刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

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第19話 鬼神の童子 女神の面子

やあ、みんな。

 

久しぶりの一人称視点!

 

タハトだよ。

 

今日、僕は理不尽な主の言いつけでヴィンテージ屋敷に殴り込みをかけることになったんだ。

 

ふざけてるのかって?

 

マジもんです。

 

屋敷の外へと案内された僕は、リアさんと一緒にアドム(このアホ)を見ている。

 

「……お前さぁ、よりにもよって僕だけじゃなくリアさんまで巻き込むなよ」

 

「それに関しては、本当にすまないと思ってる。だが、俺もリアさんの力を借りたいくらいには大事な用事があるんだ」

 

真剣な表情でリアさんに頭を下げながら言うアドムの言葉に、思わずうなってしまう。

 

まあ、理由を聞いたら仕方ないよなぁって感じもあるけどさ。

 

「お母様の墓参りですか。それなら、絶対に勝たなければなりませんね」

 

リアさんが不敵な笑みを浮かべている。

 

僕はカイトさんに話しかけた。

 

「それでカイトさんが僕たちの道(経路)案内をしてくれるんですね?」

 

「ああ。分かっているとは思うが、経路(通る道)を自由に選択できない以上攻める側の方が不利だぞ。待ち伏せも仕掛けも全て使って倒しにくる。おまけにアドム様の刀は兼定ではない。刃を潰した数打ち品の安刀だ」

 

「本気も本気って感じですね」

 

「再度ヴィンテージ訓練のルールを説明する、よろしいか?」

 

そう言って僕やアドムではなくカイトさんはリアさんを見る。

 

彼女は一つ頷いた。

 

「アドム様の持つ武器が折られる。お前達の身体の両肩、背中、胸に付けてある特殊な紋章も合わせて3回斬られるのもダメだ。紋章は斬られたり当てられると血糊が出るようになっている。またアドム様、敵の武器を奪う行為も今回は禁止させていただきます。タハト、僧侶の方。制限時間は60分、これを1秒でも過ぎたら失格だ」

 

「制約が多いのですね」

 

リアさんの言葉に僕は頷く。

 

一気に難しく感じる。

 

敵の武器を奪えないのはキツい。

 

できる限り刀の消耗を減らさないとダメってことか。

 

そこまで考えているとカイトさんはアドムに一振りの普通よりは少し(10センチほど)短めの刀ーー長脇差と呼ばれるものを手渡した。

 

「カイト?」

 

「アグニ様の指示でアドム様には長脇差を一振り渡すよう言われておりました。道中の敵はそれで切り払ってくるようにーーとのことです」

 

「…なるほど。アイツ、本気だな」

 

刃を潰されていることを確かめるとアドムは鞘をカイトさんに返した。

 

「道中の連中を切り捨てるだけなら鞘は邪魔になる。持っておいてくれ」

 

「分かりました。それでは屋敷内の敵陣配置を私が予想をしますので渡された見取り図を広げください」

 

「分かった」

 

適当に台になる切り株をアイテムボックスから出すとカイトさんはアドムに地図を広げさせる。

 

カイトさんは腰の脇差を鞘ごと引き抜くと柄頭で屋敷の門の部分を指した。

 

「普通に考えれば、第一関門に部隊を配置するのが当たり前のはずです。おそらくですが、ここに槍兵と剣士と弓兵を用意するでしょう」

 

「屋敷の玄関にたどり着くまでに庭で弓兵が待ち伏せしているか」

 

「おそらくですが…。アドム様の強さは屋敷にいるもの皆が理解しています。まともに剣で挑んでくるものなど居ないはずです」

 

アドムは警戒されまくってるってことか。

 

当然、道中をアグニ様のところまで抜け切るには僕とリアさんの力が関わってくる。

 

「それは楽しみです。私、運動したかったので」

 

ニコリと花が咲くような笑顔を浮かべて言ってくるリアさん。

 

よし、と僕も気合を入れる。

 

「僕も頑張るか! アドムが墓参りするためにもな!!」

 

背中に背負った棍を抜いて気合を入れる。

 

そんな僕とリアさんを見てアドムは、微笑みを浮かべた。

 

「……ありがとう」

 

心底、ホッとしたような笑顔に僕は思わず背中を叩いてやった。

 

