刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

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ではではいきまひょ(。ÒㅅÓ。)


第4話 ヴィンテージの剣士

 僕の名はタハト。

 

 ヴィンテージ家の嫡男アドムに仕えている奴隷だ。

 

 現代日本の記憶を持った転生者でもあるんだけどね。

 

 この世界は剣と魔法が謳歌している異世界の大陸だというのは前に話したとおり。

 

 だけど、僕が生まれた国はまだ国と呼ばれるには不安定で統一されてから100年も経っていない。

 

 でかい内乱はまだないけど、時間の問題だと思ってる。

 

 クロード殿下ーー今は国王陛下だけど。

 

 クロード王は、自分に対抗できる立場にある者は事あるごとに王都から遠い距離の地方へ追いやったり、貴族の家そのものを排斥したりとやりたい放題している。

 

 先日、王は自分の従兄弟にあたる貴族の青年ーーブラウン・パジャ・ヴィクトリア様が亡くなったと言う話だ。

 

 理由は国王に反逆する意思があると排斥され、無実を証明するために自害したという。

 

 噂でしか聞いたことはないけど、頭が良くて剣の腕も立つという話だった。

 

 クロードの臣下の中にも彼を優秀だと推す貴族も居たと言う。

 

 ブラウン卿が自害された本当の理由は僕のような奴隷が知るはずもないーーんだけど想像はできる。

 

 というか、城下町から離れたヴィンセント領にもブラウン卿は陛下に反逆の意思がないことを証明しろ、さもなくば一族そのものの爵位を取り上げると脅されたんだという噂にしては具体的な話が聞こえてくる。

 

 貴族というか王族同士の内輪もめなのに平民でも噂が広まるほどに知られているんだ。

 

 ブラウン様の家に仕えていた騎士たちやメイドたちも皆、仕える主人を失くして地方に放りだされたと聞いてる。

 

 アドムと僕がヴィンテージ領に来てから数年だけどさ、もう何十人も騎士から盗賊に身を落とした人たちを見て来た。

 

 みんな、アドムに恨みを持っていた。

 

 理由は簡単だ。

 

 アドムの父親のアスラ卿は、国王陛下の地位に害が及ぶかもしれない人間や影響を及ぼすかもしれない対抗馬を軒並み排斥する実行役。

 

 もちろん何の理由もなく排斥なんてできるわけがないが、貴族同士のちょっとした不満や噂を垂れ流しさせてソレを理由に言いがかりに近い形でアスラ卿は貴族や王族を潰していってる。

 

 たかが剣の腕が立つだけの辺境の地方領主であるヴィンテージ。

 

 昔は戦の場にて王の苦難を切り払ったヴィンテージだけど、今は国王陛下直々に命を貰って内政として動く実行役の剣。

 

 アスラ卿の後ろには国王のほかに国王派の重鎮貴族が居るらしいけど、その重鎮が反乱分子を炙り出すために噂や陰口を広まらせているとも。

 

 アドムの奴隷というか付き人をしていると、こういう裏の部分も見れるのが怖い所だ。

 

「……よし、真っ白!!」

 

「タハトさん、洗濯なら私どもがーー」

 

 今年30半ばのメイド長サーニャさんと一緒に洗濯物を干しながら、僕は言った。

 

 紫色の髪をハーフアップにして眼鏡をかけた切れ長の目は、冷たい美人という印象だけど実際はめちゃくちゃ気配りのできる優しいひとだ。

 

「いいの、いいの! 僕は奴隷だし、これくらいやらせてくださいよ! でないと僕もごく潰しになっちゃいますから!!」

 

「またタハトさんったら。アドム様はタハトさんを奴隷なんてーー」

 

「分かってるつもりです。でも、それじゃアイツの顔が立たないから。というか、アイツも少しは主人の顔をしてくれないとなぁーー」

 

 したり顔で僕が言うと、他のメイドの人たちが

 

「プッ、タハトさんが言います?」

 

 と吹き出している。

 

 異世界のメイドさんは顔面偏差値がめちゃくちゃ高い。

 

 だから、彼女たちが笑ってくれたら僕は幸せなんだぁ……。

 

 手洗いで洗濯したシーツやカバーが真っ白になったのを見て、僕は笑顔になる。

 

 うん、今日も良い洗濯日和だ!!

