栄の国シャインの貧民街の店で、アドム・ヴィンテージは貴族の正装を披露していた。
「どうだ。ヴィンテージ。完成品は?」
服を作り上げた1人ーーマリーは自信満々に問いかける。
ミノタウロスの革を使って作り上げた茶色のコートがあることで、文句なしに貴族の出で立ちへとアドムを変えていた。
「ああ。完璧だ……」
「よかったです! 私もマリーもがんばった甲斐がありました!!」
マリーの横でもう一人の功労者であるアンナも手を叩いて喜んでいる。
「ふたりで、この服を作ったのか」
「これでもデザインだけでなく服を作ることだって学んでいるんだ。もちろん腕前はアンナに劣るがな。最後の仕上げぐらいなら、こうして作れる」
「……ふたりとも、鎧は作れるか?」
アドムの問いかけにアンナが応えた。
「鎧ですか? 甲冑とかは、さすがに……」
「そうか……」
心底残念そうなアドムに、マリーが告げた。
「モンスターの革を使っているから、簡単な鎧よりは丈夫だと思う。が、それはあくまで服だ。私たちは服飾師だよ、ヴィンテージ」
「ーーとするとヴィンテージの者以外には需要が無いか。惜しいな、これほどの服なら一般兵士に流通できれば相当のものになるんだが。如何せん、彼らに防御のいろはを教えるには時間がーー」
「こ、今回のクオリティはあくまでヴィンテージさんひとりのために作ったからこのクオリティなんですよ! さすがにこれを量産にしろと言われたらちょっと……!!」
アドムの言葉にアンナが焦った様子で待ったを告げてくる。
それはそうだろう。
「うーん、惜しい。いや待て。なにかいい方法は……」
顎に手をやりアドムは真剣に考える。
これほどの腕を持つ名も知られていない服飾師ーー、なんとしてもパジャの国益につなげなければと。
「おい、ヴィンテージ。服一つ着るのにどれだけ時間がかかっているんだ?」
そう言いながら扉を屈んで2メートルを越える長身の大女が店に入ってくる。
これにアドムは振り返りながら、半目で言った。
「お前、尾けてきたな」
「なんのことだ? それよりも、この店が噂の服飾師殿の店か。思った通り素晴らしいセンスだ。お前のようなボンクラにはもったいないな」
「ーーなにか言ったか?」
半目のまま睨みつけるように言うアドムに大柄の美女ーールークは肩をすくめてみせる。
「仲良きことは美しきこと、ですな」
これに裸足に簡単な下着、その上から襤褸を纏ったもう一人の同行者が声をかけてきた。
「ダッタ。俺とコイツは仲良しじゃない。訂正してくれ」
アドムの抗議の声もダッタは微笑みを浮かべて聞き流す。
そんな三人の様子にアンナが手を叩いた。
「えっとー。ヴィンテージさんのパーティの方ですか?」
「同行者だ」
間髪入れずに応えるアドムにルークも頷いた。
「パーティと言うよりは、そうだな」
「何かーー事情があるようだな」
「ところで素晴らしい服飾師殿。私にもぜひドレスを仕立ててもらいたいのだが。ヴィンテージに負けず劣らぬほどのものを!」
「え? いや、あの……」
マリーの手を両手で取って真剣に頼み込むルークの熱意は、凄まじくマリーをして戸惑っていた。
「アンナとマリーは俺が必死に口説いて、やっと服一着を作ってもらったんだ。いきなり言われてできるわけないだろ」
「報酬ならこの通り。言い値で出そう」
アドムの言葉に応えるようにルークは懐から金貨の入った革袋を取り出してカウンターに置く。
結構な額が入っているようで、布袋は相当な重さの音がした。
「ーーっ、とにかく。しばらく休ませてくれ。正直、アドム・ヴィンテージにふさわしい服を作った以上、こちらとしてはもう満足なんだ」
「ごめんなさい。マリーは顧客を選ぶので……」
本気で疲れ切ったという表情のマリーと、申し訳なさそうに言うアンナを見てルークは呟いた。
「ムッ。男の姿のほうがよかったーーか?」
「この場で変身するなよ。説明がややこしくなるからな」
「ぬぅ……」
すかさずといった具合で口を挟まれ、ルークは唸るしかできなかった。
「あ、そちらの僧侶の方……?」
「はい。なんでございましょう?」
「その姿は? さすがにもっと良い服を着た方が……」
アンナはダッタにそう言った後にアドムを向いてくる。