「ゴフッ」

 

「今更、遠慮すんなよ!」

 

まったく、しようのない主だぜ。

 

首を横に振る僕にカイトさんが口を台形にして叫ぼうとしてーー。

 

「ぐふぅ!?」

 

「……そいつは悪かったな(怒)」

 

アドムの強烈なラリアットが僕の首にーー喉仏に入っていた。

 

野郎……、確実に殺(と)りにきてやがる。

 

うずくまる僕を置いてアドムはカイトさんと話をしていた。

 

よし、いつも通りのアドムに戻ったと僕は立ち上がるとリアさんが僕を見ている。

 

「……」

 

「……えっと?」

 

「……頑張りましょうね、タハトさん」

 

「は、はい……」

 

謎の重圧が彼女から放たれていた。

 

ヴィンテージ屋敷の門の前に立つ僕達。

 

カイトさんがアドムに言った。

 

「準備が良ければ、いつでも私にお言いください」

 

「……分かった」

 

僕とリアさんを振り返るアドムに頷き返す。

 

するとアドムはカイトさんに言った。

 

「構わない。やってくれ」

 

「では……」

 

瞬間、カイトさんは指を口にくわえて音を鳴らす。

 

すると門の向こうで手持ち太鼓をたたく音が響き、しばらくすると巨大な門が自動的に開いた。

 

「……アドム・ヴィンテージ、参る!!」

 

呟くとアドムは首のマフラーを風になびかせて一気に駆け抜けた。

 

僕と同じ茶色の革ジャケットに黒のアンダーシャツ、白のジーンズを履いた様々な髪の色の連中が刀を抜いて待ち構えている。

 

「お覚悟、アドム様!!」

 

「勝負!!」

 

アドムは長脇差を両手で持つと青眼に構える。

 

刀で勝負するやつ居ないって話じゃなかったっけ……?

 

と思わず目が点になる僕を置いてアドムはソニックスラッシュで無数の斬撃を宙に描き、踏み込んで斬りかかってきた二人の剣士が技を放つ前に紋章を3回斬り捨てた。

 

「……!」

 

「おみごと……」

 

膝を付き、項垂れる二人の剣士の脇から弓兵隊がアドムを狙っている。

 

僕がジッと見る中、放たれる無数の矢。

 

先が丸められているとはいえ、当たりどころが悪ければ骨にヒビくらいは入る。

 

それを無数に放ってくるところを見るに、向こうも覚悟は決まっていると言うことだろう。

 

アドムが一気に走る。

 

ソニックムーヴと呼ばれる高速移動で弓の下をかいくぐって一気に距離をゼロにするとソニックブレードと呼ばれる一振りで弓兵隊を一気にふっ飛ばした。

 

紋章を斬られて血糊がどうこういう前に気絶して戦闘不能になる弓兵隊。

 

同時にアドムの長脇差にはヒビが生まれている。

 

「やっぱり、ヴィンテージの剣技を使うには刀が安すぎる……」

 

「承知の上だ!!」

 

僕の言葉に応えながらアドムは屋敷玄関に向かって走る。

 

当然、そこに行くには鎧甲冑を着た剣士隊や槍隊が、その後ろには弓兵隊が待っている。

 

一斉に放たれる矢。

 

アドムは長脇差を霞に構えると袈裟懸けに一閃した。

 

ソニックスラッシュ・バレットーー青い斬閃が爆発して無数の飛ぶ斬撃ーー刃弾となって迫る。

 

弓兵隊の前に槍兵が立って槍を盾に構えて受けるも長柄は半ばから斬り捨てられて槍兵は弓兵隊に向かってふっ飛ばされていく。

 

刀を持っている数人の鎧武者がソニックブレードーー刀に気を纏わせて刃弾を唐竹に斬り捨てた。

 

が、剣技で防いで見せた剣士たちの眼の前に既にアドムは長脇差を振りかぶって迫っている。

 

「「「速すぎる……」」」

 

アドムの斬閃が無数に宙を描いて剣士たちの紋章を3回たたき割っていく。

 

すぐさま失格判定になってうずくまる剣士達には目もくれず、アドムは次々と目標に目掛けて駆けぬけて斬撃を繰り出していく。

 