 

ーーーー

 

 僕が屋敷に戻ると新入りとなった6人のメイドさん……というか貴族の息女たちが家事を習っていた。

 

 今まで使用人にしてもらっていたことを一人でしなければならないのだから、そりゃ大変だ。

 

 着替えもお風呂も、自分一人ではできないみたいだしなぁ。

 

 すぐに覚えられたのはリアさんくらいで、他のひとは苦労しているみたいだった。

 

「リアさん、凄いですね。もともとは一人で着替えや入浴とかしていたのですか?」

 

 アドムにも負けない美貌の青髪の女性に内心ドキドキしながら聞くと、彼女はニコリと笑ってくれた。

 

 よく見れば彼女の髪は所々に紫色の部分があるようだ。

 

「はい、私はーー家の中でも末の13番目の娘でーー母は平民の出でした。他の屋敷は知りませんが、私の親は私が10の頃に自分のことは自分でするようにと言って、使用人も最低限しか屋敷に居りませんでしたので。今回のようなことがなければ隣の国の貴族の方と結婚していたかもしれません」

 

「貴族オブ貴族って感じだねぇ。ウチの主人も少しは貴族らしいところを見せてくれてもいいのにな」

 

 思わず本音がこぼれたが、慌てて僕は自分の口を塞ぐ。

 

 すると彼女は何も言わずに僕の顔をジッと神秘的な水色の瞳で見つめて来た。

 

 なぜかーーその瞳を見ると吸い込まれるようでーー怖かった。

 

 思考が奪われて彼女の言いなりになりそうなーー怖い感じを受ける。

 

「……貴方とアドム様は、私の目を見て話ができる殿方なのですね」

 

「え?」

 

 呟かれた言葉は僕の耳には聞こえてこず、思わず聞き返すと彼女は神秘的な輝きの視線を外して首を小さく横に振った。

 

「いいえ、なんでもありません」

 

 その声が、僕にはなにか不穏に感じたんだ。

 

ーーーー

 

 アドム・ヴィンテージ。

 

 王の剣として謳われたヴィンテージ家嫡男にして当代最強とされる剣の腕を持つ男。

 

 彼は早朝から自分の家の離れにある訓練場にて、籠手と胴当てを着けたヴィンテージ家の騎士たちと袋竹刀での乱取り稽古をしていた。

 

 複数人に囲まれた状態で同時に打ち込まれる稽古は、多対一を前提としたヴィンテージ家の剣技を磨くに最適なのである。

 

 アドムを囲んだ5人は、それぞれがヴィンテージの剣技を学んだ強者である剣士たち。

 

 ある者は孤児や奴隷だったものやヴィンテージに仕える騎士の家系。

 

 ヴィンテージの血を引くーーアドムの親戚にあたる騎士たちも何人もいる。

 

 それらを相手に一振りで複数人を瞬く間に叩き伏せるアドムの姿は、正に剣鬼だった。

 

 袋竹刀ーー防具を付けているとは言えアドムの一撃は衝撃を波のように伝える。

 

 アドム自身は防具など着けていない。

 

 黒の革ジャンに白いアンダーシャツ、青いデニムのズボンというラフな姿だ。

 

「次々とかかってこい! 遠慮は要らん」

 

「アドム様ァアアアア!!」「お覚悟ぉおおお!!」

 

 面を狙って唐竹に振り下ろしてくる剣士と横から胴を狙って胴薙ぎに払ってくる剣士。

 

 アドムはそれを同時に左斜め下から右上に斬りあげる斬撃を放って吹き飛ばす。

 

 彼らは剣を交えることすらできずに吹き飛ばされる。

 

 アドムの剣は、身のこなしは、それほどまでに速い。

 

 無制限一本勝負。

 

 アドムの肉体に有効打を1本入れるまで、その時間は続く。

 

 控えの剣士など居ない。

 

 皆、前列だろうと後列だろうと関係なく叩き伏せられる。

 

 ヴィンテージの剣技ーーソニックバレットを竹刀が届く範囲外から打とうと気を練るも、瞬く間に距離を詰められて吹き飛ばされている。

 

 受け身も受け流しも使うことすら許されない。

 

 まるでアドムは竜巻だった。

 

(なんという強さ。そして速さだ。身のこなしも剣捌きも、全てが我々の数倍は速い。アドム様と対峙して剣を交えることすら難しい。これこそが、アドム・ヴィンテージ)

 

 王の剣ーー。

 

 国を守る剣士。

 

 その一閃はあらゆる災禍を切り払ったといわれる。

 

 そんなおとぎ話が、現実に存在するのだ。

 

 この男のような剣士になれるというのならば、何度でも挑むだろう。

 

 確実に強くなっていく自分たちの剣戟に、騎士も奴隷も平民もない。

 

 ここにいるのはーーヴィンテージの剣を学ぶ剣士である。

 

ーーーー

 

