焦土に変えるほどの鬼神力。

 

「鍾鬼、テメェ!!」

 

「何を周りなどを気にしている、泰鬼? 貴様が異界に来てまで望んだ我との死合いぞ?」

 

周りの被害を一切考えない鍾鬼の一撃に怒る泰鬼。

 

だが、鍾鬼は冷たく整った顔に鋭利な刃物のような笑みを浮かべている。

 

「…そんなチンケな式神の身体で死合いができると思ってやがるのか!?」

 

「云(い)うたな、泰鬼……」

 

両者、同時に空へと移動する。

 

空へ幾筋の赤い線が引かれ、泰鬼の左掌から雷弾が連続で放たれる。

 

赤いオーラを身に纏った鍾鬼は構わずに雷弾の隙間を縫うようにジグザグに移動しながら避けながら両手持ちの血刀を振る。

 

宙に走る紅い斬閃は無数に発生し、雷弾を斬り捨てながら泰鬼へと一気に加速する。

 

「「ウォオオオオオ!!」」

 

同時に泰鬼も右手に持っていた金砕棒を消すと右の拳を握って雷と炎を放ちながら突っ込む。

 

「鬼雷ーー裂光牙ァアアアア!!」

 

「鬼刃ーー神斬り!!(きじん・かみきり)」

 

真紅の閃光を放つ刀身と真紅の雷炎を放つ拳がぶつかった。

 

空が真っ赤に染まり、爆発する。

 

後方へ吹き飛んだのはーー鍾鬼。

 

全身を雷と炎に焼かれて王都の外にある林へと吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

 

右拳を振り切った姿勢で止まる泰鬼は姿を消すと鍾鬼のもとへ一瞬で現れる。

 

既に鍾鬼は立ち上がり、全身から煙を上げながらギラギラと瞳を光らせて泰鬼を睨みつけている。

 

「所詮、式神は式神。本体でもないテメェが、俺様に勝てると思ってやがるのが間違いだ……!!」

 

「クックックッ、流石だな。だがーーさすがの貴様も神斬りを完全には防ぎ切れなかったようだ」

 

その言葉に泰鬼は自分の左頬を見る。

 

赤い線が走って血が流れている。

 

「フン、昔のテメェなら。こんなチンケな傷一つを付けたくらいで笑うなんぞしなかったぜ、鍾鬼よぉ。おまけに自分が、そんな無様な姿になってるのに怒るじゃなく笑うなんてなぁ」

 

「……それは今にわかる」

 

言うと同時、泰鬼の流れる血が赤い霧になって鍾鬼のもとへ走っていった。

 

その一滴の血霧は鍾鬼の口から取り込まれる。

 

「……?」

 

訝しげに目を細める泰鬼の目の前で鍾鬼の鬼気が一気に膨れ上がった。

 

「テメェ……? いったい、何をしやがった?」

 

目の前にいる鍾鬼の力はーー赤目になったアドムをも上回るものになったのだ。

 

「礼を言うぞ、泰鬼。貴様のおかげで我はーー力を取り戻した……!!」

 

赤い風と光を纏ってーー鍾鬼は笑みを浮かべながら黒いマントと燕尾服の上着を脱ぎ捨てる。

 

その力ーー強さは、泰鬼の知る鍾鬼に比べてもなんら過不足ない。

 

「この世界の鬼は血を操り、血を吸うことに能力を取り込み強くなる。我は、その特性を知って「人の我」から別れた。貴様が、この世界に来ていることを知っていたからな……」

 

「鬼神の血を媒介にして肉体を作り変えやがったのか……」

 

「最強の鬼神ーー泰鬼よ。貴様の力を取り込んだ今の我ならば、貴様の死合う相手に相応しかろう?」

 

言いながら鍾鬼は指を鳴らす。

 

瞬間、泰鬼の周りに赤い光の粒子が5つ現れてそれぞれが鍾鬼と同じ黒髪赤目の青年の姿となる。

 

それぞれ右手には抜き身の血色の刀が持っている。

 

「……こんな式神の分身を増やしやがって、どういうつもりだ? 鍾鬼」

 

「我は敗れた。魂を5つに裂かれて、二度と鬼神に戻れぬように異界で人間に転生させられてな……」

 

