刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

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さらっと行きたいところですなぁm(__)m


第3話 アドムの奴隷 タハト

 僕が目覚めたのは、優しい両親のもとでだった。

 

 川の近くにある集落ーー普通の村人の子どもとして生まれた。

 

 僕は普通のひとと違っていた。

 

 僕には、知らない世界の記憶があるんだ。

 

 僕は石でできた山よりも高そうな建造物ーービルにエレベーターという昇降機で昇ったことがある。

 

 僕は、砂地を整理した丸い楕円を描いた場所ーーグラウンドに学校っていうんだよねぇーーで他の同年代の子たちと一緒に走り回ったことがある。

 

 僕は、物書きと足し算と引き算を学んだことがある。

 

 僕はーーこういう世界をモデルにしたゲームや漫画を楽しんでいた。

 

 色んな記憶があるけど、なんで僕がここにいるのかは、思い出せない。

 

 異世界転生だって、最初は喜んでたんだ。

 

 僕は勇者になれるかな?

 

 僕のゲーム知識はどこまで通じるのかな、とかね。

 

 5歳になるころまでは、ひたすら本を読んで文字の読み書きを覚えた。

 

 自分にどれだけの魔力があるのかは知らないけど、魔法も簡単に薪に火をつけるものや灯りをろうそくに灯すもの、水を出して洗浄するものなども覚えている。

 

 簡単な擦り傷を消毒したり、回復したりもできるようになった。

 

 これから実戦的な魔法も覚えて、村の役に立てるように頑張って行こう。

 

 村の外には凶悪なモンスターが居て、正直僕で倒せるのは野ウサギに角が生えたものくらいだった。

 

 それも複数匹で来られたら勝ち目なんかない。

 

 いや、ホント思い出したくもない話だ。

 

 父さんや村の人に助けられなきゃ、どうなっていたかなんて火を見るよりも明らかだった。

 

 そんなアホな僕だけど、父さんと母さんを尊敬していて。

 

 勇者になりたいなぁって気持ちはあったけれど、それ以上に、このままみんなと暮らせるならそれも良いかなぁなんて思っていた。

 

 でもーー僕が10の頃に野盗に襲われたんだ。

 

 村は火を付けられて、金目のものは奪われ父さんも村の男の人たちも皆、殺された。

 

 女の人も例外じゃない、子どもだけ残された。

 

「……この村で読み書きができて、簡単な生活魔法も使えるガキがいるんだろ?」

 

 そう言いながら野盗達は、僕を見て来た。

 

 脚が震えたけど、僕がみんなを守らないとーー。

 

 そう思って子どもでもできることはないかと必死に考えた。

 

 でも、何も思いつかない。

 

 父さんと母さんが殺された。

 

 村の人たちが、全員殺された。

 

 あの鋭い刃物で切り裂かれて殺された。

 

 それが、あまりにも現実とは思えなくてーー僕は何も思いつかなかった。

 

 僕達の首に奴隷の証という刺青が魔法で掘られた。

 

 首を一周するような感じの、気持ちの悪い刺青だ。

 

「いいか、そいつは俺から距離を取ったら爆発して死ぬようにできてる。死にたくないなら俺と一緒に来るんだな」

 

 ガキは仕込み甲斐があるから丁度いい、と笑う野盗達。

 

 僕は自分の人生がどうなるかとか、これからどうしようって考えながらも何も思いつかない。

 

 何もしようと思わない。

 

 涙すら流れない。

 

 周りの子が泣いているのを、どこか遠くで聞こえている、そんな感じだ。

 

 野盗が宴を開いている。

 

 僕の村で。

 

 僕の大事な人たちを皆殺しにして。

 

 僕は、なんで何もできないの?

 

 僕のゲーム知識なら、なんとかならないの?

 

 なんで、こいつらは笑ってるんだろう?

