刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

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 フェルディナンド城の大広間。

 第二王妃の誕生祝賀会の会場で、赤い髪の襲撃者が現れた。

 騎士たちでさえ反応できなかった襲撃者に対峙するのは、シャインとは無関係な大陸最強の名を持つ男ーーアドム・ヴィンテージ。

 はたして襲撃者の目的は……?


第37話 赤髪の襲撃者

「なんのつもりだ、アドム!?」

 

 ルークが叫びながら、自分の前に立って青いオーラを身に纏いーー刀を霞に構えるアドムの背に叫んだ。

 

「この程度の相手に、私が後れを取ると言いたいのか!?」

 

「……悪いな。俺のダンス相手は、もう居ないんだ」

 

 左掌から流れる血を空で払い落しながらアドムはニヤリと笑みを浮かべて赤髪の美女を見る。

 

 彼女は、何も言わずに血のように紅いオーラを身に纏い始めた。

 

 白でも青でもないーー紅の色は、普通の人間が纏うものではない。

 

「その気の色……、お前は何者だ?」

 

「……これから死ぬ人間に教える義理はない」

 

 つま先立ちになり、赤髪の美女は地面を押すようにソッと空に浮かび上がると消える。

 

 剣戟音と火花が散り、アドムと赤髪の美女は剛刀と長剣を唐竹でぶつけ合い、鍔迫り合いを行っていた。

 

(み、見えなかった……。御霊降ろしをした私の眼にも……)

 

 ルークが目を見開く横でアドムがジッと赤髪の美女を見つめる。

 

 美女も真っ直ぐにアドムを見返して形の良い唇を開いた。

 

「……これほどの剣士が、何故あんな王族や貴族共を庇う」

 

「お前達の事情は知らないが、俺にも事情がある。俺が立ち合った場所で襲撃したことを後悔してもらうぞ」

 

 剣をはじき返して斬り合う二人。

 

 まるで優雅なワルツを踊るかのように消えては現れ、剣を振るう美女と野性的かつ鋭い踏み込みで神速のステップを踏むアドム。

 

 ルークは両者の動きを目で追いながら呟いた。

 

「速い。相当なスピードだ……。あの動き、人間ではなかろうが黄龍を相手にしたアドムについていくことができるとは……!」

 

 一際、強烈な斬撃がぶつかり合い、城の壁や地面にひび割れを起こす。

 

 離れアドムは霞に構え、赤髪の美女は右手一本で剣を持って無形に構える。

 

 冷徹な赤髪の美女の口許が僅かにーー僅かに緩んだ。

 

「強いな……。確かに『大陸最強の剣士』だ」

 

「そいつはどうも。お前も思っていたよりは、ずっと強いようだ」

 

 クールかつ不敵な笑みを浮かべて返すアドムに赤髪の美女が剣を構えようとしてーーその剣が音を立てて半ばから圧し折れる。

 

「その剣は、お前ほど強くはないようだな」

 

 アドムの斬撃に数打品の剣が耐えきれなかった。

 

 赤髪の美女が自分の折れた剣をあらためた後、アドムの得物(かたな)を見れば自分の斬撃とまともにぶつけ合ったのに刃毀れ一つなくーー鈍い光を放っている。

 

「なるほど。大陸最強の剣士が使う武器もまた、業物というわけか。とはいえーー今の私の斬撃を受けてもひび割れも刃毀れもないとは」

 

「この刀ーー銘を『兼定(かねさだ)』。盾と剣『兼ねて定めし』刃なり」

 

 兼定がアドムの名乗りに応えるように、キラリと輝いた。

 

(剣が剣士に力を与え、剣士が剣の斬れ味をより鋭利にするーーか)

 

 ルークがニヤリと笑みを深めてアドムを見た後、赤髪の美女を見る。

 

「どうする、赤髪女? 素手で大陸最強に挑むつもりか?」

 

 だが彼女はルークを見ずにアドムだけを見つめている。

 