アドムが持つ長脇差に入ったヒビは更に大きくなっている。

 

もって後、一発か二発で折れる。

 

アドムの技が鋭すぎるし速すぎる。

 

いくら刀の扱いに長けているとはいえ、安刀の品質が余りにも悪い。

 

アドムが討ち漏らした敵を棍で叩き伏せながら僕は考える。

 

武器を奪って闘えないのはアドムだけのはずだから、僕はできる。

 

それならーー。

 

僕はアドムの右隣へと並ぶようにソニックムーヴで移動する。

 

いつの間にかアドムの左隣にはリアさんが錫杖を持って立っていた。

 

「よぉ、ご主人。僕にそのイカした赤マフラー半分くれないか?」

 

「……」

 

意味が分からずに僕を振り返って見るアドムに笑いかけてやる。

 

アドムは微かに目を細めると自分の首に巻いているマフラーの余っている部分を左手に持って剣帯の前に差していた短刀で斬る。

 

綺麗に長さを半分にしたマフラーを僕は受け取ると自分の額に巻き付けた。

 

不思議と気合の入りようが違う気がする。

 

倒された剣士の一人から刀を奪って僕は両手持ちにして構えた。

 

「! ……お前」

 

「僕の故郷(日本)では気合を入れるのに額に長い布を巻くんだ」

 

「……」

 

「ここは任せろ、先に行け……」

 

僕の言葉にアドムは黒に近い青の瞳を揺らがせる。

 

馬鹿野郎が……!

 

「何ボケッとしてるんだ! 僕とリアさんが露払いするって言ってるんだよ!!」

 

「……!!」

 

「大丈夫だ、僕はもう逃げない。お前の背中は僕が守り抜く!!」

 

呼吸をする。

 

僕の中から力が体に満ちていく感覚が分かる。

 

目を開けば白い光のオーラが僕の全身に溢れていた。

 

「僕とリアさんは武器を拾うなとは言われてない。僕らがお前の代わりに戦うから、お前はアグニ様と戦うためにもスタミナを温存しろ!!」

 

「……タハト」

 

「リアさん、アドムを頼めるね?」

 

そう問いかけるとリアさんは冷たい水色の瞳で僕を真顔で見た後、微笑んだ。

 

「……ええ。もちろんですわ、タハトさん。アドム様は私が必ずお守りします」

 

「お、おねがいします……」

 

謎の圧に思わず僕は腰が引けていた。

 

カイトさんが僕を見て頷いてくれている。

 

それを見て思わず笑顔を返してしまった。

 

「……タハト。頼む」

 

「ああ、任せろ」

 

それだけを言って僕はアドムを振り返らずにヴィンテージの剣士隊を見つめる。

 

アドムは擦れ違いざま、左の拳を僕の肩に軽く当ててから玄関に向かって走っていった。

 

庭の植木や庭石の影など至る所から増援がどんどん出てきている。

 

僕にどれだけ時間を稼げるのかは分からないが、やってやるさ。

 

だから必ず、お前はアグニ様と仲直りしろ。

 

そんで、二人でお母さんの墓に参ってこい!!

 

心の中で僕はアドムに叫ぶと自分に迫ってくる剣士隊の一人に刀を合わせた。

 

二つ、三つ、合わせて火花が散る中、僕は剣を振る回転率で上回り紋様を三回斬り捨てた。

 

「おのれ、囲め! 同時に斬りかかるんだ!!」

 

今度は左右、正面と三人がかりで斬り込んでくる。

 

僕は両手持ちに構えた刀をソニックスラッシューー乱撃で放つ。

 

相手も同じヴィンテージの剣士。

 

できることは同じなのだから数の上で上回っている向こうが有利。

 

武神力息吹(ゴッドブレス)をマスターしていないのか、身体能力を上げるような技を使ってこないのが唯一の救いだろう。

 

これで呼吸法までマスターされていたら、僕には何のアドバンテージもない。

 

この少しの差で、どれだけ彼らを騙せるかが僕の戦いだ。

 

右手の刀は安すぎて脆いから炎や氷のような付与魔法を纏わせることはできない。

 

影の技を使うのなら痺れ薬のような薬品系しかないが、鋼が弱すぎるから下手な小細工をすると間違いなく折れる。

 