 いつもどおり、飯時になっても来ないから僕がアドムを呼びに行く羽目になった。

 

 本当にあの主人だけは、飯の時間くらい守ってほしいものだ。

 

 なぜか僕について来ている長くて濃い茶髪の美人さんーーラナさんもいる。

 

 彼女はアドムに真っ先に家で面倒を見ろと言ってきたひとだ。

 

 元貴族の気がきつそうな切れ長で整った顔立ちだけど、よく見ると髪は耳の後ろ辺りから少し亜麻色の部分がある。

 

「えっと、アドムを呼びに行くだけなんですけど」

 

「……少しはお役に立たないとと思いまして。先ほどはタハトさんにも、ご迷惑をおかけしましたから」

 

 ん? 先ほど?

 

 ああ、食事の準備で皿を並べるときに割っちゃったの気にしてたんだ。

 

 でもなぁ、無理もないよなぁ。

 

 僕だって、今までやってこなかったことをいきなりやれって言われたら困惑するし、いきなりは上手にできるわけないし。

 

 っていうか、貴族のひとってーーもっと、偉そうで上から話してくるんじゃないのかな?

 

 最初から完璧にできるのはリアさんくらいだ。

 

 いや、出来てる時点であのひと、おかしいと思うんだけどね。

 

 このひとは、それが凄く傷ついてるのかなぁ。

 

「皿を割っちゃったことなら、気にしないでください。僕なんか慣れてても割ることありますよ。それにアドムは、そんなこと気にしませんって」

 

「……ありがとうございます。アドム様ーーご主人様って、どんな人なんですか?」

 

 どこか不安そうな茶色の瞳で上目遣いに見られて僕は、内心手を打った。

 

 ああ、なるほど。

 

 このひとは、アドムがアスラさまと同じ種類の人間だと思ってるのかもしれない。

 

「う~ん、なんとなく分からない?」

 

「奴隷のあなたが、ご主人様を呼び捨てにしていること。ご主人様が、貴方と親友として付き合っているところを見て思いました。道楽にしても非常識な方だと」

 

「はっはっは、そりゃ間違いない」

 

 笑いながら僕は、道場に付いたので遠目に足を止めて彼女に示す。

 

「アイツが僕を奴隷として見てないのは、多分こういう訓練のせいだと思うよ」

 

 いつもどおり、騎士も奴隷も関係なく竹刀を持った連中を全て叩き伏せていくアドムがそこにいた。

 

 うーん、みんな動きの速さに惑わされてアドムの狙いを読んでないから、いつもどおりに誘導されて倒されていってる。

 

 また今度、作戦を考えてあげないと。

 

「……あ、あの。あんな無茶な訓練をしているのですか?」

 

「? うん、いつもどおりだね。ちゃんと籠手も胴当ても付けてるし」

 

「そ、そういうものなのですか? 私も父や兄の訓練を見たことはありますが、こんなのはーー」

 

「ああ、それは貴族の人が怪我なんてしたらえらいことだからだと思うよ? ヴィンテージは剣士の家系だから、奴隷だろうが騎士だろうがヴィンテージの家に仕えるのなら徹底的に鍛えられるけどね」

 

 その向こうでは僕と同じ奴隷の刻印を首に受けた男がアドムの胴薙ぎにふっ飛ばされている。

 

 それを騎士の階級をシャツの襟首に着けた黒髪の青年ーーヴィンテージの家系の人だろうーーが受け止めて庇う。

 

「す、すまねぇ。ロラン」

 

「気にするな、ガイ。来るぞ!!」

 

 その黒髪の人が言うとおり情け容赦ない剣の鬼が、悪い子はいねがぁとばかりに突っ込んでは竹刀を振り回して吹き飛ばしていく。

 

 奴隷とか貴族とか言うてる場合ではない。

 

 ヤツを倒さなければ、実質死ぬのだーー。

 

 僕は遠い目をしながら、騎士と奴隷の剣士団の皆さんに敬礼をした。

 

「ああ!! タハトぉおおお!!!」

 

 げっ、奴隷の一人ーーガイに見つかった!!