「……何故だ?」

 

「貴様……!! 私を無視するか……!!」

 

「何故、剣ごと斬らなかった? これほどの腕ならば剣ごと私を斬れたはずだ」

 

 その言葉にアドムは静かに言う。

 

「俺はーー人間(ひと)は斬らん」

 

「……私が、人間に見えるのか?」

 

「ああ」

 

 迷わずに即答するアドムに赤髪の美女は、赤い瞳を見開いたあとーー氷が溶けるように柔らかく微笑んだ。

 

「そうか……」

 

 同時に突っ込んでくる。

 

 これにアドムも反応して刀の峰を返してから、一閃する。

 

「………」

 

 目の前に迫る美女は、いきなり後方へ宙返りすると長い彼女の赤髪がアドムの視界を遮りーーその向こうから鋭い矢が3本ーー迫ってきている。

 

 咄嗟に首のマフラーを左手に掴んで横に薙ぐ。

 

 意志を持つ蛇のように動いて赤い布は、鋭い矢弾を弾き落としてから元通りの位置に巻き付いた。

 

 着地する赤髪の美女の向こうに、弓矢を構えたビキニ姿にマントを羽織った長い耳の美女が立っている。

 

 彼女は長い黒髪をポニーテールに結わえ、鋭いアメジストの瞳でアドムを睨みつけていた。

 

「……あれはダークエルフ、か?」

 

 ルークが呟く中、アドムは咄嗟にその場から神速で離れるとルークの横に移動した。

 

 次の瞬間、アドムが立っていた足場が眩い光に包まれて爆発する。

 

「まだ居たか」

 

 アドムが見据える先には、金色の長い髪に碧い瞳の美女が豊満な肉体を見せつけるような修道服を着て身の丈を越えるほどの杖を持って立っている。

 

 3人とも、尋常ではないスタイルの美女だった。

 

「……珍しいですね。わたくしたちを好色な目で見ない男性など」

 

「シャロン、怪我はない? 貴女が手こずるなんて、らしくないわ」

 

 修道服を着た金髪の美女、褐色の長耳の美女が、それぞれ赤髪の美女に声をかける。

 

「ふたりとも、気を付けろ。その男が大陸最強の刃ーーアドム・ヴィンテージだ」

 

 彼女の冷たい声は、どこか甘くアドムの名前を呼んだ。

 

 アドムは現れた二人の美女の戦闘力をできるだけ正確に計っていく。

 

(精密射撃を得意とする弓撃手に、リアさんに匹敵する広範囲の聖属性の魔法を使う僧侶か。厄介だな)

 

 懸念点は、もう一つ。

 

 これだけの闘いを繰り広げているのに未だに騎士団の援軍が来ない。

 

 王族や貴族を全て逃がす為とはいえ、明らかに遅すぎる。

 

「ルーク。そろそろ、ここを離れてダッタと合流しないとまずいかもしれん」

 

「? どういうことだ?」

 

「騎士団が来ない。これだけの騒ぎを起こしてーー襲撃者が居るのも知っている騎士団が、一人も来ないんだ」

 

「! まさかーー、この女たちは囮か!?」

 

 急いで彼女たちに背を向けてダッタを追おうとするルークの前を矢が通り過ぎた。

 

「……悪いけれど、貴女とアドム・ヴィンテージは足止めさせてもらうわ」

 

「お前の言うとおりみたいだな、アドム」

 

 ダークエルフの言葉に長巻を構えなおすルーク。

 

 その横でアドムも目を細める。

 

「ああ。どうやらーー向こうにも腕が立つのが行っているようだ。ぬかったぜ」

 

 苦虫を噛み潰したような表情になるアドムへ赤髪の美女ーーシャロンは言った。

 

「本来なら、私がここで全滅させているはずだった。まさかアドム・ヴィンテージが居るとは思わなかった。大陸最強の刃という噂は本当だったーーいや、それ以上だ」

 