代用品はアドムが倒した剣士の分だけあるけど、それにしたって拾っている間にやられたら終わりだ。

 

数の上でも僕は不利なんだから、棍も刀も影も全部使って闘わなきゃ……。

 

切り掛かってきた相手の手首を左手で掴んで右手に持った刀で紋様を斬り捨てる。

 

すれ違い様に自分の刀を捨てて相手の刀を左手で奪い右手に持ち替える。

 

更に僕は相手の動きを読んで先回りして攻撃を放っていく。

 

左手で棍を振り回して受け、叩いて相手の体を崩したら右手に持った刀を使って紋様を叩き割っていく。

 

10人も斬るころには奪った刀は既に刃毀れし、ヒビも入っている。

 

「安すぎるだろ、この刀……!」

 

「訓練用とはいえ、その安刀で10人も抜くとは。さすがはアドム様の右腕……!」

 

思わず愚痴る僕の前で唸る剣士。

 

感心してくれるのはいいが、棍を使ってこの剣士達を叩き伏せるには技術が足りない。

 

頼りないとはいえ、剣術を主に使う僕は安刀を使って闘うしかない。

 

左手に握った所々、刃を受けて欠けている棍を背中に背負うと代わりに革ジャケットの右袖に仕込んだ鞘から小柄を3本抜いて指に挟む。

 

「ヴィンテージ流手裏剣術ーー影渡し」

 

3本の小柄をサイドスローで投げる。

 

三人の剣士に向かって放つと案の定、剣士たちは簡単に小柄を刀で弾いた。

 

瞬間、放った小柄の影を縫うように僕は高速移動で剣士の一人に近づくと弾いた姿勢から戻る前に横薙ぎで斬り捨てる。

 

「おのれ!」

 

「貴様!」

 

僕を前と後ろに挟んでから斬りかかってくる剣士には踏み込みが速かった方に刀を合わせて弾き、振り返って唐竹に振り下ろしてくる方にはその右側を抜いて避けながら背後に回って刀を一閃。

 

背中の紋様を斬られ、振り返ってくる剣士の額に柄頭で一撃入れて気絶させる。

 

その後ろから仰向けに倒れていく仲間を踏み越えるように刀を弾かれた剣士が横薙ぎを放ってくる。

 

僕は刀を弾かずに合わせて鍔迫り合いを行うと、相手の手首を左手で掴んで向こうの刀を固定してから自分の刀を振って腹の紋様を斬り捨てる。

 

だけで終わらずに衝撃で自分の刀を折りながら相手の意識を断ち切った。

 

当然折れた刀は捨てて相手の刀を奪う。

 

どれだけ繰り返せるかは分からないが、気と集中力さえ切れなければなんとかなるはずだ。

 

そう信じて僕は刀を振るっていた。

 

ーー それでは甘い。

 

僕の胸の中から声がした。

 

これってーーアドムの声?

 

ーー 丁度良い機会だ。力を使え、宿主。

 

力? 力って……まさか?

 

その時、僕の身体を覆っていた白い気は赤い光へと変化していた。

 

心から湧き上がってくる万能感、闘いへの興奮と昂揚、相手をねじ伏せたいという蛮勇。

 

「俺」の刀に炎が宿る。

 

太陽のように赤い光を放つ炎が。

 

「……そうか。俺が、この力を使いこなすには頻度を多くしなきゃダメってことか」

 

瞬く間に炎を纏った刀身が朽ちていく。

 

安刀のなまくらじゃ、力に耐えられない。

 

なるほど。

 

コイツを使いこなせればーー俺はアイツの背中を守り抜けるかもな。

 

ーー 愚かな。我が力を使いこなすのならば、アドムの背中だけなどと言わず全てを守り抜け!!

 

「よぉし! やってやらぁああああ!!!」

 

全身から赤い光を放って、炎を付与した刀身を持って、赤い瞳になった俺はヴィンテージの剣士たちに構えを取る。

 

先ほどまでの緊張感も恐怖もなくなり、あるのはアドムを信じる心。

 

そしてーー守るために強くなると決めたーー決意だ!!