だがーーと鍾鬼は続けた。

 

「おかげで考えが変わったのだ……。数の力を得たいと思うようになった。無論、我が他者と組むなどあり得ぬ。ならば割かれた魂を使った分身ならばどうだ?」

 

「……!!」

 

「人の我に力を与え、子を為し、子に我の技をつたえた。だが、我が意を持ち解する分身を増やすことは敵わなかった。それは人の我も同じよ」

 

訝しげに瞳を細める泰鬼に鍾鬼は笑いかける。

 

「帝釈天ともう一度闘い、殺すためには取り巻きを全て殺さねばならん。だが取り巻きとて異界の闘神。さすがの我も一柱(ひとり)では全てを殺しきることなどできぬ……」

 

「鍾鬼よぉ」

 

「この吸血鬼は前世の「人の我」が倒した鬼。こやつの能力と不死性が使えるかを調べる為に我は殺さずにこやつを封印し、今世の「人の我」を使って式神とした。我の目的は、それで達成していたのだ。後は今世の人の我と闘い、その力を取り込めば我は全盛期の力を取り戻し無限に「分け身」を増やすことができるという算段であった」

 

「……鍾鬼」

 

「礼を言うぞ、泰鬼。貴様がこの異界に来てくれたおかげで、我は帝釈天と天軍に挑める。今一度、奴らと死合いができるのだ……!!」

 

その手始めとして自分が生み出した子の中で最強の男ーー今世の人の我とも戦う。

 

アレは強い。

 

鬼神力も完全に使いこなし、鬼神だった頃の自分や泰鬼とも渡り合えるほどの力。

 

心が躍るーー。

 

この世界の強者を全て殺し尽した後ーー帝釈天とまた死合える。

 

「その前に最強の鬼神たる貴様で試させてもらう。「数の力」をな」

 

笑う鍾鬼に泰鬼の全身から赤い光が放たれてオーラがより強くなる。

 

「鍾鬼!! テメェ、鬼神の誇りを捨てやがったな……!!」

 

怒る泰鬼、笑う鍾鬼。

 

「鬼神『鍾鬼』は、『天帝』帝釈天に敗れた。此処に居る我は、鍾鬼の記憶を持った欠片よ……!!」

 

「そのザマで帝釈天に勝って何になる……!?」

 

「そうさな、さしずめーー鬼神や神々や修羅を食らう悪鬼。『羅刹』となるのも悪くない」

 

勝つために己の腕や足を切り落とすことはある。

 

だが、己の柱数を増やして敵を倒すなど孤高たる鬼神の戦いではない。

 

数ではなく己一柱(ひとり)の力で勝利を掴み取るのが鬼神だった。

 

「……よく分かったぜ。俺様の宿敵は、鍾鬼の記憶を持ったテメェじゃねぇ。俺様が『闘うべき敵』は鍾鬼の誇りを持ったアイツだ!!」

 

「相変わらずーーくだらない拘りだな。泰鬼……!!」

 

5人の鍾鬼の分身が同時に攻撃を仕掛けてくるが、鬼神泰鬼の肉体は血刀をものともせずに受け止める。

 

目を見開く分身達には見向きもせずに鬼神の記憶を持った吸血鬼に泰鬼は吠えた。

 

「消え失せろ、鬼神の誇りを汚したうつけがぁあっ!!」

 

右掌開いて雷を放つ。

 

その雷は周囲に居た5人の分身を蹴散らしながら吸血鬼の肉体を持った鍾鬼に迫る。

 

血刀を一閃し、雷を斬り捨てると同時ーー鍾鬼は姿を消していた。

 

「何処へ行きやがる、うつけ!!」

 

ーー いずれ決着をつけてやろう。だがーー今は、その首を預けておくぞ。泰鬼……。ーー

 

かつての宿敵の記憶を持った存在は、そう言いながら気配を消した。

 

これに泰鬼は吐き捨てる。

 

「釈迦の野郎が言ってやがったな。俺様が知る「鬼神鍾鬼」は、もう二度と俺様の前に現れない……。これが、そういうことかよ」

 

拳を握り、天を睨み上げていた。

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