 

 そんな思いが頭の中にグルグルと廻って、吐き気がする。

 

 離れたら死ねるなら、いっそ。

 

 そう考えた時だったーー。

 

「一人残らず、野盗共を駆逐する!! 切り捨てろ!!」

 

 白金色の甲冑を着た騎士団が、一気に野党に襲い掛かった。

 

 戦いは、一瞬で決着がついた。

 

 野盗は逃げ惑い、命乞いをしながら無惨にあっけなく、死んでいった。

 

 その騎士団の持っている剣を見てーーあれ、恰好は西洋の騎士なのに日本刀持ってるんだなって。

 

 そんなどうでもいいことを思った。

 

 騎士の一人が僕の前に膝を付いて兜を脱いだ。

 

「お前が、野盗が狙った子どもか。たしか簡単な魔法と読み書きができるーー村では神童と呼ばれているのだったな」

 

 そう言いながら黒髪をオールバックにして前髪を数本垂らすような髪型。

 

俳優のような壮年の男は黒と間違えるほどに濃い蒼の瞳を僕に見据えて言った。

 

 少しーー父さんと似ていると思った。

 

 黒髪の騎士は僕の首を調べた後、周りの騎士に目を向けて告げた。

 

「その首の刺青はーー解呪はできるか?」

 

「……無理です。奴隷契約は主が解呪するか、誰かに奴隷の権利を移行してそのものが解呪するしかありません。今回は移行する前に殺してしまったので、この少年たちは術者より離れて死ぬということはありませんがーー」

 

「そうか……」

 

 ぼんやりとする僕をジッと見下して騎士は言った。

 

「ちょうど、アレとよく似た背格好だ。面体も似ている。よし、お前はアレの代役(奴隷)として私が拾ってやろう。他の子どもはヴィンテージの本家が建てた孤児院に届けるのだ!!」

 

 そう言うと僕は、騎士に抱き上げられて連れていかれた。

 

 その騎士の名はーーアスラ・ヴィンテージ。

 

 僕の主人の名前はーーアドム・ヴィンテージだって、その日のうちに城下町内にあるヴィンテージ家の応接室で教えられた。

 

 はじめて会った時のアドムの印象は、無表情で人間外れの美貌をもった子どもだった。

 

 男とか女とか、そういうものを超越した美しさだった。

 

 あまりに綺麗すぎて冷たさを感じるーー笑ったりしないのだろうか、と。

 

「は、はじめまして。タハトです、よろしくお願いいたします。アドム様」

 

 かしこまって何故か緊張した僕を見てーー思わず吹き出してアドムは言った。

 

「父上から話は聞いてるけど、同い年だろ? そんなに緊張するなよ」

 

 そう言った後にアドムは父親のアスラ卿と同じ黒にも見える蒼い瞳で右手を差し出して言った。

 

「ーーよろしくな、タハト」

 

 差し出された右手を僕はジッと見つめている、顔が強張るのが分かる。

 

 どういうことだ?

 

 貴族が奴隷ーー仮に村民だったとしてもーーを相手に握手なんかするのか?

 

 僕、この世界に来てから貴族や騎士なんて絡んだことないから、分らないんだよな。

 

 でも、父さんに見せてもらった本で読んだけど握手ーーシェイクハンドを気軽に奴隷にする騎士なんて居なかったと思うんだけど。

 

 これ、どうするのが正解なんだ?

 

 握手すれば良いのか?

 

 いや、待てよ。

 

 仮に握手で応えて慣習が違ったらーーどうする?

 

 無礼者として処理されちまうのか?

 

 せっかく生き残ったのに……!

 

 くそ、どうすればいいんだ!?

 

 目を見開いてガッツリ見ていると、しまいにアドムの右手が僕の後頭部を軽くはたいていた。

 

「握手くらいしろよ、無礼者」

 

「ゴフゥ、握手でよかったんすね……」

 

「……なんだと思ったんだよ」

 

「貴族の慣習か何かで、村民が知らないレベルの何かを繰り出されているのかと……。まさかシンプルにシェイクハンドとは思っても」

 

 頭を抑えながら応えると呆れたような表情になった。

 

「……子どもなのに小難しいこと考えるヤツだなぁ。それにーーしんぷる? しぇいくはんど?」

 

「ああ、気にしないでください。昔から変わった言葉が出ちゃうんで。……それと、貴族の子どもなのに奴隷と握手する主人も大概頭おかしいっすけどね」

 

「言ってくれるじゃないか、無礼者」

 

 軽口を叩いてみれば、再び頭をはたかれるーー今度は、ちょっと強めだった。

 

 これが、僕とアドムの初対面の時だった。

 

ーーーー

 

 それから8年か9年、長いこと暮らしたよ。

 

 一応さ、奴隷だからね。

 

 ちゃんと節度ある対応を主人にしなきゃって思ってたんだよね?