 

ーーーー

 

屋敷の玄関を抜けると剣士が何人も待ち構えている。

 

アドムが構えようとした、その時には青い髪を風に靡かせてリアが錫杖片手に躍り出る。

 

「…ここは、私が」

 

踏み込んできた一人の剣士にリアは軽々と錫杖を右手一本で振り上げてから振り下ろしてくる。

 

刀を横にして受けようとする剣士だが、半ばから刀身をへし折られて脳天にまともに食らった。

 

気絶する剣士を見て怖じ気づく周りの剣士達。

 

美しさもそうだが、か細い腕に180センチ近い長さの錫杖を片手で振り回すだけの腕力など普通はない。

 

(何ものだ、この娘。安刀とは言え鋼を木の錫杖でへし折るなど普通は無理だ。おまけにヴィンテージの剣士が受けをしくじるとも思えん。つまり振り下ろしに「受け」を合わせた上で、この娘は刀を折ったということだ。人間に、そんなことができるとは思えん…)

 

怖じ気付いた剣士達を右手に持った錫杖を風車のように振り回して吹き飛ばしていくリア。

 

突けば錫杖は無数の穂先が生え、振り回せば車輪のように回って薙ぎ払っていく。

 

しかもアレだけ無茶苦茶な使い方をしているのに錫杖は無傷であった。

 

「…氷よ」

 

更に屋敷内で魔法を放てば、剣士達の足場を瞬く間に氷付けにしてその場に縫い止め、ニコリと笑顔で錫杖を両手持ちにすると容赦なく意識を刈り取っていく。

 

(強いというか、この娘。美貌も去ることながら、この人並み外れた才能はーー!)

 

カイトは今日は運が悪かったな、と胸の中で剣士達に同情していた。

 

リアの強さは並外れたーーどころではない。

 

技らしい技など使わず、初級魔法のみで鍛え抜かれたヴィンテージの剣士達を粉砕していく。

 

しかも持っている武器(錫杖)は少しも欠けていない。

 

(この娘、本当に人間か?)

 

カイトは、道案内をしながらリアという女には何かあると感じていた。

 

「…なるほど。流石はヴィンテージの剣士。魔物達とは数段動きが違いますね」

 

当のリアは淡々と紙のように倒していく中で呟くので、本心なのであろうがカイトの目は半ば閉じられていた。

 

(…胡散臭い娘だ。美しさも強さも、どこか説得力がない。産まれ持ったもの、だけでこのようなモノになるはずもない。この美しさと強さを維持したり手に入れるためには相当な鍛練や努力が必要だ。だが、この娘には努力の痕跡が微塵も感じられない。努力を隠すものは多く見てきたが、違う。産まれ持った才のみで闘うならば獣に近いが、アレでさえ狩りを行うために技術を磨く。故にーー産まれ持ったものだけで、現状の存在を保つのは不可能。まずもって人外の類だがーー)

 

鋭く目を細めるカイトにアドムは静かに頷いた。

 

「……アドム様」

 

「言うな。分かってる…」

 

それだけを口にしたアドムにカイトも黙って頷いた。

 

二人の目線の先には、ヴィンテージの剣士を紙のように畳んで行く青髪の剣姫が、居た。

 

「お前なら……」

 

「?」

 

「カイト、お前なら彼女をどう倒す?」

 

アドムは目をリアに向けたまま問いかける。

 

「それは一対一で、ということですか? それとも今の現状でということですか?」

 

「今の現状だ。ヴィンテージの剣士として、お前ならどう倒す?」

 

そこでアドムは、こちらに目を向けて来た。

 

「一騎打ちならば骨が折れるのは目に見えている。しかし、彼女の身のこなしを見るに我流ですね。攻撃の能力は高いが防御に関しては、どうでしょう」

 

「……」

 

「彼女の職種(クラス)は僧侶なのですか?」

 

「分からん。本人が僧侶系の魔法が得意だと言っていた。それに服も自分で僧侶用の服を選んだようだ」

 

「彼女は魔法戦士としても一流ですね。これに神聖魔法も使えると、恐ろしい才能だ」

 

素直に感心したカイトは、改めてリアを見る。

 

「確かに神聖魔法ならば神託と呼ばれる神からの啓示で魔法を覚えることはできる。同じように剣の腕を神の啓示で受けることもあるーーかもしれません」

 

「……」

 