 先ほどまでの冷たい襲撃者の顔ではなく、どこか恋人に語るような甘い言葉使いにルークが眉根を寄せる。

 

「なんだ、コイツ。先ほどまでと雰囲気が違う……!?」

 

 とはいえ、手を緩める気は一切ないというのも分かるのでルークも構えを維持する。

 

「シャロン……? わたくしのシャロンが、どうしたのです? どうして、あんな顔だけの男に甘い声で語りかけているのですか!? わたくしにも、そんな声で話しかけてくれたことないのに!!?」

 

「ちょっと、ミリア。目を覚まして? 今は大陸最強を相手にして……」

 

「ペイト、貴女は黙ってください!!」

 

 互いに名前を呼び合う僧侶とダークエルフの姿にルークは鼻白んだ。

 

「襲撃者が名前を呼び合うか。敵(襲撃対象)を前に名を晒すなどーー私たちを、いつでも殺せると思っているのか? 舐めた連中だ……!!」

 

 肉食獣のような表情に変わるルークを見てアドムも不敵な笑みを浮かべて刀を霞に構える。

 

「ああ、同感だ……」

 

 二人は同時に青と白のオーラをそれぞれ身に纏った。

 

 アドム達の様子にダークエルフのペイトが瞳に魔力を集中させて紫色の光を発光する魔眼に変える。

 

「……いつものように振る舞いたいけれど。流石に、この二人を相手にするのは厳しいわ」

 

「何を弱気なことを言っているんですの? そんなことよりーー、そこの男!!」

 

 金髪の美女ーーミリアは人差し指でアドムを指し示すと言った。

 

「よくもーーよくもよくもよくも、わたくしのシャロンにちょっかいを出してくれましたわね? シャロンの可愛い顔も、甘えた声も、クールな美貌も。全てーー全てわたくしだけのものなのに!! それをよくも……!!」

 

 そう叫ぶミリアの目の前にーー2メートルを越える巨体のルークが踏み込んで全長5メートルを越える長巻を振り下ろしてきた。

 

「いつまでも、戯(ざ)れるなよ! 襲撃者!!!」

 

 しかし長巻の巨大な刀身は、エリスの目の前で止まっている。

 

 見ればーー彼女を背にかばって首の無い白銀の甲冑が腰の剣を抜いて受け止めていたのだ。

 

「なーー!?」

 

「わたくし、シャロンと仲間以外の人間(ニンゲン)に興味ありませんの。デュラハン!!」

 

 凄まじい斬撃を中身空っぽの首なし甲冑が繰り出してきたのを見て、ルークは目を瞠る。

 

 ルークの巨体を軽々と後方へ吹き飛ばしたのだ。

 

 後方に着地したルークの目の前には、3体のデュラハンが剣を手に迫っている。

 

「人形が、舐めるなぁあああ!!!」

 

 大長巻を振り回して3体のデュラハンを瞬く間に斬り捨てる。

 

「デュラハン3体を相手に、一瞬で斬り捨てた? わたくしの騎士たちを?」

 

 斬り捨てられたデュラハンの剣を拾ってシャロンが構えを取る。

 

「気を付けろ、ミリア。この女も強い」

 

「……は、はい」

 

 頬を紅く染めて喜ぶミリアを置いてシャロンはアドムとルークを睨みつける。

 

 アドムはジッと3人の美女を見据えた後、兼定を霞から青眼に構えなおす。

 

「ひとりひとりが凄まじい使い手である上に、コンビネーションで更に戦闘力を高めていけるーーか。敵ながら良いチームだな」

 

「……貴様ら、その身のこなしに服装ーー冒険者だな? 冒険者が、王族を狙うクエストを請け負うとは。暗殺者ギルドにでも身を売ったか!?」

 

 ルークも相手の正体に気付いて詰問する。

 

 これにシャロンが静かに瞳を細めると応えた。

 

「お前こそーー冒険者だな? それが何故、得にもならない王族を庇い立てする?」

 