 

 ホントだぞ?

 

 でもさ、1か月もしたらアホらしくなって辞めたよ。

 

 何より、アドムの奴は僕が敬語使う度に殴り飛ばしてくるからさ、もう怖いのなんの。

 

 僕は思ったね、真面目に鍛えないと、この理不尽なクソガキに殺されるって。

 

 殴って殴り返されて、最初はボロカスにやられたけど鍛えて粘れるようになってさ。

 

 素手のケンカなら何とか互角になるようになったよ。

 

 僕とアドムは、子どもの頃からずっと一緒にいた。

 

 あと、クロード国王ーー僕らがあったのは殿下のころだけどーーと3年か4年ほど一緒に過ごしたこともあったっけ。

 

 輝くような金髪に白い肌ーー青い瞳の利発そうな少年。

 

 アドムみたいに気さくに仲良くなるというよりかは、あの子は剣でも魔法でもアドムを負かすことしか頭に無いような感じだった。

 

 それを知っているのか、アドムもクロード殿下の前では敬語でかしこまった感じだったよな。

 

 殿下は何でも自分が一番じゃないと気が済まない、そんな感じだった。

 

 そして、それが立派な国王になる最短距離だと信じていたっけな。

 

 傲慢だけど努力だけは人一倍していて、それを当たり前だって思ってたーーそんな感じの人だ。

 

 僕? 僕は魔法とかは本が読めたからそこそこだったけど剣の才能は、からっきしでさ。

 

 それが分かったのは15歳のころ。

 

 城の中庭で三人で訓練をしていた。

 

本物の刀を持たされた時、何もできずにうずくまる僕をクロード殿下は怒鳴りつけて来た。

 

「なんだタハト! 真剣を持つと何故震えるんだ!! 俺をバカにしているのか!!」

 

「申し訳ありません、殿下。僕……うっ!!」

 

「お、おい、大丈夫なのか?」

 

殿下が思わずといった感じで僕に手を差し出そうとしてくる。

 

王族が奴隷に手を触れたら、どうなるか。

 

 そう冷や汗と吐き気でくたばりそうになる僕の手からアドムが真剣を奪い取ってくれた。

 

 それだけで吐き気が嘘のように治まって、呼吸も正常になる。

 

「ご覧の通りです、殿下。申し訳ありませんが、これだけは殿下のご意向には従えません」

 

 アドムがそう言うとクロード殿下は僕を見た後にニヤリと笑みを浮かべてアドムを睨みつける。

 

「構わん。お前が最初から真剣を持って俺の前に立っていれば、それでよかったのだ」

 

「お怪我をさせるわけには参りません。どうか、木刀での立ち合いにーー」

 

 アドムは言うと、持っていた真剣を丁寧に鞘に納めて僕に持たせる。

 

「タハト、最悪その辺の壁にでも立てかけておいてくれ。手で持てるなら持っていてくれたらいい。無理はするな」

 

「……大丈夫です。鞘に入ってれば」

 

 受け取った僕に頷いた後、アドムは剣帯に差していた木刀を抜いた。

 

 白いシャツに黒の長パンツという簡素な出で立ちなのに気品があるの、羨ましい。

 

「なんのつもりだ、アドム。俺を相手にするなら木刀で充分だと言いたいのか? こちらは真剣だぞ」

 

「……刀はオモチャじゃない。真剣でも木刀でもーーそれは変わりません」

 

「いつも悟り切った涼しい顔をしてーー! 真剣ならば少しは貴様の顔色を変えられるかな?」

 

 あ、これはダメな時のクロード殿下だ。

 

 目を見開いて白い歯を剥き出しにして対抗心だしてる。

 

「本気で行くぞ、アドム!!」

 

 そう叫びながら、両手を大きく頭上に振りかぶって真剣を振り下ろしてくる。

 

 一気に距離を踏みつぶしながら。

 