「そろそろ彼女が負ける頃合いーーでしょう。ヴィンテージの剣士が『ヴィンテージのルールで闘って負けるなど有り得ない』のだから」

 

カイトの静かな言葉にリアがこちらを振り向いて微かに微笑んだ。

 

その後、斬りかかってくる剣士達を相手に杖を振り回す。

 

(やれるものなら、やってみろーーか。確かに、その自信に見合う強さだ。だがーー)

 

1人の剣士の袈裟懸けに杖を叩きつけて止めるリア。

 

瞬間、目の前の剣士が消える。

 

「ーー?」

 

気付いて顔を上に上げると剣士は鍔迫り合いの姿勢で残像を残したままリアの頭上へと跳び上がって斬りつけてくる。

 

それを打ち倒すべく下から杖を振り上げるリア。

 

「なるほど。素晴らしい身体能力です」

 

衝撃と共に剣士は自分の左側面に着地する。

 

跳び上がりながらの唐竹を下から杖を振り上げて脇へと弾き飛ばしたのだーーしかし。

 

リアの右肩から鮮血ーー赤い染料が吹き上がる。

 

(なに……?)

 

見れば、上へ跳び上がる剣士に注意を向けた一瞬で側面から擦れ違いざまに、二人目の剣士が逆側から横薙ぎを払って紋様(ポイント)を斬りつけたのだ。

 

「……そうでした。紋様を三回斬られると失格でしたね」

 

三人の剣士に囲まれたリアは、そのまま剣の檻に捉われる。

 

「「「ソニックスラッシュ・レンジ」」」

 

三剣士の間に剣戟で切り刻まれる範囲が生まれる。

 

対象を三方向から同時に斬り刻んでいくヴィンテージ流乱撃術。

 

「マジックシェル(壁よーー在れ)」

 

リアは杖を手に掲げて自分の周囲に目に見えない透明な魔力の壁を作り出し、弾く。

 

魔法障壁に集団斬撃を防がれた剣士達は後方へ仰け反る。

 

そこへ間髪入れずにリアが呟いた。

 

「トルネード(風よーー舞い上がれ)」

 

水色の瞳が光り輝き、同じ色の魔力の光を纏った超々小規模の竜巻がリアの周囲に発生し三剣士を屋敷の壁へと叩きつける。

 

1人は窓からガラスを割って外へと吹き飛んでいった。

 

(この娘……。中級魔法を詠唱無しで発生させるとは。魔族にも匹敵している……何者だ?)

 

「なるほど。ヴィンテージの剣技などなくとも、詠唱無しで範囲魔法を使えるのであれば代用ができるということか。素晴らしい」

 

言いながらカイトは目を鋭く光らせた。

 

「ですが、トルネードは自分の視界も塞いでしまう。その魔法をヴィンテージの剣士の前で選んだのは間違いだ」

 

吹き飛ばされた剣士には目もくれずに新たな三剣士がリアに斬りかかっている。

 

「「「ソニックブレード」」」

 

手に持った刀は青く光る気が纏っておりトルネードを発生させているリアを竜巻ごと斬りながら音速で駆け抜ける。

 

三方向から同時に擦れ違いざまに空間に青い斬銭を描いて斬る。

 

強力な魔力の竜巻は三つの青い線を描かれて霧散した。

 

赤い染料が飛び散る。

 

背中の紋様を斬られたのだ。

 

「……私の魔力を斬った?」

 

呆然とするリアの前に剣士が迫る。

 

瞬間、強烈な飛ぶ斬撃が剣士を脇へと吹き飛ばした。

 

青い刃弾を放ったのはアドム。

 

彼は静かにリアの前に出ると言った。

 

「ありがとう。後は俺がやる」

 

「……いいえ、アドム様」

 

後を振り返ればリアの水色の瞳は見開かれ、口元は三日月のように弧を描いている。

 

長い髪は紫色のオーラを纏い、ゆらゆらと蛇のように靡いている。

 

「後、一度私には余裕があるのですよね? カイトさん」

 

「正確に言えば、後一回斬られれば負けーーですよ」

 

「まあーー素敵なこと。本当に……!」

 

リアは錫杖を壁に立てかけると倒れている剣士の刀を二振り拾った。

 