「成り行きだ…、目の前で人死にが出るようなことを見過ごせるものかよ。そちらの金髪女と同じく、これでも聖職者なんでね。まあ、そちらのは本当に聖職者か怪しいものだが」

 

 ジッとミリアを見据えて言うルーク。

 

 当の彼女は温度を感じない冷たい表情ーーその横でシャロンは静かに頷いた。

 

「その服装ーー司の国チャーチの巫女。S等級冒険者のルーク・ケイジか」

 

「光栄だな。なら私も貴様らの正体を言ってやろうか? 『禍憑き(まがつき)の赤』もしくは『赤き死神』。S等級冒険者でありながら、依頼ならどんな薄汚れた内容でも請け負うプライドのない魔法剣士ーーシャロン・エスペランザ!!」

 

 瞬間、こちらを虫のように見ていたミリアの瞳が冷酷な憎悪を彩って変わった。

 

「わたくしのーーわたくしの、シャロンを!! 何も知らないお前が、そのように悪し様に言う……!! 許せない、許せない、ユルサナイ……!!」

 

 聖職者の名を冠するミリアは全身から聖なる光を放ちながら憎悪の瞳でルークを睨みつけてくる。

 

「消し飛ばしてあげます。この城ごと……!!」

 

 強烈な光の文字が全てを吹き飛ばす圧力を放ち、紋章を広間の床ーー全てに描かれている。

 

「彼方より来りて全てを飲み込め、偉大なる力の持ち主よ。我が前に立つ愚かな者共にーー凄惨な捌きを!!」

 

 これにダークエルフのペイトが表情を青くする。

 

「ば、ばか! こんな建屋の中で大技を使うな!!」

 

「……」

 

 ジッとシャロンは何も言わずにアドムを見る。

 

 アドムはーー目の前の光景を睨み据えて全身に青い気を滾らせていた。

 

「ペネトレイト・ワン(侵食する流砂)!!」

 

 その言葉が言い放たれると同時に紋章が描かれた地面全てが流砂に代わり、部屋の中央に奈落の落とし穴を作り上げる。

 

 柱や壁、ありとあらゆるもの全てを飲み込んで消し飛ばしていく強烈な大魔法であった。

 

「な、馬鹿な!! 対魔法構造されているはずの城内で、こんな物質変化を起こす大魔法を使えるなんて!?」

 

 ルークは足を取られ、思うように動けない状態で落とし穴へと流れていく。

 

 冷酷で残虐な笑みを浮かべたミリアは呟く。

 

「わたくしのシャロンを侮辱したーー万死に値する。骸も残さず、この世界から消えなさい」

 

 彼女やシャロン、ペイトの足元には魔力の足場が出来ておりーー流砂には巻き込まれない。

 

 ルークが床に長巻を突き刺して楔にして耐えようとするも、地面はどこまでも柔らかい砂しかなくーーどこにも刺さらずに流される。

 

「こんな……ことで、私が負けるだと!!?」

 

「ーー肩を借りるぞ」

 

「え、な!?」

 

 隣から静かな声が聞こえたと思った時には、肩に軽い衝撃があり上を見上げるとアドム・ヴィンテージが天井付近まで飛び上がっていた。

 

「奥義ーーレギンレイヴ!!」

 

 頭上に刀を振り上げて袈裟懸けに振り下ろすと強烈な青い光が落とし穴に向かって放たれる。

 

 強烈な光ーー爆発ーー衝撃が起こって視界を白く埋め尽くす。

 

 ルークの視野が戻ったとき、足場は元通りに戻っており目の前にアドムの背があった。

 

「お、お前……。どうやって、あの魔法を……!?」

 

 目を見開くルークと対面に居るミリア。

 

「バカな。わたくしの大魔法をーー消し飛ばした? そんな真似を人間ができる……? 賢者でもない大魔法使いでもないーー只の剣士が?」

 

「これがヴィンテージ流? 確かに剣術で魔法を使うような技ね。ミリアのペネトレイト・ワンまで消し飛ばすとは思わなかったけれど……」

 