「そうですね。この場にある服なら好きにみつくろっていただいて大丈夫ですよ。ヴィンテージさん」
「いいのか? 太っ腹だな」
驚いたように言うアドムの横でルークは苦虫を噛み潰したような表情に変わる。
「ぐっ。私に合う服がない……」
「そりゃ、2メートル超えてるやつの女服なんてないだろ」
呆れたような表情になるアドムの横でマリーが同情したようにルークを見る。
「そういう事情なら考えなくもないんだが。すぐにはちょっと無理だ」
「おお。服飾師殿! 私のために服を作ってくれるのか!?」
即座にマリーの手を取り、嬉しそうに笑うルークに向かってアドムが冷たい眼で言う。
「待て待て、マリー。コイツに関しては親切にならなくていい」
「ええい、ヴィンテージ! 貴様はもう服を作ってもらったんだろう! だったら、私がこの店で服を用意してもらうことに問題はないはずだ!」
「そうはいかん。お前に服を作られては、パジャとの交易の邪魔になる。どのみち、お前もソレが狙いだろう?」
「自国の国益につながる話なのだ! お前だって同じだろう! それにそれを選択するのはマリー殿だ!!」
「お前、いつからマリーを名前で呼べるようになった?」
「さきほど、アンナ殿が言っておられたであろう? 服飾師殿の名をな」
マリーとアンナを放って二人で睨み合うアドムとルーク。
いがみ合う二人を止めようとアンナが割って入った。
「ヴィンテージさん! いいじゃないですか! そこまで邪険にしなくても……」
「俺はコイツのせいで野宿するところだったんだ、あやうく。この恨み、忘れるものか……」
アドムの恨みがましい声に思わずルークは呟いた。
「なんて器の小さいやつだ……」
「お前もやられてみろ、6回! 6回くらい宿屋にいわれのない理由で断られてみろ、ホントに!」
子どものようなアドムの怒り方にルークは呆れ、アンナは敢えてそちらを見ないようにしてダッタに語り掛けた。
「えっと。お話が進みそうにないのでダッタさん、でしたか」
「これは心優しいお方。お気持ち、ありがとうございます。しかしコレも御仏の意思。この衣を纏うことも私の初心には必要なのです」
「大丈夫です! 神さまだって許してくれます!」
アンナはアドムを見て続ける。
「それに。ヴィンテージさんと旅をともにするのであれば、ある程度の身なりでないとヴィンテージさんが軽んじられてしまいます」
「俺は気にしないが……」
思わず否定するアドムの横でルークはダッタを見ながら言った。
「ーーいや。彼女の言うことはもっともだ。少しは身なりを気にしろ、馬鹿め」
「お前、今ーー俺に言ったな! それ!!」
「ほかに誰がいる?」
「表に出ろ……」
「上等だ」
即座に外へ出ていく男と女。
痴話げんかと呼ぶにはあまりにも殺伐としたーー真剣勝負と言うには軽い関係だ。
「えーっと、ごめんなさい。トラブルになると思わなくて……」
「いえ。心優しき方、ありがとうございます。あなたのおっしゃる通りだ」
「だけど、そこまで今の服に思い入れがあるのでしたら、それに合わせたコーディネートをしてみましょうか」
「ーー重ね々ねのお心遣い、かたじけない。アンナ殿」
しばらくして服を着たダッタが店の外で待っていたアドムとルークの前に現れる。
「ほう。見違えたぞ」
ルークが端正な顔に不敵な笑みを浮かべて言う。
ターバンは深みのある藍色。金糸で複雑な模様が刺繍されている。
その模様は、古代の叡智を象徴する曼荼羅のようで、彼の内なる精神世界を映し出され、ゆったりとしたローブは落ち着いたベージュ色を基調とし、藍色の縁取りが施されている。
その生地は、シルクのように滑らかで微かな光沢を放ち、彼の優雅さを際立たせている。
胸元には神聖なシンボルが描かれた装飾品が輝き、彼の信仰心の深さを物語っている。
足元は、シンプルなサンダルで固められ、金糸の刺繍が入ることで礼装としても活用できるようになっている。
一気にハイプリーストのような姿に変わったダッタにアドムもニッと笑みを向けた。
そんな彼らの下へ、貧民街のメインストリートを甲冑を着た騎士団が20名ほど現れて一直線にこちらに向いて歩いてくる。
「おい、アドム。この街でなにかやらかしたか?」
「失礼な。やらかしたのは、お前の方じゃないのか?」