「アドム様、先に進んでください。此処は私が全て斬り倒します」

 

「……リアさん」

 

そこでリアは頬を赤らめて瞳を潤わせながらアドムを見る。

 

「先ほどは助けて下さってありがとうございます。けれど、もう大丈夫。アドム様はアグニ様とーー弟様と決着をつけてきてください。今後に影響されないように……。私も、この方々との闘いが終わりましたら向かいますから」

 

「……分かった」

 

淡々とアドムは言うとカイトに頷いて走り去ろうとする。

 

その前に廊下をこれでもか、と剣士たちが塞いでいる。

 

リアは右手の刀の切っ先を前方にーー廊下の奥へと向けると呟いた。

 

「ホーリーアロー(光よーー射て)」

 

すると男の腕ほどもある水色の光が切っ先から放たれて前方に居た剣士たちを纏めて吹き飛ばした。

 

すかさずアドムが出来た道を神速で駆け抜けていく。

 

これにカイトも頷くと、リアに振り返ってからアドムを追って走り抜けていった。

 

アドムの背中を見送ってリアは微笑んだ。

 

「ご武運をーー。私のアドム」

 

そう呟いてから静かにリアは追いかけようとする剣士達に向けて殺気を飛ばす。

 

それも尋常でないレベルのものを。

 

無視していけば背中から斬られると思わせる程に強烈なものを。

 

「……先ほどは見事でした。私としたことが、完全に紋様を斬られてしまった。私の愛しい人の目の前で無様を晒してしまった。たかが……あなた達如きに」

 

その表情はアドムに向けられていた恋する乙女のようなものではない。

 

先ほどまでの冷たい殺気に鉄面皮のような無表情や微笑でもない。

 

愚かな存在へ怒りを示し罰を与えるーー神のような表情だった。

 

「安心なさい、殺しはしません。ただ――報いを受けなさい。私に恥をかかせた報いを」

 

ヴィンテージの剣士たちは何も言わずに刀を構える。

 

相手が何であろうと勝利することは変わらない。

 

小娘一人と言う感情も、圧倒的な力を持った化け物という感情も斬り捨てる。

 

全てはーー勝つため。

 

誰一人、退こうとしない剣士たちにリアは不快そうに顔をゆがめた。

 

「どこまでも不愉快な人たち。タハトさんと言い、ヴィンテージの剣士は私に嫌な感情を与える為に生まれて来たのですか?」

 

そう言いながらリアは左右の刀を構えて言った。

 

「身の程を知りなさい。愚かな人間よ……」

 

リアの言葉にヴィンテージの剣士たちの返答は抜き身の刀を構えて全身に白い光を纏って身体能力を上げるゴッドブレスを使用した。

 

これにリアの表情は右側で慈愛を左側で嘲りを思わせる左右非対称の笑みを浮かべて水色の瞳から光を放ち濃紺色の光を全身に纏っていた。

 

ーーーー

 

左右から迫る白刃を紙一重で見切りながらアドムは右手の長脇差を一閃して4、5人を一気に吹き飛ばしていく。

 

そのままアドムは大きな木製の扉に肩からぶつかった。

 

中に一歩踏み入れれば、廊下での激闘は嘘のようにピタリと止める。

 

静寂そのものの広間。

 

そこに男は背中を向けて立っていた。

 

アドムと同じ顔、同じ日に生まれた双子の弟。

 

今のアドムと色違いの服装をした左手が甲冑義手の男は右手に抜き身の長脇差を持って腰に刀を一振りと長脇差の鞘を差している。

 

「……アグニ」

 

アドムが呼びかけると、鉛の肩当てに背中に金の刺繍でヴィンテージの家紋が入った赤い革ジャケットの男は振り返る。

 

全身から青い光を放ちながら、瞳を青く輝かせて真っ直ぐにアドムを見る。

 

「この時を待っていた……」

 

静かにアグニは見つめてくる。

 

圧倒的な気を纏い、強烈な闘志を目から放ちながらアグニは静かに落ち着いていた。

 

「貴方は覚えていないだろうが、俺にとって貴方は憧れだった。子どもの頃から父にも優る剣の腕、如何なる相手に対しても退かない貴方に俺は憧れていた」

 

「……」

 