 それでも、いつもなら殿下は不意打ち気味に斬りかかるのに敢えて声を出して大きく振りかぶって斬撃を繰り出してきたのは殿下なりの配慮だったんだろう。

 

 殿下の鋭い斬撃は大人の騎士でも捌けずに打ち込まれたら刀ごと圧し折られてしまう。

 

 アドムは、殿下の斬撃に対して自分も同じように木刀を振り上げて叩きつけた。

 

 僕の眼には、斬撃で木刀毎切り裂かれるアドムが見えた。

 

「なに!?」

 

 殿下も同じだったようで表情が青く変わっている。

 

 しかし、次の瞬間に僕と殿下は驚愕に目を見開いていた。

 

 真剣の刀が木製の刀で受け止められているのだ。

 

「な、なんだと!? 騎士団長の剣をも折った俺の剣戟をーー止めた!?」

 

 目を見開く殿下にアドムは淡々とした表情だ。

 

「殿下ーー刀は斬り方があるように止め方もあります。衝突の際に両手を絞め引くことで斬撃の威力が増すのであれば。衝突する前にこちらから叩きつけて手を絞めさせず引かせることもしなければいい」

 

「なるほど。なら、ここからは遠慮は要らんな!!」

 

 鍔迫り合いの姿勢から殿下は力で後方へアドムを押し下げると刀を顔の脇に持ってきて構える。

 

 剣道の型で言えば八双の構えだ。

 

 対峙するアドムは先ほど後方へ下げられた際に刃毀れした木刀の刀身をチラリと見る。

 

「さすがは殿下。完全に動きを止めた状態から剣を振り抜くとはーー!」

 

「やめろ、白々しい! 貴様に言われると、おべんちゃらに聞こえる!!」

 

 言いながら踏み込んで左肩から斜めに斬りつけてくる殿下に対しアドムはニヤリと笑みを返して上体を脇へと反らし鼻先で斬撃を見切る。

 

 返す刀で殿下はアドムの右胴を狙って横に斬りつける。

 

 後方へ地面を蹴って後退し、紙一重で避けるアドム。

 

「ソニックバレット!!」

 

 瞬間、殿下の青い目が光り刀身が青く輝き右から左へと横薙ぎに払われる。

 

 真空の衝撃波が後方に着地したアドムに迫る。

 

 アドムは自分の左側に転がりながら避ける。

 

 一瞬後、アドムが立っていた地面が爆発して石畳が掘り起こされている。

 

 アドムが身を起こした目の前に殿下が踏み込んで真剣を頭上に掲げて振り下ろしている。

 

「はあっ!!」

 

 アドムは地面に片膝をついた姿勢で木刀を横に構えて斬撃を受け、刀の軌道を自分の左脇に反らす。

 

 瞬間、木刀の半ばから先が宙に舞っていた。

 

「アドム!!」

 

 僕が声を上げた瞬間、殿下がアドムに斬りつける。

 

「これで終わりだ!!」

 

 同時にアドムが殿下に向かって突っ込んだ。

 

 振り下ろそうとした殿下の右側に踏み込んで右腕を自分の左手で押さえて刀の軌道を右側の空間を斬るように反らしている。

 

「……なんだと?」

 

 目を見開いた殿下の脇にはアドムの右手に持った半ばから刀身が斬られた切っ先鋭い木刀が突き付けられていた。

 

「バカな……! お前との差は、未だにこれほどあると言うのか」

 

 絶句している殿下を前にアドムは静かに身を引く。

 

 すると殿下は両足から力を失くして両膝を地面について肩で息をしていた。

 

 アドムは静かに告げる。

 

「……殿下、俺は物心ついたころから父の真剣と向かい合っていました。得物が真剣であろうと木刀であろうとも命を賭けていることに変わりはありません」

 

 アドムは右手を差し出す。

 

「相当な鍛練を積んで来られたのですね、見事な太刀筋でした」

 

 差し出された手を軽く払いながら、殿下は静かにアドムの眼を見上げていた。

 

アドムの行為は不敬だ。

 

本来なら、王族に恥をかかせたとしてヴィンテージ家そのものが取り潰されたり、爵位を取り上げられるほどのものだ。

 

だけど殿下はアドムにだけは本音で話す。

 