ルークとアドムが軽口を叩きながら目は真剣に騎士団の姿を見ている。
フルプレートの白銀の騎士の格好は、目出しのスリットがあるだけで顔は一切分からない。
「門や詰所で見た衛兵の恰好でもないな。甲冑は着ているが」
「ーーさながら貴族の私兵ってところか。衛兵よりも更にグレードが上だ」
「だいたい二十名か」
「私なら素手でも倒せるが。そのあとの問題をどうするか、だな」
特に構えることもなく20名からなる騎士団を迎える。
一人の騎士団長と思われる男がフルプレートの兜を脱いで脇に抱えるとアドムに向かって一礼した。
「アドム・ヴィンテージ殿だな」
「いかにも。お手前は?」
「私はビークス伯爵の使者。貧民街に見慣れぬ者がいると聞き、しばらく動向を監視させていただきました」
濃い茶色の髪をオールバックにしてちょび髭を生やした男は、翆色の瞳を細めて言う。
「この街のゴロツキ複数人を相手取り、神速の脚とオーガの如き腕力でねじ伏せたとか。なにより街に入ったとき、衛兵からの報告でぴんときました」
アドムの顔をジッと見ながら続ける。
「絵画のように美しい顔立ち。でありながら簡素で武骨な出で立ちと剣。噂で聞いたヴィンテージの特徴に一致する。後はそこの女性があなたをアドムと呼ばれた。あなたがあの『アドム・ヴィンテージ』であるなら話は早い。ぜひ。我が主に会っていただきたい」
アドムの姿をジッとつま先まで見てから彼は笑った。
「……その出で立ち、この国の貴族と対話をするためのものと見たが。いかがか?」
「なかなか優秀な兵士だな。わかった。お手前の主殿にお会いしよう」
「感謝いたします。では、こちらへ」
騎士団が左右に別れ、道を作る。
これにアドムはため息を一つ吐くとマリーとアンナに言った。
「すまないな、マリー。店先を騒がしくした……」
「気にするな。武運を祈る」
「お気をつけて、みなさん」
マリーとアンナ。
彼女達は、この国に来てはじめて自分に親切にしてくれた人たちだ。
だからこそ、アドムは心の底から本気で微笑んだ。
「ありがとうーー」
その笑顔の破壊力は凄まじくーー直撃を食らったマリーとアンナは耳まで真っ赤になっていた。
「ーーっく! 油断した!!」
「たしかにーーすごい破壊力……!」
胸を押さえてうずくまる二人の町娘を見ながら、ルークも頬を紅くしながら言った。
「お前、誰彼構わずにそんな笑顔を向けているのか?」
「失敬な。今のは愛想笑いとは違うぞ……!」
気分を害したと言わんばかりに憮然としてルークの前を横切るアドム。
その背を見送りながらルークは思った。
(コイツが自分の美貌に疎くて助かったかもしれん……!)
「ーー持つ者は持たざる者の心知れず、ですか」
「なんの話だ、ダッタ?」
「いえ。参りましょう。我らの試練が待っています」
「試練ーーか」
ダッタの言葉にアドムはニヤリと笑って騎士団が案内する領主の屋敷へ目を向けた。
「ーー面白い」
ーーーー
しばらくして、領主の屋敷の正門前に着いたアドム達は、騎士団に誘われるままに庭へと入った。
「さすがは、芸術の国ーーシャインの貴族の豪邸だな。どこかの公園かと思ったぞ」
「まったくだ。俺のヴィンテージ屋敷も大概だと思ったが、これに比べたら可愛いもんだな」
ルークの言葉に同意しながらアドムが周りを見渡していると兵士長が声を上げる。
「こちらです。アドム殿!」
そのまま、彼らは執務室内へと案内された。
扉を叩いて兵士長が声をかける。
「ビークス様。アドム・ヴィンテージ殿をお連れしました」
「お通ししろ」
執務室の扉を開け、アドム達を迎えたのは体形が小太りのモノクルをした中年貴族。
彼は細い目をアドムに向けて言った。
「ほぅ……。噂にたがわぬ美しさ。そして逞しさだ。『大陸最強の刃』とこうして面と向かえるとは我が先祖に自慢したいものだな」
「ーーアドム・ヴィンテージです。見知り置きを。お招きに預かり光栄です。ビークス伯爵」
丁寧に一礼するアドムに目を細め、ビークスはアドムとルークたちに椅子を進める。
「アドム殿。お連れの方もどうぞ、そちらにお座りください」
三人が座り、執務机から立ち上がって応接用のソファに移動しーーアドム達と対面する。