「だが、今日こそは勝たせてもらう。たとえヴィンテージの試練内のことでも。どれだけ俺にとって有利な状況でも、貴方に勝てればそれでいい……」

 

八双に構えるアグニ。

 

アドムは静かに口を開いた。

 

「……なあ、アグニ。母さんは幸せだったのかな? 俺みたいな化け物を生んじまって、魔物に殺されて。なのに何で母さんは俺に笑ってくれたのか。お前は知ってるのか?」

 

「その答えは母さんの墓の前で応えます。ただこれだけ言わせてもらう」

 

瞳を閉じて息をすーっと吸い込み、怒りに目を見開いたアグニは叫んだ。

 

「母さんを侮辱するのも、いい加減にしろ!! このバカ兄貴!!!」

 

「……!!」

 

「母さんは幸せだった。俺もアンタも、母さんは平等に愛してくれた。そんなことも言われなきゃ分からないのか、バカ兄貴!! 俺がアンタを一番許せないのは、自分が化け物だーー全ての元凶だって受け入れてしまっていることだ!!」

 

絶句して目を見開いているアドムにアグニは八双の構えを解いて続けた。

 

「何が化け物だ!? 何が、人外だ!? 何でもかんでも何も言わずに自分で背負い込みやがって……! 母さんが殺されたのが自分のせいだって!? 俺のせいだよ、バカ兄貴!! 辻斬りしたのはクロードの大うつけだ!! 親父もアンタも、俺を舐めるのもいい加減にしろ!!」

 

「……お前、知ってたのか」

 

「構えろ、アドム・ヴィンテージ。お前と親父が侮っていた人間が、どれだけのものになったか身体に教えてやる」

 

もう一度、アグニは八双に構えながら溜息をついた。

 

「……ったく、ここまではともかく。この立ち合いではアンタとは何も考えずに勝負をしたかった。ただ一人の剣士として勝負したかったんだ。なのにアンタが、その様じゃできやしない」

 

「ーーアグニ」

 

「俺だってアンタに詫びたいこと、殴りたいこと。色々あるんだよ。それでも今は、今だけは剣士として立ち合ってほしい。本気のアンタに勝って俺は初めてーー俺を、そしてアンタを許せる気がするんだ」

 

どこまでも真っ直ぐな青い瞳。

 

鏡のような顔なのに、自分には眩しすぎる目をアグニはしている。

 

アドムは微かに笑みを返すと霞に構えを取った。

 

「……分かったよ、アグニ」

 

呼吸をーーする。

 

全身から活力を見出し、青い光がアドムを纏う。

 

瞬間、アグニが目の前に踏み込んで長脇差を振り上げている。

 

アドムも同じように長脇差を振り上げて両者の中央で斬り結ぶ。

 

甲高い音と共にアドムの眼が見開かれた。

 

アドムの長脇差が一方的に折れていたのだ。

 

咄嗟にバックステップするアドムだが、アグニは静かに青眼に構えて動かない。

 

「いくらアンタでも、ヴィンテージの剣士たちと斬り結んできたんだ。その長脇差は使い物にならない」

 

「……そのようだな。だが、俺が正面から刀を折られるとはーー見事だ」

 

言いながらアドムは折れた長脇差を床に放り投げる。

 

そして腰に差した大刀をついに抜き放った。

 

見た目には美しい刃紋が浮かび上がり立派なものだが、3回も斬れば使い物にならなくなる数打品。

 

その刃を潰しているのだから強度も脆い。

 

アグニの得物も同じものだ。

 

正直に言えば木刀や袋竹刀の方が使うには適している。

 

だが王都に住むヴィンテージの剣士たちは訓練として、この脆い安刀を使用する。

 

実際に戦場で闘うのに名刀も安刀も関係ない。

 

むしろ刃毀れし、ヒビ入った得物で戦場を切り抜けなければならないこともあるだろう。

 

故に安刀での訓練はヴィンテージの剣士たちにとって必要不可欠なものだ。

 

(あのアドム様の受けを一太刀で折るとは。さすがはアグニ様だ)

 

睨みつけるようにカイトはアドムとアグニの立ち合いを見ている。

 

見れば、自分の周りには倒された剣士たちが集まって静かに兄弟の立ち合いを見守っていた。

 

 

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