 仲間の美女たちの言葉にシャロンは、頷いてアドムを見る。

 

「本当に……噂以上だ。アドム・ヴィンテージ」

 

 アドムは静かに兼定を彼女たちにむけて言った。

 

「続けるか? これ以上、やり合っても意味はないだろう」

 

「それはーーどういう意味だ?」

 

 シャロンは目を細めて問い返した直後、アドムの背後から歩いてくる人物を見て目を見開く。

 

 彼はアドムの仲間の一人ーーダッタである。

 

 彼の脇には羂索(けんさく)と呼ばれる縄で縛られたフードを被った肩までの長さの灰髪の人物が居た。

 

「彼女はーーこちらで拘束させていただきました。暗殺者(アサシン)とは悲しいことです」

 

「……ネイを捕まえたというのか」

 

 シャロンの表情から余裕が消えて焦りに変わる。

 

 逆にルークはニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

「クク。いい気味だなーーシャロン・エスペランザ。安易な考えで依頼を受け王族を殺そうとしたーーそれは、どこの国でも極刑に値する。貴様らは追われる身ということだ」

 

 これにミリアの眼が昏く光る。

 

「…くだらないことを。女神が創り出した世界がある限りーーわたくしたちは追われ迫害され続けるだけ。たかが一国から手配を受けたところでーーですわ」

 

「私たちも、生半可な気持ちでは依頼は受けてないのよ。リーダーのシャロンが選んだクエストなら、命を賭してもやり切るだけ」

 

 ペイトもまた、肩をすくませてからルークに返す。

 

「『禍憑きの紅』に付き従うのは『聖女崩れ』に『ダークエルフ』に『アサシン』の女どもーーか」

 

「シャロンに下卑た男なんて近づかせるわけないでしょう? わたくしが……!!」

 

 ルークの言葉に返しながらミリアの眼には明らかにネイがある。

 

 如何に隙をついて取り返せるかーーを考えているようだった。

 

「……アドム・ヴィンテージ。お前に決闘を申し込む」

 

 これにシャロンが声を上げた。

 

 周りの人間たちが一斉にシャロンを見る。

 

「私が勝ったら、ネイと私たちをこのまま見逃してくれ。負ければーー好きにしろ」

 

「ふざけるな、私たちにメリットが一切ない!! 貴様らは、このまま王族の前に叩き出してやる!!」

 

「お前には言っていない。ーーアドム」

 

 言いながら、シャロンは転がっていたデュラハンの剣をもう一振り拾うとアドムに向けて差し出す。

 

 これにアドムもニッと笑みを返して兼定を腰の鞘に納刀し、シャロンに近寄っていく。

 

「おい!! 甘いのも、いい加減にしろ!!」

 

 叫ぶルークを尻目にアドムは淡々とした表情でシャロンから剣を受け取った。

 

「いいだろう。お前の言葉に応えよう……」

 

「……お前は、いい男だ。これまで出会った誰よりもーー」

 

「褒め言葉として受け取っておく。さあ、来い!!」

 

 言いながらアドムはシャロンから6歩離れた位置で立ち止まって剣を霞に構える。

 

 シャロンも剣を両手で持って青眼に構えた。

 

 青と紅のオーラを身に纏い、二人は互いに腰を落とす。

 

「一撃勝負だ。いいな?」

 

「ーー分かった」

 

 アドムの言葉にシャロンも応じる。

 

 だがーーどちらも動きが無い。

 

「うそーーシャロンが、あのシャロンが。動けない……」

 

「……わたくしのシャロンが、あんな男に独り占めされるなんて」

 

「アドムめ、名刀を持ちながらナマクラで斬り合うとは。訳が分からん」

 

 美女たちが声を上げる中、一人の僧侶が動く。

 

 数分が経過するとダッタが地面に落ちていた石畳の破片を拾い上げて空に放り投げた。

 