「では単刀直入にお聞きしましょう。シャインに何用でしょうか?」
「ーー実は我が国はいま、魔族と大国ジャッジに攻められています」
いきなり本題を切り出すアドムにルークが眉をひそめるが、対面したビークスは片眉を上げる程度のリアクションだった。
「ほう。ですが、貴方がここにいるというのはどういう風の吹き回しでしょう? あのジャッジと魔族が手を組むというのも信じられませんが、ヴィンテージの剣士が自国を離れるというのも信じがたい。特に、国の一大事にあなたが……」
「クロード王の王命です。俺に特使となり周辺国に手を出さぬよう条約を結んでこいーーと」
「つまりーーシャインにこの戦、手伝えというわけではない、と。それはまたなぜ?」
前のめりになって膝の上で肘を置き、両手を組んで貴族はアドムを見据える。
「公明正大を掲げるジャッジが人類の敵とされる魔族と手を結ぶ。迷いの森の中央部に位置するパジャを乗っ取ろうとしている。それをシャインに協力してもらいジャッジの不正を暴く。ということではないと?」
「ああ。あなたがたは手を出さないでもらいたい。これは俺の国だけで終わらせる」
淡々とした声、揺るぎない青の瞳を見て微かに貴族は目を細める。
「無茶、と言いたいところですが。その無茶を道理に変えたのがあなた方ヴィンテージでしたね。私の先祖もあなた方には煮え湯を飲まされたものだ」
「俺としてはシャインが手を出さないと約束してくれるのであれば、このままシャインを立ち去り、次の国へ向かいたいところだ。パジャと接地しているのはあなたの管轄する領土。あなたが首を縦に振ってくれれば俺はすぐにでも次の国へ向かおう」
自分の存在が劇薬だというのは理解している。
他国の領土にパジャの貴族ーーそれも剣士が長居するべきではないのは明白だ。
だからアドムはハッキリと言い切ったのだが、ビークスの反応は両手を挙げて賛成ーーとは行かなかった。
「申し訳ないが私の一存ではシャインが手を出さないという約束はできませんな。むしろそちらが勝てる算段であるとするならば、ぜひとも手を出させていただきたいと」
「……というと?」
「この大陸でもっとも強い国はどこかと言われれば、全ての国の民が口をそろえてジャッジと言うでしょう。そのジャッジのアキレス腱が見つかったのです。公明正大な正義を打ち破る方法は、不正を暴くこと。アドム殿はそれをお持ちだ。いや、貴国はと言うべきか。勝てる算段がおありなのでしょう? ヴィンテージ卿。我らが手を貸さずともあなた方は勝てる。ならば。当然、勝ち馬に乗るのが戦の常でしょう。違いますか?」
問いかけには応えずに沈黙を守る。
そんなアドムに構わずビークスは続ける。
「でありながら、なぜあなたはシャインに手を出すなと言っているのか。そこが分かりかねる」
「余計な手出しをされると戦力を分散しなければならない。それを察してもらえると思ったが?」
「あなたが、この国に来なければね。その理屈も通じたでしょう」
ため息交じりに前のめりであった姿勢はソファの背もたれに背を預ける体勢に変わる。
「……なに?」
「自分の国がそれほど追い詰められているのに『最強の刃』である貴方を手放すなどありえないこと。つまりーー最強であるあなたが居なくても、ジャッジと魔族を相手にしてパジャは勝てる。それほどの戦力を持ちながら、なにゆえ周辺諸国に手を出すなーーとあなたの国は言うのか。私はそれが納得できない」
「……悪いが俺にそんな戦闘力はない。買い被りだな」
「ヴィンテージ家当代最強にして大陸最強の剣士。あなたの名を知らぬ者はこの大陸にいないでしょう。それほどの男が買い被りですか?」
「ああ。俺はただのクロード陛下の使いっ走りだ。それ以上でも以下でもない」
言い切るアドムには一切の迷いがない。
これに困惑したようにビークスは言った。
「本当に? パジャは二心なしと」
「ああ」
「なるほど。あなたは真実そう申されておられる。驚きましたよ。特使に選ばれるというならば本心を隠してくると思っていたが、あなたの言葉には嘘偽りが一切ない」
自分を覗き込むような目は止め、ビークスは満面の笑みを浮かべた。
これにアドムは圧がなくなったことに気付いて問いかける。
「なぜ、そう思う?」