 

 瞬間、ヴィンテージの騎士ロランも僕をガン見している。

 

「おお、来たか! タハト!! みな、喜べ! これでアドム様に一撃入れれるぞ!!」

 

「「「「おおおおおおおおっ!!!」」」」

 

 同時にアドムも僕を見ていた。

 

 笑顔で。

 

「お、飯時か。それなら、スカッと一発立ち合うか。なぁ、タハト」

 

「ぬぁにが、スカッとだ!? スパッとの間違いだるぉおおお!?」

 

 こちらに顔を向けて笑顔でハハハと笑ってるアホの周りに、これまで力を溜めていたのだろう剣士達の意地と気合の俊足が見える。

 

 ヴィンテージの剣士が使う高速の運足法ーー足に気を纏うことで脚力を一気に跳ね上げてテレポートしたように消える動きだ。

 

ーーー ソニックムーブ!! ーーー

 

 ラナさんが、思わず手に口を開けて悲鳴を上げるほどの速さで襲い掛かる全ての剣士にふり返ってアドムはーー不敵に笑った。

 

「しまった、罠だぁあああ!!!」

 

 叫ぶロラン卿だが、遅い。

 

 アドムの袋竹刀の刀身は青い光を放ちながら横に一閃薙ぎ払われる。

 

「ソニックーースラッシュ!!」 

 

 空間に青い斬閃が一筋アドムを中心に扇形に引かれると、次の瞬間には爆発して無数の斬撃の檻に変わり全てのアドムに迫っていた剣士たちを道場の壁に叩きつけていった。

 

 ラナさんが絶句して顔を青くする中で、袋竹刀を手に立とうとする者が数名居るもダメージがデカすぎて片膝を付いたまま動けない。

 

「……いつものロランや他の連中はともかく。数年ぶりに立ち合ったが腕を上げたな、ディウス。それにグウェン、ガイウス」

 

 片膝を付いたままの黒髪に無駄な肉の無い二人の剣士ーーディウス・ヴィンテージ卿にグウェン・ヴィンテージ卿は流石だ。

 

 ディウスさんは28くらいだし、グウェンさんは30ちょうどくらいだったけど、王国の至る所にあるヴィンテージの分家では剣を指南する立場にあるのだから。

 

 驚くのは灰色の髪にごつい肉体のガイウスさんだ。

 

 彼はグウェンさんの奴隷兼世話係という僕と似たような立場の人なんだけど、ヴィンテージの剣士である二人の師範クラスに負けていない。

 

「さすがは我らが開祖ーーヴィンテージ本家が嫡男アドム・ヴィンテージどの」

 

「若干二十歳になるかならないかの男に、ここまで完敗するとは思ってなかったよ。開祖アルド・ヴィンテージの全盛期にも及ぶかもしれない」

 

 黒髪黒目の二人の剣士に笑顔で頷くと、アドムはガイウスを見た。

 

「良い腕だーー。ヴィンテージの剣ではないが、素晴らしい体捌きと剣だった」

 

「昔から物覚えが悪く、自分にはこの振り方しかないもので」

 

「そうか。だが、惜しいな。その動きに剣技が付けば更に凄まじい剣士になるだろう」

 

「……精進します。次は我が主と共に必ずや、アドム殿に一撃入れてみせる」

 

 ニヤリと獣のような笑みを返すガイウスに主人のグウェンさんも不敵な笑みを浮かべている。

 

 アドムは、これに満足そうに頷いた後で自分の足下に転がっている袋竹刀を一つ拾うと僕を向いた。

 

 僕は「ほんと、負けず嫌いだよなぁ」なんてヴィンテージの剣士たちを感心半分呆れ半分の気持ちで見ていた。

 

 すると、このアホ主人は暴れ足りないらしく善良な奴隷兼相棒たる僕に向かってーー

 

「ほれ」

 

と、竹刀を投げて来た。

 

 そりゃ掴みますよね。

 

 目の前に棒状のものが放り投げられたら、咄嗟に掴んじゃいますよね。

 

「ーーラナさん。危ないから、タハトから離れてくれ」

 

「え? え? あの?」

 

 アドムが言うやいなや、さっきまで倒れ伏していたロラン卿がラナさんの肩をそっと掴んで、そそくさと僕から離れる。

 

 そしてロラン卿の奴隷ガイが僕を見て言った。

 

「ーーやれぇ、タハト!! 今日こそ、そのスカしたアドム卿の顔に1発決めてやれぇ!!」

 

「ーー頼む。アドムを、アドムを倒してくれぇ。剣に命をかけ過ぎた剣術バカをーー。アドムの奴隷であり、我々の同胞たるお前の手で…! た、頼むぅ…!!」

 

 どっかの戦闘民族の王子みたいなことロラン卿は言ってるな。

 

 たしか22かそこらだから、クロード陛下とタメくらいのはずなんだが。

 

「ーーって、何を自然に僕を巻き込んでるんだぁ!? いつもいつも、いい加減にしろよぉおおっ!!」

 

 叫ぶ僕を無視してニッと笑みを浮かべたアドムが、一気にソニックムーブで距離を詰めて来た。

 

「ーーほい」

 