 地面で石が破裂した瞬間、両者は神速で移動して互いに向けて駆け合い、斬撃を放ちあう。

 

 シャロンは唐竹に、アドムは胴薙ぎを放って交差しーーすれ違う。

 

 二人が静止し、互いにふり返ると同時に持っている剣は刀身の根の部分から粉々に砕け散った。

 

「……あの女。アドムと同レベルの斬撃を放てるのか」

 

 今のアドムは赤目ではないが、それでもヴィンテージ流最強の剣士だ。

 

 その斬撃と同レベルの一撃を放てる目の前の赤髪女は、おそらく自分よりも上のレベルだとルークは認識した。

 

「決着をつけようと思ったがーー剣が折れてしまったな」

 

 言いながらアドムはダッタに目配せをすると、彼は理解しているとばかりに頷いてから羂索(なわ)を解いてアサシンの女性を自由にする。

 

 彼女は驚いた表情でダッタとアドムを血のように紅い瞳で見比べた後、アサシン特有の身のこなしでシャロン達のところへ移動した。

 

「な、何をしているんだ、お前!? せっかくの捕虜を!?」

 

「……勝負無し、だ。それでいいな?」

 

 叫ぶルークを置いてアドムはジッとシャロンを見据えて言う。

 

「被害が出ていたならアドム殿も問答無用で貴女たちを捕らえたでしょうが、今回は誰も怪我を負っていないためーーこれで良しとしたようですね」

 

 ダッタもアドムの意を汲んで続ける。

 

「こいつらを差し出せば、王族に大きな貸しを作ることができる!! 特使としての任務を簡単に果たせるかもしれんのだぞ!?」

 

「……」

 

 アドムは何も言わずにシャロンに背を向けるとルークに言った。

 

「いくぞ。ここには、用はない」

 

 そう言って立ち去っていくアドムの背をダッタが微笑みながらついて行き、ルークはアドムに向かって叫びながら横で歩いていく。

 

 そんな3人を見送り、シャロンは一つ吐息を漏らした。

 

「シャロン! 無事でよかったです!!」

 

「流石ね、シャロン。あのアドム・ヴィンテージと剣を交えて無傷で帰って来れるなんて」

 

「……ごめんなさい。貴女たちに依頼した本人が、捕まるなんて」

 

 ミリア、ペイト、ネイに向き直りシャロンは静かに瞳を閉じると言った。

 

「あの男は、初めから私の剣を砕くつもりで動いていた。私は、それに便乗したーーそれだけだ」

 

「! 本当に、私たちを逃がそうとしたーーと?」

 

「ああ。いい男だーーホントに」

 

 微笑みながらシャロンは赤いドレスを脱ぎ捨てると黒いマントに金色のビギニアーマーと呼ばれる薄着の鎧を身に纏う。

 

 今回の敵はーー相当に手強いと認識していた。

 

ーーーー

 

 アドムは城の回廊を歩きながらルークに説教を受けている。

 

「だいたい、お前はいつも勝手すぎるぞ! いい加減にーー!!」

 

「ルーク。今回、不審な点が多くないか?」

 

「……」

 

 淡々とした声にルークもそれまで上げていた声を止め、静かに表情を改める。

 

「大きく見て三つ。一つ、会場内に襲撃者が現れたタイミング。フードの連中は全員で9人。それだけの数の襲撃者が、衛兵の眼を盗んでひそめるものか。一つ、今回は第二王妃の生誕祭だったーーにもかかわらず王はおろか王妃たちの一人も来ない。第二王妃に至っては、そもそも自分の生誕祭だというのにーーだ。代わりに全ての王子王女たちが壇上に並べられていた。最後にーー王族・貴族を逃がした騎士団は、この期に及んで一人も襲撃現場に帰ってこない」

 

「……この国で何が起きているか。それをこれから教えてもらおう。第三王子どのにーーな」

 

 ルークの言葉にアドムも頷く。

 

 城の中庭から見上げる月はーー白く淡い光を放っていた。

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