「失礼。私にはユニークスキルというものがありましてね。ひとの嘘を見抜くことができるのです。あなたには隠し事はなく、あなたの発する言葉に嘘は一切なかった。逆にそれが私には疑問ではありますが……」
「俺が、今以上応えられることはない。それも分かっているんだろ?」
「ええ。とりあえず陛下には私から取次ように申し向けましょう。パジャが我々に侵攻する気が無いということがよく分かりました」
「信じてくれてありがとう。ビークス卿……」
頭を下げるアドムを見てビークスは一つだけ、と口にする。
「ひとつだけ、これは私の好奇心なのですが。ぜひ見せていただきたいものがあります。それ次第では、王族を貴方に紹介したいと考えている」
「…どういうことだ?」
「アドム殿、貴方は赤目になることができますか?」
その問いかけにアドムは目を静かに細める。
「ヴィンテージ家の者は黒髪黒目に見えると聞いていますが、闘いの場になれば瞳は生来の青に変わるーーとか。しかし、初代ヴィンテージのアルドは瞳を赤色に変えたーーと聞きます。まるで魔眼だ」
「……それを知って貴方は何をする?」
「どうかーーお願いします!」
必死に頭を下げるビークスの姿にルークもダッタも何も言わずにアドムを見る。
アドムは一つため息を吐くと言った。
「分かった……」
ビークスが礼を言おうと頭を上げたその時には、アドムの瞳は鬼眼と変わっている。
部屋の中に居て発光する力を放った瞳は、太陽のようでーーあまりに美しい。
「……おお! 私の知る赤眼ではないが、美しい……! なんという温かさと力を兼ね備えた眼だ……!!」
「これでいいのか?」
「かたじけない。素晴らしい力だ……! これがーーヴィンテージ!!」
手放しで称賛するビークスを前にアドムは瞳を黒に戻す。
その様に頷いてビークスは言った。
「実は、私が紹介したいと考えている王太子は貴方と同じくらいの年頃で。黒髪赤眼の第二王子なのだ。もっとも私の国ーーシャインは赤眼を魔眼と言って忌み嫌っている。呪われた妾腹の王子とも言われていてね」
「……魔眼?」
「そう呼ばれる原因は、赤眼の出自にある。アドム殿、貴方の祖父ーーアブラ・ヴィンテージ殿が封じた強大な力を持った吸血鬼の逸話をご存知か?」
その言葉を聞いてアドムの瞳が大きく見開かれた。
『自分の鬼』が使い魔として創り変えた吸血鬼の顔が頭を過ぎる。
「シャインの歴史の中でも、特に厳重に口止めされているが。既に民間に伝承レベルで伝わっているーー王族の中から魔族が生まれたことを」
赤目の王族だった男は、元々は優秀な知略と魔法を自由に操る賢者の如き力を持っていた。
しかしーーシャインが建国されるきっかけとなった戦争で妻を殺された。
妻の肚には子どもが居たと言う。
妻は敬虔な創生の女神の信徒であり、常に平和を祈り続けていたと言う。
妻を殺めたのはーー隣国のものだった。
ーー 何が、神だ!? 何が、世を作りし女神だ!! 妻をーー子を守りもせずに無惨に見殺しにした、この裏切り者がァアアアア!!! ーー
その憎しみが、怒りが、悲しみが彼を外法へといざなった。
彼は魔族と独学で交流して吸血鬼となりーー王国や隣国の民を判別なく死を撒き散らした。
当時の彼らでは太刀打ちできず、シャインの国外へと追放するのがやっとだったという。
それから長い月日が経ちーー1人の剣士の手で、吸血鬼は封じられるのだった。
吸血鬼の呪いかは知らないが、王族には時折赤眼の者が生まれる。
彼らは初めは賢王として崇められるが、必ずどこかで狂い呪い始めるため、いつしか赤眼は呪いであり国を滅ぼすーーとされたのだった。
「……その話を何故俺に?」
「貴方が、似ているからですよ。その眼の力を完全に使いこなしーー普段は瞳の色を隠すことも出来る。殿下にその術を与えることができればーーと」
吸血鬼の紅眼とアドムの鬼眼は色が微妙に違う。
仮に王太子の眼が吸血鬼のものと同じならば、アドムが力になれるかは分からない。
それでも、この貴族は藁にも縋る思いで言っている。
「分かった。こちらも王族と繋がりを持てるならありがたい」
「ありがとう……! ヴィンテージ殿……!」
ビークスは口に手を持って嗚咽をこらえるように礼を言っていた。