剣の稽古の時は周りに僕ら以外を立ち入らせない。

 

本気のアドムに勝ちたいからだ。

 その日から、殿下は素振りの稽古以外で真剣を握らなくなった。

 

 話は変わるけど僕って抜き身の真剣を持つと震えて動けなくなるんだよ。

 

 情けないけど、未だに村の人たちが殺された光景が蘇っちゃって……。

 

 木刀なら、なんとか格好にはなるんだけどね。

 

 それはそれとしてーー。

 

 クロードが国王になる前に色々やらかしたおかげで、アドムは濡れ衣を着させられて城下町を出させられ辺境のヴィンテージ本家がある直轄領に居るわけなんだけどな。

 

 本人は政(まつりごと)から逃れられて、せいせいしてる感はあるけど。

 

 アドムの奴隷である僕としては、悲しいことだ。

 

友達としても、ね。

 

理屈は、分かるけどね。

 

次期国王様が城下町で、やらかしたことが明るみに出ればどうなるか。

 

間違いなく王の資格なしとして引きずり下ろされる。

 

クロード殿下を次期国王に推していた派閥筆頭のヴィンテージ家そのものも下ろされるだろう。

 

 そうなれば、アスラ卿がしてきたことは全て無為になる。

 

 だからアドムがクロード殿下の責任を取らされーー城下町を出されて辺境にあるヴィンテージ本家に行くことになったんだ。

 

ーーーー

 

 とまあ、簡単だけど以上で異世界転生を果たした僕と僕の主人になったアドム・ヴィンテージの説明を終わります。

 

 さて、ギルドへの報告も無事に終わったし、町の入り口で別れた奴隷商人からは奴隷になった貴族の御息女達を解放できたし。

 

 全て一件落着ーーのはずなんだけどね。

 

 物凄く微妙な顔で僕は僕と似たような感情を抱いているであろう主を見ると。

 

やはりヤツも難しい顔をしていた。

 

原因は、ヴィンテージ家の玄関先に居座る例のご息女達だった。

 

濃い茶色の長い髪に切れ長の黒い瞳に形の良い唇は赤いルージュが塗られている、キツそうな美人だ。

 

彼女が他のご息女達を率いてアドムに直談判しているところだった。

 

「アドム様、私たちは既に家を出された身です。奴隷であることを解除していただいても、生きていく術がありません」

 

「…と、言われてもな。せっかく自由の身になれたのに、わざわざ仇の家で厄介になるというのもおかしくないか?」

 

要は、食っていける術がないのに勝手に買い上げた挙げ句に放り出すなんて人のやることじゃねぇだろぅお!?

 

ってことかな。

 

いや、ホント貴族は面倒だな。

 

皆、綺麗な顔をしているのに中身が見栄と意地の塊なんて誰が関わりたいっていうのか。

 

すると、今まで黙っていた青い髪の美女ーーリアが口を開いた。

 

「アドム様、私たちを迎えてはくれませんか?」

 

「未婚の息女が、男の屋敷に住み着くなどとーー今後に関わるだろ? 金が要り用ならば、いくらか用意させる。今、誰かに頼っていて貴女がたは、今後一人で生きていけるのか?」

 

「そこを考えて貴方は私たちを、あの商人から買ってくださったのでは?」

 

アドムは淡々と首を横に振る。

 

「奴隷の立場なら、何も選べない。だから自由の身になって選択肢を増やそうと思ったんだ。親父の被害者である貴女方への、せめてもの償いになればとな。それが俺にできる責任だ」

 

「責任を感じてくださるのでしたらーー!」

 

リアの言葉に花が咲くような笑顔で美しい女性たちがアドムを囲い込むように前に一歩詰める。

 

「「「責任を感じてくださるのでしたら、私たちを使用人として迎えてくださいませ、アドム様」」」

 

「そうきたか…」

 

天を仰ぐアドムを見て、珍しく完敗した主人にちょっとだけ同情した。

 

つまり?

 

男所帯のヴィンテージ本家に、急に花が増えたというお話です。

 

「やられたね、主人」

 

「…ああ、負けた」

 

僕たちは顔を見合わせて溜め息を同時に吐いていた。

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