 気のまるっきり入ってない掛け声だが、右手に持った竹刀はアドムの頭上に振り上げられ、僕の脳天をかち割りに振り下ろして来てやがる。

 

 咄嗟に僕は右手で竹刀の柄を持つと両手で構えて止めた。

 

 乾いた音で止まる竹刀と竹刀。

 

「よし、そうこなくちゃな」

 

「ーーお前ってヤツは、毎度毎度ヒトの頭をカチ割りに来やがって許せん! 今日こそ泣かしちゃる!!」

 

 僕がアドムを竹刀ごと後ろに押しやるとヤツは軽業師のような身のこなしでバックステップして下がる。

 

「ーーじゃ、いくぞ!」

 

ーーーー

 

 アドムとタハトーー二人の立ち合いは、この場に居合わせた全ての剣士の興奮を呼び覚ます。

 

 訓練の疲れや痛みさえ忘れて、童心に帰ったように嬉しそうに笑っている。

 

 そんな周りの剣士たちに戸惑いながらも、ラナは嵐のようなアドムに立ち向かうタハトを目を丸くして見ていた。

 

 互いに互いの影を追いかけるように高速運足法で動くアドムとタハト。

 

 道場の壁も床も天井さえも、彼らは足場にして移動しながら竹刀を振っている。

 

 そこかしこで乾いた音が鳴り、音が聞こえるよりも速く二人は場を移動している。

 

 次に二人が現れた先は、道場のど真ん中だった。

 

「この、アホ主人め。毎回毎回、僕を殺しに来やがって」

 

「ヴィンテージの剣士が、剣の訓練もせずに朝飯を食べられると思っていたのか?」

 

「ーー洗濯とか家事手伝いしてたんだよ。ほら、僕って器用だからさ」

 

「それは素晴らしいことだ。だから、それはそれでやればいい。だが、剣の訓練はサボらせんぞ」

 

 同時に消えながら再び竹刀を打ち付け合う。

 

 真剣ではないのに、両者が振った竹刀と竹刀の剣戟は青い波紋を空間に描いている。

 

 そのようにラナには見えた。

 

 実際それは、起こっている。

 

 両者の放つ剣戟に気が宿っているためだ。

 

 別名は魔力とも言う。

 

 気と気がぶつかり合って相殺した際に生じる火花が、彼らの斬撃の正体である。

 

 同時に踏み込みながらアドムは右手一本での唐竹割り(脳天への振り下ろし)をタハトは両手持ちでの胴薙ぎ一閃を放つ。

 

 両者の中央でぶつかり合った斬撃は互いの動きを止める程に強烈で、二人は床に足を踏ん張って互いの剣の衝撃を堪える。

 

 そのまま鍔迫り合いになる二人だが、アドムはニヤリと笑って右手一本だった竹刀の柄を両手持ちに変える。

 

「ーーお前!!」

 

「鍔迫り合いの姿勢になったら、俺には勝てない。忘れたか、タハト」

 

 アドムは言いながら手に持った竹刀を青く輝く光の刀へと変化させる。

 

「ーーソニックブレイド」

 

 そのまま、振り下ろした。

 

「ーーやべ!」

 

 咄嗟に横っ飛びのソニックムーブで逃げるタハトだが、持っていた竹刀はスパッと真剣で斬られたかのように半ばから先が無くなっている。

 

 距離を取り、竹刀が半ばから斬られたのを見たタハトはアドムを睨みつける。

 

 アドムは、トドメとばかりに突っ込んできた。

 

 タハトは半ばから斬られた竹刀を右手に持ってアドムの眉間に投げつける。

 

 こちらに来る突進の勢いを利用してのカウンターだが、アドムは左手で拳を握り目の前に迫る竹刀を弾き飛ばす。

 

 その一瞬でタハトも床に落ちている別の竹刀を拾うとアドムに青眼に構えた。

 

 同時に両手持ちに変えて竹刀を光の刀へと変化させ頭上に振り上げる二人は、そのまま唐竹割りを繰り出し合う。

 

 両者の斬撃が中央でぶつかり合った後、光が弾けて道場を包み込み、誰もが目を瞑る。

 

 静まり返った道場の真ん中で、首元に竹刀を突きつけられたアドムと片膝を床に付いて肩で息をしながら頭上に刀身が来た状態で止められているタハトが居た。

 

「真剣なら、俺も首筋を斬られていたか。やるな、タハト」

 

「お前だけは、本気全開で行かないと命が危ないからね」

 

 そう言い合いながら互いに一歩下がる両者。

 

 ラナが呆気に取られる中、道場は剣士たちの怒号に沸いていた。

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